100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.48

2021.07.21 Wed

新型コロナウイルス感染症に係る ワクチン職域接種の税務

国税庁は、コロナワクチンの職域接種に係る税務上の取り扱いをFAQで公表しています。

法人税の取り扱い

企業が新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの職域接種を行う場合、市町村からワクチン接種に係る業務の委託料の支払いが行われますが、接種会場施設の使用料、接種会場での備品のリース費用、接種会場での臨時スタッフの人件費など、これらの費用が市町村から支給される委託料を上回るケースも考えられます。これらの費用は、社内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止し、今後の業務遂行上の著しい支障の発生を防止するものですので、企業の業務遂行に必要な費用の負担と考えられ、法人税法上の寄附金又は交際費等には該当しないこととなります。

職域接種の対象に、従業員と同居する親族、関連会社の従業員等、取引先の従業員等、接種会場の近隣住民を追加する場合であっても、この取り扱いは同じです。

所得税の取り扱い

上記の職域接種にかかる費用が、その接種を受けた従業員に対する給与となることもありません。接種を受けた者が従業員以外の者であっても、所得税の課税対象となることはありません。

また、接種会場までの交通費を支給する場合については、職務命令に基づき出張する場合の「旅費」と同等と考えられますので、接種会場への交通費として相当な額であれば非課税となります。

さらに、役員及び従業員についてデジタルワクチン接種証明書の交付の費用を企業が負担した場合、業務遂行上必要であると認められるときは、その取得費用の負担は従業員に対する給与に該当しないとしています。

消費税の取り扱い

ワクチンの接種事業に関し、市町村と医療機関との間で委託契約を締結し、市町村から医療機関に対し委託料が支払われます。この委託料は「ワクチンの接種事業」を行うという役務の提供の対価であり、消費税の課税対象取引となります。

継続支配要件緩和と 中小M&Aへの貢献

清算整理や会社売却

子会社の事業の整理・統合を行う上で、継続を図る事業のみを会社分割により移転し、分割法人に残った事業と資産負債を解散・清算で処分をしたり、あるいは、残った分割法人をM&Aの対象にして経営を第三者に委ねる、というプラン要求は、少なくありません。こういう取り組みを促進する最近の税制改正があります。分割型分割が適格分割となるための要件の変更です。平成29年の税制改正です。

スピンオフ税制導入の影響

組織再編税制の要諦は、資本関係が外形的に変動してもその実質に変化がないとすれば、その便宜的変更には課税を留保するというもので、従って、税制適格組織再編に該当する要件の一つは資本関係の維持としての支配の継続でした。しかし、スピンオフ税制の導入の煽りを受けて、分割後の支配の継続という適格要件の重要要素が要求されない次の3つのケースが生まれました。

支配継続が要求されない

① 100%親子関係での子会社資産負債の親会社への分割型吸収分割

② 一の者による100%支配関係下にある会社間での分割型吸収分割

③ 一の者による100%支配関係下にある会社の単独新設分割型分割

ここでいう「一の者」とは、分割前後に分割法人および分割承継法人を支配している者をいいます。要するに、株主のことです。

支配継続要求消滅の条文表現

これらのケースにおいては、一の者、もしくは親会社が、移転資産負債の支配を継続出来ているならば、分割を実行した子会社に対する完全支配関係の継続をもはや要件とする必要がない、ということになりました。①のケースでは条文から「継続」の文字が消え、②③のケースでは、一の者による完全支配関係の継続の対象が分割承継法人のみに限定されるとの条文になりました。

実用化で改正趣旨に応える

これで、適格分割の適用の中で、一部の事業や一部の資産負債をM&Aにより第三者に引き渡すことが可能になりました。

分割型分割の税制適格要件緩和とM&A商品作りとが今後は結びつきを強くして、多様なM&Aスキームが花開くかもしれません。

ワクチン接種業務での収入は 「130万円の壁」の例外扱い

103万円の壁・130万円の壁

パートやアルバイトをしている人が年末近くになると年間収入を一定の金額内に抑えるために就業調整することがあります。

所得税法では、基礎控除48万円+給与所得控除55万円の合計103万円を超えると家族内の主たる所得者の所得控除に影響が出始めるため、年間給与をこの金額内に抑えようとします。また、年収が130万円を超えると社会保険の扶養対象から外れてしまうので、この金額内に抑えようとする動機付けも働きます。「103万円の壁・130万円の壁」と呼ばれています。

ワクチン接種業務の従事者確保の窮余策

2021年新型コロナの新規感染は止まりません。国はワクチン接種数を拡大させることを最優先とし、ワクチン接種を主導する厚生労働省は、2021年6月4日から新型コロナウイルスのワクチン接種に携わる医療職の人が接種で得た収入について、社会保険の「130万円の壁」の例外扱いとすると発表しました。対象となる収入は、令和3年4月から令和4年2月末までのワクチン接種業務に対する賃金です。

社会保険は厚生労働省の所管業務なので、自分たちの権限の及ぶ範囲内で「130万円の壁」を取っ払い、結婚等を機に医療現場から離れている「潜在看護師」らに期待を寄せ、ワクチン接種業務従事者をかき集めようとしているのです。

(注)医療職(医師や看護師、薬剤師などの)がコロナワクチンの注射や予診、薬液の取り扱いや接種後の経過観察などに関わる場合のみ例外扱いです。接種会場の受け付け業務は対象外です。詳しくは、「新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事する医療職の被扶養者の収入確認の特例に関するQ&A(保険者向け)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000788047.pdf参照。

給与計算担当者は、社会保険の諸届にも関与していることでしょう。ワクチン接種業務を行う事業者・雇用主(市〈区〉町村、医療機関等)から「新型コロナウイルスワクチン接種業務に従事した際の収入に係る申立書」の発行を受け、被扶養者の認定及び資格確認の際に、加入する保険者に提出することとなります。

所得税では例外扱いなし

なお、所得税法を管轄する財務省ではこうした例外扱いをしていません。そのため、103万円の壁は動いていません。