事業は「引き際」が肝心|事業撤退の判断基準とプロセス

会社の事業は新規立ち上げよりも撤退のほうが難しいといわれますが、経営の効率化が求められる現代、事業の撤退を選ばなければならない場面もあるでしょう。事業撤退の決断が遅れることで、経営に悪影響を及ぼすことも考えられます。 この記事では、事業撤退を見極める基準や会社経営を改善に導く撤退のプロセスを解説していきましょう。


この記事は約7分で読み終わります。

事業撤退には2種類ある

事業撤退は、撤退に対する捉え方によって「積極的撤退」と「消極的撤退」に分かれます。どのような目的で撤退するかを決めておくことで、撤退後の会社の方向性を定めることが可能です。

まずは「積極的撤退」と「消極的撤退」について、それぞれの意義を確認しておきましょう。

積極的撤退

積極的撤退とは、会社に利益をもたらし、成長期にある事業を戦略的に撤退させることです。

収益化に成功している事業であっても、たとえば急速な勢いでライバルが増えている、仕入値の高騰が続いている、会社の理念やビジョンと合っていないなどの理由から、近い将来に赤字へ転落する可能性があります。

事業撤退による損失やデメリットより将来的なリスクが大きいと判断されれば、能動的に撤退するのも経営手腕のひとつといえるでしょう。

収益に問題のない事業を撤退させるのは覚悟がいりますが、赤字を抱える前に事業を終えることで、会社の持続的な成長や発展にもつながります。

消極的撤退

消極的撤退とは、赤字や業界の衰退、ライバルの台頭などにより、事業を受動的に撤退させることです。積極的撤退とは異なり、計画や準備が不十分な状態でやむなく撤退に追い込まれます。

事業を立て直す目的で撤退までに多額の資金を投入している場合も多く、それまでのコストに見切りをつけなければなりません。さらに、事業の継続に尽力してきた従業員や関連会社への配慮や対応に追われる可能性も高いでしょう。

何より経営計画にない事業撤退は、撤退後の経営を不安定にさせるリスクにも注意しなければなりません。とはいえ撤退に追い込まれるほどの事業であれば、放置するほど経営は苦しくなるので決断を急ぐ必要があります。

事業撤退を見極める基準の決め方

積極的にせよ消極的にせよ、事業撤退は即決できるものではないでしょう。日々変わる経営状況に翻弄されないように、あらかじめ事業撤退の判断基準を定めておくのがおすすめです。

ここでは、会社が事業撤退を決めるとき、経営者が覚えておくべき基準を3つ紹介します。

貢献利益

貢献利益でわかるのは各事業の会社に対する貢献度で、事業撤退を見極める基準として有効です。「売上高-変動費-直接固定費」で計算され、事業の売上から売上をあげるためにかかった費用(仕入費や広告宣伝費など)を引いて求められるため、事業ごとの収益が明らかになります。

貢献利益が黒字であれば、たとえ営業利益に赤字が出ていても、基本的に撤退する必要はありません。事業単体だと黒字なので、各事業に配賦される会社の共通コストが負担になっている可能性が高く、経営改善によって営業利益の黒字化も見込まれます。

一方、貢献利益が赤字であれば、事業撤退を視野に入れるべきでしょう。事業単体が赤字なのでほかの事業の利益が赤字の穴埋めに使われてしまいます。赤字が膨らめば会社の倒産といった事態もありえるので、財務状況によっては即時撤退も検討してください。

ただし、貢献利益が赤字でも売上増やコスト減によって黒字化の見込みがあるなら、すみやかに事業内容を見直して経営改善を行いましょう。

計画に対する達成度

事業の目指すゴールや計画に対する達成度によって事業撤退を決めることもできます。

有用なのがKPI(Key Performance Indicator)の活用です。KPIとは目標の達成度を測る指標で、何を指標とするかは売上や月ごとの成約件数、新規顧客とリピーター数、顧客満足度などから自由に設定できます。

年度ごとなど事業で立てた計画の達成度をKPIによって具体的に判断します。あらかじめ事業撤退の基準を指数によって決めておけば、いざというときに思い悩むことなく撤退を決断しやすいメリットがあるでしょう。

ただし、KPIを使った達成度によって事業撤退を決める場合、成長スピードと市場シェアで勝負する業界が適しています。指数だけでは事業の状況を判断しづらいときには、別の基準を利用するといいでしょう。

市場・競合・自社の状況

事業の内部要因だけではなく、市場や競合会社、会社の置かれている立場など外部要因と照らし合わせることも、事業撤退の大切な判断基準です。

SWOT分析を用いることで、内部要因を「Strength(強み)」と「Weakness(弱み)」、外部要因を「Opportunity(機会)」と「Threat(脅威)」でシンプルに見直し、それぞれの状況を把握することができます。

・ 事業(内部要因):独自の強みと改善すべき弱み
・ 会社や社外(外部要因):市場チャンスの有無と起こりうる脅威

これら4つを可視化すれば、貢献利益では測り切れない事業撤退のラインを見極められるでしょう。

事業撤退のプロセス

事業撤退の検討を具体的に始めたら、会社の運営に影響を与えることなく、スムーズに撤退を進めるためのプロセスを理解しておくと安心です。

それでは最後に、事業撤退の進め方について順を追って説明いたします

1.事業撤退に関わるメンバーの選定

事業撤退という経営判断は、その事業に携わる従業員はもちろん、社外にも影響を与えます。特に取引先にとっては自社の業績を左右することにもなるため、関係悪化の原因となることもあるでしょう。

そこで社内外への情報漏えいリスクを抑えるため、事業撤退に関わるメンバーは少人数にするのがおすすめです。

メンバーには、該当事業の業務や状況を理解している人物を選定して下さい。また、財務や法務、人事などに長けた人物がいれば、事業撤退後の社内外への対応もスムーズに進むでしょう。

2.撤退する事業の範囲を検討する

次に撤退する事業の範囲を検討します。該当する不採算事業について関連する部署や関連会社、それらで働く従業員を抜き出してください。さらに資産や負債といった財務の現状も正確に把握しておきましょう。

ただし、部署によっては、不採算事業だけではなく複数の事業に携わっていることがほとんどです。事業撤退後の人員配置を決めるときは、こうした部署間の関わりを考慮する必要があります。汎用性のある資産があれば、ほかの事業で使えるかどうか検討するようにしてください。

3.撤退スキームを決定する

最後に、事業撤退の構想を練って計画を具体化します。このスキームを決定する段階で重要なのが、撤退にあたって優先すべき事項を明らかにしておくことです。

撤退による損失を最小限に抑える、従業員の雇用や取引先との関係を維持する、資産を他の事業で活用するなど、事業の撤退で想定されることをリストアップし、何を優先するのかを確認してください。

優先事項さえ決定すれば、事業撤退のスキームを自ずと決定するでしょう。

事業譲渡

撤退スキームのひとつが事業譲渡で、事業をそのまま他社へ売却して譲渡するものです。

交渉次第ですが、設備や技術といった資産だけではなく、従業員の雇用も引き継いでもらえるケースもあります。また交渉相手にとってメリットある事業であれば、売却益も期待できるでしょう。

ただし、相手との交渉に時間がかかることも多く、希望通りに計画が進まないことも覚悟しなければなりません。また、撤退を希望しているという事情から売却価格を値切られてしまう恐れもあります。

資産譲渡

資産譲渡は、事業の撤退を迅速に行いたいときに採用されるスキームです。一般的には、事業に属する売掛金や設備などの資産を買い手企業に譲り、その対価を受け取ります。

売買の対象が明確なので交渉がスムーズに進む一方、事業譲渡に比べると売却益は低めの傾向です。また資産に古い設備が含まれる場合、回収や廃棄でコストがかかることもあるでしょう。

解散

撤退を検討しているのが会社で唯一の事業であれば、会社を解散して事業撤退する方法もあります。

会社の解散とは、法律上必要な法人格の消滅手続きです。解散を終えても会社は存続しており、株主総会での特別決議などを通じて清算手続きを終えた時点で会社は消滅します。

交渉などにかかる時間は必要ないものの、会社の解散から清算の手続きまでには、登録免許税や官報公告費用、そして税理士など専門家への相談料や依頼料などがかかるため、撤退コストがそれなりにかかるでしょう。

まとめ

どんな会社の事業も、順調なときもあれば苦境に陥るときもあります。選択の余地なく撤退を迫られると、従業員や取引先に不安を与え、社内の混乱を生じる恐れがあるため、あらかじめ撤退の基準を設けておくのがおすすめです。

事業撤退を具体的に進めるときには、撤退の優先事項を明らかにして、もっとも適した撤退スキームを決めるようにしましょう。

TOMA100年企業コンサルタンツ」では、企業経営に関するサポートを行っています。事業を撤退すべきかどうかでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。