100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.60

2021.10.22 Fri

国税のスマホ決済延期

令和4年1月4日に間に合わない

国税庁は令和3年9月21日、3年度税制改正で発表していたスマートフォンを利用した決済サービスを、4年1月4日からの開始としていたところ、4年12月に延期することを明らかにしました。

令和3年6月に、スマホアプリ納付を実現するために必要なシステムなどを構築する事業者の調達手続きを行ったところ、新型コロナウイルス感染症の中、デジタル投資の加速に伴うICT人材不足等もあり、入札者が現れず、事業者の決定に至らなかったようです。

 

地方税は先に導入が進んでいる

地方税を見てみると、各都道府県・市区町村によって取扱いの決済アプリの種類は異なるものの、スマホ払いで普通徴収の都道府県・市区町村民税や軽自動車税、国民健康保険料等が支払えるサービスが進んでいます。利用できる決済アプリは自治体によって異なるものの、PayPay、LINE Pay、PayB、楽天銀行アプリ、銀行Pay(ゆうちょPay)、au PAY、FamiPayなど、多岐にわたります。導入の数を見てみると、市井でのシェアの高いPayPayとLINE Payの採用が多いようです。

地方税でのスマホ決済の普及は令和元年10月に「地方税共通納税システム」が導入され、電子申告に加えて電子納税が可能になり、自治体の事務負担が軽減されたことも背景にあるようです。

 

IT人材の不足は深刻?

経済産業省の調査によると、令和12年にはIT人材の不足数が最大で79万人になるという試算が出ています。これはIT業界の急成長、スマートフォンの台頭をはじめとしたIT技術の急速な変化、少子高齢化による人材不足等が原因とされています。エンジニア不足への対策として、企業では採用年齢の引き上げや待遇改善を打ち出し、政府対応としては2年度から小学校でのプログラミング教育が必修化されましたが、現状国税のスマホ決済システムの構築に至れなかった事実があり、IT人材の不足は深刻なのかもしれません。

国税庁は税務行政のデジタルトランスフォーメーションを掲げていますが、解決すべき課題は外的環境にも多く存在しています。

70%損金算入の税制

施行されたのか、未だなのか

令和3年度税制改正の「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)」が令和3年8月2日に施行されました。

この施行は、改正産業競争力強化法等一括法の施行日からとされていたためか、財務省や国税庁での案内はなく、この施行を広報したのは、中小企業庁でした。

なお、一括改正法の施行は、法公布日(6月16日)、公布後1ヶ月以内、3ヶ月以内、1年以内、と分かれていたので、経営資源集約化税制の施行と関連のあるものの施行の判別が分かりにくい状態でした。

中小企業庁が主導しての推進

中小企業庁は、8月2日に、「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について」を公表しました。

先の施行日を待っていたような対応で、中小企業庁の主導の下での「経営力向上計画」認定申請等の様々な手続きを経る必要があります、という案内をし始めました。

中小企業事業再編投資損失準備金制度

この税制は、令和6年3月31日までに株式取得によってM&Aを実施する場合(取得価額10億円以下に限る)に、株式等の取得価額として計上する金額(取得価額、手数料等)の70%以下の金額を準備金として積み立てた時は、その事業年度において損金算入される、というものです。

ただし、この準備金は、積み立て後5年を経過した事業年度以降5年間で準備金残高の均等額を取り崩して、益金算入します。

税制によるリスク対策支援措置

この制度創設の趣旨については、税制改正大綱は、「その株式等の価格の低落による損失に備えるため」とし、財務省の税制改正パンフレットは、「M&A実施後に発生する中小企業の特有のリスク(簿外債務、偶発債務等)に備える観点から」とし、「税制改正の解説」も、中小企業M&A市場の未成熟さや費用負担の困難性が生む投資リスクに備える為の支援措置だ、としています。

準備金の臨時取崩しでの益金算入

準備金の任意取崩し、経営力向上計画の認定取消し、本税制対象子会社の解散・合併消滅、その株式の帳簿価額の減額(評価減や資本剰余金分配など)、その株式の譲渡、青色申告の取消し、等々の場合には、準備金の全部又は一部の取崩しをし、益金算入することになります。

中小企業庁「中小M&A推進計画」

いよいよ加速、M&A支援施策

中小企業庁は、今年の税制改正の目玉でもあったM&A促進税制の施行と関係する改正中小企業等経営強化法が国会で審議される前の今年4月中に、今後5年間にM&A促進のために官民の取組みとして実施すべき「中小M&A推進計画」を取りまとめました。

後継者不在の廃業のうち6割は黒字

それによると、後継者不在の中小企業は、仮に黒字経営であったとしても廃業等を選択せざるを得ず、近年の廃業件数は増加傾向にあったようです。

2020年は感染症の影響もあって過去最多の49,698件となったものの、廃業事業者のうち黒字廃業の比率は約6割もの水準です。

廃業中小企業のもつ貴重な経営資源が散逸してしまっていると分析し、それを回避する方策としてのM&Aの重要性が高まっているとしています。

中小企業の経営資源活用にM&A

M&Aによって、譲渡側・譲受側ともに、他者の保有する経営資源を活用することで、①規模の拡大によるコア事業の強化・拡大

②垂直統合によるコア事業の強化・拡大

③新規ビジネスへの参入 ④成熟・衰退事業の再編 ⑤グループ内再編 などを早期に実現する効果が期待される、とのことです。

また、デジタルトランスフォーメーション(DX)を含め、従来の経営スタイルからの発展や、従業員の意識改革等の効果も期待される、としています。

実際、M&Aによって経営資源の集約化を行った中小企業は、そうでない企業に比べて生産性等の向上を実現しているとの調査もあります。

潜在的なM&A譲渡者60万者

中小M&Aは年間3~4千件実施されている一方、潜在的な譲渡側は約60万者(成長志向型 8.4万者、事業承継型 30.6万者、経営資源引継ぎ型 18.7万者)とのことで、取組みへの余地、期待の可能性は大きいようです。また、M&Aのみならず、経営資源を引き継いで創業する「経営資源引継ぎ型創業」を希望する者も少なくない、と報告されています。

M&A促進の具体的施策

取組みとしては、M&A促進税制のほか、登録M&A促進機関の制度創設、M&A促進補助金の開始、各都道府県に設置の事業承継・引継ぎ支援センターの活動充実、等々があります。

新登場! M&A支援機関

M&A支援機関登録制度の創設

中小企業のM&A促進戦略として中小企業庁が4月に公表した「中小M&A推進計画」では、M&A支援機関に係る登録制度の創設を唱っていました。

全国的に大規模・中規模向けのM&A支援機関が活動しているが、M&A支援機関の支援の妥当性を判断するための知見が不足している中小企業が存在する状況下での、M&A支援機関の質を確保する仕組みを創らなければならない、としていました。

制度創設日は、改正中小企業等経営強化法施行日の2021年8月2日です。

登録可能な対象者

経産省の「登録制度の概要」によると、M&A支援機関とは、「中小M&Aを支援する機関」であり、ファイナンシャルアドバイザー業務(FA・片方代理)又はM&A仲介業務(双方代理)を行う者です。

具体的には、M&A専門業者(FA、仲介業者)、金融機関、商工団体、士業等専門家、M&Aプラットフォーマー、事業承継・引継ぎ支援センター等が登録してくれることを予定しているようです。

第一次公募による登録状況

公表された登録M&A支援機関数は、2021年10月15日現在で2278件です。うち、法人は1700件、個人事業主は578件です。また、上位5業種は、M&A仲介専門業者が544件、FA専門業者が394件、税理士が517件、公認会計士が233件、地方銀行・信金・信組が125件です。

M&A契約に深く長く関わるM&A支援機関登録で、税理士・公認会計士が33%をも占めているということには、驚きです。

登録要件は?

①「中小M&Aガイドライン」の遵守を宣言し、遵守すること

②登録要件を充足している旨を自社HPで掲載すること

③登録要件を充足している旨を顧客に書面で事前説明すること

④毎年度、実績報告を提出すること

なお、登録をしたものの、特段合理的な理由なく支援実績が芳しくないなど、一定の要件に該当する場合には、登録の継続を認めず、登録取消しとなります。

また、登録されたM&A支援機関に対する苦情情報提供受付窓口を設けて、公開監視による制度充実をはかる予定になっています。

M&A事業承継・引継ぎ補助金

今年の事業承継・引継ぎ補助金の公募

経済産業省は、9月30日に「事業承継・引継ぎ補助金」の公募を開始しました。

この補助金は、事業承継やM&A(事業再編・事業統合等経営資源を引き継いで行う創業を含む)を契機とした経営革新等への挑戦者や、専門家を活用してM&Aによる第3者経営資源の引継ぎを行おうとする中小企業者等を資金的に支援するものです。

資金支援の内容

補助金は、先の「経営革新」と「専門家活用」に分かれています。

経営革新(経営者交代型、事業再編・事業統合等)に於ける経費(設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用等)に対しては、補助率50%、補助上限額250~500万円(別途廃業を伴う上乗せ額200万円)で、補助交付されます。

専門家活用(M&Aによる経営資源の譲渡・譲受)に於けるM&A支援業者に支払う手数料やデューデリジェンスにかかる費用等に対しては、補助率50%、補助上限額250万円(別途廃業を伴う上乗せ額200万円)で、補助交付されます。

今年の公募の特殊なところ

今年から、登録M&A支援機関という制度が創られたことにより、M&Aでの専門家(FA・仲介業者)に支払う手数料は、登録M&A支援機関でなければ、補助金の交付の対象にならないことになりました。

なお、原則として常時使用する従業員1 名以上の引継ぎが行われていないと、要件不充足となります。

これ以外のデューデリ等の経費については、申請して事務局に認められることが前提で補助対象となります。

それから、相見積もりの要求がうるさいことも留意点です。

申請と決定のタイミング重要

また、タイミングも大事で、事業承継・引継ぎ補助金の交付申請をして、交付決定された後に、補助金に係る契約をしたり、発注をしたりしなければなりません。交付決定より前に、事前着手してしまったものは、交付対象外になります。

電子申請のみの受付

申請は、経済産業省が運営する補助金の電子申請システムを利用しての電子申請が必要となります。

また、その前提として、gBizIDの取得が必要です。