ジョブ型人事制度とは|メンバーシップ型との違いやメリット・デメリットを解説

ジョブ型人事制度とは、業務に見合った人材を確保する雇用制度のことです。日本ではメンバーシップ型が主流のため、ジョブ型には …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

ジョブ型人事制度とは、業務に見合った人材を確保する雇用制度のことです。日本ではメンバーシップ型が主流のため、ジョブ型には慣れていない方も多いでしょう。

この記事ではジョブ型の概要やメリット・デメリットなどを紹介します。雇用制度について知り、自分に合った働き方を見つけたいと考えている方に役立つ情報を解説しますので、ぜひ参考にしてください。

ジョブ型人事制度とは    

ジョブ型人事制度とは、ジョブ(業務)に見合った人材を採用する制度のことを指します。仕事の内容や責任の範囲があらかじめ決められており、それぞれの役割の中で働くのが特徴です。

また、一般的な会社員のように給与が一定化されているのではなく、仕事の多さや責任の重さによって給与が変動します。ジョブ型の雇用システムは、米国をはじめ海外で主流となっていますが、日本はメンバーシップ型がメインです。

「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の違い

メンバーシップ型は、あらかじめ仕事の内容や責任の重さなどを決めずに人材を採用するところがジョブ型との違いです。
ジョブ型は仕事に対して人材を割り当てるのに対し、メンバーシップ型は人材に対して仕事を割り当てるといえるでしょう。

また、メンバーシップ型では年功的に賃金が上昇していくのが一般的ですが、ジョブ型は仕事内容やスキルによって賃金が変わります。

日本の新卒雇用ではメンバーシップ型が主流で、多種多様な仕事をこなした後に能力に見合った職務を振り分けるのが特徴です。一方で、部署やポジションに空きが出た場合に募集がかかる派遣やアルバイト雇用はジョブ型に当てはまります。

ジョブ型とメンバーシップ型は、雇用形態や業務範囲、給与といった点でそれぞれに違いがあります。終身雇用・年功序列を重視する日本ではメンバーシップ型が主流でしたが、近年は働き方の変化からジョブ型を取り入れる企業も増えてきました。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

概要の違い

ジョブ型は、特定の部署やポジションで人手不足が発生したときなどに、能力や資格などを総合的に判断して人材を雇い入れることになります。メンバーシップ型は採用時に職務を限定せず、雇用した後に仕事を振り分けるところが両者の違いです。

メンバーシップ型の場合、企業の方針に合わせて業務内容や仕事のスタイルが変わるため、突然の異動や転勤も珍しくありません。一方で、ジョブ型は最初から仕事に対して適任の人材を割り当てているため、別部署への異動や転勤が発生することはほとんどないでしょう。

業務範囲の違い

ジョブ型はあらかじめ担当する仕事が決められているため、業務範囲が狭く、限定的な仕事を任せられます。限られた範囲の業務を中心に行うことで専門性が高まり、特定分野のスペシャリストに成長できるのが特徴です。

一方で、メンバーシップ型は担当する仕事に明確な決まりはなく、業務範囲が広く取られています。企業の方針によっては、以前とは全く違う部署に異動する可能性もあるでしょう。

賃金の違い             

ジョブ型で採用された人材の賃金は、仕事内容やスキルによって変化します。会社に勤めた年数や年齢に関係なく、担当する業務で高い成果や専門性を発揮できれば賃金が上昇するチャンスがあるでしょう。

メンバーシップ型は、仕事の成果よりも勤続年数や年齢が重視される傾向があります。そのため、十分なスキルがあっても勤続年数が不足する場合は希望通りの賃金を得られないケースも珍しくありません。

ジョブ型人事制度のメリット

ジョブ型人事制度は、求職者と企業双方にメリットがあります。メリットを活かせれば、求職者はよりよい労働環境を、企業は業績アップのきっかけを掴めるでしょう。

求職者にとっては、自分のスキルを活かせるところ、決められた業務以外を行わなくてよいところが利点です。スキルの専門性を高め、効率的に働きたい場合に適しています。企業側にとっては、即戦力の確保に加え、ミスマッチによる早期退職を防げるところがジョブ型の魅力です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

求職者にとってのメリット

ここでは、求職者にとってのメリットを紹介します。ジョブ型ならではの利点を確認しましょう。

自分のスキルを活かすことができる              

ジョブ型では事前に業務の内容や範囲が決められているため、自分にマッチした仕事を選べば十分にスキルを活かせるところがメリットです。また、自信を持てるスキルを備えていれば、就職・転職活動の際に有利に働きやすくなります。

メンバーシップ型では「この仕事の専門性を高めたい」と思っていても、企業の方針で全く違う部署へ異動になる可能性はゼロではありません。ジョブ型で採用された場合は異動のリスクが低く、特定の分野でしっかりとスキルを磨けます。そのため、自分自身のスキルアップにも繋げられるでしょう。

スキルを上げることができれば、勤続年数が短くても賃金のアップが見込めるのも嬉しいポイントです。自分の能力を正当に評価してもらいたいと考えている場合は、ジョブ型が適しているのではないでしょうか。

決められた業務以外のことはしなくてよい

ジョブ型は、契約の際に職務記述書で業務内容や勤務地、勤務時間などが決められています。そのため、契約時に取り決めのない業務を行う義務はありません。イレギュラーな業務を頼まれることがほとんどないのに加え、自分の業務が終われば退勤できます。残業などの長時間労働が発生しにくく、プライベートの時間を充実させやすいところが魅力です。

メンバーシップ型は業務範囲が特定されていないので、自分の仕事が終わっても他の仕事を任されて残業になるケースも少なくありません。また、会社から指示が出たら異動や転勤も受け入れなければならず、自分の思い描いていたライフプランとは異なる方向へ行く可能性もあります。仕事だけでなく、自分のライフプランも重要視しながら働き続けたい方にとっては、ジョブ型採用は利点があると考えられるでしょう。

企業にとってのメリット

ジョブ型は、企業にとってもさまざまなメリットがあります。メリットを活かし、優秀な人材を採用するために役立ててみてください。

即戦力を確保できる

募集する分野や業務内容を事前に定めたうえで採用活動を行うため、即戦力を確保できるところが企業側のメリットです。適切なタイミングで業務内容に合った人材を採用できるようになります。

入社後にすぐスキルを発揮できる人材であれば、従業員への教育投資を抑えられるのも嬉しいポイントです。「人材教育を行ったものの、スキルが上がらず思ったような成果をあげられなかった」という後悔もなくなるでしょう。特定の業務に専念してもらうことで従業員のさらなるスキルアップに繋がり、教育投資をかけなくても専門性の高いスペシャリストを育てられるようになります。

ミスマッチを防げる

ジョブ型は契約時に業務内容を明確に定めるため、入社後のミスマッチを防げます。企業が提示した条件に見合った人材が求人に応募くるため、効率的に採用活動を進められるのが利点です。

入社後に業務とのミスマッチが起きると生産性が下がり、業績にも影響を与えるリスクがあります。また「この会社とは相性が悪い」と感じた従業員は、すぐに退職する可能性も高まるでしょう。早期退職が続くと採用の手間が重なり、業務にも支障を与えてしまうため、企業と求職者のマッチ度は重要なポイントです。企業と相性のよい人材確保に悩んでいる場合には、ジョブ型が役立つかもしれません。

ジョブ型人事制度のデメリット

ジョブ型には、メリットがある一方でデメリットもあります。求職者と企業はどのような点に気をつけるべきか確認し、懸念点を払拭しておきましょう。

求職者の場合、企業が求めるスキルに見合わないといけないため、未経験者の採用は難しくなります。また、担当する業務がなくなれば解雇の可能性が高まり、雇用が安定しません。企業側にとっては、契約範囲外の業務を依頼できないことや、人材が流出しやすいところがデメリットです。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

求職者にとってのデメリット

まずは、求職者にとってのデメリットを紹介します。デメリットで不利益を被らないように、注意しながら就職・転職活動を行ってみてください。

スキルがないと採用されにくい

ジョブ型では、募集するポジションで活躍するのに十分なスキルを備えていることを前提として採用活動を行なっています。そのため、スキルのない未経験者の採用は難しいところがデメリットです。まずは経験を積み、スキルアップしたうえでジョブ型での採用を目指す必要があります。

また、企業側はスキルを備えた即戦力の確保を目的としているため、入社後の研修やトレーニング体制が整えられていない場合も少なくありません。入社後は企業に頼るのではなく、自分で仕事を進められるよう心構えをしておくことが大切です。

雇用が安定していない

ジョブ型は、人手が不足している部署やポジションで募集をかけるため、人手が足りれば仕事がなくなる可能性があります。また、事業撤退などで担当している業務がなくなった場合も解雇のリスクがあるでしょう。

さらに、将来的には自分の専門分野がAIやITに取って代わられることも考えられますので、雇用が安定しづらいところがデメリットです。現在の職務は必ず10年後も保証されるものではないと考えて、自ら積極的にキャリアアップを目指す必要があります。

企業にとってのデメリット

ジョブ型は、企業側も注意しておきたいポイントがあります。デメリットの解消を意識しながら採用活動を行うことが大切です。

契約範囲外の仕事は依頼できない

従業員が行うべき業務は職務記述書で定められているため、契約範囲外の仕事を依頼できません。例えば、他部署の従業員が緊急事態で一時的に業務を行えなくなった場合も、臨時で他部署の従業員を補充するのは難しくなります。

また、繁忙期で人手が足りないときも他部署から応援を呼ぶのが困難になり、引き受け手のいない業務が発生するリスクがあるでしょう。部署内で全ての業務を完結できるようにする必要があります。

人材が流出しやすい

ジョブ型で採用した人材は、専門分野でスキルを磨いて賃金アップを目指すため、他企業からよりよい条件が出された場合に優秀な人材が流出するリスクがあります。また、ジョブ型は業務にコミットする体制のため企業への帰属意識が低くなりやすく、転職への精神的なハードルも低くなるでしょう。

「自分のスキルが正当に評価されていない」と従業員が感じた場合は、好条件を提示する企業へすぐに転職する可能性が高まります。従業員のスキルを評価し、優秀な人材の流出を食い止める工夫が重要です。

まとめ

日本では、メンバーシップ型の新卒雇用が主流でしたが、近年の働き方の変化の影響を受け、ジョブ型で採用活動を行う企業も増えています。求職者にとっては自分のスキルをきちんと評価してもらえるところ、企業側にとっては即戦力を確保できるところがジョブ型の魅力です。ただしデメリットもあるため、懸念点も考慮したうえで最適な方法を選んでください。