事業承継計画書とは?作成するメリットと記載すべき内容を徹底解説

近年、日本の多くの中小企業は、経営者の高齢化と後継者不足という問題に直面しています。先代の経営者が築き上げた企業を次の世代に引き継ぐには、事業承継を行わなければなりません。しかし、事業承継は単純なプロセスではないため、事前に綿密な計画を立てなければスムーズに進めることは難しいでしょう。今回は、事業承継計画書を作成するメリットや内容について解説します。


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事業承継計画書を作成するメリット

事業承継計画とは、その名の通り、「事業承継を成功に導くために、あらゆる目標から計画を立てること」です。そして、その事業計画をわかりやすく整理して文書にまとめたものが事業承継計画書となります。

その目的のなかには、事業承継の成功だけでなく、社内に対しては新たな経営者による経営体制に移行するための共通認識をもつこと、社外に対しては承継後の関係性や取引について理解を得ることも含まれます。

事業承継計画書は「会社の今後の動きを可視化する」ためにあるといえるでしょう。
以下では、事業承継計画書を作成することの具体的なメリットを紹介します。

事業承継の進捗状況を確かめられる

1つ目は、事業承継がどのようなプロセスで進められているのかを把握することができる点です。

事業承継計画書には、どのような段階を踏んで、どれくらいの期間で事業承継を行うかについて記載します。そのため、この計画書に沿って事業承継を進める中で、「現時点でどの程度進んでいるのか」や「今後どれほどのスピード感で進めなければいけないのか」など、進捗状況の確認や計画の修正が行いやすくなります。

逆に、事業承継計画書なしでは、経営者の感覚で事業承継が進められ、予想外のトラブルが起きるだけでなく、周囲の関係者を振り回す恐れもあるでしょう。

後継者と認識を合わせることができる

2つ目は、後継者と認識を合わせることができる点です。
会社を後継者に引き継ぐ際に直面する問題のひとつとして、「先代経営者と後継者の価値観や方向性が一致しない」ことがあります。

一方で、事業承継計画書を作成する際は、先代経営者、後継者、現役員など社内のさまざまな人間を巻き込みます。そのため、作成過程の中で、互いに経営ビジョンや会社の将来像のすり合わせができるのです。

つまり、事業承継計画書を作成しておくと、後継者や社内の幹部と共通認識を形成することができます。

関係者からの理解が得やすくなる

3つ目は、社内のみならず、社外の関係者の理解や協力が得やすくなる点です。

企業には様々な外部関係者が存在しますが、その中でも銀行などの金融機関は融資や助成金を通して企業を資金面でサポートしてくれるため、非常に大きな存在でしょう。しかし、銀行にとって、事業承継はリスクとも捉えられるため、極力回避しようとする面があります。

その際、企業側からわかりやすくまとめられた事業承継計画書を提供することで、理解や協力を得られる可能性が大きくなるのです。

また、親族、従業員、株主などの関係者に対しても、事業承継計画書を使用することで理解を得ることができるでしょう。企業は単体で動いているわけではなく、さまざまな関係者と密接に関わりながら事業活動を展開しています。これらの関係者に対する説明責任を果たすという意味でも、事業承継計画書の存在は非常に重要です。

事業承継計画書に記載すべき5つの内容

事業承継計画書を作成することで、様々なメリットがあることがわかりました。次に、事業承継計画書に実際に記載すべき項目を、5つ紹介します。

事業承継における基本情報

まず、事業承継に関する基本的な情報は詳細に記載する必要があります。具体的には、経営者の氏名や年齢、後継者の氏名や年齢といった「人」にまつわる情報や、事業承継を行う時期や方法についての情報です。

特に、事業承継をどのように行うのかについての情報は非常に重要です。

事業承継を行う方法は、親族内承継、親族外承継、M&Aという3つの方法に大別されます。
親族内承継は、文字通り経営者一族の中から後継者を選ぶ方法です。経営者の息子や娘に限らず、養子縁組を組むことによって迎い入れた娘婿などが承継する際でも、親族内承継にあたります。

親族外承継やM&Aに関しては、親族以外の個人や法人が事業を承継するときに利用されることが多いです。社内の従業員や外部から経営人材として招いた人材を後継者とするときには親族外承継、買手企業を探し、自社の経営権を譲渡する場合はM&Aという方法にあたります。

このように、事業承継にはあらゆる方法がありますが、どの方法を採用するかによって、事業承継計画は大きく異なります。そのため、事業承継方法については、熟慮した上で事業承継計画に記載するべきです。

「誰から誰に対して」「どのくらいの時期に」「どのような方法で」事業承継を行うのかという情報は、事業承継を進める上での大枠を形成する情報であるため、きちんと記載しましょう。

会社の現状と中長期的な事業計画

企業が現在置かれている状況と、それを踏まえて今後どのように事業活動を行うのか」の2点についてもまとめて記載するべきです。

それぞれ、ハード面とソフト面に分けて考えることができます。

ハード面とは、客観的に見て取れる財務諸表の数値、従業員数、不動産、無形資産、経営環境などのことを指します。現状どのような状況にあるのかを数値で確認し、将来的にはどのようにその数値が変化するのかという予測を立てるということです。

一方で、ソフト面とは、会社の経営理念や根底の価値観などの、主観的な要素のことを指します。自社がどのような使命をもって事業活動を行っていくのかという価値観についても、社内外に示す必要があるのです。

現在の状況を整理することはもちろん重要であり、改めて自社の立ち位置を確認するチャンスでもあります。一方で、事業承継をすることがゴールではなく、その後どのように事業活動を行うかが重要ですので、中長期的な展望についても考えるべきでしょう。

後継者の教育内容

企業の将来を背負う後継者の教育内容についても計画を立てるべきです。事業承継が完了して後継者が正式な経営者となるまでに、後継者にどのような教育を行うかということは、企業の将来を左右するといっても過言ではありません。

具体的にどのような経験をさせるのかということについて記載しましょう。

株式や財産の承継方法

株式や財産をどのように分配するのかについても具体的に検討しましょう。現経営者が保有する不動産、預貯金などの財産や企業の株式は、後継者のみならずほかの親族にも承継することが多いです。

「誰にどのような形で承継するのか」についてまとめておきましょう。

関係者からの理解を得るための対策

事業承継に対して周囲から不満が出ないように、周囲の理解を得るための対策と実施内容を記載する必要もあります。

後継者の公表方法や後継者への権限の移し方といった、後継者に企業を引き継ぐ旨を関係者に告知します。後継者が選定された経緯、そして後継者についていつどのような方法で告知するかについて記載しましょう。

事業承継計画書を作成する際のポイント

事業承継計画書は、具体的にどのように作成すれば良いのでしょう。押さえておきたいポイントを紹介します。

作成のタイミングは「決算の直後」がおすすめ

計画書を作成するタイミングについては、経営者の引退時期と決算の時期という2つの側面から考える必要があります。

大前提として、事業承継は非常に時間がかかるプロセスです。そのため、事業承継には約10年かかると想定しておくと良いでしょう。つまり、引退する10年前から計画を立てはじめる必要があるのです。

また、事業承継計画書の作成には、株式の評価が欠かせません。そのため、数字が固まった決算直後のタイミングで、直近の方向性や業績を踏まえた計画を立てましょう。

誰が見てもわかりやすく作成する

事業承継計画書は、社内外の関係者が読んでわかりやすいように作成しなければ意味がありません。後継者が社外の人材の場合は、自社について知らないことも多くあるため、特に意識します。

承継プロセスは見やすいようにまとめておき、会社情報はなるべく具体的な数値で示すなど、誰が見てもわかりやすい計画書を目指しましょう。

ひとりで作成しない

事業承継計画書は、社内外の関係者に向けたものであるため、独りよがりな内容では意味がありません。

そのため、事業承継を知っている経営陣や後継者などと話し合いをしたうえで作成するべきです。ともに計画を立てていくプロセスも、事業承継計画書を作成する意義のひとつといえます。

また、事業承継に関連するスキルやノウハウが豊富な外部の専門家のサポートを得るのも良いでしょう。

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作成後もこまめな見直しを

計画を立てることは非常に大切ですが、その計画を定期的に見直すことも重要です。

事業環境や経営状況の変化にともない、最低でも1年に1回のペースで計画の見直しと修正を行いましょう。

まとめ

事業承継計画書の必要性を疑問視する経営者も多くいますが、単に事業承継の計画を確認するだけでなく、企業の内外の関係者の理解や協力を得るという重要な役割もあります。

記載項目はある程度決まってはいますが、作成にはスキルやノウハウが必要なことも事実です。少しでも不安がある方は、専門家の力を借りることを強くおすすめします。