100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.109

2023.02.17 Fri

健保と労災どちらを 使うか迷うとき

副業先に移動中でのけが

社員が副業先に行く途中でけがをした場合(ここでは社員の副業は認めていたとします)、副業先での契約はどのような契約をしていたのかが問われます。使用者と労働者、つまり雇用関係にあったのか、単なる請負契約であったのかで労災保険か健康保険で対応するかが変わってきます。作業過程は本人の自由意思に任されていて仕上がれば報酬の支払いがある等の場合、使用従属関係は認めにくいといえます。たとえ契約書が請負関係になっていたとしても実態が使用従属関係にあるとして副業先との間に労働者性があれば業務上のけがと判断され労災保険の対応ということになります。

健康保険は業務外の保険事故だけではない

健康保険は従前、業務外の事由による疾病、負傷、死亡、出産に関し、保険給付を行っていました。しかし社会情勢の変化で働き方も多様化し、被保険者が副業で請負業務中に負傷した場合や、被扶養者が請負業務やインターンシップ中に負傷した場合など健保も労災からも給付がうけられないケースが多く出て、平成25年10月から健康保険の改正で業務災害以外の疾病、負傷、死亡、出産に関する保険給付を行うことになりました。つまり副業で業務請負により仕事をしていれば健康保険になります。

法人役員が業務上の事故でも健保の場合も

法人の役員の業務上の負傷については労使折半の健康保険からの給付は適当でないとされ、法人の役員としての業務に起因する負傷は原則として健康保険ではないとされています。なお、被保険者が5人未満の適用事業所の法人の代表者などは一般の従業員と同一の業務に従事していた過程での傷病は健康保険の保険給付の対象になる特例があります。また、中小企業の事業主は労災保険の特別加入をすれば労災の給付を受けることができます。

健保を使ったが労災であった場合

もし労災であったのに健康保険証を使用して受診をしたときは受診した病院に健保から労災に切り替えがきくかを確認し、できないときは一時的に全額自己負担をしたうえで労災保険に請求となります。切り替えができる場合は窓口で支払った額を返還してもらい、労災保険の5号用紙(業務上)か16号の3(通勤災害)の請求用紙で受診した病院に提出してください。

相続時精算課税を介護に活用

一人残された高齢の親の在宅介護が難しくなり、介護施設の入所資金を捻出するため、自宅を売却することがあります。しかし、親が認知症になると売買契約を行うことが困難になります。そこで認知症になる前に自宅を売却する方法の一つとして、子供が自宅の贈与を受け、その後、自宅を売却して介護施設の入所資金を確保することも検討可能です。

認知症対策としての相続時精算課税贈与

自宅の贈与には相続時精算課税贈与を利用します。2,500万円まで控除され、残額に20%の定率課税となるため、贈与税を圧縮できます。将来、相続が起きた時は、あらためて相続税として課税され、先に納付した贈与税は受贈者の相続税額から控除して精算されます。さらに相続財産の価額が基礎控除額(3,000万円+相続人1人当たり600万円)の範囲に収まる場合には相続税は課税されず、先に納付した贈与税の全部または一部が還付されます。

相続時精算課税の留意点

受贈者が自宅を売却した場合の譲渡所得の計算では、贈与者である親の取得価額を引き継ぎますが、子の居住用不動産でなければ譲渡所得に3,000万円控除を受けることはできず、譲渡所得税の負担が大きくなるほか、翌年の国民健康保険料や介護保険料などが増加することにも留意します。

また、相続時精算課税は、一度選択したら暦年課税に戻ることはできませんので、毎年、贈与を受けるたびに、相続時精算課税贈与としての申告が必要となります。相続時に小規模宅地の特例の適用を受けることもできません。

親に対する贈与課税はあるか?

子供が親の介護施設の入居一時金や施設利用料を負担することが、子供から親への贈与課税となるか問題となります。この場合、扶養義務者間で生活に通常、必要な資金を贈与することは非課税とされますので親に介護施設の入所資金等を負担する資力がなく、介護のために負担する費用であれば非課税の扱いを受けることができるでしょう。反対に介護に必要な水準を超え、老後生活を楽しむための豪華な施設の入所資金を負担するような場合は、子供から親への贈与課税が生じる可能性がでてきますので注意を要します。そして、何より大切なことは、親が長年慣れ親しんだ自宅を売却し、子供に自身の生活を託すことへの信頼構築にあるのかもしれません。

確定申告しなくてよいのか?退職所得

令和5年3月申告用「確定申告の手引」

退職所得の金額については、源泉徴収で納税済みなので、確定申告をする必要がありません。これは、現職当局者執筆の上記小見出し書籍において記されている所です。

この「手引」では、損益通算や繰越損失や所得控除や税額控除の適用対象にするために申告する場合、いわゆる有利申告に限っては、申告もあり得る、としています。有利申告以外の場合の申告については、特に「必要」と書かれてはいません。

バンフレットの「手引き」では

郵送されてくる所得税の申告書用紙に同封されている「令和4年分 所得税の確定申告の手引き」というパンフレットでは、その中の「退職所得がある方」の項目の欄に、「退職所得のある方が確定申告書を提出する場合は、退職所得を含めて申告する必要があります」と、申告からの除外は許されないとの趣旨が書かれています。

去年から変わったけれど

「令和2年分」の「所得税の確定申告の手引き」というパンフレットでは、有利申告での申告の案内しか書かれていません。変わったのは、昨年からで、今年もその内容を踏襲しています。

それに対し、書籍の方の「確定申告の手引」では、令和2年以前の内容と変わることなく、有利申告の場合においての案内しかしていません。

有利申告でない時に申告に含めると

「公的年金等に係る雑所得」以外の所得の合計所得金額が1000万円超の場合には、公的年金等控除額が一律10万円引下げられ、2000万円超の場合には、一律20万円引下げられます。配偶者控除・配偶者特別控除は、本人の合計所得金額が900万円から段階的に控除の金額が減少し、合計所得金額1000万円超では対象外となります。寡婦控除・ひとり親控除は、合計所得金額500万円以下との適用制限があります。基礎控除は合計所得金額2500万円以下に限定です。雑損控除と医療費控除の足切り額は合計所得金額が大きくなると増える場合があります。これらの場合においては、退職所得を申告に含めると、税負担を増やす結果になることがあります。

どちらが正しい?

「手引」と「手引き」の相違は、運用として両立しているものなのか、片方が誤っているのか、ハッキリしてもらいたい所です。

建議採用で税理士会のガッツポーズ

税理士会の税制建議

税理士会には、税務行政・租税・税理士制度につき権限ある官公署に建議し、諮問に答申することができると税理士法に規定されています。税理士の多くは個人及び中小企業との関与関係にあり、個人や中小企業と関わりのある税制に敏感になる立場にあり、税理士会の税制建議も必然的に個人・中小企業にとっての税制上の不都合の改善を目指すという傾向を持っています。

それ故か、税理士会建議の採用は必ずしも多くはなかったところ、令和5年度税制改正では、税理士会の建議項目や答申した意見が多く採り上げられたとの会長コメント、新聞広告が出されています。

今年の採用項目

①これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置

②前々年、前々事業年度における課税売上高1億円以下の事業者が行う1万円未満の課税仕入れにつき、これまで通り、インボイスの保存がなくとも帳簿のみで仕入税額控除を可能とする(6年間)

③少額な(1万円未満)値引き等の返還インボイスの交付を不要とする

④災害により住宅・家財等に損失が生じた場合の雑損控除の繰越控除期間を3年間から5年間へと延長する

⑤相続時精算課税制度適用後の贈与について、相続財産にも加算しない110万円基礎控除の導入

⑥相続時精算課税で受贈した土地・建物が災害により相続時までに滅失した場合、相続時に再計算する

会長コメントと決意表明

これらを見ると、今年の税制改正の目玉とされているものの多くが税理士会からの建議に関連するものです。会長コメントの冒頭にあるように、これらは、税理士政治連盟の政治家への働きかけ、及び税理士会が平素より国民や納税者に寄り添い、その声を真摯に受け止め、関係各所に届けた成果のようです。

さらに会長コメントは、免税事業者が取引から排除されることのないよう、今後も引き続き、インボイス発行事業者以外からの課税仕入れ80%控除という経過措置について、時限規定を改めて当分の間維持していくように関係各所に求めていくと、決意表明しています。

相続時精算課税の普及が戦略

相続時精算課税制度は評判悪し

相続時精算課税制度は、贈与額が2500万円に達するまでは贈与税がかからず、2500万円を超えた部分は贈与税率20%で課税される制度ですが、贈与者死亡時の相続税は、相続時精算課税の適用を受けた受贈財産の価額と相続や遺贈により取得した財産の価額との合算額を基に計算し、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。

なお、次に掲げるようなデメリットがあり、この制度の積極的な活用の呼びかけは少なく、利用者の数も限られていました。

現行相続時精算課税制度のデメリット

①暦年課税制度に戻ることが出来ない

②基礎控除の制度がなく110万円以下の贈与でも贈与税の申告が必要

③少額でも贈与税申告書の提出漏れには20%の加算税

④受贈財産が災害等で滅失しても考慮されない

⑤不動産だと小規模宅地の特例が使えず、不動産取得税の負担があり、登録免許税も相続時より高い

⑥相続税の物納には使えない

⑦贈与者である祖父の死亡前に相続時精算課税制度適用者である父が死亡したような 場合、その相続人となる子は、父の相続に係る相続税の負担と、承継した父の相続時精算課税制度適用による納税義務の負担との二重課税となる

デメリット部分解消への税制改正

今年の税制改正で、上記の②~④について見直しがなされることになりました。

(1) 相続時精算課税制度内に110万円の基礎控除制度が設けられ、毎年の特定贈与者からの贈与額からその基礎控除が引かれるとともに、その範囲内の贈与は申告不要とされ、相続に際しては、課税価格に加算される相続時精算課税受贈財産の価額は、先の基礎控除をした後の残額となります。110万円以下の毎年贈与だったら、暦年課税の3年内贈与加算相当部分も圧縮され、より優遇です。

(2) 相続時精算課税で受贈した土地・建物が相続税申告時までに災害により滅失等の被害を受けた場合は、相続税の申告での課税標準への加算額から当該被害額を減額することとされました。

今後、相続時精算課税制度の利用が大幅に増加することが予想されます。