【事業承継】遺言の活用と作成のポイント

会社であっても個人事業であっても、経営者がその事業を誰かに受け継いでもらいたいのであれば事業承継について知識を得ておくことが必要です。 自身の生前に承継させるか死後に承継させるかで方法は変わってきますが、死後に承継することをお考えであれば遺言の作成が非常に有用です。 この記事では、事業承継における遺言の重要性とノウハウを紹介します。


この記事は約6分で読み終わります。

事業承継でまず行うべきは「遺言の作成」

自身の死後にスムーズな事業承継を行いたい経営者は、第一に遺言書を残しておくことを考えるべきです。

会社には自社株や不動産、資金、知的資産といったさまざまな財産があり、これらの財産を誰にどのように引き継がせるかを、残された者だけで決めるのは容易ではありません。

法定相続人(以下「相続人」)が一人だけで、そのうえ生前から事業を共に行っていたケースであれば決めやすいでしょう。しかし、そもそも相続人がいない場合は、遺言書がなければ後継者が決まらず事業が継続できない可能性があります。

また、遺言書がなく相続人が複数いる場合は、遺産分割協議をして事業をどうするか決めることになります。故人の指針がないことで協議が整わず、場合によっては裁判となりスムーズに承継できないこともありえます。

自身の死後に相続人間での争いを避け、後継者への承継を問題なく済ませるためには、遺言書の作成が欠かせないといえます。

事業承継における遺言作成の基本

遺言作成について基礎知識を得ておきましょう。事業承継の有無にかかわらず遺言の様式は同じです。

遺言には3つの種類がある

遺言は、法律により3つの方式が定められています。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言です。(民法967条。)

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者自身が財産を誰にどのように遺すかをすべて自筆して作成する遺言です。ワープロで作成したもの、作成年月日の記載や署名押印がないものは無効となります。(同968条)

メリットとしては費用がかからず、書き直しも気軽に行えることが挙げられます。デメリットは滅失や改竄の恐れがあることや家庭裁判所での検認が必要なことです。

なお、デメリットの解消方法として令和2年7月から施行された「自筆証書保管制度」を利用する方法があります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言者の意思を、国の公務である公証業務を担う公証人に伝え、公証人が決められた様式で作成する遺言です。調印時に証人が必要なこと、公証人が遺言者に遺言書の内容をすべて読み聞かせたうえで署名押印(実印でなければならない)させるなどの方式が決められています。(同969条)

原本は公証役場で保管されるため滅失・改竄の恐れはなく、証人の前で遺言者が内容を確認して調印するため後々争いも起きにくく安全です。一方で、公証人費用などある程度お金と手間がかかるのがデメリットです。

秘密証書遺言

自身で作成した遺言書に封印をし、公証人に提出して自分の遺言であることを確認してもらう方式の遺言です。(同970条)実際にはそれほど利用されていません。

事業承継では公正証書遺言がもっとも適している

事業承継の場合、遺言は公正証書で作成しておくと良いでしょう。確かに初期費用はかかりますが、公証役場で保管してもらえるのでなくす心配がありません。作成時に渡される正本、謄本の2冊は、万が一失くしても再発行してもらえます。

改竄や偽造、盗難の恐れがない公正証書は、権利関係が多岐に渡る事業承継では安全性を担保できる最良の方法です。

また、財産の種類や相続割合が複雑な遺言をすべて自筆で書くのは骨の折れる作業です。自筆の場合記入ミスのおそれもありますが、公正証書であれば口述で伝えた内容を公証人が書類にするため、ミスの心配がありません。

さらに相続発生後、遺言執行時に相続人が用意しなければならない書類のうち簡素化できるものがあり、事業承継をスピーディーに行えるという利点もあります。

もちろん自筆証書保管制度を利用すれば、自筆証書遺言の持つデメリットの解決にある程度は繋がりますが、やはり個人財産だけでなく会社の引継ぎという重大な事項を含むのであれば、念には念を入れて公正証書遺言にしておくのが良いでしょう。

事業承継で遺言を活用する際の注意点

遺言を作成する際にはいくつか注意しなければいけない点があります。一般的な遺言書における注意点と基本的には同じです。ただし、会社の引継ぎという事項が加わるため、より内容を慎重に吟味する必要があるのです。以下、主な注意点を紹介します。

内容に不備がないか慎重に作成する

先述のとおり、事業に関する財産や権利義務関係は複雑なものが多く、遺言はそれらを適切に、誰が見ても解釈に違いが出ないような内容にしなければなりません。

株式会社であれば後継者に自社株をどれだけ譲るかについても気を配る必要があります。分配割合によっては後継者が株主総会で有効な議決数を得られず、単独での意思決定ができなくなります。遺言者は意思決定権を誰に与えるかまで考える必要が出てくるのです。

遺言書は、遺言者が亡くなってしまってからでは訂正が効きません。曖昧な表現を避け、事業を含む財産分配については、当該財産をしっかり特定できる形で記載しましょう。

また、自筆証書遺言を選択した場合には形式の不備にも気をつけます。誤字脱字、文言の加除などの訂正は法の規定に則って正しく行いましょう。

遺留分や納税資金についても配慮する

遺言は作成者が意思表示する最後の機会です。自ら築いた財産を誰にどう分配するのかは自由であり、その意思はできる限り尊重されるべきです。

一方で、財産をすべて愛人に遺贈し、配偶者や子が路頭に迷うことになるというのは理不尽です。そのため、法律は配偶者や子などの一定の相続人が「遺留分」という、遺言の内容にかかわらず本来の法定相続分の2分の1を請求できる権利を認めています。(同1042条)

事業承継を含む遺言で、複数の子のうち一人に会社を継がせるケースであれば、他の子が遺留分を請求しないよう、自分の個人財産を多めに相続させるなど相続時のトラブルを避けるための配慮が必要になります。

また、相続税がかかりそうな事業財産であれば、納税資金の工面についても配慮した分配になるよう心掛けましょう。

遺言作成時と相続時で状況が変わる可能性がある

遺言書作成から実際の相続開始まで長期間に渡ることがあるため、相続時に財産の状況や相続人などが変わることは十分に考えられます。

したがって、予備的遺言として「事業を長男が引き継げなかった場合は次男に本事業を継がせる」といったような条項を念のため入れておくと良いでしょう。ちなみに公正証書で予備的遺言を追加すると費用が加算されます。あれもこれもではなく、どの項目に予備的文言を加えるかについて熟慮する必要があります。

また、預貯金に増減があり、遺言作成時と比較してあまりにもバランスを欠くようになった場合、思い切ってその時点で遺言内容の見直しを検討しましょう。

事業承継を含む遺言で、さらに予備的遺言条項まで入れたい場合や後々の手続きについても考慮するのは非常に難しいものです。そのため、遺言や相続の専門家に相談・依頼することをおすすめします。

TOMA100年企業創りコンサルタンツ株式会社」なら、遺言作成におけるサポートをはじめ、事業承継や相続に関するさまざまな悩み事をワンストップで解決します。

経験豊富な専門家が企業の課題に応じてご提案いたしますので、ぜひご相談ください。

まとめ

遺言は自分が最後に意思表示する機会であると同時に残された親族の相続手続きを助ける書類です。自身の事業を特定の者に継がせたい場合は、権利や財産関係がさらに複雑になるので、できるだけ公正証書で遺言を作成しておくようにしましょう。