従業員エンゲージメントとは|その意味や向上による効果・施策・企業の事例

従業員エンゲージメントの向上に興味をお持ちでしょうか。従業員エンゲージメントを高めることは、これからの企業運営にとって欠 …


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監修 藤間 秋男 -AKIO TOMA-
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

200名の専門家を擁する「TOMAコンサルタンツグループ」の創業者。100年企業創りをライフワークとし、後継者問題に悩む中小企業に事業承継の支援を行う。自身の経営者としての経験を交えた、熱意あふれるセミナーでは、「あきらめない、しぶとい経営」を経営者に説く。

従業員エンゲージメントの向上に興味をお持ちでしょうか。従業員エンゲージメントを高めることは、これからの企業運営にとって欠かせない施策の一つとなるでしょう。
本記事では、そもそも従業員エンゲージメントは何なのかといった点から、従業員エンゲージメントを高めることで得られる効果、高めるためのポイントなどお伝えすると共に、具体的な事例をご紹介します。

本記事を読むことで、なぜ従業員エンゲージメントを高める必要があるのか分かると共に、他社が具体的にどのような施策を取っているのか知ることができます。

従業員エンゲージメントとは     

従業員エンゲージメントとは、従業員が会社に対して貢献したいと思う自発的な意欲のことを指します。
「エンゲージメント」とは「契約」を示す言葉で、従業員と企業が強く結びついた状態をイメージするとよいでしょう。

従業員エンゲージメントが高い状態になると、高いモチベーションを持って仕事に取り組めるようになり、結果として従業員は仕事を通して成長することができます。
また、企業側からすると会社への帰属意識が増し、離職を防げる可能性が高くなるでしょう。

一方、従業員エンゲージメントが低いと従業員が積極的に仕事に取り組まなくなり、業績低下や離職につながる可能性が高いといえます。

従業員満足度との違い

従業員エンゲージメントと似たものに従業員満足度があります。

従業員満足度とは、その名の通り従業員がその会社で働くのに満足している状態だといえるでしょう。
もちろん、従業員満足度が高いことはいいことですが、それだけで企業経営にプラスになるわけではありません。
例えば、高い給料を貰って、休みが多く、福利厚生が充実していたら、従業員満足度は高くなるでしょう。

一方、従業員エンゲージメントが高い社員は自発的に企業がよくなるよう行動します。
仮に、現状の状態がよくなかったとしても、それをよくするよう努力するのです。

なお、給料の高さや福利厚生の良さで企業に満足感を感じている状態はそう長くは続かない可能性があります。
最初は満足していても、人は慣れてしまうもの。
給料や福利厚生を主な理由として満足感を感じている社員は、さらによい待遇を求めていく可能性もあるのです。

モチベーションとの違い

従業員エンゲージメントに似たもう一つの言葉として、モチベーションがあります。

従業員エンゲージメントの高い社員は、仕事に対するモチベーションが高くなりますが、もちろん、両者はイコールではありません。
モチベーション高く仕事に取り組んでいる社員は企業にとって良い存在ですが、その理由が必ずしもその企業に所属しているから、とは限りません。

例えば、インセンティブ制を取り入れていて、高い成果を挙げている従業員は、報酬で報いることができるため、高いモチベーションを保ちやすいでしょう。
しかし、この場合は他により良い給料を支払ってくれる企業がいれば、転職も視野に入る可能性があります。

一方、従業員エンゲージメントの高い社員は、企業への貢献意欲から、高いモチベーションで仕事に取り組みます。
両者には大きな違いがあるといえるでしょう。

社員のモチベーションを上げる方法|給料アップだけじゃない6つの施策

従業員エンゲージメントの構成要素              

従業員エンゲージメントは以下の三つで構成されます。

・企業理念やビジョンの理解度
・企業理念やビジョンへの共感度
・企業の成功に向けた行動意欲

まずは企業理念やビジョンの理解度です。
会社の掲げる企業理念やビジョンを、言葉面だけでなく、その背景に至るまで深く理解していることが大切だといえます。

また、その企業理念やビジョンに対して、深く共感することにより、従業員エンゲージメントは高まります。

そのようにして、個人と会社の理念が一致したときに、個人は企業に対して貢献したいと強く思うようになり、企業の成功に向けた行動意欲を高めることになるのです。

従業員エンゲージメントの向上による効果               

ここでは、改めて従業員エンゲージメントが向上することによる効果をお伝えします。

具体的には、以下の2つです。
・ 離職率が下がる
・ 生産性が向上する
それぞれ見ていきましょう。

離職率が下がる

従業員エンゲージメントは、企業理念やビジョンを理解し、深く共感することで高まります。
企業に貢献したいという思いが仕事へのモチベーションとなるため、離職率が下がるのです。

なお、株式会社リンクアンドモチベーションの研究機関であるモチベーションエンジニアリング研究所が行った調査によると、「従業員エンゲージメントと退職率は逆相関の関係にある」、つまり、従業員エンゲージメントが向上するほど退職率が低下する傾向にあることが分かっています。

なお、上記調査では現在の従業員エンゲージメントに関わらず、エンゲージメントが向上することが、退職率の低下につながっていると考えられる、と結論付けています。

生産性が向上する           

また、従業員エンゲージメントが高いと生産性の向上につながります。
従業員エンゲージメントが高いと、企業の成長のためにモチベーションを持って仕事に取り組むことができます。
結果として、営業利益率や労働生産性の向上につなげることができるのです。

モチベーションエンジニアリング研究所の行なった研究によると、従業員エンゲージメントが高いほど労働生産性が高まることが分かっています。
具体的には、同社の独自のスコアであるエンゲージメントスコアが1ポイント上昇するごとに、労働生産性の指数が0.035上昇するという結果になっています。

なお、本調査で取り扱う労働生産性は「従業員に支払われる給与1円あたりの正常収益額」となっているため、従業員エンゲージメントが高まれば収益も高まるという結果になっているのです。

従業員エンゲージメントの向上における課題点

従業員エンゲージメントを高めることで、従業員と企業にはさまざまなメリットが生まれます。
一方、従業員エンゲージメントを高めるためにはいくつかの課題があります。

具体的には、以下のようなものです。
・すぐに結果が表れない
・ 取り組みの成果を計りづらい
・ 社員が会社の取り組みに順応できない

従業員エンゲージメントを向上させようと、さまざまな施策を打ったとしても、すぐには結果に表れません。
また、取り組み中の成果を計りづらいことも課題として挙げられます。具体的に何が向上すれば従業員エンゲージメントが向上しているのかが計りづらいのです。
時間がかかることを前提に、長期的に取り組むことが大切だといえるでしょう。

さらに、従業員エンゲージメントを高めるための施策は、結果的には従業員のプラスになりますが、それが見えづらいです。
このため、施策を実施する過程で取り組みに順応できない社員も出てくるでしょう。

こうした社員に対しても、粘り強く施策を実施していく必要があるといえます。

従業員エンゲージメントを高めるためのポイント

ここでは、従業員エンゲージメントを高めるためのポイントをお伝えしていきます。

具体的には以下のようなものです。
・ 企業理念やビジョンを浸透させる
・ 人事評価制度の見直しをする
・ 社内のコミュニケーションの機会を増やす
・ 管理職向けのマネジメント研修を実施する
・ 社員の貢献度を称賛する機会を作る

それぞれ見ていきましょう。

企業理念やビジョンを浸透させる

1つ目のポイントは企業理念やビジョンを浸透させることです。
企業理念やビジョンを深く理解し、共感することにより、従業員エンゲージメントは高まります。
具体的には、企業理念やビジョンを目に見える形で共有するとともに、日々の業務や取り組みの中に落とし込んで行くことが大切です。

社内報やミーティングで企業理念・ビジョンについて改めて明示するといった取り組みをするとよいでしょう。

人事評価制度の見直しをする

2つ目のポイントは人事評価制度を見直すことです。
人事評価はその会社の考え方を表す一つの重要な指標となります。仕事ぶりを正当に評価されない職場では、組織に貢献しようと思わないものでしょう。

公平性の高い人事制度を取り入れるとともに、「企業理念の体現度合い」といった項目も入れると効果的です。

企業利益を追求して、成果の部分を重点的に評価する人事評価制度は短期的には業績を向上させるかもしれませんが、従業員エンゲージメントの低下を招く可能性があります。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

社内のコミュニケーションの機会を増やす

従業員同士の関係性を深めることは、従業員エンゲージメントを高めることにつながります。
例え企業理念やビジョンに共感していても、一緒に働く人のことをよく知らない状態では、組織への愛着を持ちにくいものです。

社内のコミュニケーション機会を増やす方法としては、定期的にランチミーティングを開催するといったことが考えられます。

近年はリモートワーク中心の業務になっている企業も多いですが、そうしたケースでは社内SNSを活用するのがおすすめです。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

管理職向けのマネジメント研修を実施する

従業員エンゲージメントを高めるには、従業員の評価など行う管理職にも同じ理念を持ってもらう必要があります。
例えば、人事評価の部分で従業員が会社から正当に評価されていると感じるには、管理職が評価を適切な方法で伝える必要があるでしょう。

管理職向けに、評価をどのように伝えるかといったことを含めた、マネジメント研修を実施することで従業員エンゲージメントの向上につなげられるでしょう。

社員の貢献度を称賛する機会を作る

従業員が企業に貢献したら、そのことを称賛する機会を作ることで従業員エンゲージメントの向上につなげられます。

具体的には、企業理念やビジョンに沿った指標を作り、その指標を達成したら社長賞やMVPという形で表彰するといったことが考えられるでしょう。

社長から従業員だけでなく、管理職から従業員、従業員同士などで称賛しあえるカルチャーを作ることも大切です。

監修 藤間 秋男
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 代表取締役会長 公認会計士 税理士

従業員エンゲージメントを高めるための施策事例

近年、従業員エンゲージメントの向上は多くの企業にとって重要な課題として取り組みが行われています。
従業員エンゲージメントを高めるための手法は、実際に取り組みをおこなっている会社の事例を参考にするのもおすすめです。

ここでは、以下3社についてご紹介します。
・ 株式会社リクルートホールディングス
・ サントリーホールディングス株式会社
・ ソニー株式会社
それぞれ見ていきましょう。

株式会社リクルートホールディングス

株式会社リクルートホールディングスは株式会社リクルートなどを傘下に持つ、持ち株会社です。
グループでは人材派遣や販促メディア、人材メディア、ITソリューションなどを提供しています。
経済産業省の「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」によると、2018年3月時点の従業員数は単体で609人、連結40,152人となっています。

株式会社リクルートホールディングスの施策事例は以下の通り。

・ 人材採用において現地大学への訪問や遠隔での面接の使い分け
・ 魅力度の高いオフィス立地や快適なオフィス設計の検討
・ エンゲージメント向上に向けた現状把握や職場単位のディスカッション

同社ではデジタル化・グローバル化が進む現代において、高度なスキルを保有するITエンジニアの採用などが課題だったそうです。一方で、そうした人材を社外から積極的に取り入れたことで、同社の強みであるバリューが徐々に希薄化しているのではないかという問題意識を抱えていました。

上記課題を解決するため、高度人材の採用と定着のために、採用手法の見直しやオフィス面などハード面を強化しています。

結果として、高度専門人材の離職率は低い水準を保つことに成功しました。

株式会社リクルートホールディングスの取り組みからは、自社の企業理念やバリューを理解したうえで、問題意識を正確に把握し、問題を解決するための具体的な取り組みがなされているといえるでしょう。

参照:経済産業省「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」

サントリーホールディングス株式会社

サントリーホールディングス株式会社はお酒の販売等を行うサントリー等を傘下に持つ、持ち株会社です。
経済産業省の「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」によると、2018年12月時点の従業員数は連結39,466人となっています。

サントリーホールディングス株式会社が行った施策は以下の通りです。

・ 職務におけるキャリア情報の開示
・ 上司や人事との1対1の面談
・ 社員全員を対象としたサントリー大学の開校

サントリーホールディングス株式会社は、創業から120年経過していますが、創業当時の想いや価値観を重視しており、社内には歴代経営者が人を大切にしてきたエピソードが多く残されています。

2009年以降はM&A等でグローバル化が進められるも、グループ全体の一体感を高めるなど長期的人材育成・活用を重視

具体的な施策として、社員が自律的にキャリアを考えられるよう、必要なスキル・経験などのキャリア情報を社内に開示したり、キャリア開発や創業の精神の共有と実践など行える、サントリー大学を開校したりしています。

結果として、従業員意識調査においては社員の働きがいが高水準で推移している他、女性管理職、シニア層の活躍といった成果が見られるようになったそうです。

会社規模が大きいため、課題は大企業ならではという感触を持ちますが、例えば上司や人事との1対1の面談などは規模に関わらず実施できる施策だといえるでしょう。

参照:経済産業省「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」

ソニー株式会社

ソニー株式会社は電気製品など生産・販売する企業で、銀行なども参加に持つソニーグループの企業です。

経済産業省の「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」によると、2018年3月時点の従業員数は単体2,400人、連結117,300人となっています。

ソニー株式会社の施策は以下の通り。

・1966年に「社内募集」制度を開始。本人が社内求人に応募可能で合格すれば上司の許可なく異動できる。
・新たに社内で兼業や副業できる「キャリアプラス」を実施
・一定条件を満たす社員を対象に他部署からオファーを受けられる制度

ソニー株式会社では社員へのチャレンジの場を提供するためさまざまな制度を用意。

1966年にはすでに「社内募集」制度を用意するなど、先進的な取り組みを行っています。

また、上記に加えて「キャリアプラス」や「FA制度」、「キャリア登録」の3つを新たに制度として導入しました。

創業以来「自分のキャリアは自分で築く」がキャリアに対する基本的な考え方となっている中で、時代の流れに合わせて副業や兼業も行えるようにするなど柔軟に対応していることが分かるでしょう。

企業理念やビジョンをうまく制度に落とし込んだ良い例だといえます。

参照:経済産業省「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」

まとめ

従業員エンゲージメントについて、概要や従業員エンゲージメントを高めるメリット、高めるための施策や具体的な実例などご紹介しました。

従業員エンゲージメントを高めることは、従業員にとっても企業にとってもプラスとなります。

従業員エンゲージメントの向上は、雇用の流動化やリモートワークの導入が進むなど、昨今の情勢を鑑みて、積極的に実施しなければならない施策の一つだといえるでしょう。