100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.36

2021.04.30 Fri

令和3年度税制改正 ベビーシッター助成金の非課税化

ベビーシッター助成金で「税金爆死」

国や自治体は平成30年ごろから、待機児童対策や働き方改革の一端として、ベビーシッター利用支援事業を展開しています。ベビーシッター料金を助成してくれるものであり、保育園の決まらない、急な病気等で育児に問題が発生したなど、子育てにおける不測の事態への力強い支援と見る向きもありました。

ただ、「助成された国や自治体の負担分は雑所得としてカウントされる」という課税の仕組みだったので、割引された低額な利用料で子供を預けたものの、後にかかってくる税金の高さに辟易する状態となるため、この現象はSNS上などでは「税金爆死」という悪名で囁かれていました。

 

令和3年度改正で非課税へ

今年度の税制改正で国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等は非課税となりました。昨今の新型コロナウイルス感染症に伴う休園・休校に対応するため、ベビーシッター料金等の助成について特例で非課税となっていた措置を、そのまま継承する形となります。

また、ベビーシッターの利用料に対する助成の他にも「認可外保育施設等の利用料に対する助成」「一時預かり・病児保育などの子を預ける施設の利用料に対する助成」「各助成と一体として行われる生活援助・家事支援・保育施設等の副食費・交通費等への助成」に関しても、非課税となります。

 

国と各自治体で助成内容に軽微な差がある

内閣府では「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」を実施しています。この制度は、企業側から手続きを行い、企業が割引額の3%(大企業は8%)を負担することによってサービスが受けられる制度です。また、各自治体は個人向けにベビーシッターの助成事業を行っています。

企業主導型ベビーシッター利用者支援事業に関しては、企業が利用申し込みをする必要があります。負担額も少なく手間もわずかなため、子育て世代への福利厚生の一つとして、導入を検討してみるのも良いかもしれません。

暦に従って計算するだけではない償却計算

2ヶ月の次は4ヶ月

かつて、大学教授の方が、税務専門誌の質疑応答事例の中で、7月31日使用開始した減価償却資産の月数計算について、決算期末が9月30日だったら事業供用月数は2ヶ月となり、また、決算期末が10月31日だったら、事業供用月数は4ヶ月となる、と回答していた記事がありました。

理由は民法の定めによる計算

償却限度額を計算する場合の「月数」とは、カレンダーの枚数を意味するものではなく、暦に従って計算するのであり、「暦に従って計算する」とは、民法第143条による計算であり、「応当する日の前日に満了」、応当日がない時は「その月の末日に満了」との規定に従うから、とのことでした。

7月31日から9月30日までの間に含まれる「30日」は、8月30日と9月30日の2回なので、その月数は2となる、ということ、即ち、「7月31日から8月30日まで」の1ヶ月と「8月31日から9月30日まで」の1ヶ月との合計2ヶ月、ということです。

税の実務においては

しかし、当局の監修を受けていると思われる減価償却の税務ソフトでも、7月31日使用開始で決算期末が9月30日の期間計算を2ヶ月と1日という計算で3ヶ月の償却計算をしています。先の大学教授の解釈にも一理あるかと思いますが、実務では、カレンダーの枚数による計算が主流のように思われます。

民法の規定の適用を徹底するなら

「暦に従って計算する」との民法規定を根拠に置くのだとすると、「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない」という民法第140条の規定も無視するわけにはいきません。

7月31日使用開始で決算期末が10月31日の期間計算では、初日不算入とすると8月1日から10月31日となり、3ヶ月ちょうどで、大学教授のいう4ヶ月にはなりません。期間の満了日は民法遵守で、初日については民法無視というのも、不合理です。

慣習法的実務解釈が定着か

国税通則法にも期間の計算の定めがあり、期間の初日不算入、期間の定めは暦に従う、応当日前日の満了と、民法と同じ規定になっていますが、減価償却の償却月数計算では、民法の規定に拠るのではなく、初日算入で、カレンダーの枚数に拠るという、税法の世界独自の解釈ルールがありそうです。

日本経済の救世主になれるかM&A促進税制

政府がM&Aに熱い視線

経済産業省は、1年ほど前に公開した「中小M&Aガイドライン」でM&Aの後押しをする姿勢を鮮明にしています。

「中小M&Aガイドライン」によると、2025年までに、平均引退年齢の70歳を超える中小企業の経営者が約245万人おり、うち半数の約127万人が後継者未定とのことです。

廃業による経営資源の散逸が積み重なることにより、優良な経営資源が活用されないまま喪失されてしまうことは、日本経済の発展にとって大きな損失との認識で、M&Aの普及がその対策として有効な切り札であり、生産性の向上にも資するとしています。そして、10年で60万、年平均10万のM&A契約を成就するとの計画を立てています。

計画実現のために役割喚起

そのため、売り手・買い手を繋ぐM&A専門業者の活性化を期待するとともに、商工団体、金融機関、弁護士・公認会計士・税理士といった各分野の専門家に向けても、それぞれの分野別にM&A支援として期待される役割や留意点などを提示しています。

M&A業界は、30年ほどの歴史の新興産業で、現在の専門業者数は300社程度とのことです。日税連もホームページでM&Aのマッチングをすすめています。

切り札としてのM&A促進税制

令和3年度税制改正の中に、M&A促進税制が二つあります。

1.株式交付M&Aでの譲渡益繰延制度

2.M&A投資リスクに備えるための株式取得価額の70%損金算入制度

株式交付の場合の譲渡益繰延制度創設は、2019年中に経産省が改正要望事項としてあげていたものですが、会社法の株式交付制度創設の施行予定が2021年3月1日となっていたので、1年遅れでの立法となりました。これは、売り手側への優遇税制です。

もう一つの優遇税制は、買い手側に対するものです。

M&A対価の70%損金算入の新制度の要件は次の内容です。

・青色申告中小企業者が対象

・経営力向上計画による取得

・株式の取得価額10億円以下

・投資損失準備金の計上

・6~10年経過時準備金の取崩し

・中小経営強化法改正が前提

・令和6年3月31日まで適用

自社株買収M&A

会社法に新たな組織再編制度が創設された

会社法制の改正が2019年12月4日に成立し、同12月11日に公布され、本年3月1日に施行されました。この改正法で「株式交付」という新しい制度が創設されました。改正会社法により創設された「株式交付制度」とは、合併、分割、株式交換、株式移転という組織再編制度の新たな一種で、他の会社を子会社にするために株式を取得し、その対価として自社の株式を交付する制度です。

株式交換が100%の完全子会社化を目的とするのとは異なり、株式交付の目的は、議決権の50%超保有の子会社化です。

この株式交付制度の利用で、大規模な買収の実現、資金が潤沢でない企業による買収の増加、自己株式の有益な処理方法、等々M&Aの振興の期待が高いところです。

既存の自社株対価M&A

2018年の産業競争力強化法の改正を受けて、措置法には、買収に応じた株主が対価として買収会社株式を取得した場合、その株式を売却しない間の課税は繰り延べられるとの制度が設けられていました。

ただし、その前提として、企業買収が生産性向上につながることなどを示す事業再編計画の認定を受けた認定特別事業再編事業者に該当する必要がありました。

今年の税制改正では、この制度に係る条文から事前認定に係る文言が消えました。

税制への株式交付制度の取込み

文言消滅は、課税繰り延べの税法条規の前提が、産業競争力強化法ではなく、改正会社法の株式交付制度に移ったからです。

株式交付制度の適用があったら、それにより取得した株式については、その株式を売却するまでは、課税が繰り延べられるとの制度に衣替えしたわけです。

また、改正税法では、子会社化のための株式交付に際し、現金での株式買収が併用されていても、買収額の2割未満なら、課税繰り延べ税制適格の株式交付に該当するとしています。

なお、会社法としては、株式交付は、組織再編制度の一つなので、他の制度同様、株式交付計画の策定、株主総会の特別決議、債権者保護手続き、等々の規定を置いていますが、税法は、株式交付制度に対して、他の組織再編制度のように法人税法本法に取り込むのではなく、措置法の中に規定を置いたままにしています。