監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士
200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。
現在は、多くの中小企業が事業承継問題を抱えていると言われています。では、その問題とは、具体的にはどのようなもので、どんな対策が必要なのでしょうか。
本記事では、事業承継の主な問題を解説し、回避するための対策を紹介します。事業承継でつまずきたくない方は事前学習としてご活用ください。
目次
事業承継問題とは
現在、多くの中小企業が事業承継問題に直面しています。その背景には、経営者の高齢化があると言われています。
【経営者の平均年齢】
99%が中小企業の日本では、中小企業の事業承継をサポートし、確実に個々の事業を次の世代へつないでいくことが国を支えることにつながります。長い時間をかけて築き上げた技術を失わないためにも、世代交代をスムーズに行うこと、さらに承継を機にさらなる発展を図ることが国の発展には欠かせません。
事業承継による世代交代やM&Aによる規模拡大が企業の成長・中小企業の活力維持・発展のためには必要です。
しかし、事業承継に問題を抱えている中小企業が少なくないのが現状です。
後継者不在の企業は57.2%
中小企業においては後継者の不在が深刻で、2022年においては57.2%の企業が後継者難にさらされています。
出典:株式会社帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」
データからは状況が改善していることが読み取れますが、半数が後継者を確保できていないという事実は、依然重大な問題であると言えるでしょう。
国内における廃業の6割はなんと黒字にも関わらず行われており、その理由の3割が後継者難だという調査もあります。中小企業庁は、このままだと2025年までに累計約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが失われる恐れがあると指摘しています。
このような背景から、後継者不在の問題への対処を含め、事業承継を円滑に行うための対策が求められています。
事業承継における主な問題点
事業承継においては、主に以下の6点が問題だと言われています。
● 後継者不在・育成不足
● 後継者に十分な資金がない
● 社員の賛同を得られない
● 相続トラブルの懸念がある
● 経営状態に不安がある
● 相談相手がいない
ここからは、それぞれの問題について詳しく解説していきます。
後継者不在・育成不足
先ほどもお伝えしたとおり、我が国における後継者難は深刻です。2020年に日本政策金融公庫総合研究所が発表した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」によると、中小企業で後継者が決定している企業はたった12.5%しかないとのことです。この調査では52.6%が廃業を予定していると回答していることからも、事態の深刻さがうかがえます。
原因としては、少子高齢化によりそもそも次世代の担い手となる人口が減っていること、経営の先行き不安や事業承継に長い時間が必要なことが挙げられます。中には、せっかく見つけた後継者への承継に向けて動いていても、途中で環境の変化や不安から後継者候補が引き継ぎを望まなくなってしまうケースもあるようです。
慌てて後継者を探しても適任者にスムーズに出会える後継者が順調に育つとは限らないため、適切な専門家の力も借りて、早めに行動を開始しましょう。
後継者に十分な資金がない
やっとの思いで適した後継者候補を見つけても、その相手に事業承継に必要な資金がなければ話は進みません。これは親族内承継の場合も例外ではなく、たとえば、後継者が相続により株式を取得した場合、ほかの相続人との遺産分割のために多額の現金を用意する必要に迫られる場合があります。
経営が順調で株の価値が上がっている場合は多額の資金が必要となります。この対策として、計画的に自社株の価値を下げることもあります。たとえば、役員報酬の引き上げや、前経営者への退職金支払い、不動産の購入などを行います。
また、「SPC(特別目的会社・持株会社)」を株式取得の受け皿会社として設立する方法もあります。
社員の賛同を得られない
適切なタイミングでの周囲への承継の周知と、理解を得るための説明にも心を砕かなければなりません。それぞれが抱える不安や不満に向き合い、丁寧に説明を行いましょう。とくに従業員の中から後継者を選ぶ場合は、親族承継の場合よりも社内外への丁寧な説明が求められます。社員が後継者だけを贔屓していると感じてしまうと離職にもつながってしまうため、慎重に進めてください。
また、社内にほかにも次期社長になってもおかしくない人材がいる場合や、現社長の親族がいる場合は特に注意が必要です。対応を間違うと、派閥ができて社内が分裂してしまう恐れがあります。
相続トラブルの懸念がある
相続トラブルも十分に気をつけなければならないことのひとつです。資産のほとんどが株式の場合、ほかの相続人が本来受け取れるはずの遺産を手にすることができず、トラブルとなる恐れがあります。また後継者側からすると、遺留分滅殺請求権を行使され、遺留分の侵害額に相当する金額の支払いを求められてしまう可能性があります。
ただし、民法の特例で法定相続人の同意により遺留分を減らすことも可能です。後継者や遺族などの残された人が困らないよう、事業承継の一貫として弁護士をはじめとする専門家への相談や遺言状作成などの相続対策を抜かりなく行っておきましょう。
経営状態に不安がある
後任を任せたい人材が見つかっても、経営状態に不安があると後継者を引き受けてもらえない恐れがあります。後継者は、会社とその事業、資産を引き継ぎます。当然、それに付随するリスクも引き受けなければなりません。
万が一個人保証や負債がある場合は当然それらも引き継がれ、後継者のリスクは増してしまいます。マイナス要素への警戒で事業承継が中断してしまうこともめずらしくありません。
事業承継を考えたら、まずは自社の経営状態を把握し、悪化の兆しがあれば早めに進めるなど、適切なタイミングを考える必要があります。
相談相手がいない
事業承継は人生で一度しか経験しない人が多く、周囲にノウハウや経験談が溢れていることはありません。また、多岐にわたる対策が必要にもかかわらず、包括的な相談先を見つけるのがむずかしいという問題もあります。複雑で専門家の助けが必要なのに、情報収集すら容易でない状況に苦労する経営者も少なくないでしょう。
会社の未来を左右する大きな金額が動くため、慎重に信頼できる相談先を探さなくてはなりません。弁護士や公的機関、コンサルティング会社など多様な業種に事業承継を得意としている相談先がありますので、まずは自社に合った相談先を見つけることから事業承継をはじめましょう。
事業承継問題を回避するための対策
事業承継問題は事前に対策を講じておくことで回避することができます。
● 早い段階で準備を始める
● 引き継ぎ先の選択肢を増やす
● 資金集めに補助金を利用する
● 事業承継税制を利用する
● 会社経営の専門家に相談する
ここからは、それぞれの対策を詳しく見ていきましょう。
早い段階で準備を始める
事業承継問題を避けるためには、早めの準備がとても重要です。早めに始めることで十分な準備期間が得られますし、後継者探しや育成にも時間をかけられます。
親族内承継、従業員承継、第三者承継のどれを選択しても、最低でも3年は必要です。通常、事業承継はフォローも含め5〜10年かけるものです。自分で後継者を育てる必要がなく一見時間があまりかからないように思えるM&Aで他社へ完全に売却する形をとったとしても、売却先の選定・成約・引き継ぎと思いのほか時間がかかります。
ライフプラン含め家族ともよく話し合い、早めに事業承継の計画を立てましょう。
事業承継は一朝一夕で成し遂げられるものではありません。親族内承継をしない場合も社長個人だけでなく家族にまで財産の処理などで影響を与える問題のため、早めに家族と将来について話し合っておくことをおすすめします。
監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士
引き継ぎ先の選択肢を増やす
事業承継には主に「親族内承継」「従業員承継」「M&A承継」の3種類があります。最初から自分にはどれかひとつしかないと思い込まずに、それぞれのメリット・デメリットなどの特徴を整理して検討してみましょう。選択肢を増やすことで、適任でない後継者へ無理に継承を行ったり、承継がうまくいかずに廃業に追い込まれたりするリスクを減らすことができます。
承継先の選定においては、自身の感情だけでなく自社の経営状況・各関係者の気持ち・各方面への影響なども考慮して多角的に判断を行いましょう。
資金集めに補助金を利用する
国による事業承継の支援策として、「事業承継・引継ぎ補助金」制度があります。事業承継を機に事業の発展を図る企業を補助する目的で設立された補助金です。
補助を行うことにより、事業承継にともなう経済的負担を軽減し、承継後の事業発展のための投資促進を図ることを目的としています。
いつでも誰でも使えるわけではなく、2017年4月1日〜2022年12月16日に事業承継を実施した中小企業と対象期間や対象者が定められています。
補助金の交付申請にあたっては、経済産業省の補助金電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を利用します。詳しくは事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトをご覧ください。
補助対象や補助率がどの予算分の補助金に申し込むかにより変わってきます。事前に情報を集めて整理しておきましょう。
監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士
事業承継税制を利用する
事業承継税制とは、相続税・贈与税が猶予され、将来的に免除される制度です。一般措置と特例措置があり、特例措置は10年間の限定措置です。特例措置の適用条件は、2024年3月までの特例事業承認計画の提出および2027年までの事業承継の完了です。
そのほか、利用のためには会社、経営者、後継者がそれぞれ適用前後の要件を満たす必要があります。手続きは簡単ではりませんが、事業承継において大きな負担となる相続税を猶予・免除してもらえる制度は会社を承継し発展させるための心強い味方です。専門家の力を借りながら適用を目指してみてください。
下記記事では事業承継税制についてより詳しく解説しています。要件や具体的な手続き内容も説明しているのでぜひ参考にしてください。
会社経営の専門家に相談する
事業承継問題は複雑な要素が絡み合っています。問題を回避・解決して深刻な状況に陥らないためには、早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。
税理士、弁護士、司法書士、中小企業診断士など多くの専門家から自社に合った相談先を見つけるには、誰に引き継ぐのかを明確にしましょう。承継先により必要な手続きや対応は変わります。また、同じ税理士でも事業承継の経験や知識が豊富な人を相談先に選びましょう。ひとことで税理士といっても、得意分野はそれぞれです。
専門家への依頼にあたっては、相場のリサーチも重要です。法外な費用を請求されないよう、公的機関の利用、金融機関や取引先など信頼できるところから紹介してもらう、事業承継サービスを提供している企業へ相談するなどしてみてください。
監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士
まとめ
本記事では、事業承継の主な問題を紹介し、その対策を解説しました。紹介した問題の多くは、対策の1番目「早い段階で準備を始める」ことにより解決することができます。
事業承継問題はデリケートなこともあり周囲から働きかけてくれることはまれです。経営者自身が自身と会社の将来に向き合い腰を据えて計画を立てていかなくてはなりません。今回お伝えした問題点と対策は自社の事業承継計画を立てる際に参考にしてください。