「経営者視点をもってもらいたい!」と思ったときはどうする?

後継者を育てている経営者の中には、後継者が経営者視点で物事を考えられないことに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。やみくもに「経営者視点をもて」と後継者に発破をかけても、後継者自身はどうすればいいか戸惑うばかりです。 では、経営者視点をもってもらうにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは、後継者に経営者視点をもってもらうための方法を紹介します。


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経営者視点とは

経営者視点とは、会社を存続、発展させるために、社内外のあらゆることを見ることです。

経営者は自社のビジネスや組織、財務状況について把握することはもちろん、自社が身を置く業界の状況や自社のポジション、顧客、取引先にも目を光らせています。

経営を行うには、顧客だけ、あるいは従業員だけのことを考えていれば良いわけではありません。取引先や株主など、会社に関わっているすべての立場の人のことを考え、経営判断をする必要があります。

また、経営者は物事を多角的、かつ長期的に見ます。全体を俯瞰的に見るとともに、ひとつの物事をポジティブな面とネガティブな面の両面でとらえることで、細部にひきずられないバランスのある経営を行っています。

つまり、経営者が経営判断を行ううえで、必須となるのが経営視点です。

経営視点をもつのが難しい理由

後継者を育てていると「なかなか経営視点をもって動いてくれないな」と感じる場面が多いのではないでしょうか。経営者としての経験がない人にとって、経営視点をもつことはとても難しいものです。その理由について見てみましょう。

そもそも立ち位置がちがう

経営者と従業員では、そもそも立ち位置が違うため、経営者ではない人に「経営視点をもて」と言ってもなかなか理解ができません。

従業員に求められているのは、自分の職務を全うすることです。会社にはさまざまな部署があり、その部署に所属している従業員はそれぞれ与えられた業務を行い、成果を上げることが仕事です。

たとえば、人事部に所属している従業員の業務のひとつに、採用活動があります。採用計画どおりに人材を獲得することがミッションであり、採用に関わる予算は把握できても、採用に関わる予算をどれだけ割くか決めているのは経営者です。

また、従業員は各部署でその領域内の仕事をしているため、会社全体を俯瞰的に見る機会がほとんどありません。

一方、経営者には経営状況に応じて資金や人材といった経営資源を配分し、会社を存続、発展させていくことが求められます。そのため、従業員が所属する部署の領域で物事を見ているのに対し、経営者は営業、経理、人事といった各部門が扱う領域を俯瞰的、かつ横断的に見ています。社内を横断的に見ることは、経営を行ううえで重要な視点です。

社内を横断的に見ることは、経営状況をデータで確認したり、経営資源を配分したりできることと深く結び付いており、そのような権限をもたない従業員に経営視点を求めることは難しいでしょう。

経営者視点の定義があいまい

後継者が経営者視点をもつことが難しい理由に、経営者視点の定義があいまいであることも挙げられます。

実際、「経営者視点」に関して、明確な定義はありません。経営者によって「経営者視点」の認識はそれぞれ異なります。そのため、経営者と経営の経験がない後継者の間で、経営者視点について共通認識をもつことはさらに難しいものです。

後継者が思い描く経営者視点は、経営者とズレている可能性があります。経営者は「私が求める経営者視点とはこういうものだ」というビジョンを、後継者に示しましょう。

たとえば、以下のような考え方や行動を「経営者視点」として後継者に伝えます。

・ものごとを俯瞰的に見る
・中期、長期的な視点をもつ
・世の中の動きに敏感になる
・失敗をおそれない
・数字にこだわる
・他人に任せず、自分で意思決定をする

経営者と後継者の間で共通認識をもっておくことは、事業承継後も従業員が戸惑うことのない「ブレない経営」を行なうために重要なことです。

経営者視点をもってもらう方法

経営者なりの「経営者視点」を後継者に示せば、すぐに後継者が経営者視点をもって行動できるわけではありません。インプットしたことを、アウトプット=行動で確認する過程が必要です。

ここでは、後継者に経営者視点をもたせる方法を考えてみましょう。

データを開示する

会社の経営状況を物語るのはデータです。経営者はさまざまな数字を見て、経営判断を行います。後継者に経営に関わるデータを見せ、会社全体の状況を把握させることで、経営に参画している意識をもってもらいます。

たとえば、会社の状況を見るのに売上だけでは十分ではありません。経費や利益まで見通すことで、経営視点をもつことができます。

数字を見て会社全体の様子が把握できれば、問題点が見えてきます。後継者はそのために何を改善すれば良いか考えるようになり、意識的に会社全体を俯瞰的に見る習慣が身に付くようになるでしょう。

実践させる

経営に関するデータを見せることで後継者の視野が広がり、問題意識をもつことができたとします。しかし、問題解決のために計画を立てたり、お金や人材を使ったりする権限がなければ、問題意識をもったところで終わってしまうでしょう。

そこで、後継者に「経営」を実際に経験してもらうのもひとつの手です。新規事業や子会社の経営など、会社の事業の一部について経営を任せてみます。いきなり大きな範囲を任せるのではなく、少しずつ責任の範囲を広げていくと、後継者も取り組みやすいでしょう。

ゼロから何かを立ち上げたり、経営をしたりする経験は、数字へのこだわりや自分で意思決定する力を養い、経営者としてのセンスを磨くことにつながります。

このとき、経営者は「失敗してもかまわない」という気持ちで、後継者を見守りましょう。チャレンジさせることが重要です。もちろん、サポート役をつけてリスクに備えておくことも大切です。

学ぶ機会を与える

会社の経営状況を把握し、社内で経営を実践することに加え、後継者に経営者として学ぶ機会を与えることも大切です。

たとえば、パナソニックの創業者である松下幸之助など、一時代を築いた経営者たちについて書かれた本を読むことも学びにつながります。経営者の経営哲学や人材の活かし方、市場の見方など、経営者がこれから考えるべきことが学べるようなものがおすすめです。

また、社長や役員が講師になって後継者に研修を行ったり、社外のセミナーへ後継者を参加させたりすることも、よい刺激になります。

外部研修については、事業承継にかかわるさまざまな企業が、後継者向けのセミナーや後継者育成プログラムなどを開催しています。座学だけでなく、実習を行なったり、後継者同士の交流を行なったりするものもあるので、情報収集をしておきましょう。

TOMA100年企業創りコンサルタンツ株式会社では、後継者に関するさまざまな問題や事業承継でお悩みの経営者さまのご相談を承っています。後継者の育成についても、すり合わせをしながらアドバイスをさせていただきますので、後継者問題でお悩みの経営者の方はぜひご相談ください。

まとめ

経営をしたことのない後継者に、突然「経営者視点をもて」と求めてもなかなかうまくいかないものです。また、そもそも経営者視点とは、具体的にどういうことを指すのか、定義があいまいであるため難しいといえるでしょう。しかし、会社を経営するには経営者視点が必要です。

後継者が経営者視点をもつには、経営者が「経営者視点」の具体的な定義を説明するとともに、後継者に経営を実践する場を与える必要があります。そのために、経営者は後継者に会社の経営データを見せ、少しずつ権限をもたせるなどして、経営の体験をさせることが大切です。