100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.111

2023.03.03 Fri

所得税の確定申告 損益通算のルール

損益通算って何?

 損益通算とは、各所得金額の計算上生じた損失のうち、一定のものについてのみ、一定の順序で総所得、退職所得または山林所得の金額から控除を行うことを言います。
 サラリーマンの方が「投資用マンションの不動産所得がマイナスなので確定申告で還付金があった」ということがあるのは、この損益通算制度のおかげです。

損益通算できる所得と順序

 まず、「同じ所得の中で通算をする」というのが大前提です。例えば雑所得同士であれば、公的年金等のプラスと、業務に係る雑所得のマイナスが通算できます。
所得がマイナスとなった場合、他の所得と損益通算ができるのは不動産・事業・山林・譲渡(分離は特定の居住用財産のみ)の4つです。損益通算ができる所得であっても、所得の性質の似ている種類の所得グループにおいてまず損益通算を行い、まだマイナスがある場合はその他の所得に損益通算をしていくルールが存在します。
 例えば不動産所得がマイナスの場合、総合課税の事業・給与・雑・利子・配当の各所得の損益通算を行い、それでもまだマイナスが残っている場合は総合譲渡所得や一時所得の損益通算を行い、それでもまだマイナスが残っていれば、山林・退職所得の損益通算を行います。なお、申告分離課税の株式等や先物取引等や不動産等の譲渡に関しては総合課税の所得との損益通算はできません。

さらに細かい例外規定

 損益通算の計算には、さらに細かい規定があります。生活用動産の譲渡には基本的には課税されないのですが、価額が30万円を超える貴金属等の場合は、総合課税の譲渡所得として申告しなければなりません。そしてこの場合は、損益通算ができません。他にもゴルフ会員権や競走馬等の生活に直接必要でないとされる資産については、損益通算ができません。総合課税の譲渡所得には例外規定が多いので注意が必要です。
 不動産所得についても、土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分は損益通算ができない等、例外規定は複数あります。

ふるさと納税の規定改正 指定取り消し期間の拡大

一般のふるさと納税利用者には影響なし

 個人の所得・控除によって決まる控除上限金額までの寄付なら、自己負担が2,000円で返礼品が貰えるふるさと納税制度。自治体は総務省にふるさと納税の指定団体であると認定されないと、その自治体への寄附について、ふるさと納税制度を利用した寄付金控除が受けられない仕組みになっています。

 普段ふるさと納税をするにあたって、ポータルサイト等を利用して寄附をしている方が圧倒的に多いと思いますが、その場合は指定されていない自治体は出てこないような仕組みになっていますので、利用者目線で言うと、気にならない部分かもしれません。

2年前の基準不適合もアウトになる

 令和5年度税制改正で「前指定対象期間についても指定取り消し事由になる」という改正が行われました。これはふるさと納税の「寄附のお礼の品の価値は寄附額の3割まで」等のルールを逸脱している場合、総務省はふるさと納税の指定団体の取り消しが行えるのですが、改正前は指定対象期間の10月1日から翌年9月30日までの間の基準不適合については、2年間のふるさと納税指定がされませんでした。ただ、10月1日以前の不適合を理由に指定取り消しができなかったため「2年以内の不適合を理由とした指定取り消しが可能」というものに改めました。

ふるさと納税をめぐる立場と意見

 過去には指定取り消しについて自治体と総務省が最高裁まで争い、遡及適用は違法と判断が下されています。今回改正が入った背景には、今までの自治体と総務省の応酬があるのは確かです。

ふるさと納税制度自体、お得な制度として多くの人が利用する半面、都市部にとっては税収の減額となるため、制度の見直しを求めている自治体もあります。また「お礼の品のコスト分、国全体で見れば税が減ってしまう」という論調も見られます。もちろんふるさと納税が地方活性化の助けになったという声もあります。  今後もふるさと納税については、様々な立場の意見を反映した変更が加えられそうです。

デジタル通貨での 給与支払いを導入する手順

はじめに

 厚生労働省はデジタル通貨での給与支払い(以下「本制度」)について、2023年の4月に解禁することにしています。実際に導入するかしないかは会社ごとに制度のメリット及びデメリットを考慮して慎重に検討することが必要でしょう。今回は実際に導入を決めた場合の導入までの流れをお話しします。

デジタル通貨での給与支払い導入の流れ

①従業員への意見聴取
大前提として本制度を導入するかしないかを決めるのは会社です。本制度導入前に従業員から「自分にはデジタル通貨で振込んで下さい」と要望があっても会社は断ることができます。しかし若年層を中心に本制度を希望する従業員が増えることも予想され、今後の既存従業員の定着や新規の採用等を考えると、会社として導入を検討する必要がでてくるかもしれません。そこで、まずは(導入のメリット及びデメリットを考慮した後)既存の従業員に「デジタル通貨での給与の支払いについて」意見を聞いてみることは重要になります。希望者が多数いる場合には、より導入する方向へ舵を切る必要があるかもしれませんし、そうでない場合には、そのまましばらく様子を見るということも考えられます。
②従業員への説明と同意
本制度を導入するには、従業員に次の各項目について説明をして同意を得ることが必要になります。なお、説明については、厚生労働大臣の指定を受けた指定資金移動業者に委託をすることが可能になりますが、同意については会社自身が従業員から得る必要があります。
(ア) 給与の支払い方法
(イ) 資金移動業者口座の資金保全
(ウ) 資金移動業者が破綻した場合の保証
(エ) 資金移動業者口座の資金が不正利用された場合の補償
(オ) 資金移動業者口座の資金を一定期間利用しない場合の債権(アカウント)の有効期限
(カ) 資金移動業者口座の資金の換金性
③規程の整備
給与の支払い方法の変更は、労働契約の内容の変更になりますので、就業規則や労働契約書の内容の変更や、新たな労使協定の締結が必要になります。

インボイス制度の2割特例

令和5年度税制改正ではインボイス制度導入に伴う納税者の負担軽減措置の一つとして、「小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)」が導入されます。

納税額は簡便な計算で算出

2割特例は業種を問わず、納税額を売上税額の20%とするもので、計算方法も簡易課税制度と同様、簡便なものとなります。

対象期間は3年間

2割特例の対象期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間となります。個人事業者は、令和5年分(10~12月分のみ)から令和8年分の申告まで計4回の申告が対象となり、3月決算法人は、令和6年3月決算分(10月~翌3月分のみ)から令和9年3月決算分まで計4回の申告が対象となります。

適用要件

2割特例は、上記の対象期間において、インボイス発行事業者の登録、課税事業者選択届出書の提出がなかったとしたならば納税義務が免除されることとなる課税期間(令和5年10月1日の属する課税期間であって、令和5年10月1日前から引き続き課税事業者選択届出書の提出により納税義務が免除されないこととなる課税期間、課税期間の特例の適用を受ける課税期間を除く)に適用されます。
また、基準期間の課税売上高が1,000万円超、資本金1,000万円以上の新設法人、調整対象固定資産や高額特定資産の取得等により納税義務が免除されない課税期間についても適用されません。
なお、課税事業者選択届出書の提出により、令和5年10月1日の属する課税期間の初日から納税義務が免除されない場合で、インボイス登録申請書を提出しているときは、当該課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出すれば、当該課税期間の初日から免税事業者に戻り、登録日以後は課税事業者として2割特例の適用を受けられます。財務省は救済措置と説明しています。

2割特例の適用は申告書に付記でOK

原則課税、簡易課税のどちらを選択している場合でも2割特例の適用は毎期、申告時に決めればよく、確定申告書に2割特例を適用する旨を付記することで行えます。

2割特例の適用期間が終わったら

2割特例の適用期間が終了し、翌課税期間から簡易課税の適用を受けたい場合は、翌課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出すれば適用できます。

「年収の壁」対策 年金と税制

首相の発言

 先日、岸田首相が「年収の壁」への対応策を検討すると表明しました。所得が一定水準を超えると扶養対象外となり税や社会保険料の負担が生じる「年収の壁」ですが、働き手不足が続く中、就労抑制の一因として見直し対応策を検討するとしています。
壁の1つは社会保険制度です。現在の制度では①従業員が101人以上、②週の労働時間20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円)といった条件を満たす場合に社会保険に加入します。101人以上(24年10月から51人以上)の会社のパートは106万円、それより規模の小さい企業では年収130万円が壁となっています。

年金の構造

 公的年金の構造は2階建てであり、1階は20歳以上の全員が基礎年金(国民年金)に加入します。2階部分がサラリーマン等の厚生年金等加入者です(第2号被保険者)。
サラリーマンの保険料は給与天引きで、その人に扶養されている専業主婦(夫)は保険料の支払いなしで国民年金を支払っていることになります(第3号被保険者)。
また、それ以外の自営業者、非正規雇用者、学生、失業者、自営業者の配偶者等は自分で国民年金保険料を支払う第1号被保険者になります。
サラリーマンに扶養されている配偶者は年130万を超えると扶養に入れないので、対策としての選択肢は3つです。①年収を130万未満にする、②週30時間以上働き厚生年金に加入する、③101人以上事業所で厚生年金加入条件であれば加入する。パート勤めで年収130万円以上の方は、将来無年金にならないよう国民年金か厚生年金に加入しましょう。

税制では別の壁が

 税制度の扶養の壁は103万円と150万円があります。所得が一定以下の配偶者を持つ人の配偶者控除は配偶者の給与収入が年103万円以下である場合に最高38万円の控除があります。配偶者の収入が103万円から201万円の場合に控除が受けられますが、150万円を超えると控除額が段階的に減る仕組みとなっています。
 年金と税制両制度を修正するには年金改革と所得税法の修正と調整が必要となります。今後どのようにして壁を克服していくのでしょうか。