全社戦略と事業戦略の違いとは。それぞれの具体的施策を紹介

事業を円滑に進めていくには、全社員が同じ方向に向かうための具体的な経営戦略が欠かせません。 経営戦略には、「全社戦略」、「事業戦略」、「機能戦略」の3つがあります。それぞれに影響する領域や目的が異なり、各レベルで適切な戦略を立てるほど経営戦略は成功に導かれます。 そこで、長く事業を発展させるために知っておくべき経営戦略について、全社戦略、事業戦略、機能戦略の3つのポイントで解説します。


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【全社戦略】企業全体の方向性を決める戦略のこと

「全社戦略」は、企業としての方向性や進み方を示したものです。「企業戦略」とも呼ばれ、経営戦略の要となります。

単一の事業で勝負する企業であれば、全社戦略がすなわち事業戦略になることもあります。しかし複数の事業を手がける企業であれば、事業ごとの戦略とは別に、企業としてどのような成長を目指すのかといった中長期的な全社戦略をもつことが大切です。

全社戦略の主な施策

全社戦略としてまず取り組むべきことが、経営理念の策定と浸透です。経営陣を含め、全従業員が同じゴールに向かって企業活動に取り組めるように、その根底となる考え方を共有します。

長く安定した経営を続けるためには、展開する事業の構成を見直し、チャレンジすべき分野や安定化を図るべき分野を見極めることも重要です。事業の新規参入や撤退、買収といった形態そのものを決定するのはもちろん、事業ごとに適切な経営資源の分配を決定することも求められます。

また、より具体的な成長につながる全社戦略とするためには、たとえば「期末までに5%の売上アップ」などのように、数値目標を定めることが重要です。

数値目標の設定は企業の現状を把握するのにも役立ち、さらに全社戦略を客観的かつ定量的に評価することを可能にします。

全社戦略の立案に役立つフレームワーク

実践的な全社戦略を掲げるには、社内外の現状を把握して分析することが大切です。その分析に用いられるのがフレームワークと呼ばれる枠組みです。

ここでは、全社戦略の立案に役立つ代表的なフレームワークをふたつ紹介します。

アンゾフのマトリックス

アンゾフのマトリックスとは、縦軸に既存市場と新規市場、横軸に既存製品と新規製品を配置した4象限によるマトリックスです。

縦軸と横軸に「2×2」の4象限を区分し、それぞれを分析することで、企業が選択すべき戦略を明確にしやすいというメリットがあります。

このマトリックスで策定される全社戦略としては、以下の4つが考えられます。

・市場浸透:既存市場で既存の製品の拡大を目指す
・製品開発:既存市場に新しい製品やサービスを投入する
・市場開拓:新しい市場へ既存の製品を売り込む
・多角化:新しい製品を開発して市場を開拓する

たとえば、市場浸透を狙うのであれば、顧客のリピートをうながす施策などを検討する必要があります。

PPM

PPMとはProduct Portfolio Management(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の略称で、縦軸に製品の市場成長率、横軸に相対的な市場シェア率を配置したマトリックスです。

事業や製品の市場に置ける立ち位置が明確になるため、経営資源の分配を判断するのに特に有効です。

PPMは事業を以下の4つの段階に分類します。

・問題児(育成)
・形(現状維持)
・金のなる木(利益回収)
・負け犬(撤退)

たとえば「金のなる木」による儲けを市場成長率の見込める「問題児」に投入するなど、事業の現状から全社戦略を練ります。

【事業戦略】競合他社との差別化など事業に関する戦略のこと

全社戦略で掲げた中長期的なビジョンを実現させるには、目前の事業を計画的に遂行していく必要があります。

「事業戦略」は、全社戦略に合わせて各事業の方向性と進み方を定めたものです。

事業戦略は、扱う製品やサービス、顧客などの違い、競合他社の有無などによって、事業ごとに決められます。

近年は事業を多角化する企業が増えています。複数の事業を抱えていると、それぞれの事業ごとに事業戦略を策定しなくてはなりません。しかし、すべての事業戦略の根源となるのは全社戦略の実現ですから、全社戦略と整合性のとれた内容であることが重要です。

事業戦略が担う役割

事業戦略では、全社戦略を実現するために、各事業が人材(従業員)、製品やサービス、資金といった経営資源の活用や分配など、具体的な目標を決定します。

たとえば、新しい市場への参入を考えているなら、従業員のスキルや人数、設備、資金をどの事業にどれだけ投入するのかを判断します。

経済は常に動き続けます。事業戦略を策定するときには、社内の現状だけではなく、事業ごとの市場の動向や消費者の需要、競合他社の有無も見極めましょう。

事業戦略の策定に活用可能なフレームワーク

事業戦略の策定には、社内外の現状を的確につかむことが大切です。そこで、事業戦略を決定するときに役立つ、分析に長けたフレームワークを3つ紹介します。

3C分析

3C分析とは、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの観点から、事業の成功要因を分析するフレームワークです。

顧客のニーズや競合他社の動向、自社のポテンシャルはどれも密接に関係しており、事業の成功に影響を与える要素です。これら3Cを掘り下げることで、事業の強みや弱点を客観的に把握できます。

事業の現状から売上増に必要な要素や、新規事業参入の勝算が明らかになれば、全社戦略の実現に必要な事業戦略も自ずと見えてくるでしょう。

PEST分析

PEST分析は事業を取り巻く外部環境の分析に用いられるフレームワークです。政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの要因から分析します。

外部環境は大きく、企業のコントロール外の「マクロ環境」と企業でコントロール可能な「ミクロ環境」に分かれます。PEST分析で行うのは、マクロ環境が企業に与える影響を予測することで、事業の現状や将来性を把握することです。

事業戦略では、比較的初期の段階でPEST分析を行うのが一般的です。

ファイブフォース分析

ファイブフォース分析とは「5 forces」、つまり事業運営における5つの脅威について分析する方法です。自社にとっての脅威を知ることで、自社が優位に立って収益を上げるための要因を検証します。

ファイブフォースの分析対象となる5つの脅威には、買い手(顧客)の競争力、売り手の交渉力、競合他社、新規参入者、代替品があります。いずれも自社でコントロールできない外部環境による脅威であり、企業の収益に大きな影響を与えることが共通のポイントです。

他社との競合が激しいが今後も売上増を見込める、新規参入による話題性で顧客のニーズを掘り起こせるなど、収益性の確保を判断基準として、具体的な事業戦略に盛り込みましょう。

【機能戦略】事業を推進させるための機能組織別の戦略のこと

さまざまなフレームワークを活用して事業戦略を立案しても、具体的な企業活動を行うには枠組みが大きすぎるため、さらに日々の企業活動に合わせた細やかな指針が必要になります。

全社戦略、事業戦略と整合性を取りつつ、日々の活動に落とし込んだビジネス戦略を「機能戦略」といいます。

機能戦略は、たとえば営業戦略、マーケティング戦略、商品開発戦略など、組織ごとに果たすべき機能を最適化するために策定されます。

与えられる機能戦略は異なっても、ゴールは同じ事業戦略であり、ひいては全社戦略の達成です。目の前の機能戦略だけに注視しすぎることがないよう、全従業員が全社戦略を共有することを心がける必要があります。

まとめ

企業の持続可能な発展を考えるなら、中長期的な視点に立った全社戦略が欠かせません。また、外部環境や内部要因についてじゅうぶんに検証を行い、適切な事業戦略、昨日戦略を策定すると、全社戦略を達成しやすいといえます。

全従業員が同じ戦略を共有して企業活動を進めれば、他社との差別化や収益性アップにつながるでしょう。

全社戦略がうまくいかないなら、専門家に相談してみるのもおすすめです。TOMA100年企業創りコンサルタンツなら、経営のあらゆるお困りごとをサポートしています。「全社戦略の方針が決まらない」「経営理念の浸透がうまくいかない」といった悩みをもつ方は、ぜひ一度ご相談ください。