監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士
200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。
社員のモチベーションを上げると、会社の業績を上げるよいサイクルを生み出せます。そこで今回は、社員のモチベーションを上げる方法について、徹底的に解説していきます。
会社を成長させる手段として、設備投資などのハード面の改革だけでなく、ソフト面のアプローチからの改善も目指している経営者・管理職の方はぜひ参考にしてください。
目次
社員のモチベーションが低下する原因
社員のモチベーションが低下してしまうと、会社全体の生産性が下がってしまいかねません。経営者・管理者には、社員のモチベーションを高く維持してもらうための対策を取ることが求められます。
対策の解説をする前に、まずは社員のモチベーションが低下する原因を確認しましょう。主に、以下に対する不満や不安がモチベーションの低下を招くといわれています。
● 給与面
● 業務内容
● 業務量・業務時間
● 職場の人間関係
● 会社の将来性
それぞれ詳しくみていきましょう。
給与面
自分が思っているよりも給与が低いと、正当に評価されていない、がんばりに対しての評価が低いと感じてしまいます。
モチベーションには内発的モチベーションと外発的モチベーションがあり、内発的モチベーションは理想像へ近づきたいなど、内的で本質的な欲求から生まれるモチベーションです。反対に外発的モチベーションとは、お金のためなど、その行為そのものではなくそれによってもたらされる結果を期待したモチベーションです。
給与や役職が自分の期待を下回ってしまうと、外発的なモチベーションが満たされずに仕事へのモチベーションを低下させてしまいます。また直接的に支払われる報酬以外にも、福利厚生に対する不満などもモチベーションを下げる一因となります。
業務内容
やりたい仕事ができていないとストレスを感じ、モチベーションの低下につながります。こんな仕事がしたいという理想が満たされていない状態は幸福とはいえず、社員は不満を抱えてしまいます。
またミスを厳しく叱責されたり、今の仕事に向いていないと感じるできごとが多かったりしても、モチベーションは低下してしまいます。仕事にやりがいや楽しみを感じられないと、「もっと仕事ができるようになりたい」「楽しく仕事がしたい」といった意欲が沸かず、能動的に取り組むことができなくなるのです。
やる気には自律性(自分で決めること)が大切で、多くの人は指示された仕事をするだけだと、モチベーションが低下する傾向があります。各社員が業務内容に満足して、能動的に仕事に取り組めていなければ、モチベーションを高く保つことはむずかしいでしょう。
業務量・業務時間
忙しすぎて、目の前の仕事をこなすことに必死な状況では、向上心やスキルアップなどのモチベーションが湧いてこなくなってしまいます。日々が単調な繰り返しとなってしまい、やる気を失ってしまうのです。
またテレワークができない、残業が多い、勤務時間が柔軟でないなど、働き方に融通が利かないといった状況も、長期的なキャリアを想像できない社員が増え、離職を招いてしまうでしょう。
反対に働き方改革による過度の残業規制に、ストレスを抱える社員もいます。もっと仕事をしたいのに残業ができず、思うように働けないことが不満になるのです。
職場の人間関係
人間関係の悩みや不安も、モチベーションの低下を招きます。誰しも、職場の人間関係がよくないと居心地が悪いものです。このような環境では、仕事をがんばろうという気持ちが湧いてこないのも当然でしょう。
ハーバード経営大学院のジョージ・エルトン・メイヨー教授が1924年から1932年にかけてウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場にて行った4つの実験により、「良好な人間関係により生産性が向上する」ことがわかりました。メイヨー教授の考えは「人間関係論」と呼ばれ、人間関係やリーダーシップ研究の礎となり現代にも引き継がれています。
社員にとって、長い時間をともに過ごす職場の人との関係は、無視できないほど重要なものなのです。
また人間関係の中でも、上司との信頼関係はとくに大事です。上司が信頼できないと、正当な評価に対する期待も失われ、モチベーションの大幅な低下につながってしまいます。
会社の将来性
会社の将来性に希望を感じられない、これからの成長に期待を感じられない場合も社員のモチベーションは低下してしまいます。生活の糧を得る会社が不安定というのは、社員にとっては安全の欲求が脅かされているのと同じことです。
安全の欲求とは「マズローの欲求5段階説」の2段階目で「心身ともに健康でかつ経済的にも安定した暮らしをしたい欲求」のことです。
この問題については、経営戦略、目標、ミッションやビジョンを共有し、全社員に浸透させられればクリアできるでしょう。
社員のモチベーションを上げることによる効果
社員のモチベーションを上げることは、企業にとってもメリットをもたらします。
● 定着率の向上
● 生産性が向上する
● 顧客満足度が向上する
これらは独立した要素ではなく、互いに影響を及ぼし合います。一度正のループに入れば、どんどんよい循環が生まれるでしょう。
それぞれ詳しく解説していきます。
離職率の低下、生産性の向上、顧客満足度の向上は、それぞれ互いに影響し合っています。一度よいループに入るとポジティブな流れが加速するため、社員のモチベーションを上げる取り組みは真剣に向き合う価値があるといえるでしょう。
監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士
定着率の向上
モチベーションが下がった社員は、退職を考える傾向にあります。これは言い換えると、社員のモチベーションを上げると、離職率が下がるということです。一般的に、モチベーションが高いと会社への忠誠心が高い、帰属意識が高まる傾向にあるといわれています。
つまり、モチベーションを上げることで退職を回避できると、人手不足を人員補充でカバーする必要がなくなることから、採用コストの削減につながるのです。職場の士気が上がれば離職率が低下し、高いモチベーションを持った社員ばかりになることでさらに環境がよくなると人材の定着率が上がり……、とポジティブなループが発生するのです。
いい人材の流出を防止し、安定的に人材を確保することは、次に説明する「生産性の向上」にも役立ちます。
生産性が向上する
モチベーションが高いと業務に対する集中力やパフォーマンスが向上し、労働生産性が高まります。仕事に対する姿勢が前向きとなり、情熱を注ぐようになるのです。その結果、高いクオリティで効率的に業務を遂行できるようになり、必然的に会社全体の生産性も高まります。
生産性が高まれば、同じ時間・人数でより多くの成果が上がります。つまり、売上が上がるのです。また、業務への関心の高まりは品質・精度の向上ももたらします。結果、会社全体の業績向上につながります。
社員一人ひとりのモチベーションが高いか低いかで、会社全体の生産性が大きく左右されるのです。
顧客満足度が向上する
従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)には正の相関関係があることが、いくつもの研究や事例で明らかにされています。従業員の満足度が上がるとサービスや生産性が向上、これが顧客満足度に繋がり業績アップ。そして、業績が上がることで従業員へさまざまな形で還元でき、さらに従業員満足度が上がるというよいサイクルが生まれるのです。
これが俗にいうところの、三方よしの満足のピラミッドです。
人材が定着せずコロコロ人が変わる会社はイメージが悪いし、サービスの質も安定しません。そうなると、当然売上は下がるでしょう。従業員満足度が上がり従業員の定着率が上がれば、これらの問題も解決できるのです。
社員のモチベーションを上げる方法
社員のモチベーションを上げることにより、もたらされる効果が把握できたら、次は「ではどのようにしてモチベーションを上げればよいのか」と疑問が持ち上がってくるのではないでしょうか。
社員のモチベーションを上げる方法は、いくつかあります。
● 報酬体系や福利厚生を見直す
● 社員のアイデアを募集・採用する
● 人事評価制度を見直す
● 社員の貢献度を称える機会を設ける
● 管理職のマネジメント研修をおこなう
● 会社の理念やビジョンを浸透させる
これらは、「評価基準を明確にすること」「評価を実感できる機会を作ること」「環境を整えること」「ゴール意識を持つこと」が軸となっています。
それぞれ詳しく解説するので参考にしてください。
社員のモチベーションを上げる方法には、報酬などの待遇面の見直しや評価制度の見直しなどの努力が報われたと感じられる環境作りのほか、管理職の育成や理念・ビジョンの浸透など社員のモチベーションを向上・維持させるための取り組みがあります。
監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士
報酬体系や福利厚生を見直す
まず、評価を報酬に反映させられるよう報酬体系を見直します。ただ給与を上げるのではなく、インセンティブで個人の成績・成果を評価して、短期間でのやる気向上を目指すのも手です。給与アップとは違って常にがんばった分が報酬に反映されるため、持続的なモチベーション向上が期待できます。
また、テレワークなどの時代のニーズに合わせた就労環境を整える、福利厚生を充実させることで大切にされていると感じてもらうこと、も重要です。
社員が報われている、大切にされていると時間できる環境を整えましょう。
社員のアイデアを募集・採用する
社員が新しいことに挑戦できる環境を用意することも大切です。たとえば社内ベンチャーや社内コンテストなど、主体的に動くことのできる環境を整えましょう。
人間は言われたことをこなすだけでは、モチベーションを維持するのが難しくなってしまいます。指示通りに動くだけではなく、自発的なチャレンジができる環境に身を置くと、モチベーションの向上につながります。
社員からアイデアを集め、採用、実行する仕組みを持っている会社は、従業員のモチベーションを高く保てます。制度を整えるのはもちろん、能動的、自発的な行動を促す雰囲気作りにも力を入れましょう。
人事評価制度を見直す
上司が部下の評価をしっかりと行うことも、モチベーションを上げるために大切なポイントです。評価は定性的、主観的で曖昧な基準で行うのではなく、数字や評価基準に基づいて定量的、客観的に行いましょう。
日常的に評価やフィードバックが与えられると、社員は自分のよさや足りない部分を自覚できます。自己分析は改善へのモチベーションとなるため、社員が成長していくでしょう。
評価には自身の成長に対する満足のほかにも、成果に対するリターンを得られることで会社に認めてもらっていると感じてもらう効果もあります。社員の外発的モチベーションを満たし、やる気を引き出すことができるでしょう。
社員の貢献度を称える機会を設ける
成果を上げた社員を表彰するのも効果的。社員は金銭的なリターンだけを求めているわけではなく、認められたいという欲求を持っているのです。この欲求を満たすために、社員の貢献度を称える機会を設けましょう。
人間はみな承認欲求を持っており、褒められてうれしくない人はいません。MVPや社長賞といった表彰制度のような金銭以外の報酬を与える仕組みも作りましょう。
また会社からの評価以外に、一緒に働く仲間からの評価もやる気につながります。お互いの感謝の気持ちや称賛を表すサンクスカードなどで、仕事が認められたり、誰かの役に立っていたりすると実感してもらえる機会も作りましょう。また次もがんばろう、とモチベーションにつながります。
管理職のマネジメント研修をおこなう
管理職は部下のモチベーションに大きな影響を与える存在。管理職のモチベーション低下は、部下のモチベーション低下にもつながる重大な問題です。
また、管理職には自身のモチベーションを高い状態で維持するとともに、部下のモチベーションを高める、維持するスキルを身につけてもらわなければなりません。
モチベーション・マネジメントスキルを身につけられる研修を行うなど、管理者の教育にも力を入れましょう。
また、モチベーションの向上、維持には、管理職が部下と緊密なコミュニケーションを図れる環境が欠かせません。教育とともに、社内の環境整備にも力を入れましょう。
会社の理念やビジョンを浸透させる
組織の存在意義であり仕事のやりがいにもつながる理念、ビジョンを言語化して、社員に浸透させることも欠かせません。組織がどんな人に対して、何を通して(どういった手段で)人や社会の役に立っているのか、明確に自覚することがやりがいにつながります。
仕事にやりがいを感じると高いモチベーションを保てるため、経営者や管理職は理念・ビジョンの共有にも力を入れましょう。具体的には、ランチ会や理念研修などで経営者と向き合い、その考え方に触れる機会を設けるなどといった方法があります。
個々人が自分の仕事の意味を知り、意義を感じることでモチベーションを上げることができます。そのために、会社の理念やビジョンを浸透させるのです。
まとめ
社員のモチベーション低下の原因を深堀りし、具体的なモチベーションを上げる方法について解説してきました。社員のモチベーションを上げる取り組みをする価値を感じていただけたのではないでしょうか。
モチベーションを上げるには、社員の欲求の理解が欠かせません。モチベーションが低下する原因について深く考え、まずは自社の状況と照らし合わせ詳細な現状分析を行いましょう。
それができたら、本記事を参考に具体的な施策立案をしてください。