100年企業創り通信
2023.09.01 Fri
厚生労働省が公表した令和4年度「過労死等の労災補償状況」によれば仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について労災請求件数は2,683件で前年度比337件の増加、支給決定件数は710件で前年度比81件の増加となっています。
この数はいずれも統計開始から過去最多となっています。
業種別では医療・福祉が最多となっており、次いで製造業、卸売業・小売業が続いています。
年齢別では請求件数、支給決定件数とも40歳~49歳が最多となっています。ベテランではあるが責任も重くなり下にも上にも気を遣う年齢層といえるかもしれません。
支給決定件数の出来事の類型別では「パワーハラスメント」が147件で最多となっています。その他「同僚等から暴行やひどい嫌がらせを受けた」「セクシュアルハラスメント」等ハラスメント関連の類型によるものが目立ち、ハラスメントに関する問題は影響が大きいことがわかります。
また、今後精神障害の労災認定基準については業務による付加評価表の見直しがされ、いわゆるカスタマーハラスメントも追加される予定です。
労災申請されることは問題ですが、そこまでいかなくとも離職してしまう場合もあります。ハラスメントによる離職は年間87万人(令和3年)いて、そのうち7割の人はハラスメントが離職理由であることを会社に伝えていないそうです。また、ハラスメントの中で会社が実際に対応を行ったのは17.6%しかないとのことです。
労働力不足が続く状況の中で会社が認知しない、または未対応のハラスメントが存在することは社会にとっても会社経営にとってもよいことはありません。
引き続き職場のハラスメント対策やメンタルヘルス対応については気を付けていきたいところです。
今年の6月27日に出された「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱に関する事例集」に永年勤続表彰金について以下の問答が追加されました。
問 「事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券または記念品は報酬等に含まれるか」
答 「永年勤続表彰金については、企業により様々な形で支給されるためその取扱いについては名称などで判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件をすべて満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして原則として報酬等に該当しない。ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって直ちに報酬等と判断するのではなく、事業所に対して当該永年表彰金の性質について十分認識したうえで総合的に判断する。
①表彰の目的が企業の福利厚生施策または長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合はより福利厚生の側面が強いと判断される。
②表彰の基準は勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの
③支給形態は社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって表彰の間隔がおおむね5年以上のもの。
労働保険上の取扱いは行政手引50502によると「勤続年数に応じて支給される勤続褒賞金は、一般的には賃金とは認められない」とされています。
国税庁のタックスアンサー2591によると創業記念で支給する記念品や永年にわたって勤務している人の表彰にあたって支給する記念品などは、一定の要件を満たしていれば給与として課税しなくともよいとなっています。ただし、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合にはその全額(商品券の場合は額面額)が給与として課税されます。
老後の生活を豊かにするには、健康、生きがい、まとまった資金が必要です。健康と生きがいは、運動や食事や趣味や人間関係などへとテーマが拡がっていきますが、老後生活資金については、年金の外は若い時からの資産形成に拠らざるを得ません。
総務省の家計調査報告では、65歳以上の夫婦世帯・単身世帯の平均値として、消費支出に対し16.8%の収入不足となっている、と報告されています。この不足を補うに足る余裕資金の確保が不可欠です。
政府は預金だけではない資産形成として、投資をすることを勧めています。株式などの投資で出た利益を非課税とするNISAやiDeCoが代表例です。確かに、預金で持つよりも資産を増やせるのが投資の魅力です。預金と異なり元本が減る可能性はありますが、長い期間でやり方を工夫すれば大きな損失を出す可能性は減らせます。
NISAとは、個人の投資による株式・投資信託等の配当・譲渡益等を非課税とする税制優遇制度で、今年の税制改正で大改造されました。
令和6年1月1日からの新NISAは、非課税期間が無期限となり、年120万円限度の安全性重視型の「つみたて投資枠」と、年240万円限度の自己責任型の「成長投資枠」とになります。両枠併用は可です。
なお、無期限化に伴い、非課税保有限度額が、両投資枠全体で1800万円(成長投資枠のみでは1200万円)の制限が設けられました。最低このくらいの老後資金を長期的に蓄積しておきなさい、という政府メッセージのように見えます。
令和5年末までの現行NISAは新NISAとは別建てなので、令和5年12月31日までで打止めとなり、以後は5年、20年の非課税期間満了経過とともに旧NISAは消滅となり、順次課税口座にその時の時価額で移管されることになります。
しかし、新NISAが出来たからと言って、旧NISAに不都合があったわけではありません。2023年中に旧NISAをはじめれば、生涯非課税で運用できる金額が増えることになります。少しでも早く積立投資を始め、少しでも多くの非課税枠を確保することの意味では、新NISAを待たずに現NISAに挑戦すべきです。
老後に向けた資産形成に生かせる非課税制度には、つみたてNISAや新NISAの積立投資枠で投信を購入するもののほかに、確定拠出年金(DC)もあります。DCには企業型と個人型があり、企業型は勤め先が導入している場合に利用できるものです。
個人型確定拠出年金は「iDeCo(イデコ)」と呼ばれ、勤め先に企業型DCがない人なら、専業主婦を含め幅広い人が対象です。
iDeCoは、国民年金や厚生年金に上乗せされる私的年金制度で、掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用します。
iDeCo は、①運用中の利益が非課税になるのに加えて、②iDeCoで積み立てる掛金全額が所得控除の対象となり、所得税と住民税が軽減されます。
さらに、③受け取る時についても、税の優遇があります。受給する額の一部が非課税となります。非課税となる金額は、年金として受け取る場合と一時金で受け取る場合とで異なります。年金として受け取る時は、公的年金等控除の適用があり、一時金で受け取る時は、積立期間を勤続年数とみなして退職所得控除の適用があります。
どちらを選択するかは、税額や健康保険料に鑑みると有利不利があるので、他の退職金や年金の有無、その他の収入見込みやライフプランを考慮する必要があります。
iDeCo+とは、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している従業員が拠出する加入者掛金に中小企業事業主が、従業員の老後の所得確保に向けた支援として掛金を上乗せする制度です。事業主拠出掛金は、全額が損金に算入されます。
NISAの検討の前に、iDeCoの枠いっぱいを使い切る、というのが原則的有利選択です。iDeCoに加入できるのに、入っていない方が、いまだに多数います。とてももったいないことです。
ただし、①原則60歳まで引き出しができない、②投資信託で運用リスクが生ずることもある、③投資の管理手数料がかかる場合がある、④主婦や学生などで課税所得ゼロだと所得控除メリットがない、ということも留意事項です。
民法上の組合は、組合契約での組織であるため法人格を有しておらず、課税対象団体にはなり得ず、組合そのものに法人税等の所得課税がされることはありません。課税対象は、組合の各組合員となり、組合の損益状況を組合員が自らの損益計算の中に持分相当で総額主義的に取り込むことにより、組合員が個人であれば所得税が、組合員が法人であれば法人税が課税されることになります。これをパススルー課税と言います。
ところが、民法上の組合の組合員がインボイス発行登録事業者だったとしても、その事業者の所属する組合にはインボイス発行登録事業者になる資格が原則としてないこととされています。なお例外として、全組合員がインボイス発行登録事業者で、その旨の届出書を所轄税務署に提出している場合に限り、インボイスを交付することができるとされていますが、インボイス発行事業者とそれ以外の者が混在する組合の場合には、組合にインボイス発行権限がないので、売手側の売上税額と買手側の仕入税額とに齟齬が生じ、適正な取引の成立が難しくなります。
従来は、任意の団体名義で取引するケースにつき、民法上の組合と認識することが多かったかもしれませんが、インボイス制度の導入及び民法上の組合のインボイス発行権限否認の制度の導入により、今後は、自分たちの組織は民法上の組合ではない、あるいは民法上の組合だとしても、組合固有業務とそれ以外の業務とが混在している多様性を内包する組織との認識を持つようになるケースが増えそうです。
例えば、税理士や弁護士等の士業による合同事務所が民法上の任意組合に該当するのか否か、あるいは組合としての個々の業務に、民法上の組合としての固有業務とそれ以外の業務とが混在する多様性を内包しているか否か、というような点検です。
典型的な事例を想定すると、合同事務所から発行される税理士報酬や弁護士報酬を、事後においては、合同事務所名義ではなく、合同事務所に所属するインボイス発行個人士業者としての名義に変更して請求する、というような形式に改めることです。