従業員承継とは|事業を従業員へ引き継がせるメリット・デメリット

現経営者が引退し、後継者に事業や会社を任せる際に考えなければならないのが事業承継です。事業承継には親族内承継、M&A、親族外承継など、さまざまな方法がありますが、それぞれメリットとデメリットの双方があります。 今回紹介する従業員承継とは、自社の従業員や役員を後継者とすることであり、近年多くの事例が見られるようになってきました。今回は、事業承継の方法としての従業員承継について詳しく解説します。


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従業員承継とは

従業員承継とは、「自社の従業員や役員を後継者として事業を承継する」ことをいいます。
従来では、中小企業における事業承継といえば、血縁者に引き継ぐ事業承継である親族内承継が多くを占めていました。

しかし、親族に承継するだけでは必ずしも経営がうまくいくとは限りません。また、少子高齢化が深刻化する日本において、自身の子供に事業を引き継がせる親族内承継は難しくなりつつあります。

このような後継者不足の状況の中で、すでに自社に努めている従業員や役員を後継者とする従業員承継を選択する経営者は増加しています。

親族に限らず、親族以外の承継者を候補に入れることで選択肢が増えるため、後継者不足問題の解決をするにあたり、従業員承継は大きな打開策となるのです。

従業員承継のメリット・デメリット

近年増加しつつある従業員承継ですが、メリットがあると同時にデメリットも存在します。

メリット

従業員承継のメリットとして、以下の4つが挙げられます。

会社に詳しい人間に引き継げる

従業員承継の後継者となる従業員や役員は、長年にわたって自社で実務経験を積んでおり、会社の実情や現場の様子について理解している場合が多いです。

このような人物が新たな経営者となれば、会社への理解が乏しい親族に親族内承継をしたり、M&Aなどによって外部の人間を経営者にしたりするよりも、円滑に事業承継を実現できます。

後継者の候補が増える

従業員や役員を後継者とする従業員承継を行う場合、理論上では、後継者候補は従業員と役員全員が対象となります。

親族内承継をするとなると、数少ない親族だけでは候補が絞られてしまいます。また、親族の人間に必ずしも経営者としての資質があるかどうかはわかりません。

M&Aや外部の経営人材を招いたとしても、自社と外部の人材市場におけるマッチングは難しいため、候補者は自ずと限られます。

従業員承継は、候補者の選択肢が広がるという点でも魅力的でしょう。

社風を維持しやすい

M&Aによって他社に事業譲渡する場合や、外部から経営人材を招く場合は、それまで自社にはなかった価値観や文化が流入する可能性があります。

異なる文化が急速に自社に流れ込んでくると、自社にいる従業員はしばしば抵抗感を覚えます。その結果、従業員が会社から離れてしまうといった問題も生じ得るのです。

一方で、自社の文化を理解している従業員が後継者になることで、元からある社風を引き継ぐ可能性は大きくなるでしょう。

従業員からの理解を得やすい

外部の人間を後継者として招くと、元から会社にいる従業員にとっては異質な存在として受け取られることもあります。経営者が現場の従業員に信頼されなければ、会社の運営に支障が出てしまいます。

一方、従業員や役員から経営者を選出することで、ほかの従業員からの理解を格段に得やすくなるでしょう。

デメリット

考えられる従業員承継のデメリットは2つ挙げられます。

社員に資金力がない

会社を後継者に承継するということは、現経営者が保有する株式を後継者が取得するということでもあります。株式を取得する際には、その対価となる資金が必要となるため、後継者には資金力が求められます。

しかし、従業員承継の対象となる従業員や役員の資金源は、会社からの給与がほとんどです。そのため、いくら中小企業の株式とはいえども、株式取得の資金を準備することは難しいでしょう。

大きな改革が起きづらい

従業員承継のメリットとして、従来の社風が引き継がれやすいという点を挙げましたが、これを裏返すと、会社を抜本的に変化させる改革は起きづらいといえます。現在の企業文化を維持するだけでは、会社が大きく発展するとは限りません。

今後会社を成長させるにあたって、経営者は時代の変化に応じて指揮をとらなければなりません。そのためには、これまでの経営方針を見直したり、大規模な改革を実施したりする力が求められます。

従業員承継をする方法


ここでは、従業員承継を行う際のプロセスについて解説します。

1.会社・事業の現状把握

まずは、「会社が現在どのような状況に置かれているのか」について整理しましょう。

事業承継は、新しい経営者に会社を引き継ぐことであり、引き継ぐ際には現状を整理して将来に向けて新しい体制を構築しなければなりません。

この段階で改めて自社の現状を把握しておくことで、思わぬ課題点や自社の強みが再確認できることもあります。

具体的には、会社の人材、資産、売上などの、いわゆる「ヒト、モノ、カネ」を把握していきます。

2.承継候補者の選定

次に、候補者の選定を行います。

従業員承継では、候補者となる従業員や役員は複数人いることが多いですが、早い段階から人数を絞り過ぎることはおすすめしません。

また、単にスキルがある人間を候補者とするのではなく、最終的には周囲からの人望が厚い「人間力」のある人物を経営者に選定することが重要です。

以上のように、さまざまな観点から複数人の候補者を選定し、真にリーダーシップを発揮できそうな人材を見極めましょう。

3.事業承継計画書の作成

後継者が決まったら、事業承継計画書を作成します。

事業承継計画書とは、「事業承継を成功させるために、どのようなことをいつまでにやるのか」というプランをまとめた書類です。

事業承継計画書を作る意義としては、現経営者が自身のために作成する以外にも、社内の方向性を統一することや、取引先の理解を得るということも含まれています。

事業承継計画書は誰が見てもわかりやすいようにまとめることが重要であるため、自身での作成が難しい場合は弁護士などの専門家にも相談するべきでしょう。

4.経営権の譲渡

経営権の譲渡を後継者にすることで、経営者としての肩書きが後継者に備わります。一般的には取締役会の決議を経て行われることが多いです。

実質的に経営権を譲渡するための株式の譲渡については、次に詳細があります。

5.株式の贈与、もしくは譲渡・売却

株式を後継者に渡す方法は大きく2つに分かれます。

株式の贈与は、実質的に対価がゼロの状態で株式を渡します。そのため、後継者にとって資金的負担が少ない承継方法です。一方で、現経営者には株式の譲渡益は入って来ません。

株式を譲渡・売却する場合は、後継者が株主である先代経営者に対価を払って株式を手に入れます。そのため、後継者が株式を買い取るのに必要な資金を調達しなければなりません。

なお、株式を承継するにあたって、後継者には過半数以上が渡るようにしましょう。過半数の株がなければ、実質的な経営権は後継者に渡らず、現経営者が指揮をとることになってしまいます。

従業員承継を成功させるには

従業員承継は大変魅力的な事業承継方法ですが、成功させるにはさまざまなポイントに気を付けなければなりません。

本人から了承をもらう

まずは、後継者から了承をもらい、本人の意思を確認しましょう。

経営者になるということは、会社のみならず、多くの関係者に対して重大な責任を負うことです。

後継者に経営者としての覚悟と意志があることをきちんと確かめ、了承を得ずに計画を進めないようにしましょう。

後継者教育をする

また、経営者としてのスキルを磨くための教育も入念に行う必要があります。

後継者がこれまで経験してきた現場のみならず、経営者の視点を身に着けられるような教育をしましょう。

例えば、経営者になるためのセミナーへ参加したり、社長の補佐としての仕事をしたりするなど、経営者としての自覚を高めていきます。

資金面でサポートする

贈与以外の方法で株式を渡す場合、後継者に株式を買い取らせる必要があります。そのため、後継者が資金不足に陥ることがないよう、サポートすることは非常に重要です。

具体例としては、後継者を役員に任命し、その後役員報酬の金額を増やすことで資金サポートをするといったことが考えられます。

専門家に相談する

従業員承継などの事業承継は、長期的な視点で実施する必要があります。多忙な経営者1人では、事業承継の手続きをすべてやり遂げることは難しいです。

そのため、事業承継を包括的にサポートしてくれる専門会社に相談すると安心でしょう。

TOMA100年企業創りコンサルタンツ株式会社なら、後継者探しから後継者育成まで徹底的にサポートします。豊富な知識と経験を持つ専門家が、事業承継を成功に導きます。

まとめ

従業員承継は、すでに会社に関する理解がある従業員や役員が会社を引き継ぐ事業承継です。一方で、株式取得の資金をどのように準備するのかといった問題もあります。

事業承継に関して不安を抱えている経営者は、専門家の力を借りるなどして、事業承継を成功させましょう。