100年企業創り通信
2023.06.09 Fri
納税者が提出する書類の効力は、原則として書類が税務官庁に到達した時に生ずることとなりますが、郵便・信書便により提出された納税申告書、申請書、請求書、届出書その他の書類については発信主義が適用され、通信日付印により表示された日が提出日とみなされます。しかし、この規定はアナログ時代のもので、デジタル時代の電子申告では、到達基準と発信基準に差異がないため、過去の遺物としての性格の規定になりつつあります。
この規定の対象は、提出期限の有るものの期限内提出の判定のためのものでしたが、提出期限については、また、「期限の特例」というものがあります。申告書等の提出等に係る期限が土日祝日等に当たるとき「これらの日の翌日をもつて」その期限とみなすというのが「期限の特例」です。
令和5年10月1日からインボイス制度が始まりますが、インボイス発行事業者の登録を同制度の開始日から受けるには、原則として令和5年3月31日までの申請が必要でした。ただ、4月1日~9月30日までの間に申請すれば制度開始日の10月1日から登録を受けられ事にもなりました。
「期限の特例」の対象か?
そこで、この制度開始日から登録を受けられると規定された原則規定と経過措置規定での、それぞれの登録日の末日である3月31日と9月30日についてみてみると、3月31日に係る規定には、インボイスの登録を受けようとする事業者は令和5年施行日の6月前の日までに登録申請書を提出しなければならない、との期限の定めがあり、仮に3月31日が土日等に当たる場合は「期限の特例」の対象となりますが、9月30日に係る経過措置規定には、そのような期限の定めがありませんので、「期限の特例」の対象となりません。そして、令和5年9月30日は、たまたま土曜日なので、「期限の特例」は使えません。
なお、同年9月末までに登録申請を行ったとしても、即座に登録通知があるわけではないので、通知が来るまでの間はインボイス番号を書けないものの、仮のインボイスを交付し、通知後に正式なインボイス番号を知らせる補完行為が必要です。
一般に民法における契約においては「契約自由の原則」があり、そこでは契約内容に関する自由、契約を締結するかしないかの選択の自由、相手方選択の自由などがあります。民法の特別法である労働契約法も、契約内容の自由については、労働基準法等により修正されるものの、原則として「契約自由の原則」は踏襲され、そこから「採用の自由」という考え方が導かれています。原則として企業は、誰を採用するか、誰を採用しないかを自由に決めることができるとされています。ここで問題になるのが、最終的な採用の可否を決める過程での情報収集や調査、特に思想や信条などのプライバシーの調査についても自由に認めてよいのか、制限を設ける必要はないかということです。また、日本国憲法27条1項の国民の勤労権や同14条の法の下の平等は企業の採用の自由に制約を与える根拠となりえます。この後少し詳しく見てみます。
これについては最高裁の判例(三菱樹脂事件)があります。最高裁は、憲法22条や29条等を根拠として、「企業の財産権や営業の自由を保障するため、労働者の採用の可否を決めるにあたり、その労働者の思想、信条を調査し、またそのために労働者から関連する事項についての申告を求めることを、違法行為とすべきとする理由はない」として、「採用の自由」及び「調査の自由」を広く認めています。その後の最高裁判決でもこの判断は維持されています。ただし、これら最高裁の判断は、長期間の雇用保障を目的とするいわゆる正社員、かつ、その多くが将来の幹部社員としての採用を前提としていたことには注意が必要です。逆に言えばこれら以外の正社員や非正規社員の採用の場合には、通常の職務遂行能力に直接関連する調査の範囲でしか認められないと考えられます。
一定の場合には法律によって強制的に採用の自由が制限されます。主なものには男女雇用機会均等法による「男女差別の禁止」、障害者雇用促進法による「障害者差別の禁止」、雇用対策法による「年齢差別の禁止」があります。
新卒採用者の場合、労働契約の成立過程において、実際の入社の前に「採用内定」という段階を踏むことが一般的です。この「採用内定」には法律上どのような性質があるのでしょうか。これをわかりやすくするため「採用内定により労働契約が成立したと言えるか」という問題提起をして考えてみます。
労働契約の成立とは、労働契約法6条により、労働者が使用者によって使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立します。(使用者は会社と置き換えてください) それでは会社が新規採用者に採用内定を出した時点で、この労働契約は成立するのでしょうか。最高裁の裁判例では、採用内定制度といってもその実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難であるため、「具体的事案ごとに採用内定の法的性質を検討する必要がある。」とした上で、本事案(大日本印刷事件)では、採用内定について次のように判断しています。「当該事案では、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったとして(中略)労働者と使用者との間に、労働者の就労の始期を大学卒業後とし、それまでの間、採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立した」としました。要約すると「入社するまでの間に、採用取消事由が生じた場合や、大学を卒業できなかった場合には、労働契約を解除することができる旨の合意を含んだ労働契約が成立したことになる」ということです。
この裁判例では、条件付きではありますが、採用内定を労働契約の成立としています。そうすると採用内定取消しの法的性質も解雇となりますが、これも当然に認められるわけではなく、最高裁は「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることができないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが客観的に合理的であり、社会通念上も相当であると認められる場合に限られる」としています。
国税局(税務署)は、納税者や同業者団体からの個別の取引等に係る税務上の取扱いについての照会に対して、文書による回答をしています。例えば複雑な取引で、想定される税務上の処理に問題がないかどうかを取引先から問われ、証明するために文書照会を行うケースや、「扱いについて先例がないため利用したい」と関与税理士からの要望で照会するケースなどでの利用が考えられます。 照会内容については、同様の取引等を行う他の納税者の予測可能性を高めるために、国税庁のWebサイトにて公表をしています。令和4年4月からはe-Taxでも文章回答手続を行うことができるようになっています。
文書回答の対象となるものは「取引等に係る国税の申告期限前の事前照会であること」なので、以下の内容は対象となりません。
①照会の前提とする事実関係について選択肢があるもの
②調査等の手続・徴収手続・酒類行政関係
③個々の財産評価や取引価額の算定・妥当性の判断
④実地確認や関係者等への事実関係の認定が必要なもの
回答については「受け付けた日から原則3か月以内の極力早期に行うよう努める」としているので、申告期限との兼ね合いも厳しいものとなっています。また、前例がなくとも模範となるような案件でない場合、文書回答せずに、口頭での回答にとどまるケースもあるようです。
国税庁電話相談や、予約を取り税務署に行き面談での照会・回答等、他にも国税について相談できる窓口があります。手続の煩雑さを考えると、こちらを選択するケースの方が多いのも納得です。 文書回答手続については、口頭相談等では後の調査で否認される可能性も予見される取引等の「相談実績」という保険の意味合いが強いものかもしれません。
春は新卒の入社や、転職、配置転換などで職場が変わることが多くあります。その際、転職者の出入りに伴う前職の重要データの持ち出しで、個人情報、営業秘密の漏洩などは重大な犯罪になることがあります。
営業秘密情報持ち出しはニュースでも取り上げられていますが、警視庁によると営業秘密侵害事件は22年には前年より6件多い29件で、統計を取り始めた13年以降で最も多かったといいます。
転職者が許可なく前職から持ち出した情報を転職先で活用するのは本人にも企業にもリスクが高いといえます。
不正競争防止法では企業が持つ秘密情報が不正に持ち出されるなどの被害にあった場合に、民事上・形事上の措置をとることができます。その秘密情報が、不正競争防止法上の「営業秘密」として管理されていることが重要です。
それには3つの要素があります。
①秘密管理性…営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対し明確に示しされ当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要性
②有用性…当該情報自体が客観的に、事業活動に利用されていたり、利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善に役立つものであること
③非公知性…保有者の管理下以外では一般に入手できないこと
最も問題視されるのは秘密管理性で、データにパスワードを設けたりアクセスを制限したりして一般情報と区別してあると該当する可能性が高くなります。
経済産業省が示す営業秘密管理指針を踏まえた定めが必要です。各企業の規模や秘密の内容に応じて適用範囲、情報の定義・分類、秘密保持義務、罰則等を定めます。
営業秘密以外でも前職で知った情報の持ち出しは問題です。多くの企業は就業規則や退職時の誓約書で職務上知り得た情報を外部に漏らさないよう禁じており、秘密保持義務は退職後にもあることになっています。違反すると損害賠償の請求になったり、刑事罰になったりする場合もあります。