定着率とは|離職率との違いや向上させる5つのポイントについて解説

企業を成長・存続させていくためには、人材の確保が非常に大切な要素だといえます。そして人材の確保を考えるうえで欠かせない指 …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

企業を成長・存続させていくためには、人材の確保が非常に大切な要素だといえます。
そして人材の確保を考えるうえで欠かせない指標としては、「定着率」という考え方が挙げられるでしょう。
定着率が向上すれば、従業員にとってはもちろん企業にとっても良い効果が期待できます。
この記事では、定着率の定義や近年の動向、向上させるメリット、そしてポイントなどについて解説します。

定着率とは?    

ここでは、定着率の定義や離職率との違いについて解説します。 定着率は、職場の健全性や企業経営の正常さを判断するうえで大切な指標の1つです。

企業に残っている社員の割合

定着率の算出式
定着率(%)=一定期間後に勤続している社員の人数÷入社時の人数×100

厳密な定義がないため上記では、「一定期間後」としましたが、一般的には入社から3年後の数値を多く扱います。
例えば、ある年に50人入社してその3年後にも勤続しているのが40人であった場合、3年後の定着率は40人÷50人×100で80%です。

定着率が高いほど従業員の離職が少なく、勤続しやすい職場・企業であると考えられます。
その為、定着率は企業にとっては組織の正常さを判断する指標の1つであり、求職者にとっては職場の健全性を確認する基準の1つになっています。

離職率との違い

離職率とは、入社から一定期間経過後に離職した従業員の割合を示す指標のことです。 厚生労働省では、以下の計算方法を公表しています。

厚生労働省の離職率の算出式
離職率(%)=離職者÷1月1日現在の常用労働者※数×100
出典:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」

※常用労働者とは、以下のいずれかに該当する労働者のこと
●期間を定めずに雇われている者
●1か月以上の期間を定めて雇われている者

ただし、企業が定着率のように「一定期間における離職率」を確認する場合は、定着率の式に準じて以下のように計算する場合もあります。

離職率の算出式
離職率(%)=一定期間後に離職した社員の人数÷入社時の人数×100

例えば、先ほどと同様に50人入社して3年後に40人勤続している(10人離職した)場合、離職率は10人÷50人×100で20%です。

つまり定着率と離職率は正反対のことを示す指標であり、上記の計算方法では「定着率+離職率」が100%になります。

定着率の動向

近年の定着率・離職率の動向について、厚生労働省発表の資料を基に整理します。

【2019年新卒者の3年以内定着率・離職率】

最終学歴定着率※(%)離職率(%)
中学42.257.8
高校64.135.9
短大等58.141.9
大学68.531.5
参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します

【2021年度の産業別定着率・離職率】

産業定着率※(%)離職率(%)
鉱業、採石業、砂利採取業90.010.0
建設業90.79.3
製造業90.39.7
電気・ガス・熱供給・水道業91.38.7
情報通信業90.99.1
運輸業、郵便業88.511.5
卸売業、小売業87.712.3
金融業、保険業90.79.3
不動産業、物品賃貸業88.611.4
学術研究、専門・技術サービス業88.111.9
宿泊業、飲食サービス業74.425.6
生活関連サービス業、娯楽業77.722.3
教育、学習支援業84.615.4
医療、福祉86.513.5
複合サービス事業91.98.1
サービス業(他に分類されないもの)81.318.7
参考:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概要

※定着率は「100-離職率(%)」で算出しています。
上記のとおり、学歴や就職先の業種によって、定着率・離職率は大きく異なります。

定着率が低下している理由

定着率が下がってしまう理由としてどのようなことが挙げられるのでしょうか。
ここでは定着率低下の原因を考えるために、厚生労働省の資料から主な退職理由について確認します。

【退職理由として多いもの】

 男性(%)女性(%)
労働時間、休日等の労働条件が悪かった8.010.1
職場の人間関係が好ましくなかった8.19.6
給料等収入が少なかった7.77.1
会社の将来が不安だった6.34.5
仕事の内容に興味を持てなかった5.03.8
引用:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概要

上記を見てみると、主な離職の理由は男女である程度共通しています。いずれにおいても、労働環境の良し悪しは定着率に大きく影響を及ぼしそうです。また、男性は特に収入面や仕事内容、女性の場合は特に労働条件や人間関係が充実していないと、離職率が高まってしまうと考えられるでしょう。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

定着率を向上させる方法

従業員の定着率を改善・向上させるためには、離職率を低下させることが重要です。
上で紹介した退職理由を踏まえると、離職率を下げるためには以下のような対策が考えられます。

【定着率向上のポイント】

●社内コミュニケーションの活性化
●ワークライフバランスのサポートを行う
●昇格や昇給の制度を作る
●一人ひとりに適した業務を任せる
●自社の方向性を共有する

社内コミュニケーションの活性化

離職を防ぐためには、社内コミュニケーションの活性化が重要です。
人間関係に悩んで離職する従業員は、男女ともに多いためです。

職場の人間関係が良いと従業員のストレスが軽減され、離職の可能性を低下させることが期待できます。
例えば、以下のような施策が考えられるでしょう。

【施策例】
・ 社内イベントの実施
・ フリーアドレス制(座席を固定せず自由にする)の導入
・ 社内SNSの活用

以下も参考にしてください。

社員のモチベーションを上げる方法|給料アップだけじゃない6つの施策

ワークライフバランスのサポートを行う

ワークライフバランスのサポートも、定着率向上のためには効果的だといえます。
休日や労働時間など、労働条件に不満があると離職リスクが高まります。

また、柔軟な働き方を選択できるようにしておくと、従業員のライフステージの変化に対応することも可能になります。
例えば、以下のような施策が考えられるでしょう。

【施策例】
・ テレワークの導入
・ フレックスタイム制の導入
・ 長時間勤務の見直し
・ 休暇制度の充実
・ 福利厚生の導入・充実
・ 外部サービスの利用による既存業務の外注

昇格や昇給の制度を作る

昇格や昇給の制度を構築することも重要です。
収入・処遇面での不満も、退職を考える大きな理由の1つになっています。

業績が上がらなければ給与を上げることも難しいかもしれませんが、少なくとも仕事の成果や頑張りに見合った評価を受けられる給与体系を作っておきましょう。昇格・昇給の制度が整えば、従業員のモチベーション向上が期待できます。

一人ひとりに適した業務を任せる

一人ひとりに適した業務を任せることも、大切なポイントです。
「仕事に興味が持てない」「自分には合っていない」と感じる従業員は、退職を考えてしまう可能性があります。

各自に適した業務を任せることで、従業員の満足度や納得感を高めることができます。従業員の意欲が高まれば、副次的に業務効率の向上も期待できるでしょう。

自社の方向性を共有する

会社の方向性について理解できていないと、従業員は不安になりモチベーションも下がってしまうでしょう。
厚生労働省のデータのとおり、「会社の将来が不安だった」として退職する従業員も多いのです。

自社の方向性を共有することで、従業員の不安を軽減し、モチベーションを高めることができます。
事業内容はもちろん、事業の目的や従業員それぞれに期待していることを、しっかりと言葉にして伝えることが重要です。

定着率向上のメリット

定着率を上げるための施策によって、以下のメリットが得られます。

【主な利点】
・ 人材の流出防止
・ 従業員のモチベーション向上
・ 生産性の向上
・ 業績の向上

従業員の離職を減らせれば、従業員にとっても企業にとってもさまざまなメリットが発生します。従業員のモチベーションが上がるだけでなく、ノウハウを持った従業員が残ることで生産性の向上も期待できるでしょう。組織が成長するために、定着率向上は欠かせないポイントであるとも考えられます。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

人材の流出を防げる

定着率を向上させることは、同時に人材の流出を防止することを意味します。

人材は企業にとって非常に重要な資源です。定着率が低いと労働力の確保が難しいというだけでなく、従業員が持つノウハウや知識も失ってしまいます。
定着率を挙げることができれば、転職によって競合他社に人材が流出してしまうといった事態を防ぐことにもつながります。

従業員のモチベーション向上

定着率向上は、従業員のモチベーション向上にもつながります。
従業員の離職が続けば、一人ひとりの業務量が増えたり新たな社員への指導が必要になったりと、残った従業員の負担が重くなってしまうためです。

業務負担が増えれば労働環境が悪化し、さらに離職率が高まっていく負のサイクルに陥ってしまう可能性もあります。
定着率が高まれば従業員一人ひとりの業務負担が減り、心身への負担軽減やモチベーションの向上につながります。

生産性の向上

生産性の向上も、定着率向上で期待できる効果の1つです。
離職が減ればそれだけ知識やノウハウのある社員の割合が増えることになり、業務効率の向上が期待できるためです。 また、新人教育にかかる手間が減れば、それだけコア業務に社内資源を集中させられます。

業績の向上

定着率の向上は、業績の向上にもつながる可能性があります。
定着率向上によってモチベーション向上や生産性の向上、優秀な人材の流出防止が果たせれば、必然的に業績への好影響が期待できるためです。
業績が向上すれば給与や処遇面の充実が期待でき、さらに定着率が向上しやすい好循環になることも考えられます。

まとめ

定着率とは、入社から一定期間経った後にも勤続している社員の割合を示す指標です。
定着率を向上させることで、従業員のモチベーション向上や生産性向上、そして業績の向上につながることも十分に期待できます。

組織の状態を上向きにするためにも、社内コミュニケーションの活性化や昇格・昇格制度の見直しなどを実施し、定着率向上を図りましょう。