100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.129

2023.07.07 Fri

駐車場賃貸のインボイス

 駐車場の賃貸借契約は、通常、1年~2年間の契約期間で作成されますが、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の運用が始まる令和5年10月1日をまたぐ契約も多いのではないでしょうか。

駐車場賃貸は、消費税課税が原則

 駐車場事業を経営する場合、砂利を敷く、ロープで区画割りする、アスファルト舗装するなど施設を整備して貸し付けます。施設の利用に伴って土地が使用される場合、消費税が課されます。課税事業者は、令和5年10月以降、賃貸借契約書や請求書、領収書等にインボイス(適格請求書)としての要件を備えさせて保存しなければなりません。

契約書を通知書で補完

 契約書、請求書等をそのままインボイスとする場合、登録番号、税率10%に対応する税込価額または税抜価額、消費税額等の明記が必要ですが、令和5年10月前に作成する契約書には、これらの項目の記載は求められていません。そもそも、駐車場賃貸では、賃料の収受に際し、通常は請求書や領収証を交付しないでしょう。
 そこで貸主のインボイス交付義務・保存義務(借主のインボイス保存義務)に対応させるため、請求書にかえて、駐車場事業者は、インボイス番号(登録番号)等を記載した通知書を別途作成して契約書を補完させて借主に交付すること、領収証にかえて、借主は銀行の支払記録と賃貸借契約書や通知書で補完する方法が国税庁のインボイス特設サイトに案内されています。

口座振替と口座振込

 口座振替の場合、借主は、インボイス番号の通知書で補完された契約書とともに通帳(課税資産の譲渡等の日付が分かるもの)を併せて保存することにより、インボイス保存義務が満たされます。
 口座振込の場合は、借主は、インボイス番号の通知書で補完された契約書とともに銀行の発行する振込金受取書を併せて保存することにより、インボイス保存義務が満たされます。

事務所賃貸、税理士、社労士も取扱いは同じ

 なお、仲介会社の作成する令和5年10月以降の賃貸借契約にインボイス番号等の記載がない場合も上記の通知書で補完する対応が必要になります。また、この取扱いは、事務所賃貸はもちろん、税理士、社労士など士業が顧問先と締結する契約についても同様の対応となります。インボイス制度開始前に業務フローを確認しておきましょう。

同月得喪-入社月に退社した場合の社会保険

メールでの退職届もへっちゃら!

 インターネットでの業務が常態となっている環境下では、前触れもなくメールで退職届を送りつけて出社しなくなってしまう事態も起きているようです。こんな振る舞いをされたら、せっかく時間と費用を掛けて採用していたとしても、会社側としても引き留めには動かないことになるでしょう。 
 社員が入社したら社会保険や労働保険の加入手続きをします。退職したら脱退手続きをすることになります。同じ月に同一人物の入退社があった場合、なかったことにして何もしなくともよいのでしょうか?

同月得喪の場合の社会保険料

 同じ月に社会保険の資格取得と資格喪失が発生することを同月得喪といいます。
(注)社会保険の資格取得日は入社日であり、資格喪失日は退職の日の翌日です。そのため、入社した月の月末に退職した場合は同月得喪とはなりません。
 社会保険の保険料が発生するか否かは、原則として月末時点で被保険者資格があるかどうかで判断します。月末退職の場合は退職月の分の社会保険料まで発生しますが、月末よりも前の日までに退職すると退職日を含む月の社会保険料は発生しません。しかしながら、同月得喪では、月の途中の退職でもひと月分の社会保険料が発生します。社会保険に日割りの考え方はありませんので、たとえ一日の在籍でも、会社と社員で社会保険料がひと月分折半負担となります。

同月中に次の会社で資格取得等の場合

 同月得喪の人が同じ月のうちに次の就職先で社会保険の資格取得をしたり、就職せずに国民年金保険への資格変更手続きをしたりした場合には、先に喪失した厚生年金保険料の納付は不要となります。この場合年金事務所から先に喪失した会社に厚生年金保険料が還付されます。本人負担分も本人に返還されることになります。これは同じ月に対応する年金保険料の二重払いがなされないようにするための手続きです。
 なお、上記は年金保険料の話であり、健康保険料(介護保険料を含む)は還付されません。
 また、雇用保険料や源泉所得税は、支給された給与額に基づいて計算されるものですので、やはり次の資格取得等による、還付という制度はありません。

令和4年度 査察の概要

ニュースでも見る光景

 国税庁は「査察の概要」として査察に入った数や告発件数、脱税額等の公表を行っています。
 査察とは国税査察官が行うもので、国税犯則取締法に基づき行われる、強制的な調査です。臨検、捜索、差押等の権限があり、相手方の同意を必要としません。テレビのニュースで大量の段ボール箱を押収するのを見たことがある方も多いと思います。
 令和4年度の査察の着手件数は145件、告発したのは103件、脱税額(加算税等含む)は127億円超とのことです。

重点事案の紹介

 査察調査は「悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、適正・公平な課税の実現と申告納税制度を維持する」という査察制度の目的に鑑みて、消費税・無申告・国際事案・社会的波及効果が高い事案を「重点事案」として取り組んでいます。
 たとえば消費税事案については、仕入税額控除や輸出免税制度を悪用した不正受還付は、国庫の詐取ともいえることから、悪質性が高いと位置付けているようです。令和4年度の消費税事案に対する告発件数は34件、その内、不正受還付事案は16件で、不正受還付額は約13億円とのことです。
 なお、消費税の不正受還付については、不正な還付申告が疑われる場合、税務署において還付を保留することもありますが、そういった「未遂」についても、平成23年に創設された未遂処罰規定により罰則が設けられているため告発が可能です。

無申告で実刑判決?

 令和4年度の「査察の概要」には、FX取引利益の無申告で実刑判決を受けている例が掲載されています。
 ただの無申告で実刑判決が出るのか、とよく見てみると一度の無申告ではなく、所得税法違反による前科の執行猶予期間中であり、数十もの他人名義で取引を行い、確定申告書を提出することがなかったという悪質性が判断され告発、実刑判決となったようです。
 脱税は犯罪です。告発を受けた場合懲役刑や罰金が待っています。また、告発されなくとも、加算税や延滞税が課されます。

海外在住で日本企業にリモート勤務の所得税と社会保険

リモートワークが進むと海外在住もOK!

 リモートワークでの勤務が普及し、業種によってはフルリモートで居住地が会社の近くでなくとも問題ないというところも増えています。極端な話、海外在住者と雇用関係を結び国外に在住のまま働いてもらうこともできます。日本国内の採用市場ではこれまで絶対数が少なく人材難だった、英語ができるITエンジニアなどは、海外から人材を採用する方針も選択肢の一つとなっています。

海外からリモート勤務者の所得税の課税

 話を単純化するため、前提として、リモートで日本勤務するITエンジニアは、これまで日本に住所も居所も持ったことがない日本の所得税法上の非居住者でかつ役員とはならない労働者とします。そして、勤務者は日本の会社への出社(=日本に来ること)は一切不要とし、給料は日本から海外の本人の銀行口座に直接支払われるものとします。さらに、勤務者の居住地国と日本との間には租税条約があり、給与所得者は居住地国でのみ課税されるものとします。
 給与は日本から国外の本人口座に送金されますが、日本で勤務を行わないため国内源泉所得とはならず、給与の支払いの際の日本の所得税の源泉徴収は不要です。年末調整も対象外です。日本では課税されないため日本での確定申告も不要です。
 課税関係の精算は勤務者本人の居住地国で確定申告をすることになります。

海外リモート勤務者の社会保険等の扱い

 海外の人を海外在住のまま日本の企業が雇用することはまだ法整備がなく、今後変わる可能性はありますが、いまのところ、給与が日本の企業から支払われていれば、社会保険は適用されるものと考えられています。ただし、介護保険には日本での居住要件があるので加入できません。
 労働保険は、労働災害保険のみ特別加入制度(海外派遣者)が適用できれば対象となれます。雇用保険は、海外在住の場合、現地採用と同じ扱いとなり雇用保険には加入できません。
 今後、海外リモート勤務をする実例が増えてくると、法整備も後追いで対応されてくるものと思われます。適用の際は、専門家および年金事務所に相談の上、実態とその時点での法解釈に従った手続きが必要となります。

日本在住で海外企業にリモート勤務の所得税と社会保険

給与格差と円安が海外会社就職を後押し?

 リモートワークでの勤務が普及し、業種によってはフルリモートで居住地が会社の近くでないところでも問題ないという会社も増えています。極端な話、海外の会社と雇用関係を結び日本に在住のまま働くこともできます。円安が続いている2023年では、特に英語ができるITエンジニアであれば、人件費がより高い海外の会社にリモートワークで勤務し、年収アップを狙うことも可能となっています。

所得税の課税関係はどうなるのか

 話を単純化するため、前提として、リモートで海外勤務するITエンジニアは、全世界所得が課税対象となる所得税法上の日本の居住者とします。また、勤務する海外会社は日本に支店や駐在員事務所など拠点となる場所や給与支払事務所を持たないものとします。さらに、給与を支払う海外会社は日本との租税条約がある国にあり、給与所得者の居住地でのみ課税されるものとします。
 給与は国外から日本の銀行口座に送金されますが、その際日本の所得税の源泉徴収は行われません。そのため年末調整での課税関係の清算の対象とはならず、自分で確定申告をしなければなりません。円口座に振り込まれる場合は給料日に振り込まれた金額の合計が給与収入となります。日本もしくは海外会社所在国にある銀行の外貨預金口座に外貨で振り込まれる場合は、入金日のTTM(電信仲値相場)で円換算します。
所得税の計算で、所得控除や税率・税額控除他は税法の規定通りに適用されます。

社会保険等の加入の可否はどうなるのか

 日本在住で海外企業にリモート勤務の場合には、国内に社会保険の加入となる適用事業所がありませんので、社会保険の加入はできません。健康保険は国民健康保険、年金は国民年金に加入することになります。
 労働保険も、事業場がありませんので、適用されません。そのため、海外企業にリモート勤務の場合には、労災保険も雇用保険も加入できません。労災保険に代わるものとして、損害保険で付保しておくことの検討をお勧めします。雇用保険が付保されないことを補うには、雇用契約書で何らかの手当て(=例えば解雇予告期間を長く設定する等)を設けてもらうなどの事前の交渉が望まれます。