離職率を下げるには|改善するための対策や企業の取り組みの成功事例

退職者が続出し離職率が高い会社は、人材不足や、採用、教育コストがかかりすぎるなどの理由で生産性も低下してしまいます。会社 …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

退職者が続出し離職率が高い会社は、人材不足や、採用、教育コストがかかりすぎるなどの理由で生産性も低下してしまいます。会社の経営の安定、向上のためにも離職率を下げることが大きな課題となるのです。

とはいえ、離職率を下げるために何をすればいいのか分からないという経営者も多いでしょう。この記事では、離職率を下げるための具体的な方法と、実際の離職率改善事例を紹介します。離職率の下げ方に悩んでいるならぜひ参考にしてみてください。

離職率を下げる取り組みによる効果    

離職率とは、一定期間のうちにどれだけの人が退職したかのをあらわす指標のこと。

数値の高低をみることで、会社の働きやすさや労働環境の適切さ、従業員満足度の目安ともなります。つまり離職率が高いほど、働きにくい会社ということになってしまうのです。反対に、離職率の低い会社は社員にとって「長く働きたい会社」といえます。

離職率を下げることで、社員の満足度の向上や会社のイメージアップ、採用活動への好影響などさまざまな面でメリットがあるのです。

採用活動がおこないやすくなる

求職者は会社の働きやすさを見るための一つの材料として、離職率もチェックしています。離職率の高い会社は「何かしら問題があるのでは?」「ブラック企業では?」と会社に対するイメージも悪くなりかねません。
結果として、いい人材の確保が難しくなってしまうのです。離職率を下げることで、求職者の会社に対するイメージも良くなり採用活動も行いやすくなるでしょう。

会社の生産性向上につながる

離職率が高い会社は、人員の補充のための採用も頻繁に必要になります。採用活動にはそれなりのコストがかかるため、頻繁に採用していると経費が嵩んできます。せっかく採用して教育しても、早期で退職されることでそれまでのコストが無駄になってしまうのです。

また、退職者が多いことで会社が人員不足となり、社員の負担が増し肉体的にも精神的にも疲労しかねません。離職率の高い会社はこれらの要因で生産性が低下してしまうのです。反対に、離職率が下がることでいい人材の確保がしやすくなり、生産性の向上にもつながります。

離職率が高い会社にみられる原因              

離職率の高い会社は、何かしら原因があるものです。退職の理由は人それぞれなので、会社ごとの具体的な原因はしっかりヒアリングして分析する必要があります。

会社の離職率が高くなる共通の原因としては、以下のようなことが挙げられます。

・ 人材育成に取り組んでいない
・ 人事評価制度が確立していない
・ 長時間労働が常態化している
・ 有給休暇の取得率が低い
・ 社員同士のコミュニケーションが乏しい
・ パワハラやセクハラが横行している
・ 給与やボーナスが少ない

離職率が高くなる主な原因は「労働環境の悪さ」「人間関係の悪化」「会社の将来性への不安」などが挙げられます。働き方を教えてもらえない、働いても評価してもらえないといった状況では、社員のモチベーションの低下につながるでしょう。

また、長時間労働やパワハラといった労働環境の悪さにストレスを抱えて退職するケースも多いものです。まずは、どのような理由で退職者が出ているのか原因を分析したうえで、対策する必要があります。

退職者が多い原因と対策については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。

退職者が多い会社の特徴|考えられる7つの原因とおこなうべき対策

離職率を下げるための対策方法               

離職率が高い会社は、すぐにでも離職率を下げる対策が必要です。

ここでは、離職率を下げるための次の10の対策を紹介していきます。

・採用前になるべく多くの情報を提示する
・定期的に社員面談を実施する
・社員の教育研修を適宜実施する
・社員の長時間労働を改善する
・社員の評価基準を明瞭にする
・社員同士のコミュニケーションを増やす
・福利厚生制度を充実させる
・多様な働き方を許容する
・管理職のためのマネジメント研修を実施する
・社員の退職時に理由をヒアリングする

採用前になるべく多くの情報を提示する

働く前のイメージと実際に働き始めてからが大きく異なると、モチベーションが低下して退職につながる恐れがあります。入社後に仕事内容や休日数・給与などに不満を抱えて退職するケースは珍しくありません。

採用前に会社から提示される情報が少ないと、求職者が希望条件と照らし合わせることができず、入社後にミスマッチを理由に退職されてしまいます。採用前になるべく多く情報を提供することで、入社後にイメージが違ったとなることを防げるでしょう。

求職者に対する公開情報をできるだけ多く・詳しくする必要があります。また、面接時には希望条件のヒアリングや労働条件の提示などで、双方が理解を深められるようにしましょう。ただし、面接時間や回数が増えるのはマイナスになりかねないため、面接時以外でも情報提供できる機会を設けることも大切です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

定期的に社員面談を実施する

会社に対して不満や悩みがある場合でも、すべての社員が自分から上司に報告できるわけではありません。むしろ自ら言い出せない社員ほど、ある日突然辞表を提出するというケースも珍しくないのです。辞表を提出するほどに悩んでいる場合は、意志を覆すのは難しいでしょう。 できるだけその前の段階で、悩みや不安を解決することが大切です。定期的に、社員との1対1面談の機会を設けて相談しやすい環境を整えるようにしましょう。

上司には相談しにくい、または上司からのパワハラと言った上司には相談できない内容もあるので、別に相談窓口を設けることも大切です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

社員の教育研修を適宜実施する

人材育成の環境が整っていないと退職につながる恐れがあります。新人社員の教育体制が整っていないことで、新人は何をしていいか・誰に相談していいか分からず仕事への不安・ストレスを抱えてしまう可能性があるのです。

教育研修を適切にすることで、新人でも働きやすく退職を防げるでしょう。

新人は入社直後に不安を抱えやすいので、その時期のフォローを手厚くすることも重要です。また、すでに働いている社員のスキルアップのための研修機会を設けることで、働く意欲の向上につながります。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

社員の長時間労働を改善する

残業や休日出勤と言った長時間労働が常態化していると、心身ともに疲労しストレスを抱えてしまいます。社員の長時間労働を改善するために、適切に勤怠管理をして残業や休日出勤を減らすようにしましょう。

また、上司が帰らないと社員が帰りにくいという職場もあります。まずは、上司から率先して定時に帰るようにするのも大切です。
業務効率の高い特定の社員に仕事が偏ると、その社員が抜けた場合に業務が回らなくなる恐れもあるので、個人のスキルに合わせつつ偏りがないように業務量を調整することも大切です。

社員の評価基準を明瞭にする

頑張っても正しく評価してもらえないと、社員のモチベーションは低下してしまい退職につながります。「何を頑張れば評価してもらえるか分からない」「頑張ったのに評価してもらえなかった」という状況を改善する必要があります。 今の自分はなぜこの評価(給与)なのかを明確に提示できるようにすることが大切です。曖昧な評価基準や上司の裁量で評価が決まるような状況であれば、明確な評価基準を設けて公表するようにしましょう。
営業と言った数字で評価する場合は明確にしやすいでしょう。しかし、業績を明確にできない業種も多いので、そのような業種の社員でも納得できる評価基準を設けることが大切です。

社員同士のコミュニケーションを増やす

コミュニケーションの低下は、仕事の効率の低下や人間関係の悪化につながります。特に、人間関係が悪化すると退職につながりやすいので注意しましょう。

社員の交流の機会を設けることや、上司から積極的にコミュニケーションを取るようにして円滑な人間関係や業務連絡が取れるようにすることが大切です。
リモートワークは、よりコミュニケーション不足となりやすく、些細なことですれ違いがおき人間関係が悪化しやすいものです。ツールの利用やルール作り出社時にコミュニケーションを取れるような機会を設けるなど対策しましょう。

福利厚生制度を充実させる

労働条件の悪さは離職率を上げる原因となります。待遇や福利厚生を充実させることで、働き続けたい会社にすることができるでしょう。

福利厚生の充実としては、家賃補助や食事補助・各種休暇などが挙げられます。ただし、会社が一方的に福利厚生を充実させようとしても社員のニーズに合っていなければ、無駄になってしまうでしょう。

事前に社員調査などして、社員ニーズに合った福利厚生を充実させることが大切です。

福利厚生の充実には多額のコストがかかる場合があります。コストに対応できない会社などは外部の福利厚生サービスを利用するのも一つの手でしょう。また、アイデア次第で低予算でも実現できるので、社員にアイデアを募るのもおすすめです。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

多様な働き方を許容する

新型コロナウイルスの普及により働き方も見直され、リモートワークやフレックスタイムなどさまざまな働き方を導入する会社も増えています。リモートワークでは、住む場所も自由にでき通勤の時間を自分の好きな時間にできることからも、社員満足度の向上につながったケースもあるのです。
ただ、リモートワークをすべての人が歓迎しているわけではありません。通信環境の不備や家では働きにくいという人もいるでしょう。何か一つの働き方に固執するのではなく、多くの選択肢を与えられるように制度を整えることをおすすめします。

職場に通勤して始業から定時まで働くという形だけにこだわるのではなく、社員や社会のニーズに合わせて柔軟な働き方を導入することで働きやすい環境を整えられます。

管理職のためのマネジメント研修を実施する

上司や管理職とうまくいかなければ、社員は働きにくく大きなストレスとなります。
特に、上司にマネジメントスキルがない、周りの意見に耳を傾けないといった場合は、職場の雰囲気も悪くするでしょう。
管理職のマネジメントスキルをアップさせるための、研修を定期的に設けることが大切です。

管理職側も部下との関係に悩んでいる場合も珍しくありません。マネジメントスキルだけでなく管理職に対する精神的なフォローの場を設けることも大切です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

社員の退職時に理由をヒアリングする

退職理由は人それぞれです。しかし、退職理由が分からないままではその後の改善にもつながりません。退職するは社員には必ず退職理由をヒアリングして、原因を分析することで、今後の対策も取りやすくなるでしょう。
退職を決断されてから聞くことは、今後の対策には役立てても手遅れとも言えます。こまめなコミュニケーションや気になる社員に声を掛けるなど、できるだけ退職前に気づいて相談に乗るようにしましょう。

離職率改善に成功した会社の施策事例

離職率を下げることは会社にとっても重要な課題です。多くの会社で離職率低下のための取り組みが進められています。ここでは、実際に就職率の改善に成功した会社の事例を紹介するので、参考にしてみてください。

サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社は、クラウドベースの企業向けソフトウェアを提供する会社です。

サイボウスでは、「100人いたら100通りの働き方」があっていいと考え、ワークバランスを整えるために多様な働き方を実現しています。また、社内コミュニケーションの活性化のための取り組みも行うことで離職率の改善に成功しています。

施策事例
・ 最長6年間の「育児・介護休暇制度」の導入
・ ライフステージの変化に合わせて働き方を採用できる「働き方宣言制度」の導入
・ 最長6年間サイボウズへの復職が可能な「育自分休暇制度」の導入
・ お世話になった人に感謝を伝える「サイボウズオブザイヤー」の導入

これらの施策を進めていき、2005年に28%だった離職率が現在は3~5%までに低下したのです。

サイボウズの施策では、働き方やコミュニケーションを改善することで働きやすさにつながっています。長期間の休暇制度の導入や働き方の変更は、すぐに対応できる会社は難しいでしょうが、誕生日会や感謝を伝えるイベントと言った費用を抑えてできる取り組みを多く取り入れられているので、参考にしてみるとよいでしょう。

参照:サイボウズ株式会社「ワークスタイル 多様な働き方へのチャレンジ」

株式会社鳥貴族

全国的に焼き鳥チェーンを展開する株式会社鳥貴族。一般的に離職率の高い外食産業でありながら、「採用の見直し」により離職率の低下に成功しています。

施策事例

・選考会議の導入
・入社後には面接官による店舗訪問

選考会議では、面接は基本的に1対1の面接のみで行いますが、面接だけで合否を判断しません。面接後に面接した人を対象として各エリアの面接官と一緒になり会議をして合否を決めているのです。面接官だけの判断では、採用が偏りかねませんが、複数の人の意見で合否を決めることで、会社で活躍できる人材を見極めているのです。また、入社した社員に対しても面接官が定期的に面談してフォローすることで早期退職を防いでいます。

鳥貴族の施策は「むやみやたらに採用しない」ことです。人員確保をしたい会社の中には、とりあえず採用している会社も珍しくないでしょう。しかし、それでは本当に会社に合った人を採用できずに結局退職につながってしまう可能性が高くなります。採用時点で、長く続けられるかを見極めることで離職率の低下につながるでしょう。

参照:リクナビNEXTジャーナル「【定着率の裏に理念あり】離職率が業界平均を大きく下回る鳥貴族の秘密」

株式会社レオパレス21

ウィークリーなどの短期契約アパートで有名な大手不動産会社、株式会社レオパレス21。厚生労働省の発表では約15%と高い離職率の不動産業界の中でも、離職率9%程まで改善しているのです。

施策事例

・管理職研修や営業力強化研修などの各種研修の充実
・人事部によるヒアリングの導入
・柔軟な人事制度の導入
・労働時間=評価ではないという意識付け
・リフレッシュ休暇や計画年次休暇制度の導入

レオパレス21では、それまで現場任せで研修に力を入れていませんでしたが、各種研修を取り入れることで、社員の営業力の強化や支店ごとの力量のばらつきを改善できています。辞めたいという人には人事部がヒアリングし、他の部署への異動と言った柔軟な人事異動ができるように制度を整えているのです。また、労働時間で評価しないという意識付けを根気よく発信し休暇の制度を整えることで、長時間労働も改善しています。

レオパレス21で労働時間が改善した大きな要因に、経営トップが働き方を変えるというメッセージを社員に伝わるような体制が整えられたことが挙げられます。経営陣が熱意をもって取り組むことで、社員にもプラスに働いているといえるでしょう。

参照:リクナビNEXTジャーナル「3年間で離職率が劇的に改善! レオパレス21はなぜ変われたか?」

まとめ

離職率を下げるための対策方法についてお伝えしました。
離職率を下げることで会社の生産性の向上や採用活動の効率化につながります。「働きやすい環境」「適切にコミュニケーションが採れる仕組み」「明確な評価」などで、社員が長く働きたいと思える会社にすることが離職率を低下するポイントとなります。
この記事を参考に、離職率低下のための取り組みを早速初めてみるとよいでしょう。