事業承継税制とは|メリット・デメリットや特例措置の要件をわかりやすく解説

事業承継税制は、相続税や贈与税が猶予、そして将来的に免除される新制度です。令和9年までの事前措置として設けられました。 …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

事業承継税制は、相続税や贈与税が猶予、そして将来的に免除される新制度です。令和9年までの事前措置として設けられました。

うまく活用すれば非常にお得な制度ですが、注意点もあります。本記事では、事業承継税制の中でも法人版について、要件や手続きの流れ・ポイントを詳しく解説していきます。事業承継税制に興味のある方は参考にしてください。

事業承継税制とは     

事業承継税制とは、2009年に創設された一定の要件を満たせば事業承継時に贈与税・相続税が猶予される制度です。あとで紹介する特例と区別するため「一般措置」と呼ばれています。

事業承継税制は、円滑化法に基づく認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。

引用:国税庁

猶予とありますが、経営を続けて株を売らなければ納税猶予が継続され、最終的には免除を受けることができる制度です。 さらに、平成30年度の税制改正により特例措置(事業承継税制の特例)が創設されました。10年間の限定措置として要件が緩和されたことにより、利用のハードルが下がりました。この特例適用には、2024年3月までの特例事業承継計画の提出および2027年までの事業承継が必要です。

先代の経営者から突然相続することになった場合、短期間で相続税を払うための資金を工面しなければなりません。これは後継者にとって大きな負担でした。この問題を解決するために設けられたのが事業承継税制です。円滑に事業承継を進めるために仕組みや手続きをしっかりと把握しておきましょう。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士


一般措置と特例措置の違い

事業承継税制には、一般措置と特例措置の2種類があります。

一般措置特例措置
事前の計画策定不要必要 (6年以内の特例承継計画の提出) [2018年4月1日〜2024年3月31日]
適用期限なし10年以内の贈与・相続等 [2018年1月1日〜2027年12月31日]
対象株数総株式数の最大3分の2まで全株式
納税猶予割合贈与:100% 相続 80%100%
承継パターン複数の株主から1人のみ複数の株主から最大3人まで
雇用確保要件承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要弾力化
経営環境変化に対応した免除なしあり
相続時精算課税の適用60歳以上の者から18歳以上の推定相続人・孫への贈与60歳以上の者から18歳以上のものへの贈与

特例措置は一般措置に比べて、対象株式や相続人、納税猶予割合が広がっています。また雇用者数の維持に対する要件が緩められるなど、より活用しやすくなったと言えるでしょう。

一般的には、特例措置の方がより有利な制度です。

特例承認計画に記載する内容              

先ほどの表にもあるとおり、事業承継の特例措置を受けるには、特例承認計画の提出が必要です。

主な記載内容

● 事業内容
● 資本金額又は出資の総額
● 常時使用する従業員の数
● 特例代表者の氏名
● 代表権の有無
● 特例後継者の氏名
● 株式を承継する時期(予定)
● 当該時期までの経営上の課題
● 当該課題への対応
● 承継後5年間の経営計画

参考:特例承継計画(様式21)

特例承認計画の提出期限は当初の2023年3月31日から1年延長され、2024年3月31日となっています。作成・提出の際には、返信用封筒の種類や割印の要不要など各都道府県の提出ルールを確認しましょう。なお、記載内容に変更が出た場合は、変更確認申請書を提出する必要があります。

事業承継税制を利用するメリット                 

事業承継税制を利用する代表的なメリットをみていきましょう。

● 相続税・贈与税を納めなくてもよい
● 納税資金の用意が不要
● 特例の適用を口実に事業承継を進められる
● 株価対策に利益圧縮をしなくていい

まずは莫大な相続税・贈与税を納めなくてもよい点が挙げられるでしょう。当然、納税資金を用意する手間からも、お金の工面の悩みからも解放されます。また、特例は期間限定の制度であるため、これを口実として承継を進めやすいのもメリットと言えるでしょう。ほかの事業承継対策のように、株価対策のために利益圧縮を行う必要がなくなるのもポイントです。

事業承継税制を利用するデメリット               

当然、メリットがあればデメリットもあります。

● 手続きに手間と時間がかかる
● 取り消し時のリスクが大きい

それぞれ詳しくみていきましょう。

手続きに手間と時間がかかる

まず、手続きが複雑で手間と時間がかかることがデメリットです。会社・先代経営者・後継者のそれぞれに適用要件がありシンプルとは言えないのがハードルを上げています。細かい要件をすべて確認して書類を準備する手間は相当な負担となるでしょう。

また、申請は一度行えば終わりではなく、年次報告や継続の届出といった事務負担がその後も続きます。都道府県によっても厳格さにばらつきがあると言われており、情報も取得しづらいでしょう。 要件や手続きの流れについては、このあと詳しく解説するので参考にしてください。

取り消し時のリスクが大きい

万が一取り消された場合のリスクが大きいことはこの制度の最大のデメリットと言えるでしょう。取消事由は26種類あり、細かく定められています。取り消された場合には、猶予税額を一括で納付しなければなりません。また、当初納税額に加えて猶予期限に応じた利子も支払わなければならず、その負担は相当なものとなります。

たとえば、主に以下のような理由で取り消されるケースが多いようです。

● 資産保有型会社(資産管理会社)に該当してしまう
● 継続届出書の提出が遅れる
● 後継者が自社株を譲渡した
● 会社が解散した
● 後継者が承継後5年以内に代表でなくなった

意図せずにこれらの状況を引き起こしてしまい猶予を取り消されることも少なくないようです。適用が決まったら、常に要件を意識して取り消しにならないように注意し続けなければなりません。

事業承継税制の適用になるための要件           

事業承継税制の適用になるには要件があります。要件は事業承継を行う会社、経営者、後継者について、適用前後それぞれに設けられています。ここからは、各要件を詳しくみていきましょう。

会社が満たす要件

まずは会社が満たす要件について説明します。

● 資本金や従業員数の要件を満たす中小企業である
● 従業員が1人以上
● 非上場企業である
● 風俗営業会社ではない
● 資産管理会社等に該当しない

特に注意が必要なのは、業種ごとに中小企業の要件が異なる点です。業種によっては、会社の規模がそれほど大きくなくても中小企業とはみなされず要件を満たせません。

経営者が満たす要件

次に、経営者が満たす要件についてみていきましょう。

● 会社の代表権を有している
● 一族で50%を超える議決権を保有している
● 後継者を除く一族の中で筆頭株主である

贈与で事業承継を行う場合は、贈与時点で代表を退かなければならない点に注意が必要です。代表を続けながら後継者を指導することはできません。ただし、相談役や取締役会長などとして在籍することは可能です。

後継者が満たす要件

次は後継者が満たす要件をみていきましょう。

● 一族で50%を超える議決権を保有している
● 一族の中で筆頭株主である(特例の場合は上位3人)
● 後継者が2人または3人の場合、総議決権数の10%を保有している

議決権や保有株式数については、相続時点・贈与時点が基準日となります。「一族」とは同族関係者の範囲と同じであり、親族以外にも事実婚相手、使用人、生計を維持している者とその親族、本人、これらの者が支配する会社などが含まれます。

適用後に満たす要件

最後に、適用後に満たす要件について説明します。まず、適用後、5年間守るべき要件からみていきましょう。

● 後継者が代表取締役である
● 後継者が筆頭株主である
● 後継者が制度に対象となる株式を保有している
● 資産保有型会社等でない
● 上場企業でない
● 風俗営業会社等でない
● 年次報告を都道府県知事へ毎年提出している
● 継続届出書を税務署へ毎年提出している

次に、5年経過後の要件をみていきます。

● 後継者が制度の対象となる株式を保有している
● 資産保有型会社等でない
● 継続届出書を税務署へ3年毎に提出している

最終的に後継者が次の後継者へ引き継ぎ再び事業承継税制の適用を受けたときに、それまで猶予されていた納税が免除されます。

事業承継税制を利用するための手続き

ここからは、事業承継税制を利用するための手続きの流れを確認しましょう。

まず、事業承継税制の手続きは、大きく贈与税の場合と相続税の場合に分けられます。贈与と相続では、認定までの期限や手続きが異なりますので注意しましょう。 最初の認定までの手続き内容は異なりますが、その後の5年まで、6年目からの報告については、違いはありません。

贈与税の手続き

まずは贈与税の納税猶予を受けるための手続きについて説明します。経営者が存命中に後継者へ渡す場合は「贈与」となり、この手続きに該当します。

 手続き
納税猶予の認定  (提出先:都道府県庁) 株式の贈与贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請審査後、認定書が交付される (提出先:税務署) 納税予定額及び利子税の額に見合った担保を提供贈与税を申告(認定書等を添付)
納税猶予の報告(5年間)(提出先:都道府県庁) 年次報告書にて継続要件を維持していることなどを報告 (提出先:税務署) 継続届出書を提出(年次報告の確認書を添付)
5年経過後(提出先:税務署) 3年毎に税務署に継続届出書を提出
参照:経済産業省「中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル」

税務署への申告には、都道府県から交付された事業承継税制の認定書の写しを添付する必要があります。忘れないように注意しましょう。

相続税の手続き

次に、相続税の納税猶予を受けるための手続きについて説明します。

 手続き
納税猶予の認定(提出先:都道府県庁) 相続発生後5ヶ月を経過する日の翌日から8ヶ月を経過する日までの間に申請審査後、認定書の交付 (提出先:税務署) 納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供相続税の申告(認定書等の添付が必要)
納税猶予の報告(5年間)(提出先:都道府県庁) 年次報告書にて継続要件を維持していることなどを報告 (提出先:税務署) 継続届出書を提出(年次報告の確認書を添付)
5年経過後(提出先:税務署) 3年毎に税務署に継続届出書を提出
参照:経済産業省「中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル」

相続税の申告のためには、遺産分割が適切に行われていなければなりません。遺産分割は、遺族全員の同意のもと遺産分割協議書を作成する、または遺言の執行により行います。遺言の場合は、遺言状の家庭裁判所での検認の手続きが必要です。

相続税申告は贈与よりも計画的に進められないにもかかわらず、手続きのスケジュールがタイトです。手続きだけで数ヶ月かかることを忘れず、できるだけ早く専門家に相談して助けを借りながら手続きに取り組みましょう。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

事業承継税制を上手く活用するポイント

事業承継税制を利用するうえでは、以下のことに留意しましょう。

● 免除になる条件を把握しておく
● 専門家のサポートを受ける

それぞれ詳しくみていきましょう。

免除になる条件を把握しておく

事業承継税制を利用する上では、免除になる条件を把握しておくことがとても重要です。「事業承継税制の適用になるための要件」をよく読んで、事前にしっかりと確認しておきましょう。

要件は立場ごとにそれぞれ細かく定められているため、一つずつ慎重に確認してください。当初は満たしていても、認定後に条件から外れてしまうこともめずらしくないため、十分に注意してください。万が一認定が取り消された場合は利子を含めて一括で納税しなければならないため、慎重に確認すべきポイントです。

専門家のサポートを受ける

事業承継税制は複雑な制度で、専門家の助けを借りずに進めるのは非常に困難です。適用を受けた事業者が少なく経験談が不足している上、都道府県により厳格さに違いがあるなど、情報収集も容易ではありません。

大きな金額が関わることであるため、経験豊富な専門家へ相談し、着実に進めましょう。現時点で適用外に見える場合でも、要件を精査すれば適用可能になる場合もあります。10年間だけの特例措置のため、今すぐに相談して準備を進めましょう。

まとめ

本記事では、事業承継税制について要件や手続きなど詳しく説明しました。手続きは決して簡単ではなく手間もかかりますが、贈与税・相続税が免除され有利に事業承継を進められるメリットは見逃せません。

まずは適切なサポートを提供してくれる信頼できる専門家を見つけ、相談からはじめてみましょう。心強いサポーターを得て、有利な税制も活用しながら、少しでもよい条件で事業承継を進めてください。事業承継は、経営者ができる・しなければならない最後かつ重要な仕事です。