事業承継とは|その意味や種類・方法・成功のポイントをわかりやすく解説

事業承継とは、会社を後継者に引き継ぐことです。親族や従業員へ託すほか、最近ではM&A承継などの親族外承継も一般的 …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

事業承継とは、会社を後継者に引き継ぐことです。親族や従業員へ託すほか、最近ではM&A承継などの親族外承継も一般的となってきています。長い年月をかけて準備しなければならない大切な経営者の最後の仕事ですが、どこから手をつければいいのかわからない、相談先すらわからないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、事業承継について、概要や流れ・成功のポイントなどを解説します。参考にしてください。

事業承継とは     

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。中小企業においてはオーナーの手腕が会社の経営を左右するため、後継者選びの重要性は大きいと言えるでしょう。

大企業であれば社長を任命するだけで済みますが、中小企業では「人」「資産」「知的財産」の3つの資産の引き継ぎ、自社株の相続や社長の個人保証など解決しなければならない問題が山積みです。

中小企業においては、経営者の手腕や人柄が会社の魅力になっていることも多いため、後継者は慎重に選ばなければなりません。しっかりと時間をかけて準備を行うことが大切です。まだ若い、まだやれるではなく、5〜10年かけて後継者を育てるつもりで取り組むことが求められています。 最近では人材不足が深刻化していることから親族外承継が増えており、ますます先を見据えた準備が必要になっているといえます。

「事業継承」との違い         

事業承継のほかに、事業継承もよく聞く言葉です。この2つは一体何が違うのでしょうか。

結論からお伝えすると、「どちらも前の代から受け継ぐ」という意味で違いはありません。この取り組みを推進している中小企業庁は「事業承継」を採用しています。

参照:中小企業庁「事業承継」

人によっては、受け継ぐものが、承継は社風や経営理念のような形のない抽象的なものや事業自体、継承は経営権や財産、権利といった所有物・具体的な権利といったニュアンスの違いを含ませる場合もあるようです。

承継・・・前の代から経営理念などの形のないもの、事業そのものを受け継ぐ
継承・・・経営権、財産や権利など会社が所有している資産を受け継ぐ

基本的には「受け継ぐ」と同じ意味という解釈で問題ないでしょう。

事業承継で引き継ぐ資源

前述のとおり、事業承継で引き継ぐ資産は「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つに分類されます。ここからは、それぞれ詳しくどういったものを指すのか見ていきましょう。

人(経営)              

人(経営)に分類される資産は、以下のとおりです。

● 経営権

参照:中小企業庁「事業承継を知る」

事業継承において一番に想像する後継者を指します。 現在中小企業では、後継者が見つからないために廃業するケースが少なくありません。近年では親族内承継や従業員承継ができず、外部の第三者への承継を視野に入れる企業が増えてきています。経営者教育に十分な時間を確保するためにも、後継者候補の選定はなるべく早くはじめましょう。

資産                 

資産に分類される資源には、主に以下のものがあります。

● 株式
● 事業用資産(設備・不動産等)
● 資金(運転資金・借入等)

参照:中小企業庁「事業承継を知る」

ひとことでいうと、事業を行うために必要な資産の承継です。経営者が個人所有する株式、事業用設備や不動産などの資産、資金などが含まれます。 株式移転のタイミングや対策によって税金が大きく変わることもあるため、実行の際には税金にことも考慮にいれて方法を検討する必要があります。税理士などの専門家に相談して早めに対策を立てておきましょう。

知的資産               

最後に、知的資産に分類される資源には主に下記のものが挙げられます。

● 経営理念
● 従業員の技術技能
● ノウハウ
● 経営者の信用
● 取引先との人脈
● 顧客情報
● 知的財産権(特許等)
● 許認可 等

参照:中小企業庁「事業承継を知る」

知的資産とは、無形の資産、目に見えない資産です。経営理念、人脈や顧客との関係から従業員の技術技能まで、さまざまなものが知的資産に含まれます。中小企業においては、この資産こそが利益の源であることも少なくないため、価値をしっかりと理解し、後継者に引き継がなければなりません。

事業承継で引き継ぐ先の種類

事業承継には、主に「従業員承継」「親族内承継」「M&A承継」の3種類があります。それぞれメリット・デメリットがあります。

種類メリットデメリット
従業員承継  ・会社、事業に詳しい人に引き継げる
・経営者としての素質や適性の見極めができる
・適任者がいるとは限らない
・能力的には適任でも、その候補者に株式取得の資金力がない場合が多い
・個人債務保証の引き継ぎが簡単ではない
親族内承継・関係者から受け入れられやすい
・準備期間が確保しやすい
・相続等に所有と経営の分離回避ができる
・親族内に適性のある後継者がいるとは限らない
・後継者を選ぶのが難しい
・経営権を集中させるのが難しい      
M&A承継・後継者を広い候補から選定できる           
・さらなる飛躍、発展が期待できる
・個人保証や個人資産の担保から解放される
・創業者利益を確保できる
・自力で承継候補を見つけるのが難しい
・理念や文化の共有
・システムの統合に時間がかかる
・買い手次第で経営方針が大きく変わってしまう
・利害関係者に十分な説明をする必要がある

ここからは、それぞれの引き継ぎ先について概要や特徴、どんな企業に向いているかを詳しくみていきましょう。

従業員承継              

まずは、親族以外の従業員に承継する従業員承継です。自社株はオーナーとして所有したまま、社長の地位だけを譲る、将来親族の候補者が育ったら経営交代する中継ぎとして一時的に承継する、などのケースがあります。

長年勤務してきて社風や経営方針が身についている人材へ引き継げること、能力を見極めてから引き継げるといったメリットがあります。たとえば、共同創業者、経営者の右腕、優秀な若手役員・経営層、工場長などが候補となります。

従業員承継においては、適任者がいるとは限らないこと、能力は十分な候補者がいても株式取得のための資金など、費用面での問題がハードルとなるケースが少なくないのがデメリットです。黒字経営の場合は譲渡価格が高くなり、赤字だと価格は抑えられてもリスクを背負う覚悟が必要となります。 また、頭に入れておきたいのは、部下・社員として優秀な人材が、必ずしも優秀な経営者ではないということです。

親族内承継              

親族内承継とはその名の通り、親族に承継させる方法です。ほかの方法と比べて、従業員や取引先などの関係者から心情的に受け入れやすいのが特徴です。また、後継者を早期に決めることができ、十分な準備期間を確保できるのも強みでしょう。財産の相続により会社の所有権と経営権の分離回避ができる点もメリットです。

一方で、親族内に必ずしも後継者にふさわしい人材がいるとは限らないという問題があります。適性がない人物への承継、会社経営を望まない人物への承継は不幸の元となりかねません。また、もう1つ大きな問題として、経営者に相続人が複数いる場合、後継者とそれ以外の相続人への財産分与でもめてしまう可能性があります。経営権や財産を巡る紛争をさけるために、事前に財産分与の方針を親族内で決めておくことが重要です。 以前は親族内承継が9割以上と主流でしたが、その割合は年々低下しており、現在では6割を切っています。

M&A承継               

これまでは大企業のものといった遠い存在のイメージや、会社が乗っ取られて従業員がリストラされるなどマイナスな印象を持たれることが多かったM&Aですが、近年は中小企業でも第三者へのM&A承継が増えています。後継者不足に加えて、M&Aへの認知・理解が進み、積極的に検討する企業が増えたことが理由と考えられます。

後継者を広く募ることができる、新たな経営者を迎えて会社がさらに発展する可能性がある、経営者が個人保証や担保から開放され創業者利益を確保できるといったことがメリットです。 一方デメリットは、自力で後継者を見つけるのが難しいことです。また、それまで何の接点もなかった相手へ引き継ぐことになるため、企業文化や理念の共有やシステムの統合には親族や従業員への承継に比べて多大な時間を要するでしょう。買い手次第で経営方針が一変してしまう可能性があること、M&Aについて関係各所に説明する必要がある点にも注意が必要です。

事業承継の方法・基本的な流れ

事業承継の方法は引き継ぎ先によって異なりますが、基本的な流れは共通しています。以下に、基本的な流れを示しますので参考にしてください。

事業承継の流れ

1.     自社・事業の現状を把握する
2.     後継者候補を選定する
3.     事業計画書を作成する
4.     関係者に説明を行う
5.     経営改善をする
6.     計画書に則って引き継ぎを実行する

事業承継を考えたら、まずは自社の資産状況を確認しましょう。現状の把握ができたら、候補者を選定します。親族や従業員など身近にいなければ、M&Aによる第三者への事業承継を検討しましょう。承継を行う際は、事前に計画書を作成しておきます。作成することで、必要な教育と期間を正確に把握する助けにもなります。

計画が固まり承継が決定事項となったら、関係者への説明を行いましょう。承継前には、経営改善に取り組み、よりよい状態でバトンを渡すようにします。最後に、計画書に沿って引き継ぎを行えば事業承継の完了です。

事業承継を行う際は、情報漏えいに気をつけましょう。計画が定まらない段階で取引先や従業員に経営者交代の情報が漏れると、不安から離職や取引解除へつながってしまいかねません。後継者が承継に不安を感じて継いでもらえなくなる恐れもあるため、説明のタイミングには気を使うことが大切です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

事業承継で生じやすい問題  

次に、事業承継で生じやすい問題について説明します。事業承継に着手する前に知っておけば対策が可能ですので押さえておきましょう。

● 後継者の不在・育成不足
● 相談者が身近にいない
● 承継時の経営状態
● 親族内での相続問題(遺留分の主張)
● 後継者への理解が得られない

後継者不足は、多くの企業が直面する課題です。また、身近に承継について包括的な相談に乗ってくれる機関などがない点も問題です。承継時の経営状態が悪いと後継者が見つからない問題が発生し、親族内で一人に経営権と付随する財産を相続させる場合は、親族内で相続についての問題が発生するでしょう。準備不足だと後継者への理解が得られないリスクもあります。

これらの事業継承問題については、詳しくは「事業承継問題」の下記記事で解説しています。参考にしてください。

事業承継問題とは|企業が直面する事業承継の問題点・原因・解決策

事業承継を成功に導くポイント

事業承継を問題なく進めるためには、押さえておくポイントがあります。

  • 早い段階で準備を始める
  • 相続トラブルの対策をしておく
  • 事業承継税制で税金対策をする
  • 補助金を活用して資金を集めておく

それぞれ詳しくみていきましょう。

早い段階で準備を始める        

まず、早い段階で準備を始めておくことが事業承継を成功させるためには重要です。後継者は、探すのにも育成するのにも時間がかかります。具体的には、5〜10年の準備期間を確保しましょう。

また、経営者自身の意識改革・準備にも時間が必要でしょう。専門家への相談・セミナーへの参加など、まずは情報収集や意識改革から行っていくのがおすすめです。

必要性を認識し、自社にとって最適な条件を確認することからはじめましょう。

事業承継を行う際は、情報漏えいに気をつけましょう。計画が定まらない段階で取引先や従業員に経営者交代の情報が漏れると、不安から離職や取引解除へつながってしまいかねません。後継者が承継に不安を感じ後継者の育成には時間がかかります。「まだ早い」と思わずに早めに準備しておきましょう。経営者自身は「まだ現役」「まだまだやれる」と考えてしまいがちな上に、従業員や取引先はもちろん、親族でさえ事業承継については勧めにくいという問題があります。経営者自身が先を見据えて考え、まずは専門家に相談してみるなど具体的な行動を起こしていくことが大切です。て継いでもらえなくなる恐れもあるため、説明のタイミングには気を使うことが大切です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

相続トラブルの対策をしておく     

特に親族内承継をする場合は、遺産問題への対処を事前に考えておきましょう。資産のほとんどが株式の場合、後継者以外の相続人へ財産が平等に渡らない可能性があり、トラブルの元となります。具体的には、後継者以外の相続人から遺留分滅殺請求権を行使され、後継者が遺留分侵害額に相当する金額の支払いを求められる恐れがあります。

法定相続人の同意があれば遺留分を減らせる民法の特例もあるため、事前に弁護士などの専門家に相談して遺言状の作成などの相続対策を入念に行いましょう。

事業承継税制で税金対策をする

事業承継税制とは、中小企業において後継者に株式や資産などを贈与・相続などする場合に、一定の要件を満たせば贈与税・相続税が猶予される制度です。平成21年度の税制改正で登場し、平成30年度の改正にて10年間の措置として納税猶予対象の非上場株式等の制限の撤廃、納税猶予割合の引き上げ等がされた特例「特例事業承継税制」が設けられました。

詳しくは以下の記事にて解説しているので参考にしてください。

事業承継税制とは|メリット・デメリットや特例措置の要件をわかりやすく解説

補助金を活用して資金を集めておく   

国による事業承継の支援策として、「事業承継・引継ぎ補助金」制度があります。

事業承継・引き継ぎ補助金は、事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業者等及び事業再編、事業統合に伴う経営資源の引き継ぎを行う中小企業者等を支援する制度です。

引用:事業承継・引き継ぎ補助金

この補助金の目的は、事業継承や経営資源の引き継ぎに関する費用を補助して負担を軽減し、承継後の積極的な投資の促進を図ることです。

対象は2017年4月1日〜2022年12月16日に事業承継を実施した中小企業者です。令和4年度当初予算と令和3年度補正予算があり、同時期の交付申請ですが補助対象や補助率などに違いがあります。

「事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業等」という点がポイントです。ただ事業を引き継ぐだけでなく積極的な投資をしなければ対象となりません。また、補助金は交付を受けた事業年度の収益とみなされ課税対象となる点にも注意が必要です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

まとめ           

本記事では、事業承継の概要を説明し、流れや成功のポイントを解説してきました。継承は、大半の経営者は人生で一度しか経験しないため、ノウハウも知識もないところから始めなければなりません。そのため、事業承継においては、しっかりとした計画と準備のほか、信頼できて包括的に相談に乗ってくれる専門家を見つけることが助けとなるでしょう。

本記事で説明したことを噛み砕きつつ、まずは承継を見据えた自社の現状把握・経営者自身の意識改革から一歩ずつ進めていきましょう。