100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.63

2021.11.12 Fri

事業承継等事前調査(DD)

税制度を利用するための要件

M&A対価の70%損金算入の要件である経営力向上計画の認定には、「事業承継等事前調査」(デューデリジェンス・DD)の実施をしなければなりません。

事業分野別申請書記載例のDD欄には、法務に関する事項(弁護士実施)と財務・税務に関する事項(税理士・公認会計士実施)、事業(対象企業のビジネスモデルの把握、事業性の評価及びシナジー効果分析・事業統合に関するリスク評価等)に関する事項(中小企業診断士実施)が掲示されていますが、うち法務と財務・税務とは絶対必要DDとされています。

デューデリの対象の定型化

「事業承継等事前調査チェックシート」が用意されていて、法務DDでは11項目40細目で、項目は、①会社組織制度等、②株式、③重要な契約等、④資産、⑤負債(資金調達に関するものを含む)、⑥人事・労務、⑦訴訟・紛争、⑧許認可等、⑨コンプライアンス、⑩環境問題、⑪その他、と多岐に亘り、社労士・中小企業診断士の分野も含んでいます。

財務・税務DDでは、4項目30細目で、項目は、①貸借対照表、②損益計算書、③会計方針、議事録等の確認、④税務リスクの把握、と範囲が相対的に狭いと言えます。

チェックシートの記載内容

チェックシートは、予定欄と実施欄に分かれ、経営力向上計画の認定申請時には、各細目の予定欄に実施予定のものには○を、そうでないものには×を記載して不実施の理由を記載します。

M&Aの実施後、主務大臣に対しての「事業承継等報告書」提出時には、「チェックシート」実績欄に、実施したものには○を、そうでないものには×を記載して不実施の理由を記載します。

DDで作成提出されるものは、このチェックシート各1枚だけです。様式としては、極めて簡易・簡便です。

デューデリをしないケースも多かった

中小企業庁の資料によると、M&A対価が、1000万円以下では53.8%、1億円以下では27.1%、10億円以下では4.7%で、DD費用と仲介料がゼロとのことです。

M&A会社のホームページでは、DD実施は全体で、36.1%とも言っています。

チェックシートDDで、DDの一般化と低廉化が始まる予感がします。

令和3年分申告書等作成コーナー新機能

気が早いかもしれませんが

国税庁のホームページで毎年刷新される確定申告書等作成コーナー。近年は電子化や利便性向上を物凄い勢いで進めています。少し気が早いかもしれませんが、国税庁はすでに令和3年9月に、新機能を発表していますので、ご紹介いたします。

 

スマホ専用画面の対象範囲拡大

新たに特定口座年間取引報告書・上場株式等の譲渡損失額・外国税額控除が、スマホ専用画面の対応となりました。

給与収入と、ある程度の投資をしていらっしゃる方でも、スマホ画面からの申告が行いやすくなりました。

 

マイナンバー読み取り方法の追加

パソコンで申告書を作成される方も、スマホアプリでパソコン上に表示される2次元バーコードを読み取れば、ICカードリーダライタを使用せず、マイナンバーカード方式によるe-Tax送信ができるようになります。

今までのようにカードリーダーを買ったり、スマホをPCに接続して使えるように設定したりという事前のセットアップが不要となります。ただし、お使いのスマホが、ICカード読み取りに対応していなければならないので、ご注意ください。

 

これが欲しかった! 源泉票撮影で自動入力

スマホ申告ですと、今までは源泉徴収票の内容をポチポチと入力していたのですが、スマホのカメラで源泉徴収票を撮影すると、自動入力される機能が追加されます。便利な機能がついに来ました。この機能の対象が拡大してゆくと、ほとんどの部分で入力を手動で行う必要がなくなるのではないでしょうか。

 

マイナポータル連携の種類増加

令和3年分申告から、ふるさと納税と地震保険がマイナポータル連携の対象となります。マイナポータル連携は、発行元が連携対応している必要がありますが、事前設定しておけば、各種証明書の情報を自動入力してくれるようになります。

なお、医療費通知情報(保険診療分)は令和4年分申告以降に、1年間を通したものが取得可能になる予定とのことです。

インボイスがもたらす 転嫁妨害や黙認

免税事業者の消費税転嫁の権利

消費税法を素直に読むと、事業を行う者には、取引で受取った消費税を納める義務が課せられており、ただし、年1000万円以下の課税売上しかない者については、その消費税の納税義務が免除される、と書かれていることを確認することが出来ます。すなわち、免税事業者といえども、消費税を請求して受取る権利があるのです。

消費税の転嫁拒否を監視する転嫁Gメンの根拠法である消費税転嫁対策特別措置法のガイドラインにおいては、免税事業者であることを理由にした消費税転嫁を制限する買い叩きをしてはならない、とされていました。課税事業者のみならず、免税事業者にも、消費税を転嫁請求する権利があることが、ここでも確認できます。

インボイス制度では

令和5年10月1日から、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が新たに始まるわけですが、ここで、事業者の消費税転嫁請求権に変容が起きたわけではありません。変容は、事業者の取引相手に於いてであって、その取引で適格請求書を受領していない限り原理的には仕入税額控除が出来ないことになった、ということにすぎません。

しかし、免税事業者は、インボイス番号を取得することが出来ません。インボイス番号を持たない事業者から受取る請求書等は、適格請求書ではないので、その受取人においては、原理的には仕入税額控除が出来ません。ただし、経過措置として、制度開始後3年間は80%控除可能、次の3年間は50%控除可能と、されています。

インボイス制度での弱者用新税率

そうすると心配なのは、当初3年間においては、転嫁消費税は8%にしてくれ、次の3年間では、5%にしてくれ、その後は、消費税転嫁は控えて欲しい、という要請が跋扈しそうな気がします。こんな時こそ転嫁Gメンの活躍を期待したいところですが、都合よく消費税転嫁対策特措法は、今年3月31日をもって、失効となっています。

消費税法の建付けからは、事業者が課税取引をしたら、その取引額の中の110分の10は消費税のはずなのですが、当局には、この大前提を維持しようとする姿勢はなさそうです。買いたたきに遭いたくなければ、免税事業者も選択課税事業者となりインボイス番号を取得せよ、との姿勢です。

不祥事で役員報酬減額・返上時 定期同額給与になるの?

お詫びとともに処分を発表

会社やその役員が不祥事等を起こした際に、「〇か月役員報酬〇〇%減」や「役員報酬の〇〇%を返上」といった処分をニュースで見かけますが、実際にこの処分を行う場合、気をつけなければならない点がいくつかあります。

減額を臨時株主総会で決定した場合

基本的に役員の報酬は定款または株主総会の決議によって決めなければなりません。手続きを行わず報酬を変更、または臨時に改定する事由に当たらない報酬額の変更をした場合、定期同額給与とはみなされず、役員報酬の一部が損金不算入とされます。

不祥事が起きて、役員報酬の一定期間の減額を臨時株主総会で決定した場合はどうなるかというと、こういった役員報酬の一定期間の減額は「やむを得ない事情」に該当すると判断されているため、一定期間の減額改定・その後の増額改定についても「臨時改訂事由」によるものとなり、支払われた役員報酬はすべて損金算入してもよい、ということになります。

支給された報酬を返上する場合

早急な処分を実施する等のために、株主総会を経ずに支給される報酬を「受領辞退・返上」した場合については「支給期の前か後か」で、取扱いが異なります。

一旦受領した役員報酬を支給期後に返上した場合は、支払われる予定であった報酬の全額が損金算入となります。ただし「一度支払ったもの」ですから、返上された金額分の源泉所得税も取られますし、社会保険料の算定等にも考慮されます。役員個人にとっては「返上」が一番ダメージのある処分かもしれません。なお、返上された報酬は雑収入等で計上する必要があります。

支給期前に辞退する場合

支給期前に報酬の一部を辞退した場合、減額改定と増額改定を行った扱いになり、事業年度中は減額され役員に支払われた金額が毎月の定期同額給与とみなされ、処分前や処分後に、それ以上に支払った分は損金不算入となります。

こちらは「返上」に比べると会社側の負担が大きい処分となります。役員個人には「支払われていない」ため、辞退した部分については個人に課税はされません。

インボイス発行権限への恐怖

適格請求書発行事業者登録制度受付け開始

令和5年10月1日から始まる適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)登録申請の受付けは、令和3年10月1日から始まっています。令和5年10月1日から直ちに適格請求書発行事業者として振る舞うためには、原則、令和5年3月31日までに登録申請手続きを済ましておく必要があります。

登録の主たる目的は、インボイス番号の取得です。

インボイス番号なしの請求書

登録番号の取得手続きをしないまま、新制度が始まってしまうと、発行する請求書等に登録番号を記載することができないので、たとえ消費税額の記載をしたとしても、原理的には、相手は仕入税額控除することが出来ません。相手が個人消費者なら問題にならないかもしれませんが、課税事業者だったら取引上の大問題になりかねません。

法人の登録番号は決まっている

法人の場合の登録番号は、「T」(ローマ字)+法人番号(数字13桁)です。法人番号というのは、公表されている法人のマイナンバーです。

もし、未登録者が請求書等に法人番号を記載していたら、登録番号と誤認されるような事態が生ずるかもしれません。

誤認誘発とみなされると

課税当局は、法人番号を積極的に公表し、申告書等への法人番号の記載を義務付けています。同じ趣旨で、同名の多い法人などが自主的に請求書や領収書に法人番号を記載することは有り得ることです。

しかし、それを一概に誤認誘発行為とするわけにはいかないでしょうが、もし誤認誘発行為とみなされる事例になったとしたら、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

罰金を科せられると

罰金以上の刑を受けると、最低2年間はインボイス番号取得登録不可となるので、経済取引において10%の消費税を請求しにくい状態に陥り、事業者としての存続が厳しくなりかねません。

仕入税額控除をする側も、誤って仕入税額控除してしまわないように、登録事業者の番号を国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで適宜確認する必要がありそうです。