事業譲渡と会社分割はどう違う?それぞれの特徴を解説

経済的な将来の見通しがなかなか立て辛い昨今、会社経営者として自社の今後について考える人も多いでしょう。特に会社の規模を広げ過ぎてしまったのでスリム化したい、あるいは特定の事業に一点集中したいといった場合に、どのような方法を採れば良いかについてもあらかじめ情報を頭に入れておくことが大切です。 ここでは会社の「事業承継」のうち、事業の一部を移転させる手段として事業譲渡会社分割を取り上げ、比較検討していきます。


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事業承継の手法「事業譲渡」と「会社分割」

事業承継は「自社の経営を後継者に引き継がせる」ことをいいます。事業譲渡、会社分割は事業承継の方法のひとつですが、ともに「事業の一部のみの承継が可能」という特徴があります。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、自社の事業を原則的に売買の形で第三者(=ほかの会社)に譲り渡すことです。複数の事業を手掛けている会社であれば、そのうち一事業のみを譲渡したり、複数の事業をそれぞれ別会社に譲渡したりすることも可能です。

会社分割とは?

会社分割とは、自社の事業の一部に関する権利・義務を分割し、ほかの会社に包括的に継承させることです。法律上「吸収分割」と「新設分割」の2種類があります。(会社法第757条~766条)

上記のふたつの方法は一見似ているようですが、会社分割は会社法上(「組織再編」)の手法であり、事業譲渡は民法上の「売買契約(民法第555条)」の一種と考えるべき手法なのです。したがって様々な手続きに相違点があると同時に、各々の手法のメリット・デメリットも自ずと違ってくるのです。

事業譲渡のメリット

上述のとおり事業譲渡は自社の事業を契約に基づいて売却することですが、事業譲渡を選ぶことで以下のようなメリットが考えられます。

注力すべき事業を選別できる

契約は当事者の合意で成立します。譲渡側は自社の事情や都合で譲渡したい事業を選別することができます。例えば採算の取れない事業、自社の中核から外れている事業を譲渡することでコスト削減とともにメイン事業に集中でき、業績アップを目指すといった具合です。

一方、譲渡事業をメインとする会社にとっては、その事業を譲受けることで業績アップが狙えるかもしれません。双方のニーズがかみ合った契約が成立すればwin-winの関係が築けます。

譲渡益が得られることがある

事業譲渡は「売買契約」ですから、譲渡の対価として現金を得られます。(もちろん諸条件により譲渡益があまり見込めないこともあります。)
得られた対価を元に主事業に力を入れたり、あるいは新規に事業を起こして投資したりすることが可能です。

事業譲渡のデメリット

事業譲渡は一方で以下のようなデメリットがあるので注意が必要です。

契約や課税の手続きに手間がかかる

自社事業の財産や権利義務につき、どの部分をどのように譲渡するかを選択できるということは、同時にそれらすべての手続きを自身が個別に行わなければならないということです。すなわち従業員であれば一人ひとりと合意を得、必要であれば新たな契約を締結しなければなりません。取引先も同様に合意を得、改めて契約を交わす必要が出てきます。

また、譲渡資産によっては譲渡側に消費税がかかるので、その手続きも必要ですし、資産の評価額によっては税額の負担も大きくなります。さらに不動産所得税もかかり、原則として軽減措置は受けられません。

競業避止義務による制限がある

いったん譲渡した事業と同一の事業を同一区域・隣接区域で立ち上げることは、譲渡日から20年間原則不可能です。(会社法第21条)譲受けた会社を守るための規定です。譲渡する業務は競業避止義務を踏まえて熟考すべきでしょう。

会社が解体されてしまうことがある

M&A により自社を未知の第三者に譲渡した場合、譲受けた会社によって別事業になったり、ときには解体されたりする可能性があります。これは一部でなく事業全体を譲渡した場合に特にあり得ることです。ビジネスだから当然ではあるのですが、これまで積み上げてきた、いわば自社の「無形財産」的なものがなくなるリスクへの覚悟が必要です。

このように考えると、事業譲渡は最終手段として検討する方が良いでしょう。

会社分割のメリット

会社の組織再編として行う会社分割は、事業の権利義務の一部または全部をほかの会社に包括的に承継させる「吸収分割(会社法第757条)」と、一部事業を入り出して新たに会社を設立する「新設分割(同第762条)」があります。会社分割のメリットを紹介します。

比較的スムーズに事業承継が行なえる

事業譲渡と違い、会社分割では事業にかかる資産や契約などすべてを包括的に承継するため、従業員との雇用契約も個別合意不要でそのまま移転されます。また、売却である事業譲渡では、必要な債権者の同意も会社分割では不要です。

さらに会社分割の場合、売買契約のような金銭ではなく株式が対価となるため、承継する側が資金を準備しなくても実施できます。譲渡益は得られませんが実施や引き継ぎ作業が比較的簡単なのがメリットです。

税負担が軽い

会社分割による資産の包括的承継は、事業譲渡と違って消費税の課税対象にはならないうえ、一定の要件を充たせば不動産所得税も非課税です。ただし新設分割の場合は、会社の設立手続きにおいて登録免許税がかかります。

会社分割のデメリット

会社分割による事業承継には以下のようなデメリットがあります。

企業の活力が低下することがある

会社分割後、分割会社の経営能力や事業に取り組む姿勢がこれまでより低くなり、企業としてのモチベーションが下がる恐れがあります。ひとつだった会社がふたつに分かれることで、開発力や技術力も分散し、衰える可能性もあります。分割しても現状の力を維持できるよう、技術者や営業者を確保しておくなどの事前の備えは欠かせません。

負債も引き継ぐ可能性がある

包括的承継とはすべての資産、すなわち正のみならず負の資産をも引き継ぐことです。
不要な資産はもちろん、簿外債務なども引継ぎ対象になるので、分割先となる会社は事前に分割元会社の財務状況をよく確認しておきましょう。

事業承継では事業譲渡と会社分割どちらを選ぶべき?

事業譲渡、会社分割それぞれにメリット・デメリットがあるので、どちらを選ぶべきかの指針は個々の事情によることになりますが、ある程度の判断基準を以下で紹介します。

事業譲渡を選ぶべきケース

事業譲渡は何といっても事業を売却し、現金化できるのが強みです。したがって、今後の自社業務の展開に現金がどうしても必要な場合は、事業譲渡を選択することになるでしょう。また、資産のどの部分まで譲渡するかを細かく設定したい場合も、事業譲渡がおすすめです。

会社分割を選ぶべきケース

現金が必要でなければ、比較的課税額が抑えられ、手続きの手間がかからない会社分割が良いでしょう。
また、親族内に後継者が複数おり、それぞれ異なる能力を有している場合、会社分割の形で別々に承継させるのは、後継者のためにも会社のためにも有効な方法といえます。

事情として、会社関係者の合意の得やすさも判断基準となります。例えば債権者や従業員の同意は得られるが株主の同意が得られにくい場合は事業譲渡、逆であれば会社分割を選択すると手続きが進めやすくなります。

しかしながら実際どちらを選ぶべきかは、法律や税務などを総合的に判断しなければならず困難をともないます。

判断に迷ったら、豊富な支援実績に基づいて最適な事業承継のサポートを行っている「TOMA100年企業創りコンサルタンツ」へご相談ください。事業承継の専門家が会社の状況に応じて、問題解決をします。企業永続のためにぜひご検討ください。

まとめ

事業譲渡と会社分割は、どちらも事業の一部を第三者に移転するための方法ですが、根拠となる法律が違うため、実際の手続きや税務の取扱いに様々な違いが出てきます。
自社のためにはどちらが良いのかは、ほかのより良い手段の有無を含め、なるべく専門家と相談しながら判断することをおすすめします。