100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.98

2022.11.25 Fri

借り上げ社宅の税金-個人は節税で、会社は変わらない

借り上げ社宅制度で個人の税金負担は減る

会社が住宅の賃貸物件を借り上げして従業員等に貸与する「借り上げ社宅」制度を導入すると、通常、その従業員等の税金(所得税・住民税)の負担が減ります。それまで給与としていた額の一部を「借り上げ社宅」費用に充て、その分給与額面を減らす仕組みとなるためです。対象者は給与を減らされても、それまで支払っていた家賃費用を支払わなくてよくなるので困りません。

例:家賃15万円の社宅で自己負担5万円

従前:給与45万円家賃15万円で残30万円

導入後:給与35万円家賃5万円で残30万円

※給与額面10万円に対する税金負担が減るので手取りは多くなります。

一方、会社側の経費負担は変わりません。

従前:給与45万円の支払い

導入後:給与35万円+家賃15万円-本人負担家賃5万円で45万円の支払い

※厳密には、会社負担の社会保険料等が、給与額面10万円にかかる分、減ります。

借り上げ社宅制度導入時に気を付けること

社宅制度には社宅規程の整備が必要です。特定の人だけが経済的利益を享受しないような規程ぶりとしなければなりません。

また、借り上げ社宅は、礼金や更新料、退去時の原状回復費用なども借主である会社負担となります。入居者負担額を決める際は、この諸費用負担の考慮も欠かせません。

社宅の適正家賃の計算方法(従業員の場合)

借り上げ社宅の場合、家賃全額が会社負担では、従業員等に対しての給与とみなされ、課税の対象となります。課税されないためには、一定額の家賃(「賃貸料相当額」)を従業員等から徴収する必要があります。賃貸料相当額は(1)から(3)の合計です。

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント

(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))

(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント

従来、受取家賃は、支払家賃の50%ならよいとか、従業員は10~20%の家賃とし、最終手段は、税務調査で正しい家賃を算出してもらえばよいなどもいわれてきました。

以前は固定資産税の課税標準額は大家さんに聞くしかありませんでしたが、いまは賃借人も請求できますので、適正家賃の計算ができます。適正家賃の計算をし、給与課税されない金額を決めましょう。

借り上げ社宅の社会保険料-現物給与価額は厚労省告示

社宅使用料は所得税法と社会保険法で違う

社会保険(健康保険・厚生年金保険)では、標準報酬月額を設定し、保険料の額や保険給付の額を計算します。標準報酬の対象となる報酬は、基本給のほか、残業手当等諸手当、労働の対償として事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。社宅などの住宅の貸与も現物支給に含まれます。

所得税法では、その物件建物の固定資産税の課税標準額をもとに所定の計算をし、賃貸料相当額の計算をし、受取家賃との差額で経済的利益発生(=給与課税)の有無を認識します。

社会保険では、現物で支給されるものが、食事や住宅である場合は、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(厚生労働省告示)に定められた額に基づいて通貨換算します。

社会保険料算定のための現物給与計算

住宅で支払われる現物支給等である場合、1人1か月当たりの住宅の利益の額は(畳一畳につき)いくらと、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」で都道府県ごとに決められています。

ここで計算される住宅面積は、居住用の室で計算します。住宅面積が㎡で表示されている場合、1畳あたり1.65㎡に換算して計算します。もし、勤務地がA県、社宅がB県にある場合、現物給与価額は勤務地であるA県による価額で計算します。

(住宅貸与の通貨への換算額)=(住宅面積)÷ 1.65㎡ ×(都道府県ごとの価額)

となります。都道府県ごとの価額は、日本年金機構のホームページで確認できます。

被保険者(社員)から住宅費用を徴収している場合は、換算額から徴収額を差し引いた額が報酬額となります。換算額と同額以上の住宅費用を徴収している場合は、住宅貸与による報酬の額はゼロとして取り扱われます。

所得税法と社会保険法でどちらが優先?

それぞれの規定で経済的利益の課税や現物給与発生の有無が決まってくるので、借り上げ社宅の場合、両方の計算をして、入居者から徴収する金額を決める必要があります。

地域によっては、社会保険の現物給与額の方が所得税計算よりも高く算定されることもあるようです。往々にして所得税の経済的利益の有無の確認のみで安心しがちです。社会保険料の計算にも影響を与えないかどうか、社会保険労務士さんにも相談して手続きを進めることがおすすめです。

政府税調 消費課税の課題

消費税や揮発油税など消費課税の税収は、令和4年度において28兆円が計上されており、70兆円の政府予算の4割を占める重要な財源となっていますが、政府税制調査会では、消費課税について将来を見据えた検討が開始されました。

国境を越えた役務提供に係る課税

国外事業者より電子書籍、音楽、広告などの配信サービスを受ける場合、消費地原則に基づいて課税すべきとして、平成27年10月から、BtoB取引については、国内事業者が申告納税するリバースチャージ方式となり、また、BtoC取引については、国外事業者にて課税する方式となりました。

その後、オンラインゲーム配信サービスが年々増えていますが、大小様々な国外事業者(サプライヤー)は日本国内にビジネス拠点を置かず、国内に資産を持たないことから、申告納税や滞納処分に困難が伴うことが課題となっています。このため、欧州にならい、サプライヤーと国内消費者の間で、オンラインゲーム販売の仲介、課金代行を行う、デジタルプラットフォーム運営会社に課税してもらう方法を導入すべきことが提起されました。

 

EV(電気自動車)に対する課税

脱炭素社会の実現を目指し、環境性能の良い自動車には、エコカー減税など軽減措置が図られています。政府は2035年までに、電動車100%を実現させるべく、電気自動車、燃料電池自動車などについて、自動車税と軽自動車税は、環境性能割を非課税、種別割は減税、自動車重量税は、2回免税、揮発油税は、課税なし(ガソリンは使わないので)と優遇しています。

一方、道路設備(橋、トンネルなど)は、経年劣化が激しく、今後、多額の修繕費用がかかりますが、電気自動車の車両重量はガソリン車に比べ、20%~30%、重く、道路を損傷させる度合いも大きいのに税負担が軽いのは不公平であり、走行距離に応じた課税などを検討すべきとの意見が出ました。

消費税率の引き上げ

高齢化社会が進展する中、欧州に比べ、税率の低い消費税は、長期的に税率の引き上げを検討すべきとする意見が、数名の委員から上がりました。そこでは、電気自動車に対する課税と同様に、「受益と負担」という言葉が使われています。将来の社会における負担の在り方が問われています。

大病院を紹介状なしで受診 する場合の料金引き上げ

大病院の「特別の料金」も値上げ

原材料価格の高騰や円安により、食品や生活用品の値上げが続いていますが、10月には食品だけでも6,500品目で値上げがされたそうです。

この10月からは食品に限らず値上げがあります。大病院を受診するとき、初回に医院等の紹介状を持参しますが、紹介状なしで大病院を外来受診する場合の患者負担料金も引き上げられています。

これは一部の病院への外来患者の集中を避けるためです。患者の待ち時間や勤務医の外来負担を軽減するためもあり、一定規模以上の対象病院について紹介状を持たずに外来受診した患者などから一部負担金(3割負担等)とは別に「特別の料金」を徴収します。その見直しがあり、金額と対象となる病院も拡大されています。

見直しの内容は

「特別の料金」はこれまで医科の初診が5000円以上、再診が2500円以上でしたが初診は7000円以上、再診が3000円以上へと引き上げられています。

歯科でも初診が3000円以上、再診が1500円以上から初診が5000円以上、再診が1900円以上へと引き上げられています。

対象となる医療機関の範囲も広がっています。今までの対象は特定機能病院(高度の医療の提供、高度の医療技術の開発、研修を実施する能力のある病院で大学病院などがこれに当たります)と、地域医療支援病院は(救急医療や紹介患者に対する医療の提供等を行い「かかりつけ医」等への支援を通じて地域医療の確保を図る病院)でしたが、さらに紹介受診重点医療機関(医療法で協議のうえ紹介患者への外来を基本とする医療機関として都道府県が公表した病院)が加えられています。

まずは住んでいる地域の医療機関を受診し、必要に応じて紹介を受けるなど医療機関の機能や役割に応じた受診を行うように勧めています。