100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.121

2023.05.12 Fri

役員貸付金にご用心

そのお金は利息も返済も必要です

 役員貸付金とは、会社から役員に対して貸し付けているお金のことです。往々にして経費支払いの際にまとまった金額を法人口座から引き出したものの、一部何に使ったのかわからない不明出金が出て、当面の処理として役員貸付金にするといったケースが多いようです。時には利益を出すために費用の一部を役員貸付金として粉飾するような場合にも使われます。

いずれにせよ役員貸付金という勘定はあまり良いイメージはありません。貸し付けたお金には利子を付けなければならず、役員が返済をしなければならないものです。役員貸付金が増えていることに明確な理由がない場合、金融機関が粉飾を疑ったり「個人と法人の区別が曖昧な可能性がある」と判断し、融資を控えることがあるため注意が必要です。

役員貸付金の問題点

 役員貸付金が増えると法人の資金は減少します。資金は減少しているものの、法人税法上は貸したお金には利息を付けなければならないため、収益があるものと計算されますから法人税が増えることがあります。

 もし役員が役員貸付金を返済できず、法人が債務放棄を行ったとしても、役員の資産状況や支払い能力に照らして、その状況が適当でないと税務署が判断した場合は、法人税は減らず、役員個人は所得税等の増加となります。  また、役員が貸付金を返済しないまま死亡してしまった場合には、法人からの借入金は相続財産となるため、相続人が法人に返済をすることになります。

どうやって返す?

 役員貸付金を返したいが、役員の手元に資金がない場合の返済方法を検討してみましょう。

①役員報酬の一部を貸付金の返済に充てる:手取りを減らしたくない場合は役員報酬の増額を検討します。ただし、個人負担の所得税等は増加します。

②役員退職金を返済に充てる:退職金の一部を相殺して精算すると、個人の負担も少なくて済みます。なお、退職金が過大な場合は、税務上損金として認められないリスクがあります。 ③役員の資産を法人に売却:物や権利の移転で返済に充てます。当然譲渡所得税は課税されます。

「健康経営」推進のメリット

国も推進する「健康経営」

「健康経営」を所管する行政官庁をご存じでしょうか。「健康」というワードから厚生労働省を想像するかもしれませんが、実は経済産業省です。 経済産業省がヘルスケア政策として取り組んでいることの一つが健康経営になりますが、このヘルスケア政策には3つの柱があります。1.国民の健康増進(健康寿命の延伸)2.持続的な社会保障制度構築への貢献(医療・介護本体の高度化、生産性向上など)3.経済成長(労働力の量と質の確保など)の3つの柱を同時実現させることを政策目標としています。そして、この政策目標実現の需要面からの施策が健康経営の推進(企業が従業員の健康づくりをコストではなく投資として捉え、人的資本投資の一環として推進)です。

健康経営優良法人認定制度

 国は健康経営を推進するために各種の顕彰制度を設けています。そのうち最も企業の認定申請が行われているのが「健康経営優良法人」の認定制度で、2021年度における中小規模法人部門での申請法人数は12,849社(認定法人数12,255社)となっており、また、2022年度の申請法人数は2022年11月時点の数字で14,430社と前年より1,500社以上増加し、年を経るごとに申請する企業数が増えており、注目度合いが上がっていることが窺えます。なお、2022年度から健康経営優良法人認定制度の事務局運営が民間に委託され、現在は「㈱日本経済新聞社」がその委託を受けています。

企業における健康経営推進のメリット

 企業特に中小規模法人において健康経営優良法人の認定を受ける効果(メリット)にはどのようなものがあるでしょうか。一つは労働市場への効果で、採用活動などで健康経営を活用する企業が増加しています。2022年6月からハローワーク求人票の中で健康経営優良法人ロゴマークが利用可能になり、また、大手就職・転職サイトでは特設ページなどにより健康経営に関する普及啓発を強化しています。その他の効果としては、金融機関84か所(2021年時点)で融資や保証料の健康経営推進に関するインセンティブ措置が採られていることなどが挙げられます。

定期健康診断を実施した後は

定期健康診断の位置づけ

 会社は少なくとも年に1回定期健康診断を実施しなければなりません。一方で従業員は原則として会社が実施する定期健康診断を受診しなければなりません。これは労働安全衛生法に規定された双方の義務になります。なぜ、このような義務が法律に定められているかと言えば、定期健康診断が、従業員の健康を確保するための最も基本的な取組みと位置付けられているからです。また、健康診断の結果を従業員自身が把握して自己の健康管理に努めることはもちろんですが、会社も結果を把握して異常があった従業員が健康に働き続けることができるように各種の事後措置を講ずることが求められています。

労働安全衛生法に基づく事後措置

 定期健康診断の結果は会社に通知されますので会社は各従業員の健康状態を知ることができます。そこで会社は定期健康診断の結果を踏まえ、従業員が健康に働き続けられるよう適切な措置を講じる必要があります。労働安全衛生法では会社に対し、定期健康診断の結果に異常の所見があった従業員に対し、医師等の意見を勘案して、就業場所の変更や労働時間の短縮など、必要に応じた措置を講じなければならないとしています。さらに、努力義務ではありますが、定期健康診断の結果、要経過観察等の所見があった従業員に対して、医師や保健師による保健指導や健康相談を利用し、従業員の実情を考慮しながらその健康の保持増進に努めなければならないとしています。会社には労働契約法上の安全配慮義務も課せられることから、労働者の健康に関する取り組みはとても重要になります。

特定保健指導とは

 定期健康診断の結果を踏まえた事後措置については、会社に対しての義務だけでなく医療保険者(各種協会けんぽや健康保険組合など)が行う義務があります。これは40歳から74歳までの被保険者及びその被扶養者の生活習慣病の予防と早期発見を目的としたもので特定保健指導と言います。 この特定保健指導は医療保険者の義務ではありますが、会社は従業員やその被扶養者が特定保健指導を受診しやすくするために、就業時間内の受診を認めることなどの協力をすることが望ましいとされています。

電子帳簿保存法の電子取引データ保存の猶予改正

改正された電子取引データ保存

 令和5年12月31日まで「宥恕(ゆうじょ)措置」が取られていた電子取引データ保存に関するルールが、令和5年の税制改正で変更されています。
 令和4年の税制改正で設定された、やむを得ない事情がある場合、税務調査等で出力書面の提示または提出に応じられれば、令和5年末までの2年間は電子取引データの紙保存も許されていたのですが、令和5年改正において宥恕措置は年末で廃止と明言されました。

宥恕措置は終わるが猶予措置ができる

 宥恕措置は終わりますが、「猶予措置」が新たに設定されました。

①保存時に満たすべき要件に従って電子取引データを保存することができなかったことについて、税務署長が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)

②税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードの求め及び電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めに応じることができるようにしている場合

上記の条件を満たしている場合は、改ざん防止や検索機能などの保存時に満たすべき要件に沿った対応は不要となり、電子データを単に保存しておくことができるとしています。

 宥恕措置との違いが分かりにくいようですが、宥恕措置では調査等での「ダウンロードの求め」に応じる必要はありませんでした。新たな猶予措置では紙保存した電子取引データも「ダウンロードの求め」に応じる必要がある、というのが異なる点です。  公官庁内のDX・ITC化が急速に進む中、市井との温度差を感じ取ったのか、なし崩し的な改正に感じられます。法的には緩くなった半面、ペーパーレス化や事務合理化を推進し、宥恕期間終了時からのルールを策定しようとしていた企業は、改正によって振り出しに戻るケースもありそうです。

宥恕措置中の出力書面の取扱い

 宥恕措置中の電子取引データをプリントアウトした書面は、保存期間が満了するまではそのまま保存しておき、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば問題はないとされています。

ストレスチェックは何のため

ストレスチェック制度の目的

 常時使用する労働者が50人以上いる事業場においては、毎年1回ストレスチェックを行うことが労働安全衛生法により義務付けられています。ストレスチェックの目的としては、「労働者自身が自分のストレスへの気付きを促すこと」、「労働者のメンタル不調の未然防止」、「ストレスチェックの結果を通じて職場環境の改善につなげること」があげられます。その意味では常時使用する労働者が50人未満の事業場においてストレスチェックの実施は努力義務となっていますが、自社の労働者の心の健康状態を把握するためにも、労働者数にかかわらず実施することが望ましいとされています。

ストレスチェック実施後の措置

 ストレスチェックの診断結果は、定期健康診断と異なり、会社には通知されず労働者本人に直接通知されます。そこでストレス度が高いと診断された労働者本人からの申し出により医師による面接指導を受けることになります。つまり医師による面接指導を受けるかどうかは労働者本人に委ねられているため、ストレスチェック指針では「面接指導を受ける必要があると認められた労働者は、できるだけ申し出を行い、医師による面接指導を受けることが望ましい」としています。一方で面接の申し出について躊躇する労働者も少なくありません。その場合にはオンライン予約システムなどを活用して、会社を通さずに労働者が直接医師等に面接の申し込みができる仕組みを構築するのも一つでしょう。また、必ずしも面談によることなく、WEB会議システムなどを活用したオンライン面談を実施することも認められています。

ストレスチェックと職場環境改善

 会社はストレスチェックの結果について、労働者個人ごとの結果を知ることはできませんが、「ストレス判定図」に基づいた職場全体の集団分析を行うことが推奨されており、分析結果を通じて職場環境の課題や問題点を把握し、職場環境の改善への取組を進めていくことが期待されます。ストレスチェック指針では、この場合も医師や保健師、精神保健福祉士などの外部専門家の意見を聞き助言を受けることが望ましいとされています。