100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.138

2023.09.15 Fri

違いがあるの?青色申告・白色申告の家事按分

個人事業主の家事按分とは

 自宅を事務所として利用している個人事業主の場合、家賃や水道光熱費など、プライベートと事業を兼ねた支出が生じる場合があります。これを家事関連費といいます。この家事関連費の事業利用分を計算して、経費として計上することを家事按分といいます。

青色申告と白色申告で違いはある?

 家事関連費の経費算入については、所得税法施行令で定められていて
①家事関連費の主たる部分(つまり50%以上)が業務の遂行上必要であり、かつその必要である部分を明らかに区分することができる場合
②青色申告の場合は、業務の遂行上直接必要であったことが取引の記録等で明らかな場合
以上どちらかの条件を満たしている場合に経費にできるとされています。
 こう見ると青色申告の方が経費算入しやすそうですが、実務的にはそういうわけでもありません。国税庁の「法令解釈通達」という、税法の取扱い等の指針では、「家事関連費のうち業務の遂行上必要部分が50%を超えるかどうかにより判定するが、50%以下であっても必要な部分が明らかに区分できる場合は経費算入してかまわない」とされています。つまり、青色申告でも白色申告でも、プライベートと事業の明確な区分ができれば必要経費として計上してかまわないため、実務的な取扱いに違いはありません。

計上しない年があっても良い

 家事按分の割合については、例えば家賃の按分については「この月だけ業務で使用する面積がどうしても増える」といった場合もあると思います。そんな時は明確な理由・記録等があれば、割合を変更してもかまいません。
また、家事関連費の事業支出が少額になる場合などは、計算根拠やそれを証明する資料の整備をするといったコストをかけず、「経費計上しない」という選択をすることも可能です。

電子帳簿保存の電磁的記録媒体

電磁的記録媒体って何?

 電子帳簿保存法では、国税関係帳簿書類の保存義務者は、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して国税関係帳簿を作成する場合に、一定要件下で、その電磁的記録の保存をもってその書類の保存に代えることができることとされていま す。では、「電磁的記録」は、どんなものに保存するべきでしょうか。国税庁のWebサイトに具体的なものとして挙げられているのは、ハードディスク・CD・DVD・磁気テープ、もしくはCOM(電子計算機出力マイクロフィルム)等とされています。
 ただ、法令解釈を見てみると、「法律上媒体を具体的に限定するような規定は存在せず、保存義務者の任意の選択で良い」とされています。

ところで磁気テープって何?

 若い人の中には「磁気テープって何だ?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。昔は音楽を聴くのに使う「カセットテープ」やテレビ番組などを録画しておく「ビデオテープ」といったものがメジャーでした。磁気を帯びたテープが円形に巻き付けてある記録媒体で、動画等の早戻しを「巻き戻し」と言う方がいるのは、このテープの巻きに由来しているものです。
 最近は一般の方には縁遠いものになりつつある磁気テープですが、データ保存の規格であるLTOテープというものが活躍しています。容量あたりの価格が安く、データ保存時の電力消費量も低いため、大容量データのバックアップ等に活用されているようで、グーグルやマイクロソフトといった大企業も利用しています。

保存は良いけど提出はNG

 そんな磁気テープですが、令和4年度税制改正において、給与支払報告書やe-Taxによる法人税等の確定申告の添付書類記載事項の提出方法から、磁気テープの提出が除外されています。
 磁気テープは保存性や容量で比較すると他の媒体に比べ優位であるものの、そのデータを読み込むドライブの価格が、とても高いのです。規格が異なると読み込みもできなくなるため、常に最新のドライブを購入し、古いものも使えるように維持する費用を考えると、除外もやむなしといったところでしょうか。

海外転勤=国外転出届で変わる-税金・健康保険・年金

国外転出届をすると国内住所がなくなる

1年以上の予定での海外転勤となると、居住している自治体に転出届を提出します。転出先として国外の住所を記載するので国外転出届となります。この届出により、国内に住所はなくなります。国内に住所がなくなることで、住所を基に課される税金や保険・年金の扱いも変わってきます。

所得税・住民税

 国内に住所がなくなると、所得税法上の納税義務者区分は、非居住者となります。 
給与以外の所得がなければ、日本での所得税の課税はなく、勤務先国での税法に従った課税となります(駐在期間中の自宅を他人用の賃貸に出すなど、給与以外の日本国内源泉所得がある場合は、日本での確定申告が必要となることもあります)。
個人住民税は、その年の1月1日時点で市町村(都道府県)に住所がある者に対して課税されます。そのため、住所がなくなった翌年からは、帰国して住所を持つこととなるまで、住民税は課されないことになります。

社会保険・国保・年金

 赴任前の国内会社から継続して国内払い給与があれば、海外赴任中も各種社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険など)の被保険者資格は継続となります。厚生年金につき、赴任先国と日本との間で年金協定があれば、2つの国での二重払いを回避できます。
 健康保険が継続していると、海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合に、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる海外療養費制度が使えます。
 一方、雇用主が駐在先の現地法人となる場合には、現在の日本での被保険者資格を喪失することになります。その場合は厚生年金から国民年金への切り替えや健康保険の任意継続などの手続きが必要となります。
 国民年金は、日本国籍者であれば、海外居住でも任意加入できます。国民年金に任意加入する目的としては、年金をもらう条件として必要な加入期間を充足させることと将来もらえる年金額を減らさないためなどです。なお、海外在住者に国民健康保険の任意加入制度はありません。

相続人が外国居住者の場合の相続税の課税対象と必要書類

相続発生時に外国居住だったらどうなる?

 外務省の海外在留邦人総数推計では、海外在留邦人数は130万8,515人とされています。日本から外国子会社等への駐在勤務の期間中に親の相続が発生することも十分考えられます。外国居住者でも日本の相続税の納税義務はあるのでしょうか?
 日本の相続税法の規定では、相続などで財産を取得した時に外国に居住していて日本に住所がない人は、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になるとされています。ただし、財産を取得したときに日本国籍を有している人で、被相続人の死亡した日前10年以内に日本国内に住所を有したことがある場合などでは、日本国外にある財産についても相続税の対象になります。
 つまり、平均年数3~5年とされている企業からの海外駐在の場合では、大概の場合、全世界財産が課税対象となります。一方で、その国に居ついてしまって10年超の場合には、日本の財産だけが対象です。
なお、外国居住者の場合、その居住地国での相続税法の課税の有無もよく確認して対処しなければなりません。要注意です。

国外転出届で住民票も印鑑証明もなくなる

 転出届で国内に住所がなくなると日本では住民票も印鑑証明書も発行されなくなります。遺産分割協議書には、相続人全員の署名および実印での押印と印鑑証明書の添付が必要です。また、相続財産の中に不動産がある場合には、法務局で相続登記を行いますが、登記申請に住民票が必要です。
 外国居住者が相続人となった場合、この2つの書類を用意できませんが、どうすればよいのでしょうか?

サイン証明書と在留証明書を入手する

 外国居住者の場合、印鑑証明書と住民票に代わるものとして、居住地国の日本領事館等で、別の必要書類を入手します。実印と印鑑証明の代わりとしてサイン(署名)証明書が、住所を証明する書類として在留証明書が、その書類となります。
 普通は、訃報を聞いて慌てて飛んでくるので、在留証明書もサイン証明書も居住国に戻ってからの入手となります。相続自体が不慣れな上に、外国在住で通常とは違う手続きです。何度も同じ手続きをしないで済むよう手順をよく確認して進めて下さい。

外国居住者の日本の相続不動産賃貸や売却での日本の税金

海外駐在中の不動産関係の課税

 海外勤務の外国居住者が、相続などで取得した日本の不動産を、賃貸に出したり、売却したりした場合に所得が発生すれば、日本で課税されることになります。
 居住地国と日本との間に租税条約があれば、両方の国での課税はされずに、不動産が存在する国でのみの課税となります。日本の不動産は日本でのみの課税となります。

非居住者の不動産所得・譲渡所得の申告

 海外勤務等により国内に住所がなくなると、所得税法上の納税義務者区分は、非居住者となります。
 非居住者となる人に、国内にある不動産の貸付けによる所得や国内にある資産の譲渡による所得などの、日本国内で生じた所得(源泉分離課税となるものを除く)があるときは、日本で確定申告が必要になる場合があります。確定申告が必要となる場合には、納税管理人を定め、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を、その人の納税地を所轄する税務署長に提出しなければなりません。
 ここまでは非居住者の確定申告の話ですが、相続財産が元々賃貸物件だった場合にその事業を引き継いでの不動産賃貸や、居住用物件の売却では、次段階の検討課題も発生します。たとえば、前者では、事業そのものを引き継ぐのか、引き継ぐとしたら誰(単独・共有)が引き継ぐことにするのか。後者では、相続税の取得費加算の特例と空き家譲渡の3,000万円の特別控除の特例の選択、などの問題です。
こうした問題は、相続税の申告の準備段階で先々までのことを考えて、専門家によく相談して決めることが肝要です。

源泉徴収漏れに注意

 海外居住中の不動産賃貸で間違いが発生するのが、賃借料に対する源泉徴収です。
 非居住者や外国法人から日本国内にある不動産を借り受け、日本国内で賃借料を支払う者は、法人はもちろん個人(事業者かどうかは問いません)であっても、その支払の際20.42パーセントの税率により計算した額の所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。
賃借人が個人だと特に起こる問題です。賃借人への周知徹底が必要です。