【経営者向け】ミッション・ビジョン・バリューとは?

企業において最も重要なことは、事業活動を通して利益を得ることです。しかし、根本の軸を持たずに事業活動を行うことで、業績が低迷していくケースも多く見受けられます。 特に、会社の規模が拡大して従業員数が増えてくると、企業ひいてはその従業員が共有すべき共通の価値観が必要となってきます。 今回は、企業経営において必要な「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の3つについて、その必要性や作り方について解説します。


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企業経営における「ミッション・ビジョン・バリュー」とは?

「ミッション・ビジョン・バリュー」とは、経営学の第一人者であるピーター・F・ドラッカーが提唱した企業の経営方針のことを指します。日本語では、経営理念や企業理念に近い意味合いの言葉です。

ミッション・ビジョン・バリューの3つの概念は、社内だけでなく、社外の双方に対して意義をもちます。

社内に対しては経営判断や日々の業務判断の軸となる役割をもちます。特に、現代のビジネス環境は激しく変化する『VUCA時代』といわれており、自社に最適な経営判断をくだしていくのは非常に難しい状況です。

このような環境の中、ミッション・ビジョン・バリューは企業経営の道しるべともいえる価値判断軸になるでしょう。
また、社外に対しては、企業を取り巻くステークホルダーに自社の存在意義や在り方を示す役割があります。

自社のスタンスをミッション・ビジョン・バリューを通じて示すことで、そこに共感した顧客、株主、取引先からの信頼を得ることにもつながります。

近年、企業には以前よりも社会的責任が求められるようになってきているため、自社のミッション・ビジョン・バリューを掲げることは、自社の存在意義や社会貢献の仕方を表す上で非常に重要です。

つまり、ミッション・ビジョン・バリューで最も大切なことは、社内に浸透させると共に、外部の求心力となるような価値観を表明するということです。

では、ミッション・ビジョン・バリューについてそれぞれ詳しく紹介します。

ミッション

ミッションとは、日本語で「使命・任務」という意味があり、ビジネスにおいては「企業が社会に対して果たすべき使命」として使われます。

「自社が事業活動を行う目的は何なのか、どういう目的で存在しているのか」という、企業の存在価値そのものを言語化したものともいえるでしょう。

多様な事業を手掛けるメガベンチャー『楽天グループ株式会社』のミッションを例にとると、「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」と示されています。

参照:楽天グループ株式会社

つまり、楽天グループ株式会社はこのミッションを追求することが自社の存在意義であると認識しているのです。

企業で働く全ての従業員の間でミッションが共有できていなければ、個々がそれぞれ好き勝手な方向を向いて日々の業務を行うようになり、組織の団結力や一貫性が醸成されません。

また、従業員が自分の仕事を遂行する上で目的をもっていないと、日々の仕事が単なる作業となってしまい、やりがいを感じにくい状態を招いてしまうことになるでしょう。

逆にミッションがきちんと浸透している企業では、全ての従業員がひとつの目的意識を共有し、それに即した判断や行動を実践します。その結果、従業員は自分の仕事にやりがいや意味を感じ、団結力やその企業独自の社風が醸成されていくのです。

最も高いところにある理想を掲げるという点で、ミッションは「ミッション・ビジョン・バリュー」の中で抽象的かつ重要な要素だといえます。

ビジョン

ビジョンとは、企業の将来的な理想像を言語化したものであり、「ありたい姿やあるべき姿」としての目標のことを指します。

先ほど紹介したミッションとの関係性でいうと、ビジョンとはミッションを達成するための具体的な計画を意味します。

そのため、ミッションが抽象的かつ定性的であるのに対し、ビジョンはミッション実現のための定量的な目標を掲げることが多いといえるでしょう。

大手消費財科学メーカー『花王株式会社』のビジョンは、「人をよく理解し期待の先行く企業に」と、シンプルな一文でまとめられています。

参照:花王株式会社

先ほどのミッションよりもより具体的な内容となり、ミッションを追求する上で目指すべき目標を示しています。

より具体的なビジョンを掲げたい場合、「売上高」、「支店数」、「商品のバリエーション」といった定量的なビジョンを定めるのも有効です。

バリュー

最後に紹介するバリューとは、従業員それぞれが大切にすべき価値観のことを指します。

ミッションを達成してビジョンに近づくため、社内の人間一人ひとりが日々行うべき行動指針を表しています。

企業全体のミッションとビジョンが抽象的であるのに対し、個々人の行動の指針となるバリューは具体的です。

ユニクロやGU(ジーユー)などの衣料品会社を傘下にもつ『株式会社ファーストリテイリング』のバリューを見てみると、

・お客様の立場に立脚
・革新と挑戦
・個の尊重、会社と個人の成長
・正しさへのこだわり

など、日々行動する上でどのような価値観を持つべきかについて具体的な言葉で表現しています。

参照:株式会社ファーストリテイリング

ミッション・ビジョン・バリューを作成するメリット

次に、ミッション・ビジョン・バリューを作成することで得られるメリットを紹介します。

自社の抱えている課題が見えてくる

1つ目は、ビジョンを設定することで自社の課題が明確になるという点です。

先ほど解説したように、ビジョンとは、目的であるミッションを達成するための目標や計画といった役割があります。つまり、ミッション達成に必要な具体的な取り組みや売上目標などを考えなければなりません。

ビジョンを練る過程では、まず自社の現状について分析した上で将来的な目標を定めることが必要となるため、自ずと自社が現段階で抱える問題が見えてきます。

同時に、完成したビジョンの共有により、自社の状況ひいては自社が目指すところを全従業員が把握できるようになることも、目標達成には重要です。

従業員のエンゲージメント向上につながる

良いミッション・ビジョン・バリューを作成することは、従業員の自社に対するエンゲージメントを向上させます。

「エンゲージメント」とは、日本語で「愛着」や「忠誠心」のことを指します。企業の使命や価値観などが明確になると、従業員は自社の価値観を理解した上で行動しやすくなり、エンゲージメントの向上へとつながるでしょう。

エンゲージメントが高まれば離職率の低下を防ぎ、定着率の向上も期待できます。

裏を返せば、自分が勤める企業に対して愛着や帰属意識を持っていない場合、全体最適を無視した行動をしたり、仕事にやりがいを感じることができずに離職したりしてしまうリスクが高まります。

ミッション・ビジョン・バリューという、いわゆるソフト面を整備することで、従業員の精神面からエンゲージメントを向上させることは、企業の人材力を向上させる上で非常に重要です。

自社にマッチした人材を採用しやすくなる

ミッション・ビジョン・バリューに一貫性や独自性があり、それによって自社なりの使命や価値観が醸成されれば、マッチした人材を見極めやすくなります。

一般的に、新卒者や転職者が職を探す際には、給与や勤務地などの労働条件のみが重要視されていると考えられがちです。しかし、実際にはその企業が掲げる理念や価値観、それによって醸成される社風などが非常に重要視されているのです。

新卒者に関しては、まだ社会経験がほとんどないため、「自分の価値観と合う考え方や社風を持つ会社に就職したい」、「自分の強みや個性を発揮できるような職場で働きたい」と、企業の雰囲気をよく見ています。

また、転職者に関しても、キャリアアップのために転職する方がいる一方で、「前職ではミスマッチ感を感じ、やりがいを感じることができなかった」という理由で転職する方が大勢います。

このような転職者は、転職先の企業が「どのような価値観の下で、どのような目標を持ち、その結果どのような社風や職場の雰囲気が醸成されているのか」について重視していることがうかがえるでしょう。

見方を変えると、前職の企業が掲げたミッション・ビジョン・バリューに共感できなかったともいえるため、よりこの点を重視するということがうなずけます。

また、採用する企業側からすると、入社後のミスマッチが起こりにくくなるため、早期退職を防ぐことができます。

もし採用担当者が自社のミッション・ビジョン・バリューを理解できていないと、そもそも自社がどのような人物を求めているのかもわかりません。

このような状態で採用活動を行ったとしても、自社の価値観と合う人物を見つけることはできませんし、 自社の情報を発信する際にも、自社の大切にする価値観が定まっていなければ、求職者に対して自社の魅力をアピールできません。

「企業は人なり」と言うように、企業のポテンシャルを決めるのは社内の人間です。自社の社風や考え方に共感する人材を受け入れられるよう、ミッション・ビジョン・バリューはしっかりと定めるべきでしょう。

クレド(行動指針)の土台となる

クレドとは、業務遂行の際に必要となる従業員一人ひとりの行動指針をまとめたものです。クレドは「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の3要素で構成されており、これらの概念を具体的に示したものです。

近年、クレドを導入して従業員が自社のミッション・ビジョン・バリューに触れる機会を設ける企業が増加しています。その背景としては、過去の企業による不祥事の連続があります。

2000年代の海外を中心に、企業の不祥事とそれによる倒産が相次ぎました。これを受けて、日本でも企業のモラルや責任がより一層重視されるようになり、その一環としてクレドが注目を浴びるようになりました。

実際に、クレドを小さなカードに記載して社員に携帯させている企業も見受けられます。
クレドの役割を簡単に説明すると、「企業の価値観や目標を明確にする」、「社員教育」、「モチベーションややりがいの向上」などが挙げられます。

クレドは「ミッション」「ビジョン」「バリュー」をもとに作成されるので、自ずとこの3つの要素が含まれたものになります。つまり、企業が掲げる目的、目標、そして行動指針をまとめ、社内に浸透させることがクレドの役割なのです。

ミッション・ビジョン・バリュー作成のポイント

次に、実際にミッション・ビジョン・バリューを作成する際のポイントについて説明します。

経営に関わるメンバー全員で作成する

1つ目は、経営陣のメンバー全員を巻き込んで作成するという点です。

ミッション・ビジョン・バリューの作成は、自社の現状を踏まえた上で自社の未来と従業員の行動基準を決める重要な事柄です。

企業は経営者一人で運営するわけではなく、他の経営陣を含めた全従業員の力を結集して行います。そのため、理想としては現場の声を含めるために全従業員で作成することが望ましいですが、現実的ではありません。

そこで、経営者一人で決めるのではなく、経営に関わるメンバー全員で作成することで様々な視点を取り入れるべきでしょう。これによって、作成後の反発を防ぐ効果にもなり、社内での正しい共有につながります。

あくまでも、ミッション・ビジョン・バリューの作成で最も重要なことは、「社内からの共感を得て、全社員に浸透すること」です。誰にでも腹落ちするようなものになるよう、多角的な視点からじっくり吟味しましょう。

「ミッション」は行動に結びつくものにする

2つ目は、ミッションが実際の行動に結びつくべきものであるという点です。

自社の事業を突き詰めた先にある理想像がミッションでなければなりません。ただなんとなく言葉を並べて自社の強みや現状を無視したミッションを定めてしまうと、言葉だけが先行してしまい、社内には浸透していきません。

行動に結びつくミッションを作るためには、押さえるべき構成要素が4つあります。

1. どのような外部環境の中で
2. どのような事業領域において
3. 誰に対して
4. どのような価値を提供するか

この4点を踏まえた上で、よりわかりやすいミッションを設定するようにしましょう。

作成後は状況に応じて見直しを行う

3つ目は、ミッション・ビジョン・バリュー作成後に見直しを行うということです。
ミッション・ビジョン・バリューは、一度作成すれば終わりというものではありません。

経営陣が完成したと思っても、現場に浸透しなければ完成とは言えません。特にビジョンは、絶えず変化する時代に合わせることが重要です。

企業が置かれている状況によっては、必要に応じてミッション・ビジョン・バリューの見直しを行いましょう。

ミッション・ビジョン・バリューやクレドの作成ならTOMAにご相談ください!

ここまでミッション・ビジョン・バリューについて解説し、その重要性がおわかりいただけたかと思います。しかし、実際に作成しようとすると、これまでに作成経験がない経営者の方々は苦戦することがほとんどです。

「TOMA100年企業創りコンサルタンツ」では、理念・クレド導入コンサルティングサービスを行っています。理念経営に長年取り組んできたTOMAのコンサルタントが培ったノウハウをもとに、企業経営の課題解決をお手伝いいたします。

自社のミッション・ビジョン・バリューの明確化や、クレドの作成から導入まで幅広くサポートするので、企業理念やクレドの制度化でお困りの方はぜひご相談ください。

まとめ

ミッションは会社の存在する目的や使命を、ビジョンはミッション達成のための目標を、そしてバリューは個々の従業員の行動規範を示すものです。

つまり、ミッション・ビジョン・バリューは会社の方向性を明示すると共に、社内の従業員の行動指針となる重要な役割を担っています。このような軸が定まっている企業はどのような状況でも最善の選択をし、強い組織を作ることができるでしょう。

ミッション・ビジョン・バリューの作成が不安な場合は、専門家のサポートを得てしっかりと検討することを強くおすすめします。