100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.137

2023.09.08 Fri

起業と雇用保険の特例延長申請

基本手当受給は原則1年、理由により3年

 雇用保険の基本手当の受給期間は離職した日の翌日から1年間です。この期間内に休職の申し込みや待期期間通算7日間、自己都合退職をした場合2か月の給付制限がかかり、失業認定日の出頭などを経て雇用保険の被保険者期間に応じた所定給付日数を受給します。
 受給期間が満了になると所定給付日数が残っていてもそこで終了になります。ただし、病気やケガ、妊娠、出産、育児などですぐに職業に就くことができない場合は受給期間の延長申請を行うことができます。
 本来の受給期間1年に病気などで働けない日数を加えることができ、加えることができる日数は最大3年です。

離職後に事業を開始した場合にも特例申請

 上記以外に離職後に事業を開始した場合でも特例申請(延長申請)できることになっています。この特例は令和4年7月1日以降に事業開始した場合が対象です。
 受給期間を延長できるようになると、もしその起業が失敗し休業や廃止をした場合でもその後の就職活動の再開にあたり事業開始前に適用されていた基本手当を再び受けることができます。
 これから起業して事業を始めようとする人が受給期間の延長を事前にしておこうとは思わないかもしれませんが、安心材料として、受給期間の延長手続をしておいてもよいと思います。

受給期間延長申請の要件

①事業の実施期間が30日以上であること
②事業を開始した日、事業に専念した日、事業準備に専念した日のいずれかから起算して30日を経過する日が受給期間末日以前である
③当該事業について就業手当や再就職手当は受給していない
④雇用保険資格取得をする者を雇入れる事業主か登記事項証明書、開業届の写し、事業許可証の写し等、客観的に事業の開始事業内容、所在地がわかる書類
⑤離職日の翌日以降に開始した事業、事業専念または、事業の準備に専念し始めた時からが対象である
 特例申請の手続は事業を開始した日の翌日から2か月以内に所轄のハローワークにて本人来所又は郵送で行います

トラック運転者の改善基準告示とは

迫りくる令和6年4月施行の改善基準

 トラックなどの運輸業界では「2024年問題」と言われているのが「改善基準告示」です。改善基準告示とは、「自動車運転者等の改善のための基準」のことを言い、自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要であることからトラック、バス、ハイヤー、タクシー等の自動者運転者について基準などが設けられています。
 広い意味でトラック運転者とは運送会社で働くトラックの運転者に限らず旅客事業者運送事業(ハイヤー・タクシー・バス等)及び貨物事業者運送事業以外の事業に従事する自動車運転者を含みます。
 令和4年12月に自動車運転者の健康確保等の見直しが行われ、拘束時間の上限や休息期間等が改定され、令和6年4月に施行されます。
 自動車運転者の時間外労働の上限は、令和6年4月から原則月45時間、年360時間、臨時特別な事情がある場合でも年960時間となります。

トラックの「改善基準告示」見直しポイント

 改善基準はトラックやタクシー、バスで共通事項もありますが時間の制限の多少の違いがあります。ここではトラックの改善基準を見てみます。
①1年の拘束時間 現行3516時間⇒3300時間 最大3400時間
②1か月の拘束時間 現行原則293時間最大320時間⇒原則284時間、最大310時間
③1日の休憩時間 現行継続8時間⇒継続11時間を基本とし、9時間下限

労働時間のとらえ方、考え方

 拘束時間とは使用者に拘束されている時間で、労働時間+休憩時間 例えば会社に出社し始業から仕事し、仕事を終えて終業するまでを言います。
 また、作業時間とは運転や車両の整備、荷扱いをする時間を言い、手待ち時間とはバスやタクシー運転手における客待ち、トラック運転手における荷待ちの時間を言います。そして休息時間とは勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠時間を含む生活時間として労働者にとって全く自由な時間を言います。
 トラック運転手の労働時間短縮に取り組むことは人材不足の中、さらなる経営努力が求められています。

フリーランスのインボイス対応

 声優やカメラマンなどフリーランスとして働く人には、10月から始まる消費税インボイス(適格請求書)の負担が生じます。

申告事務の煩雑さ

 これまで免税事業者として仕事をしてきたフリーランスがインボイス発行事業者となる場合、登録申請手続きに加え、登録後は、登録番号等の記載した請求書の発行、仕入先から交付されるインボイスの保存、消費税の申告等が必要になります。

収益の圧迫

 免税事業者のときは契約金額に消費税額が含まれているかを気にせず、全部を収入金額としてとらえていましたが、インボイス発行事業者となると、納税義務が生じます。申告納税の必要性は理解できても、現実は、委託先に消費税分を請求できなかったり、値引きを求められたり、それでは免税事業者のままでいようとすると契約を打ち切られることも懸念されます。

簡易課税制度、2割特例の活用

 国税庁は、申告事務の煩雑さを和らげるため、仕入税額控除にあたり、仕入先から交付されるインボイスの保存を不要とできる簡易課税制度を用意しています。第五種事業の場合は、みなし仕入率50%となり、消費税を簡便に計算することができます。さらに、税負担を軽くするため、インボイス制度の施行後3年間は、納付税額を売上に係る消費税額の2割に軽減する特例を利用でき、負担軽減措置がはかられます。

委託者との条件交渉

 新たに生じる消費税額の負担を委託者とどのように分担しあうかを双方で話し合うこと、これまでの収入を維持するためには、消費税相当額を委託者から新たにもらうか、あるいは全額もらえなくても、双方で負担額を分け合うことが必要です。

フリーランス新法による働く環境の整備

 令和5年5月、フリーランス新法が公布されました。業務委託する事業者は、フリーランスに優越的地位の濫用が規制され、取引条件の明示が求められるようになり、フリーランスの取引適正化や就業環境改善が図られます。2024年秋頃に施行予定です。
 岸田内閣は「新しい資本主義」構想のもと、アニメ、映画などの分野でクリエイターの育成、創出を目指しています。フリーランスにとっては報酬底上げの機会となると同時に、自身の技量や経験値を高め、委託先から選ばれる存在になることも大切になるといえそうです。

制度開始目前のインボイス登録

 令和5年10月1日に開始するインボイス制度を目前に控え、免税事業者がインボイス発行事業者となるための登録手続きを確認します。

登録申請書の提出

 登録を受けようとする者は、所轄税務署に登録申請書を提出します。申請はe-Taxでも提出できます。
 令和5年10月1日に登録を受けたい場合は、前日の9月30日までの申請が必要です。申請は発信主義で扱われ、郵送の場合、9月30日までの通信日付印が必要です。
 令和5年10月2日から令和11年9月30日までの間に登録を受けたい場合は、登録日を指定できます。登録希望日(提出日から15日以後の登録を受ける日を指定する)までに登録申請書の提出が必要となります。例えば、令和6年1月1日に登録を受けたい場合は、15日前の令和5年12月17日までの提出が必要です。
 なお、免税事業者が課税事業者となる場合は、本来、課税事業者選択届出書の提出が必要ですが、経過期間中(令和5年10月1日~令和11年9月30日)については、登録申請書の提出のみで手続きが終了し、課税事業者選択届出書の提出は不要です。

登録しないと生じる不利益

 免税事業者がインボイス登録をしない場合、販売先は仕入税額控除できなくなる(経過措置あり)ので値引きを要求され、契約を打ち切られるリスクが生じます。免税事業者も仕入先に支払う原価や経費に係る消費税額を自己負担することとなります。

取引条件を改定して消費税を転嫁する

 消費税は、本来、消費者が商品やサービスの提供を受けて負担した税額を事業者が納付する制度であり、事業者は取引価格に消費税を転嫁する仕組みとなっています。そこでインボイス発行事業者となる機会を利用して取引先と取引条件の改定交渉を行い、消費税を販売価格に転嫁することが必要となります。
 国はインボイス制度導入の円滑化のため経過措置を設けており、売上に係る消費税について最初の3年間は、消費税の負担を2割に減じています(税率10%×20%=実質税率2%)。また、免税事業者からの仕入れに係る消費税について最初の3年間は、仕入税額の80%、次の3年間は50%部分を仕入税額控除できます。この期間に契約条件の改定交渉を行い、消費税を価格に転嫁して本来の制度と整合させましょう。

事務処理の煩雑さとの比較での旅費規程の見直し

スキャナー読み取りで電子化の障壁は費用

 いよいよ10月1日から始まるインボイス制度と2024年1月1日以降の電子帳簿保存法への対応に向け、テレビやネット広告での会計システムのCMの露出数もますます増えています。確かに、こうしたシステムを導入できれば、手間もかからず便利になるはずですが、いかんせん導入と運用にコストが掛かります。
 小規模事業所の場合は、やはり、がんばって、手入力で増える作業に耐えなければなりません。適格請求書発行事業者登録番号の確認や照合などでますます手間が増えることを考えると、いまから憂鬱です。

旅費規程での実費精算vs旅費日当

 旅費規程を作って旅費日当等の定額項目で出張経費の精算をすれば、“細かな経費ごとの精算が不要となり、また節税でお得になることもある”として旅費日当規程の導入がもてはやされたこともありました。たとえば、日当3千円、宿泊費定額1万円という規程があった場合に、毎食事代等を1千円未満に抑え、ホテルも規程額未満のところに宿泊できれば、差額は所得税が非課税で個人の手元に残るといった塩梅です。
 ただ、会社側から見ると実費精算よりもお金の出金額が多くなることもままあるため、オーナー会社で社長の出張旅費精算が多い会社以外は、実費精算に回帰してきていたようです。

事務の手間とコストを比較し規程を見直す

 旅費日当は、雑費補てんの意味合いで、交通費や宿泊費以外の食事や飲み物・消耗品の購入に充てる費用として支給されます。
 旅費日当での経費精算では、会計では消費税は標準税率込み1本で処理されますが、実費精算となると、いちいちきちんと必要項目を計上しなければなりません。
 軽減税率導入とレジ袋有料化でコンビニレシートの確認&経費入力作業はそれ以前に比べ3倍くらい時間が掛かっています。これからさらに同じチェーン店でもフランチャイズ店で個別事業者であろうコンビニの適格請求書発行事業者登録番号の確認や照合の作業を考えると頭が痛くなります。
 こうした事務作業の時間も大きな人件費コストとなります。これを機に、旅費日当の採用でどれくらい事務コストが削減できるか検討してみてはいかがでしょうか。