人材育成で大切なこととは? |1対1面談の実践方法も解説

会社の成長のためには、優秀な人材の確保が重要であり、あらゆる企業にとって大きな課題となっています。特に自社にマッチしたス …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

会社の成長のためには、優秀な人材の確保が重要であり、あらゆる企業にとって大きな課題となっています。
特に自社にマッチしたスキルや経験を持つ人材は、いつでも即戦力として採用できるとは限らないため、計画的に自社内で人材を育成していく必要があります。

この記事では、人材育成の考え方や課題に加え、上司と部下の1対1面談の方法について、説明します。

人材育成で大切なことは社員の安心・安全を確保すること    

企業が人材育成で成果を上げるためには、社員の安心・安全を確保することが重要です。

安心して働くことのできない職場では、社員は十分に能力を発揮することが難しくなってしまいます。
職場環境を整え働きやすい環境にすることで、業務の質や効率が向上していくのです。

また、部下とのコミュニケーションを日ごろから心がけることで、部下はプライベートの悩みを上司に打ち明けたりしやすくなります。
部下とのコミュニケーションの機会を積極的に増やすことで、人材育成における課題や、適切な対応方法が見えてきます。

人材育成の考え方

企業や組織を大きくするために、人材育成は必要不可欠です。

ここでは、人材育成の考え方について、重要性・必要性や課題を紹介していきます。

人材育成とは

人材育成とは、従業員に必要なスキルの習得を促したり、経験を積ませたりすることです。企業の組織力や業績向上に直結する重要な取り組みのひとつだと言えます。

具体的な方法としては、新入社員の教育プログラムや継続的なトレーニングプログラムの実施などが挙げられます。
キャリアアップ制度の整備などを通じて、従業員の能力向上や自己成長を支援したりもします。

効果的な人材育成を行うためには、企業の人材戦略を確立しておくことが必要です。
人材育成を行うことは、未来への投資でもあり、従業員のモチベーション向上にもつなげます。定着率の向上や企業イメージの向上にも貢献します。

役職者の中でも、「人材育成は自分の業務である」と認識している人は多いとは言えません。会社全体で人材育成の重要性を周知すること、各人が担うべき人材育成における役割を洗い出すことが必要になるでしょう。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

なぜ人材育成が必要か

人材育成の取り組みは、結果が出るまでに時間がかかるものです。人材育成は将来への投資であり、長期スパンでの施策となります。

人材育成が必要な理由としては、以下が挙げられます。

● 戦力的な人材・管理職候補が育たない
● 働き方改革により新しいスタイルの働き方になった
● 人間関係と仕事内容のミスマッチは離職する大きな原因

それぞれ詳しく解説します。

戦力的な人材・管理職候補が育たない             

人材育成を行わないと、いつまでも戦力的な人材や管理職候補が育ちません。

人材育成を進めていくうえで重要なポイントは、「焦らず時間をかけて行うこと」です。
優秀な管理職候補を確保するためには、5~10年単位で育成していく必要があります。

十分な時間をかけて育成した従業員は、自社への理解度や愛社精神を高めることもでき、将来的に活躍してくれる人材となるでしょう。

働き方改革により新しいスタイルの働き方になった

2019年の働き方改革、特に「多様で柔軟な働き方の実現」によって、オンラインでの在宅勤務やサテライトオフィス・コワーキングスペースの活用など、従来にはない新しいスタイルの働き方が確立されてきました。

また、人柄やコミュニケーション能力を重視するメンバーシップ型雇用から、専門的な知識やスキルを活かせるジョブ型雇用に変わってきています。

人材育成は、ただ部下に指導するだけでなく、会社の理念などを定着させる意味もあります。
多様な働き方に対応していく中で、自社の理念を理解してくれる社員の育成は、より重要になってきていると言えるでしょう。

労働条件以外の離職の原因解決のため

労働政策研究・研修機構の調べによると、仕事を辞めた理由に以下のような項目が挙がっています。

順位仕事を辞めた理由
1位労働時間・休日・休暇の条件の不一致
2位肉体的・精神的に健康を損ねた
3位人間関係が良くなかった
4位賃金の条件が合わなかった
5位自分のやりたい仕事とは異なった
引用:労働政策研究・研修機構(JILPT)、離職までの勤続期間別「初めての正社員勤務先」離職理由

上記の表の3位「人間関係が良くなかった」と5位「自分のやりたい仕事とは異なった」は、労働条件以外の理由です。

人間関係については、上司や同僚とコミュニケーションを深めることで改善することができます。
「自分のやりたい仕事とは異なった」という悩みに対しても、早期に部下の考え方や思いを把握することができれば、対処することが可能になります。

いずれにしても、人材育成行うことでコミュニケーションの機会を増やしたり、部下の自己成長感を高めたりすることができるため、結果として離職の防止にも繋がります。

人材育成の5つの課題

人材育成をしていくうえで、課題になりやすい点について解説します。

【課題1】人材育成に充てる時間の確保が難しい

人材育成を行うには、十分な時間の確保が必要です。しかし、人材育成を業務の一環として取り組めている企業は多くありません。

上司が日々の業務に追われてしまい人材育成のための時間の確保ができないと、学ぶ側の部下はそれを察知し、仕事に対するモチベーションの低下につながります。 効果的な人材育成を行うためには、業務の一環として、時間の確保を優先的に行いましょう。

【課題2】育成側のスキル不足・意識が低い

育成する側の上司がスキル不足であったり、意識が低かったりするのも問題です。

部下が「何をいつまでにできるようになればよいのか」具体的に認識できていないときは、上司は自分自身のスキルが不足していないか、育成に対する意識が低くなっていないか、あらためて考えてみてください。 上司は、部下だけにスキルの向上を求めるのではなく、育成者として自覚を持ち、自分自身のスキルや意識を高める必要があります。

【課題3】人手が足りない状況下で悪循環

「人手が足りない」とは、人材育成の担当者だけでなく、会社全体を指します。

人材育成を行う際には、会社全体で必要な情報を共有し適切に対応することで、協力体制の整備が行えるようになるのです。

人材育成ができていない企業は、社員が育たなかったり、退職したりすることで、さらなる人手不足に陥る可能性が高くなります。人手不足は、できる限り早めに人材育成に取り掛かることで解消できる可能性があります。 現場の状況を把握しながら、実現可能な育成計画を立てましょう。

【課題4】社内全体で人材育成を行う雰囲気がない

前述の通り、人材育成は会社全体で行わなければなりません。成果を上げるためには、会社全体で一丸となって人材育成に取り組むための雰囲気づくりが大切です。

「人材育成も大きな業務である」と認識し、他の業務と同様に注力できるようにしていかなければなりません。 若手社員がこの先、経営陣となる人材に成長できるように、会社のトップが「人材育成の方針」をしっかり示すことで、社内全体の雰囲気も変わっていきます。

【課題5】育成される社員のモチベーションが低い

人材育成の課題の中には、育成される側の社員のモチベーションも大きく関係します。

働き方や価値観の多様化や、低迷する経済の中、「わかりやすい目標」を見失っている若者は多くいます。

例えば、過去の日本の若者には「結婚したら、マイホームを建てる」「子どもができたら大きい車を買う」など、明確でわかりやすい目標がありました。

しかし、先行きの見えない現代では、若手社員にとって働くためのモチベーションの維持が難しいといえます。 さらに、新しいスタイルの働き方(リモートワークやオンラインミーティングなど)で、社員同士の対面によるコミュニケーションが減ってしまったことも、モチベーション低下の大きな要因になっています。モチベーションが低いと、疑心暗鬼になりがちで上司との関係も構築しにくく、人材育成にも大きく影響します。

人材育成の目的

企業が行う人材育成の目的は、企業の経営資源となる人材を育て、利益を最大化させることです。そのためにあらゆるリソースを活用して、若手社員を活躍できる人材へと育てていく環境をつくることが、会社全体、および経営層や上司の役目になります。 人材育成の目的を達成するためには、リーダーの育成は計画的に行う必要があります。また、リーダーのタイプは大きく分けて2つあります。

将来的なリーダー育成は計画的に行う

企業の経営を永続的にするには、組織のメンバーを率いるリーダーの育成が求められます。チームリーダーとして活躍できる人材や、将来的には経営陣のポジションを任せられる人材です。

特に中小企業では、限られたリソースの中からリーダーを育成していかなければならないため、入社直後から将来を見据えて育成していく計画が必要です。

人材育成の計画は、部下からみたロールモデルを明確化し、研修およびOJTなどのあらゆる教育法や施策をロードマップに落とし込んでいきましょう。

リーダーの特性には「支配型」と「支援型」がある

将来的なリーダーを育成するためには、リーダーの特性も知っておくとよいでしょう。リーダーの特性には、大きく分けて2つ「支配型」と「支援型」があります。

 リーダー特性
支配型リーダーの指示命令に従うことを求めるトップダウン型のリーダー
支援型部下と信頼関係を築き、部下の自主性を尊重するリーダーシップ型のリーダー

支配型は、トップダウンによるリーダーシップのスタイルで、リーダーが意志決定を行い、メンバーが指示命令に従って遂行する形です。

従来の企業組織は、ピラミッドの形をしており上司部下の役割が明白に分かれていたのが特徴です。

支援型は「サーバントリーダー」とも呼ばれ、奉仕や支援を通して、部下や周りの人から信頼を得ながら主体的に協力してもらうリーダーをいいます。サーバント(servant)は、「使用人」や「奉仕者」を意味します。

サーバントリーダーシップは、ビジネス以外にも医療や行政など幅広い領域で活用されています。 支援型のサーバントリーダーシップは、逆ピラミッドに例えられており、メンバーの意見を聞きながら部下と信頼関係を築き、部下の自主性を尊重します。支援型はチームとしての成功を支援することで、結果としてチームの活性化につながるといった大きなメリットがあります。

若手社員をリーダー候補として育成するにあたっては、どちらのタイプの特性を持っているのか、性格を見きわめて、適切な育成方法を採用することが大切です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

人材育成の具体例「1対1面談」

人材育成の方法には、さまざまな手法があります。具体例として挙げる手法は、前述した「1対1面談」です。ここでは、1対1面談とは、どのような意味を持つのか、方法や効果などを紹介します。

求職者にとっては、自分のスキルを活かせるところ、決められた業務以外を行わなくてよいところが利点です。スキルの専門性を高め、効率的に働きたい場合に適しています。企業側にとっては、即戦力の確保に加え、ミスマッチによる早期退職を防げるところがジョブ型の魅力です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

「1対1面談」とは

「1対1面談」とは、上司と部下が定期的に行うミーティングのことです。

上司が部下に対して、仕事上で困っていることや今後頑張りたいことをヒアリングすることで現状を把握します。

ポイントは、定期的に繰り返し行うことです。いつ面談があるのかわかっていれば、部下は上司に聞いてもらいたい内容を事前に考えておくことができます。 1対1面談についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

1on1面談とは?成功させるポイントや話題例も紹介

「1対1面談」の方法              

1対1面談は、以下の手順で行います。

  1. 面談する社員と面談の目的を共有する
  2. 面談の日程や進め方を検討する
  3. 実際に面談を実施する
  4. 面談の社員の評価をする
  5. 社員面談シートをもとに育成会議を開く

面談は、1回きりではなく、定期的に繰り返し行いましょう。定期的にヒアリングを行うことで、部下へのフィードバックや、問題点の改善・見直しが行えます。

「社員面談シート」には、部下のスキルやこれまでの経験、あるいは部下自身の今月の振り返りを書き込みます。

たとえば、前回話した内容からどのように進展したか、状況を部下が上司に伝えるだけでも、上司自身の考えの整理にもなります。面談によって定期的に状況を共有し、都度対処していくことで、部下の悩みやモチベーション低下が解消できるでしょう。

「1対1面談」の効果・メリット

1対1面談のメリットとしては以下のようなものが挙げられます。

【1対1面談の効果・メリット】
● 適切な人材育成ができる
● 成長を実感させられる
● キャリアサポートができる
● 信頼関係が築ける

順に説明します。

適切な人材育成ができる

1対1面談を通して、部下は自分のことを客観的に考える習慣が身に付きます。
面談を定期的に行うことで、上司や先輩などに教えてもらうだけでなく、自分で答えを見つけ出せるようになっていきます。

自分で答えを見つけ出すためには、自社の経営理念を理解することがポイントです。
経営理念を理解しておくと、上司の指示にばかり頼らず、会社の理念の実現を自ら優先する考え方ができるようになります。研修後は与えられた業務に適切に従事するために、会社の理念を理解してもらいましょう。

上司が日常の働きぶりを確認した上で、経営理念に沿っているか評価やフィードバックを行うことで、適切な人材育成につながります。

成長を実感させられる

1対1面談は、上司も部下の成長を感じやすくなります。
面談の頻度が少なすぎたり不定期に行われるだけだったりすると、自分が適切に評価されているか部下は疑問を感じることがあります。しかし、月に1度、週に1度と定期的に自分の意見を言える場を設けることで、自身への評価に納得しやすくなります。

また、小さくても成功につながる体験を部下が積み上げていくことで、やがて大きな自信につながり、より積極的に業務に取り組むようになります。部下は、上司と喜びを共有することで「上司は自分に力を貸してくれる存在」だと、実感してくれるでしょう。

キャリアサポートができる

面談を定期的に行うと、部下のキャリアビジョンについて話す機会も増えます。部下のやりたい仕事を聞き出せれば、キャリアのサポートが行えます。

前提として、上司が部下に対して、現在の仕事はどのように会社に貢献できているか伝えることが大事です。部下自身の成長を本人に伝えることで、部下は「今何をするべきか」の気付きにつながるからです。

働くことが多様化してきた現在は、仕事に加えてプライベートでも悩みを抱えがちです。時には、ただ悩みを聞くだけでも部下は気持ちを整理することができるでしょう。 部下のプライベートの悩みにも寄り添うことで、より具体的なキャリアサポートが可能になります。

信頼関係が築ける

コミュニケーションは、対面で行うことが最も効果的です。

しかし、オンラインでも1対1面談を行うことはできます。直接会えないときはビデオ通話ができるオンラインツールを活用すれば、相手の顔を見ながらコミュニケーションが可能です。 さらに、仕事の話だけではなく、プライベートな話ができれば、部下は上司に対して「真剣に自分に向き合ってくれている」と信頼感を持つため、互いに良い関係が構築できます。

15分間だけ部下の話を集中して聞こう

1対1面談の目的は、指導だけではありません。
部下の話を「積極的に聞く」ことが重要です。部下を認め、自主性が上がるよう育成していくと、部下の満足度も上がります。

「積極的に聞く」ことをアクティブリスニングといい、相手に話を聞いている姿勢をアピールすることをいいます。「積極的に聞く」ためには、以下のポイントに意識を向けましょう。

● 相手の話は「積極的に」聞くことを意識する
● 相手の目を見て会話する
● 相手の話にうなずき、合図地を打つ
● 発する言葉に対してオウム返しをする
● すぐに反対・反論しない
● すぐに答えや結論を出さない
● 相手に寄り添って、根気強く考え方や意見をすり合わせる

まずは週に1度、15分間だけでも、部下の話に集中して「聞くに徹する」ことを実践しましょう。

まとめ

将来戦力になる社員・管理職候補を確保するためには、人材育成が必要不可欠です。
人材育成の課題として、「人材育成は、業務の中でもとりわけ重要である」と、会社全体で認識しなければなりません。

適切な人材育成の具体例として、「1対1面談」を紹介しました。1対1面談は、上司と部下が定期的に行うミーティングのことで、部下の人材育成に役立つ効果以外にもさまざまなメリットがあります。

ヒアリングではできる限り部下の話を「集中して聞く」ことを意識することで、互いの信頼関係を構築できます。将来的なチームリーダーにつながる人材育成は、長期的な計画を立てて実践していきましょう。