100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.126

2023.06.16 Fri

事業に至らない規模の未収家賃の貸倒れ

個人事業者のアパート賃貸で事業的規模にないものの家賃が回収不能となり、未収家賃を貸倒れとする場合、貸倒要件に該当するほか、特殊な経理処理が必要です。

回収不能の状態を明らかにする

 未収家賃が回収不能であるかは、賃借人の資産状況や支払能力を見て判断する必要があります。ただ未収が続いているだけでは回収不能とは言えません。賃借人に支払いを催告し、それでも未収が続く場合は、賃貸借契約を解約して部屋の明渡しを求め、敷金と未収賃料および原状回復費用の借主負担分とを相殺する、保証人にも請求するなど回収措置を尽くしたうえでの判断が必要になるでしょう。

貸倒処理の時期にも注意!

賃借人が破産、死亡や行方不明などの場合は、回収不能となる時期は明らかとなりますが、これらの事実が生じていない場合は、賃借人の資産状況等を見て回収不能と判断する時期を見極めることが必要となります。回収可能性が曖昧な状況では回収不能とはみなされず、書面による債務免除も、回収可能性が残る状況のもとでは、贈与と認められ、貸倒れの機会を永久に失うかもしれません。。

未収家賃はなかったものとみなす

 アパート賃貸が事業的規模で行われている場合、未収家賃の全額を貸倒損失として不動産所得の必要経費に算入することができるのに対し、賃貸が事業的規模で行われていない場合は、貸倒損失として必要経費に算入することはできません。代わりに、未収家賃が生じた年に、その家賃収入がなかったものとみなし、回収不能額のうち、次のいずれか少ない金額を不動産所得の金額から控除します。

  • 総所得金額、退職所得金額および山林所得金額の合計額
  • 不動産所得の金額から回収不能額に相当する家賃収入がなかったものとみなした場合に計算される不動産所得の金額を控除した残額

他にも控除額の計算では、分離課税の所得がある場合などで詳細な取扱いがあります。また、不動産所得の金額等の大きさにより、回収不能額の全部または一部を控除できないこともあるので注意しましょう。

なお、回収不能が明らかになった時点で、既に確定申告書を提出していたときは、その事実が生じた日の翌日から2月以内に、更正の請求をします。

ありがちな労務管理上のうっかり違法

職場に潜む無意識の法令牴触

 退職時は元の勤め先とは円満に終わりたいもの。ところが場合によっては再出発を気持ちよくできないトラブルになるケースが後を絶ちません。

そのような場合を見てみます。

①転職して前職企業の重要データの持ち出し、営業秘密の漏洩をするケース。不正競争防止法違反になるかもしれません。

 また、同業他社に転職し前職の顧客リストを持ち出して活用したケースも同法に抵触します。

 営業秘密以外でも前職で知り得た情報の持ち出しは問題になる場合があります。就業規則や退職時の誓約書で外部への情報漏洩を禁じられていることが多く、前職企業への秘密保持義務が生じます。

②海外の研修後一定期間の退職に対してかかった費用を会社が請求した。労働基準法第16条に違反します。業務に関連する研修であれば返還命令はできません。 ③転職した元社員の勤務評価を転職先企業から尋ねられ、たとえ良い評価だとしても勝手に答えてはなりません。個人情報の取り扱いで本人の同意が必要です。もちろん同意なく調査会社に依頼する行為も職業安定法に抵触することがあります。働きぶりや周囲の評価について前職に尋ねるのは同法に抵触する可能性があります。

その他うっかり違法

④試用期間の解雇

⑤育休明け社員の本人に確認せず楽な業務への変更は育児介護休業法に抵触の可能性。

⑥妻が妊娠したと報告を受けた上司、祝福をしただけで育児休業等の説明をしない。同じく育児介護休業法に抵触

⑦年俸制で残業代込みとしている(残業がついているのか表向きわからない)。

⑧パワーハラスメントで「昔はその程度は許された」と古い価値観を押し付けたり、

取引先からのセクハラは「我慢して」と言うのも違法性あり。

⑨本人の病気やLGBTなどはうっかり他言しない。必要以上に本人に聞かないこと。 以上のように無意識に行ってしまっている慣例的な言動について日頃の行為をふりかえってみましょう。

上場株式の配当所得課税課税方式の選択は?

個別に課税方式を選べなくなった

 上場株式の配当所得については、令和4年までは所得税と住民税の課税方式を選択できました。例えば所得税については総合課税として申告し、住民税については申告不要制度を選択する、といった具合です。このように申告方式を選択することにより、所得税は総合課税の場合利用できる配当控除を用いて実効税率を下げ、住民税は効率の悪い配当控除を使用せず分離課税の税率を適用する、といった節税が可能でした。  令和5年分の所得税申告(住民税については令和6年分)より、所得税と住民税の課税方式は一致させなければならなくなりました。

総合課税申告有利判定は残るが

 配当控除がすべて所得の10%で適用できるという前提で、課税所得695万円以下の所得税率20%までの場合、所得税・住民税の配当控除と税率を加味すると、配当所得を総合課税で申告した方が基本的には有利となりますが、以前はできていた住民税側の分離課税の税率が利用できないため、令和4年以前と比べるとお得になる割合は下がってしまいます。

税率以外も考慮して検討を

特定口座源泉徴収ありで確定申告不要の配当所得の場合、そのままであれば国民健康保険料の計算に用いる所得として扱われませんが、申告をしてしまうと所得計算に入るため、結果として国民健康保険料の値上がり分で節税効果がなくなるばかりか、割高になってしまう可能性もあります。

 上場株式等の譲渡損失との損益通算や、繰越控除がある場合などは分離課税で申告した方が有利な場合もありますが、申告不要の配当所得を申告すると総課税所得額へ加算されるため、配偶者控除や基礎控除額の算定に使用する本人の所得額に影響があるため注意が必要です。  その他、住宅ローン控除等で所得税が少ない場合、配当控除目当てで損得勘定をしていたのに実際には控除されるべき税金がない、といったことも考えられますし、申告するしないの選択は所得税率以外の要素も考慮しなければならないため注意が必要です。

職場つみたてNISAと賃上げ税制

事前照会に対する文書回答

 国税局は、納税者や同業者団体から個別の取引等に係る税務上の取扱いについての照会に対して、文書による回答をしています。今年3月に金融庁から照会があった事例を国税庁Webサイトで公表をしていますが、内容としては従業員に対して職場つみたてNISAの奨励金を給付した場合、賃上げ促進税制の対象になる「給与等」に該当するか、というものです。国税庁は「その考えで差し支えない」と回答しています。

職場つみたてNISAとは?

 職場つみたてNISAは、事業主が証券会社などのNISA取扱い業者と契約して、希望する従業員の給与から毎月天引き、もしくは口座振替をした金額を特定の金融商品に投資していく福利厚生制度の1つです。従業員からすれば職場という身近な場で資産形成ができ、企業にとってはあまり導入コストをかけずに福利厚生制度が導入できるメリットがあります。今時の財形貯蓄、と言っても良いでしょう。

賃上げ促進税制とは?

 賃上げ促進税制は、前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。中小企業の場合、雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加(大企業の場合は3%以上増加)で適用ができ、支給額が前年比2.5%(大企業4%)以上、教育訓練費が前年比10%(大企業20%)以上増加している場合は税額控除率が上乗せされます。

会計上「福利厚生費」でも給与等

 職場つみたてNISAを導入するにあたって、奨励金を事業主が出す場合、会計上はどのような科目で費用計上するかは限定されていないため、給与以外の例えば福利厚生費として費用計上することもできます。ただし、奨励金の性質から鑑みれば、これは賃上げ促進税制の対象になる「給与等」に該当しますよね? というのが金融庁の照会内容です。国税庁も「その通りです」と答えているため、奨励金も含めて賃上げ促進税制の給与等の増加額を計算して良いということです。なお、給与等に該当するため、支払い額には所得税がかかります。

税金よもやま話 嘱託警察犬と税金

嘱託警察犬制度とは?

 嘱託警察犬とは、各県警(東京都の警視庁は嘱託警察犬不採用)が民間の犬と訓練士・飼い主に委託する警察犬の制度です。年1回の審査会があり、犬と指導士(もしくは飼い主)が参加し、合格すると一年間嘱託警察犬として委嘱されます。
 警察が直接飼育・訓練をしている直轄警察犬は、ジャーマンシェパードやラブラドールレトリバー等の大型犬種のみと規定されており、警察犬といえば大きい犬というイメージの方も多いかもしれません。ただ、近年では嘱託警察犬については犬種の指定もなく、広報活動の場での活躍や、捜査の物々しさの軽減も視野に入れた小型犬の採用も増えているようです。

嘱託警察犬出動で報酬が支払われる

 嘱託警察犬が出動すると、1件当たり数千円の報酬が支払われます。これは業として行っていれば事業所得、そうでない場合は雑所得に分類されます。ただ、犬が確定申告を行うわけではありません。どんなに可愛く、家族の一員であったとしても犬は法律上「物扱い」となっているため、その報酬は訓練士、もしくは飼い主が貰うことになります。訓練士が犬とともに出動するハンドラーとなって報酬を貰っている場合が多いようですが、民間の訓練所に飼い主が預けるなどして能力を磨いているケースであれば、訓練費の支出が多く、報酬に税金が課されることはあまり考えられません。嘱託警察犬制度は飼い主のボランティア精神で支えられている側面もありそうです。

ペットと経費計上

 猫カフェや犬カフェといった「動物そのものが事業」であれば、当然ペットの購入費用や餌代、病院代等の関連費は全て経費計上できます。
近年では、ペットとの生活をブログやYouTube等の動画サイトで公開し、広告収益を得る人もいます。ペットが事業の利益に関係していればかかる費用は経費として認められますが、個人所有のペットの場合は収益がきちんと発生しているかがポイントとなるでしょう。ただ飼っているだけ、では経費として認められませんからご注意ください。