従業員体験(Employee Experience)とは?意味や事例をわかりやすく解説

従業員体験(Employee Experience)についてご存知でしょうか。昨今では、多くの企業がEmployee E …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

従業員体験(Employee Experience)についてご存知でしょうか。
昨今では、多くの企業がEmployee Experienceに興味を持っています。
本記事では、そもそもEXがどのようなものなのかお伝えするとともに、実際に導入している企業の事例、EXを高めるためのポイントなどお伝えしていきます。

Employee Experience(EX)とは?     

Employee Experience(略してEX)とはどういう言葉なのでしょうか?
EXは直訳すると従業員体験と訳されます。
意味・定義としては、「企業において従業員が働くことで得られる経験価値」と考えるとよいでしょう。
Googleやスターバックスコーヒーなど多くの海外の企業において、EXを高めるための施策が積極的に取り入れられています。

EXを高めるための施策を行わない企業は、従業員に離職されてしまったり、転職されてしまったりする可能性が高くなっているのです。

人材の流動性が高まっていることや、労働力が減少したりしていることから、EXに注目が集まっています。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

EXが企業やビジネスに与える影響とは?

EXが企業やビジネスに与える影響にはどのようなものがあるのでしょうか。

The Employee Experience Advantage の著者であるジェイコブ・モーガン氏の調査によると、EXに投資する企業は、そうではない企業よりも収益性が4倍高くなっているそうです。

その他、ジェイコブ・モーガン氏による調査では、EXに多く投資している企業は、そうではない企業と比べて以下のような違いが分かっています。
・ 米国Glassdoor社による「働きやすい企業ランキング」に登場する会社数が11.5倍
・ LinkedInによる北米地域の就職先人気企業リストに掲載される会社数が4.4倍
・ Forbesによる最も革新的な企業リストに掲載される会社数が2.1倍

なお、EXと似た言葉にCX(Customer Experience)があります。
CXは顧客体験と訳されるもので、顧客が商品やサービスを知り、比較検討して購入し、廃棄や解約するまでの一連の体験を含むものです。

顧客の体験を表すCXと従業員の体験を表すEXだと、正反対の言葉のようにも聞こえますが、両者には関連性があるとされています。
EXの高い企業はCXも高いとされており、CXを高めるためにはまずEXを高めることが大切だと考えられているのです。

EXを形作る3つの要素

EXは以下3つの要素で形作られています。

・ 業務的な要素
・ 環境的な要素
・ 感情(文化)敵な要素

以下、詳しく見ていきましょう。

業務的な要素                 

まずは業務的な要素です。
従業員が日々の業務に取り組む中で自身の役割と責任をどのように果たしているかがEXに大きく影響するでしょう。
企業や社会の中で一定の役割を果たしており、成果を出すことで評価、称賛されるようなシステムが構築されていると、EXは高まりやすくなります。

環境的な要素               

2つ目は環境的な要素です。
例えば、窓のない地下室で働く従業員と、風通しがよくガラス張りの建物で働く従業員とは、職場環境の経験に大きな違いが生じます。

また、敷地内にジムや食堂、ラウンジなどを備えた職場とそうでない職場も同様です。
こうした、職場の環境に満足している従業員は、集中力向上、健康状態の改善、生産性向上といったプラスの影響があると考えられます。

感情(文化)的な要素

3つ目は感情的(文化)な要素です。
例えば、企業文化に関しては、企業の経営理念やビジョンを理解し、共感しているとモチベーションアップにつながる可能性が高いでしょう。

もしくは、チャレンジングな企業、結果ではなく過程を評価する企業など、企業ごとに文化が異なります。
そうした、企業文化に対して働きやすさを感じているかどうかが重要なポイントとなるのです。
また、感情的な要素については、従業員が会社についてどう考えているか、同僚やリーダーとどう交流しているかといった部分が関係します。

EXを導入・活用した事例

ここでは、実際にEXを導入・活用した事例について見ていきましょう。

Airbnb, Inc           

Airbnbは世界中で民泊を利用できるWebサービスを提供している企業です。
Airbnbの従業員は民泊の利用者と、民泊の宿泊施設提供者両方を相手にすることから、より企業文化が大切だと考えているそうです。
このため、AirbnbのCEOであるBrian Cheskyはミッションを明確にしたうえで、最初の従業員を雇うまでに1,000人以上の履歴書を見て、100人以上と面接したと語っています。
Airbnbは早い段階からEXを重視した取り組みを行ってきたとされており、人事部を「EX(Employee Experience)部」としているほどです。

EX部では食堂を整備したり、オフィスを快適にしたりするなど、従業員が働きながら最高の経験ができる環境の整備に取り組んでいます。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

Starbucks Corporation

Starbucks Corporationは世界的に有名なカフェを運営する企業。
Starbucksでは、従業員の学ぶ環境を後押しするために、正社員・パートタイム両方にアリゾナ州立大学オンライン学習プログラムにおける2年間の授業をカバーする授業料払い戻し特典を提供しています。

freee

Freeeは2012年創業の、会計・人事労務関連クラウドサービスを提供する企業です。
同社では総務人事部をメンバーサクセスチームと命名
毎週の1on1面談や表彰制度、人事評価において同僚からのフィードバックを導入するなど、EX向上に向けたさまざまな取り組みがなされています。

「メンバーサクセスチーム」の命名は、目的をそのままチーム名にしたら分かりやすい、というもの。チームの目的は「従業員が働きやすい環境を作ること」としています。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

従業員エンゲージメントとの違い

EXと似たものに従業員エンゲージメントがあります。
従業員エンゲージメントとは、企業の理念やビジョンを理解、共感するなどして、従業員が自発的に業務に取り組むというものです。

両者はほぼ同じ文脈で使われることもありますが、厳密にみると違いはあるといえるでしょう。EXの和訳は従業員体験です。EXを通して、企業への信頼が増し、生産性アップなどにつながるといった考え方です。

EXが高めれば、結果として従業員エンゲージメントは高まるでしょう。

下記記事では従業員エンゲージメントについてより詳しく解説しています。

従業員エンゲージメントとは|その意味や向上による効果・施策・企業の事例
Coming soon…

従業員は理想のEXを得られる企業で働きたいと考えます。その状態は従業員エンゲージメントが高い状態だといえるのです。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

EXを高めるための第一歩は「社員・従業員への理解」

EXを高めるための第一歩は社員や従業員への理解です。

全社的に、画一的にEXを高めるための施策を取ってもEXへのプラスの影響は限定的でしょう。

社員の状況調査を行い、具体的にどのような施策が必要かを理解したうえで施策を考える必要があるのです。

なお、具体的な調査方法としては以下のようなものが挙げられるでしょう。

・ エンゲージメントサーベイ
・ 採用候補者の反応調査
・ トレーニング後のフィードバック
・ 360度評価
・ 退職時アンケート

エンゲージメントサーベイでは、エンゲージメントを可視化できるよう測定するものです。具体的には、「仕事に意味を感じられているか」、「組織に貢献できているか」といった質問を従業員に問いかけることで実態の把握を進めていきます。
その他、採用時や退職時、トレーニング後、人事評価時点などさまざまなポイントで従業員の声を拾っていくことが大切です。

EXを向上させるためのポイント

EXを向上させるためのポイントとしては以下のようなことが挙げられます。
・フレームワークを利用
・従業員体験プラットフォーム・ツールを活用
・社内環境の見直し

それぞれ見ていきましょう。

フレームワークを利用

まずはフレームワークの利用を考えるとよいでしょう。

EXを向上させるための方法にはいくつかのアプローチが考えられますが、施策を打っている段階では成果が分かりづらいものです。実施している中で本当に効果があるのか不安を感じてしまうこともあるでしょう。

一方、フレームワークはすでにある程度効果が証明されているものが多いです。EX向上のための施策を実施する中でも、自信を持って進めやすくなるでしょう。

なお、EX向上のためのフレームワークとしておすすめなのがエンプロイージャーニーマップです。

エンプロイージャーニーマップとは、企業に入社した従業員が入社から昇進、退職した後までの時間の流れを目に見えるようにしたものです。

仮の従業員像のもと、エンプロイージャーニーマップを複数作ることで、引き起こされると予想される出来事や心の動きから、必要と思われる施策策定まで実施できるようになります。

以下、エンプロイージャーニーマップを作る流れです。

1. 社員へのヒアリング
2. ペルソナの設定
3. 社員のフェーズを想定
4. 行動計画の作成

それぞれ見ていきましょう。

社員へのヒアリング

まずは社員に対して、具体的にどのようなことに困っているのか、またどう感じているのかなどヒアリングを実施していきます。 例えば、社内研修についてであれば、研修についてどう思っているか、どんな研修を受けたいかといった質問をあらかじめ用意しておくことが大切です。

ヒアリングする際には、年齢や性別、職種などでできるだけ偏らないようにしなければなりません。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

ペルソナの設定

ヒアリングした情報を分析し、ペルソナ(仮の社員像)を設定します。
この時点で、年齢や性別、職種、趣味嗜好など、できるだけ細かいペルソナを作ることが大切です。

社員のフェーズを想定

ペルソナの設定が完了したら、社員が入社してから退社するまで、また退社後の生活に至るまでの各フェーズを設置していきます。
具体的には、配属や配置転換、育児休暇や転職などが挙げられるでしょう。
さらに、各フェーズで直面する問題と、そのことからペルソナが感じる感情や思考をマップに書き込んでいきます。

行動計画の作成

フェーズと感情、思考をマップに書き込んだら、マップを元に具体的な行動計画に落とし込みます。例えば、女性社員が将来の育児休暇とそのことによるキャリアプランの不透明さに不安を感じているのであれば、具体的な育児休暇の制度内容やその後のキャリアパスを示すといったことが必要になるでしょう。

従業員体験プラットフォーム・ツールを活用

2つ目の方法として、従業員体験プラットフォームやツールを活用することを考えるとよいでしょう。従業員体験プラットフォームとは、EXを向上させるためのデジタルツールで、以下のようなものがあります。

・社内コミュニケーションツール系

EXを向上させるために、従業員同士で積極的にコミュニケーションできる機能を搭載したツール。Web社内報やサンクスカードなどさまざまな機能があります。

・総合系

ウェルビーイングの向上AIによるトピックス自動抽出など、複数の機能、技術などEXを高めるためのさまざまな機能を提供するツールです。

多機能に幅広くさまざまな課題解決に役立てられる可能性があるといえるでしょう。 一方、全ての機能を導入しようとするとコストが高くなってしまうことが多い点には注意しなければなりません。

プラットフォームを利用することでこれまで見えていなかった課題が見えてくることも多いでしょう。費用はかかるものの、中長期でみれば十分回収可能です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

ウェルビーイングとは|5つの要素や実現に向けて企業が取り組むべきこと

社内環境の見直し

3つ目は、シンプルに社内環境の見直しです。従業員がどのような環境にあると不満を感じてしまうことになるのか、イメージしてみるとよいでしょう。 社員食堂の設置など大きな費用のかかるものである必要はありません。現状の課題を見つけ、取りうる最善の方法を実施していくことを考えるのがおすすめです。

すべての課題を解決できないこともあります。課題解決の優先順位としては、企業の理念やビジョンに沿っているか、ということが挙げられるでしょう。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

まとめ

EXについて、概要やEXを高めるための施策を実施している事例、また具体的なEXを高めるためのポイントなどお伝えしました。

近年、EXは多くの企業が注目している概念で、今後はEXを導入していることが当たり前、ということになる可能性があります。 まだ導入しておらず、実践的に導入を検討していきたいといった方は、本記事の内容を参考になさってください。