事業承継にかかる税金は?税負担がゼロになる「事業承継税制」の注意点

日本では、近年、中小企業の経営者の高齢化が大きな問題となっています。多くの経営者にとって、今の会社を次世代に引き継ぐことは課題のひとつとなっているでしょう。 会社や事業を承継する際に直面する問題が「税金」です。今回は、事業を承継する上で必要となる税金の種類、計算方法、猶予制度について解説します。


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事業承継で課税される税金

事業承継の方法は様々ありますが、特に親族内での事業承継の方法としては「相続」「贈与」「譲渡」の3種類が主要な方法です。いずれかの方法によって事業承継を行った場合、現経営者もしくは事業を引き継いだ後継者に対して税金が課されます。

ここでは、「誰に対して」、「どのような計算方法で」、「どのような種類」の税金が課されるのかについて解説します。なお、税金の額は自社株の価値を時価に換算した金額を元に計算されるため、優良企業であればあるほど税金は重くなる傾向にあります。

相続税

1つ目は相続税です。株式を相続した場合に相続人(後継者)に課される税金のことを指します。経営者の死後に株式や事業を相続する際に係る税金であるため、前経営者には納税義務は生じません。
相続税の計算方法は、大きく分けると3つのステップを踏んで行われます。

1. 課税対象となる遺産の総額を算出します。こちらの額は、相続した事業の財産を時価で評価した額を基準とすることが多いです。
2. 相続する後継者に応じた金額が基礎控除として控除されます。
3. ここまでで算出された金額に相続税率をかけて、相続税額が算出されます。
4.
ここでの相続税率は、相続による取得額の大きさによって変化する累進課税方式です。つまり、相続する対象の財産や事業の金額が大きいほど相続税も増えます。

贈与税

2つ目は贈与税です。株式を生前贈与した場合に、財産を受け取った者に課される税金のことを指します。相続税との大きな違いは、前経営者が存命中に承継するか否かという点にあります。

贈与税の計算方法は「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類に分かれており、特に後者は近年特例として制度化されました。相続時精算課税が制度化された背景としては、多くの財産を所有する高齢者層から、財産を必要とする若い世代に対して財産の移転を促進する意味合いがあります。

実際に、相続時精算課税制度が設けられてから、より多くの方が贈与による承継を行うようになりました。

贈与税の計算方法(暦年課税の場合)

暦年課税の方式に従って計算を行うと、以下の式で算出することができます。

贈与税=(1年間で贈与を受けた財産の総額-110万円)×贈与税率

計算式を補足しますと、1年間という期間の中で贈与された財産から、110万円の控除を受け、その金額に贈与税率をかけるということです。
ここで使用する贈与税率に関しても、先ほど紹介した相続税率と同様に、贈与を受ける財産の額に応じて変動します。

贈与税の計算方法(相続時精算課税の場合)

相続時精算課税の大きな特徴としては、贈与を受けた財産のうち、2,500万円までは贈与税の対象から控除される点です。
相続時精算課税の計算方式に従って計算を行うと、以下の式で算出することができます。

贈与税=2,500万円を超えた金額×20%

2,500万円までは課税対象から控除されるため、贈与税の対象となるのは2.500万円を超えた部分のみです。また、先ほど紹介した暦年課税とは異なり、税率は一律20%で固定されます。

所得税

3つ目は所得税です。事業譲渡にかかる所得税は、主に株式譲渡によって自社株を売却した場合、売り手に課される税金のことを指します。

相続税や贈与税と大きく異なるのは、売り手である前経営者に対して課税される点です。

また、売り手の株主が個人か法人かによって税金の計算方法が少々異なります。

1. 所得税の計算方法(個人の場合)
売り手の株主、つまり前経営者が個人の場合の計算方法を2つのステップに分けて紹介します。

1 譲渡所得=譲渡収入-(取得費+譲渡費用)
最初に、課税対象となる譲渡所得を算出します。株を譲渡することで得た収入から、諸々のコストを控除した金額です。

2 所得税=譲渡所得×20%(所得税15%、住民税5%)
算出した譲渡所得に対して、所得税率15%と住民税5%の合計である20%をかけることで、所得税の金額を計算することができます。

2. 所得税の計算方法(法人の場合)
売り手である株主が法人である場合、譲渡収入ではなく、法人が得た譲渡益を課税対象とします。計算式は、以下の通りです。

所得税=譲渡益×法人税

事業承継の税負担を軽減できる「事業承継税制」とは?

ここまで説明してきたように、事業承継を行う際には多くの税金が課されます。

そのため、たとえ事業承継が完了したとしても、税金の支払いにかかる負担が響いて業績が悪化してしまうケースが多いのが現在の日本の中小企業における現状です。

中小企業は日本にある企業の90%以上を占め、日本経済を根底から支えている存在です。経営者の高齢化や後継者不足等の問題を解決して事業承継を行える状態になったとしても、承継後の税金の支払いでダメージを受けてしまっては、日本の国益を損なうことにつながるでしょう。また、税金は、会社の時価総額に基づいて算出されるため、優良中小企業の負担がさらに増加してしまうことにもなります。

そこで、要件を満たせば相続税と贈与税が100%猶予されるという、「特例事業承継税制(特例制度)」が新たに作られました。

ここでは、この特例制度を利用するために必要な要件を紹介します。

会社の要件

まず、譲渡対象となる会社についての主な要件は、以下の4点です。

・中小企業基本法で定められた中小企業であること
・上場企業でないこと
・資産管理会社でないこと
・従業員が1名以上いること

ここで紹介する中小企業の定義は、「資本金3億円以下もしくは従業員300人以下のどちらかを満たす企業」となります。中小企業が条件となっている理由としては、大企業に比べて資金力に乏しい中小企業を救済するためです。

先代経営者の要件

次に、前経営者に関する要件についてです。

・会社の代表者であったこと
・先代経営者と同族関係者が保有する株式が50%を超えること
筆頭株主であること

2つ目の要件については、非上場企業である場合に経営者とその一族が株を保有していることが多いことから定められました。そのなかで最も多くの株式を保有する筆頭株主であれば、経営者として認められます。

後継者の要件

事業や会社を承継する後継者の要件についても定められています。

・会社の代表者であること
・20歳以上で、役員に就任して3年以上経っていること
・後継者と同族関係者が保有する株式が50%を超えること
筆頭株主であること

基本的には先代経営者の要件と同じですが、二つ目の要件にあるように、ある程度のポストや経験が必要であるとされています。

担保の要件

会社や経営者に関する要件のみならず、税金の猶予をしてもらう代わりに担保を提供しなければなりません。
猶予される相続税額、贈与税額、利子税の額に見合う担保(非上場株式、不動産、有価証券など)を税務署に提供することも、重要な要件の1つです。

事業承継税制を活用する際の注意点

中小企業で条件を満たせば利用できる事業承継税制ですが、この制度を活用するにあたって注意点があります。当初よりも支払額が増えてしまう恐れもあるため注意が必要です。

認定が取り消された際にリスクがある

考えられるリスクとしては、納税猶予が打ち切りになった場合、税率に対する利子税が課税されるというものがあります。猶予されていた税金の支払いも重なるため、負担が一気に増加する可能性があるのです。

専門家によるサポートを受ける

ここまで事業承継に関係する税金について解説してきました。

事業承継税制は適用要件が複雑なため、利用を検討するなら専門家への相談をおすすめします。

事業承継を成功に導くには「TOMA100年企業創りコンサルタンツ」のサポートがご利用いただけます。税理士だけでなく、宅地建物取引士、司法書士、行政書士などの専門家が連携しサポートしているため、多面的なソリューション提供が可能です。

納税猶予の特例制度が適用されるかどうかの判断も含めてアドバイスいたします。事業承継をお考えの方は、ぜひTOMAへ一度ご相談ください。

※こちら2021年11月掲載時点での情報です。税制は毎年変更があるため、その都度確認する必要があります。

まとめ

今回は、事業承継をする際に生じる税金について紹介し、それらの支払い猶予を受けることができる特例制度について解説しました。この記事で基本的な税制については理解することはできますが、実務はより複雑です。専門家に相談することで、利用可能な税制を賢く選択していきましょう。