今増えている「親族外承継」を行う2つの方法と成功のポイント

親から引き継いだ事業でも自ら興した事業であっても、業績が順調であれば後継者選びは重要な課題です。特に経営者が50代、60代と高齢になるにつれ、後継者が見つからないことは深刻な問題になってくるでしょう。 子どもがいない、またはいても事業を継がない場合には「親族外承継」を検討してみませんか。今回は親族外承継の概要と課題、親族外承継を成功させるポイントなどを解説します。


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「親族外承継」とは親族以外に事業を引き継がせること

親族外承継とは、自分の子や親戚などの親族ではない第三者に事業を引き継がせることをいいます。

かつては、親族内で経営を行う「同族経営」スタイルが多く見られました。今でも中小企業では非常に多く、同族経営では当然のように、子や親族が代々後継者となっていました。

しかし、現代においては子どもに事業を継がせるケースは年々減ってきています。

原因としては少子化に加え、子が進学などをきっかけに家を出てそのまま就職したり、同居していても後継者になることを拒否したりするケースで、親が子の意思を尊重するようになったことが考えられます。

親族外承継は、当該事業のことを熟知している自社の従業員や役員(取締役)のほか、自社外から新たな経営者を招いて行われる場合があります。

このような親族外承継を行う企業の割合は近年増加傾向にあります。

帝国データバンクの調査によると、2021年の事業承継における「同族(親族)承継」の割合は38.3%となっています。事業承継の就任経緯においては最も高い割合を維持しているのですが、4年前の2017年が41.6%だったのに比べ3ポイント以上減少しており、今後も縮小傾向は続きそうです。

一方で、親族関係にない役員などが承継する「内部昇格」が31.7%で僅かずつながら同族承継との差を詰めつつあります。また、社外から第三者が後継者として呼ばれる「外部招聘」は7.6%と一定の割合を保っています。

出典:「全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)」(株式会社帝国データバンク)

親族外承継の方法はふたつに分かれる

親族外承継を検討する際には、どのような方法で承継を行うかを考えておきましょう。株式会社の場合、親族外承継には、以下のふたつの方法があります。

経営者だけ交代する(株式は譲渡しない)

事業経営のトップには後継者が座るものの、現経営者および同族が自社株式を保有し続けるパターンです。

後継者は会社の事業や事業に含まれる設備や従業員などの資産を事業譲渡契約によって譲り受けますが、現経営者一族は会社経営の重要事項の決定権をもつ株主に引き続き留まります。後継者は原則、日々の業務執行のみを行うことになります。

たとえば、「経営者が高齢で業務執行は難しく、親族の中に将来の後継者候補はいるものの実際に任せるにはしばらく期間が必要…」というような、一時的に経営を親族外の人物に任せたいときに行われることが多い承継方法です。

自社株式ごと後継者に譲渡する

事業と自社株式を両方とも後継者に譲渡するパターンです。

事業譲渡契約とは別に後継者と株式譲渡契約を交わし、後継者は事業だけでなく名実ともに会社そのもののトップとなります。現経営者(一族)は、完全に会社経営から手を引くことになります。

引退を決めた経営者が行う親族外承継は、こちらの方法が一般的な形といえます。

ちなみに現会社法施行後、株式は不発行が原則となっています(会社法第214条参照)。そのため株主が誰なのかを証明する書類は株主名簿のみとなります。株式会社の経営者は名簿の管理をしっかり行い、譲渡時にトラブルが起きないよう注意しておきましょう。

親族外承継で発生しやすい4つの課題

第三者に事業承継を行う場合、経営者が後継者のことをどこまで把握できるか、あるいは把握しているかという根本的な問題があります。自社の社員であっても自身の家族同様の親密な関係を保つことは困難です。

そのため、いざ承継となったときに困らないよう、発生しやすい問題点とその解決策をあらかじめ頭に入れておきましょう。

親族外承継で発生しやすい問題点は以下の4つです。

後継者に株式を買い取る資金力がない

事業も株式も後継者に譲渡し、現経営者が引退するというスタンダードな親族外承継の場合、まず後継者の資金力が課題になります。

事業の承継は、会社の建物や設備などの有形資産と、ノウハウや取引先といった無形資産をすべて引き継ぐことで行われますが、譲渡の対価は金銭となることが多いでしょう。

さらに株式譲渡においても、後継者は株式を取得するための資金を用意する必要があります。すなわち、いくら後継者としての資質が評価されていても、当人に相当の資金力がなければ後継者にはなれないのです。

業績が好調で財務状況も問題ない会社であれば、金融機関の融資は比較的通りやすいので、まずは取引のある金融機関に相談してみましょう。

また、事業承継を進めることで事業活動の継続を図るため、中小企業庁では経営承継円滑化法に基づく金融支援を行っていますので、こちらも活用してみましょう。

出典:「経営承継円滑化法による支援」(中小企業庁)

個人保証の引き継ぎの負担が大きい

会社経営者は、会社が融資を受ける際などに経営者個人として連帯保証人となり、会社の債務を負います。

会社を承継すると、これらの債務、すなわち経営者保証債務責任においても引き継がなくてはなりません。これは後継者にとっては大きな負担になり、事業承継で生じる障害の一因となっています。

この問題を解決するため、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を作り、平成26年より適用を開始しています。

法人(会社)と個人(経営者)が資産所有方法などで明確に分離されていたり、法人のみの資金力で債務返済が可能と認められたりといった要件を充たせば、以下の支援を受けられます。

・経営者保証なしでの融資が可能
・保証履行後に一定の資産が保証人の手元に残る
・返済しきれない保証債務の残額を原則免除

ただし経営者保証を解除するかどうかの最終的な判断は、融資を実施する金融機関が行うことに注意が必要です。

出典:「経営者保証」(中小企業省)

後継者の能力や人柄を把握しきれないことがある

とりわけ外部招聘において課題となるのが後継者の資質です。これまでの経歴が申し分ないものであっても、自社の経営方針にマッチするかは未知数ですし、人柄を把握する時間も十分には取れないからです。

とはいえ、現経営者は従業員のため、会社継続のためにできる限り後継者候補とコミュニケーションを取りましょう。また、自身のみでなく、可能であれば他の役員や従業員も加えたコミュニケーションの場を設けましょう。

人材が流出するおそれがある

現経営者が社内で慕われる存在であればあるほど、会社に留まる人たちが後継者をなかなか認められず、結果として人材が流出してしまうことは、経営者冥利には尽きるといえども、会社存続のためには避けなければなりません。

そのため、親族外承継に関する社内の理解を得ることを怠らないようにしましょう。

前述のように事前に従業員と後継者が話す機会を作ることも大切ですが、社内から後継者を選定する場合、従業員へ後継者候補に関するアンケート調査を行う方法もおすすめです。

TOMA100年企業創りコンサルタンツ」では、親族外承継を検討する経営者を、会社の後継者にふさわしい人物の選定と教育を行う形でサポートしています。後継者問題の解決はTOMA100年企業創りコンサルタンツへお任せください。

まとめ

親族外承継は後継者不足に悩む経営者にとって、会社存続のための有益な手段となります。しかし親族内承継と較べ、手続き的にも人物の選択においても慎重に進めねばならず、十分な準備期間を要します。

自分の会社のすべてを第三者に委ねる親族外承継は、社内外の協力と理解を得つつ、専門家の意見を取り入れるなどして検討を進めていきましょう。