持株会社を活用した事業承継とは?手順やメリット・デメリットを紹介

引退を考えている経営者にとって、後継者問題は悩みの種ではないでしょうか。後継者を見つけるにあたって、事業承継の方法も考えなければなりません。事業承継にはさまざまな方法がありますが、その中でも「持株会社スキーム」という方法があります。 今回は、持株会社スキームの概要について、メリット・デメリットと持株会社化による事業承継の方法について解説します。


この記事は約7分で読み終わります。

事業承継における「持株会社スキーム」とは

持株会社スキームを理解するに当たり、持株会社の概要も踏まえて詳しく説明します。

持株会社とは

持株会社とは、「複数の企業を傘下におさめ、それぞれの企業の株式を保有・管理する会社」を指し、全体の企業グループを総称してホールディングスとも呼びます。

持株会社は、主に事業持株会社と純粋持株会社のふたつに分類できます。

事業持株会社とは、自社でも製造や販売といった事業活動を行いつつ、子会社や関連会社の株式を管理する会社です。そのため、自社で行う事業活動と、株を保有する傘下企業の配当収入というふたつの収入源を持っています。

一方、純粋持株会社とは、自社では事業活動を一切行わず、株を保有する会社からの配当収入を得る会社です。

収入源という側面において異なる2つのタイプの持株会社がありますが、株を保有するグループ企業全体の重要な経営判断を行い、傘下の企業をマネジメントする立場にある点は共通しています。

今回紹介する持株会社スキームとの関連で重要なポイントは、「株を保有することで、ほかの会社の経営権を握ることができる」という点です。会社法の規定により、その会社の過半数の株式を保有していれば、経営権を握ることができるのです。

持株会社スキームとは

持株会社スキームを簡単に紹介すると、「後継者が新会社を設立し、その新会社を通じて承継対象の会社を引き継ぐ」というものです。

後継者が持株会社スキームを用いて会社Bを事業承継する場合を考えてみましょう。

後継者が会社Bを引き継ぐことが決まったタイミングで、新しく会社Aを設立します。後継者は新会社Aの株式を取得しているため、新会社の経営権を握っているということです。

その後、新会社Aは会社Bの株式を取得するための資金を集めるために、金融機関などから資金調達を行います。この際、資金調達をするのは法人としての会社Aであり、後継者個人ではないという点が重要です。

資金を調達した会社Aは、先代経営者から会社Bの過半数の株式を買い取り、会社Bの経営権を取得します。会社Bの経営権を握る新会社Aは、後継者によって経営権を握られています。つまり、新会社Aを媒介することで、会社Bの実質的な経営権を握っているのは後継者となるのです。

事業承継で持株会社化するメリット・デメリット

事業承継の方法のひとつとして、ここまで持株会社スキームを解説してきました。次に、持株会社スキームを用いることのメリットとデメリットを紹介します。

メリット

持株会社化するメリットとして、以下の3つが挙げられます。

複数企業の親会社のような立ち位置になれる

持株会社は、さまざまな会社の株を保有することで経営権を握り、その会社から配当収入を得ることを目的としてます。

後継者が複数のグループ企業を承継する場合には、複数企業の経営権をひとつに集約できる持株会社スキームが力を発揮します。

後継者に株式が集中する

会社を承継するにあたり、会社の株式はできるだけ後継者に集中させるべきでしょう。会社法の規定では、過半数を超える株式を持っていれば、経営権を握ることができることとなっていますが、経営権をより盤石なものにするためには、100%の株式を持つことが理想です。

しかし、相続や贈与によって事業承継を行う場合、株式が他の法定相続人に分散してしまうことがしばしばあります。なぜなら、法律の定めにより、法定相続人の遺留分を保護する制度があるためです。

ここで持株会社スキームを用いることで、後継者に株式を集中させることができます。相続や贈与における遺留分を発生させることなく、あくまでも新会社が株式を取得するという手法を用いることができるためです。

後継者に株式を集中させることによって、後継者の経営権をゆるぎないものにするためには、持株会社スキームを用いることは有効でしょう。

節税効果がある

会社にとって、事業承継を行う際の大きな問題点のひとつに税金が挙げられます。相続や贈与によって事業承継を行う場合、会社を引き継いだ後継者側に相続税や贈与税がかかります。これらの支払いは、後継者にとって大きな負担となるため、節税の方法を知ることは重要です。

持株会社スキームを用いるということは、形式上は会社と会社の間の取引ということになります。そのため、相続税や贈与税は発生せずに、税の負担を軽減することができるのです。

デメリット

メリットもある反面、持株会社化には以下の3つのデメリットも挙げられます。

新会社に借入金が発生する

株式を取得する以上、後継者は何らかの手段を用いて資金調達をしなければなりません。持株会社スキームを用いる場合、新たに設立した会社が金融機関から資金調達を行うことになります。そのため、事業承継が成功した後に融資額を返済する義務が会社に生じることとなります。

自社では事業活動を行わない純粋持株会社を新会社とした場合、収入源は配当収入に限られます。事業承継後に、承継した会社が十分な利益を上げられるように経営しなければならない点は、ほかの事業承継スキームを用いる場合と同じです。

先代経営者には税金の負担が発生する

持株会社スキームを用いることで、後継者や新会社の税負担を軽減できることはすでにお話しました。一方で、株式を譲渡する側である先代経営者には、税負担が生じます。

先代経営者は、自身の持つ株式を新会社に譲渡することで、対価として金銭を受け取ります。この対価は所得としてみなされるため、先代経営者には所得税が発生するのです。

会社を新たに設立させるために煩雑な手続きが必要

節税効果や経営権の集中など、さまざまなメリットがある持株会社スキームですが、大前提として新会社を設立しなければなりません。
会社を設立する際には、定款作成、登記申請、出資金払い込み、各種機関への申請など、様々な手続きが必要です。目先の経営課題や業務に追われている経営者にとって、これらの一連の手続きをこなすことは大きな負担になり得ます。

持株会社スキームを用いる時には、会社を新たに設立する必要があるということを念頭に置くようにしましょう。

持株会社化は中小企業の事業承継でも可能

持株会社というと、複数の会社を傘下に持つ大企業を連想するでしょう。実際、巨大な企業グループの中には、ホールディングスという形態をとっているものもあります。

一方で、中小企業の場合においても持株会社化は十分に可能であり、むしろ積極的に用いられています。多くの中小企業が持株会社という形態をとる理由としては、「相続税対策」が最も大きいです。

上記でも解説したように、持株会社スキームを用いることで、多くの中小企業経営者の悩みの種でもある相続税や贈与税の負担を回避することができるのです。

持株会社化による事業承継の手順・注意点

ここでは持株会社スキームを用いて事業承継する方法について解説します。

手順

持株会社スキームを用いる際の手順は、大きく3つのステップに分けられます。

1.後継者が出資することで、新しく会社を設立する
まずは、持株会社となる新会社を設立し、後継者がその持株会社のオーナーとなります。

2.持株会社となる新会社が資金調達をする
今回は新会社が承継対象の会社の株式を取得するため、取得資金を金融機関から調達します。

3.新会社が先代経営者から、承継対象の会社の株式を取得する
最後に、新会社が株式を取得することで、実質的な経営権が後継者に渡り、事業承継が完了します。

注意点

持株会社スキームを用いて事業承継をするのであれば、後継者探しは早めに行うのが良いでしょう。

持株会社スキームは、会社設立や資金調達といった手続きが必要な事業承継手法であるため、後継者を定めた上で進める必要があります。

少しでも不安を感じる場合には、事業承継に詳しい専門家と相談することを強くおすすめします。

TOMA100年企業創りコンサルタンツ株式会社は事業承継対策に特化しています。事業承継でお悩みの経営者はぜひご相談ください。

まとめ

持株会社スキームには、節税対策や経営権の集中など、さまざまなメリットがある一方で、会社設立の手続きが必要であるなど、デメリットもあります。

自社の現状と照らし合わせながら、どのような事業承継手法を用いるのが最も良いのかを探るようにしましょう。