100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.44

2021.06.25 Fri

正社員中心主義から 新規雇用増加策へ

正社員中心主義だった

コロナ禍の中での今年の税制改正により、従来の、大企業を対象とする昇給・設備投資促進税制、中小企業を対象とする所得拡大促進税制は、入退職者は少ない方がよいとする雇用維持とベースアップを奨励する正社員中心主義的な制度から新規雇用促進を奨励する税制に、様変わりしました。

中小企業を対象とする所得拡大促進税制は

中小企業向けの所得拡大促進税制では、既存の継続雇用者の給与の上昇という適用要件を放棄し、新規・既存を問わず、雇用者全体の給与等支給額を増やせとの制度になり、その増加率が1.5%以上の場合には雇用者給与等支給増加額の15%(2.5%以上増加で教育訓練費の対前年比も10%以上増加なら25%)の税額控除が出来るとの制度になりました。既存従業員の雇用維持よりも、雇用全体を増やして、失業救済への社会貢献してくれることを奨励しているわけです。雇用保険への加入も条件にしていません。

新規雇用促進税制へ

中小企業限定ではない、大企業・中堅企業向けの昇給・設備投資促進税制では、設備投資要件が廃止された上、新規雇用をどの程度増やしているかが適用要件になりました。

国内事業所で新たに雇用した雇用保険被保険者に該当する者に1年以内に支給する給与の額の対前年比の増加率2%以上の場合には、新規雇用者給与等支給額の15%(教育訓練費の対前年比が20%以上増なら20%)の税額控除が出来るとの制度になりました。

ただし、解雇の多い事業者を排除するために、前期比雇用者給与増加額が新規雇用者給与総額より少ないような場合には、前期比雇用者給与増加額が控除率を乗ずる対象額の限度となります。

雇用調整助成金の扱い

雇用調整助成金等及びこれに類するものの額については、適用判定の場面での増加割合の計算における雇用者給与等支給増加額や新規雇用者給与等支給額の算定ではこれを考慮する必要はありませんが、税額控除額を計算する際の控除率を乗ずる場面では、これをそれぞれから控除する必要があります。

改正育児介護休業法が成立 ~『男性の産休』って何?~

改正育児介護休業法が成立

「改正育児介護休業法」が2021年6月3日に国会で可決、成立しました。

2022年4月1日以降、以下の6項目が段階的に施行されます。

①男性の子の出生直後の時期における育児休業(いわゆる「男性の産休」)の創設

②妊娠・出産を申し出た労働者へ個別の周知・意向確認の措置の義務付け

③育児休業が2回まで分割取得可能に

④育児休業取得状況の公表義務化(常時1,000人超を雇用する事業主を対象)

⑤有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(1年以上の雇用条件撤廃)

⑥雇用保険「育児休業給付」の規定整備

※施行日は、②⑤は2022年4月1日、④は2023年4月1日、①③⑥は公布日から1年6月以内の政令で定める日(未定)です。

 

『男性の産休』とは?

今回の育児介護休業法の改正に関して、「男性の産休を創設」などと報道されていますが、どのようなものなのでしょうか?

男性が子供を出産するわけではないので、「子の出生直後の時期に男性が育児休業を取得できるようになる」ことになります。

つまり、産後8週間以内の女性は産後休業を取得できますが、この間に男性も4週間まで育児休暇が取得(2回まで分割取得可)できるようになります。さらに、現在の育児休業の申出期限1か月前が緩和され、原則2週間前まで申出が可能になります。

 

その他の改正内容

「男性の産休」の他にも、妊娠・出産を申し出た労働者への個別周知・意向確認、育児休業の2回までの分割取得(①の「男性の産休」と別に)、常時雇用1,000人以上企業には育児休業取得状況の公表が義務付けられるなど、企業は女性社員だけでなく、男性社員にも積極的に育児休業の取得を推進する取組みが求められます。

なお、2019年の育児休業取得率は男性7.48%(2018年6.16%)、女性83.0%(同82.2%)でした。

確定申告義務がある 還付申告の制度廃止

還付での確定申告義務規定

還付申告になるケースでも、算定される税額が、配当控除額を超えている時は、年調済みの給与を除き、第3期(その年の翌年2月16日から3月15日)に確定申告書を提出する義務がありました。

同時に、源泉徴収税額、予納税額の還付を受けるための申告の場合での第3期の規定は、「翌年2月16日」からではなく、「翌年1月1日」から、に変わるとの規定もありました。

両方の規定の適用対象のケースでは、後者が優先ですが、申告義務があることに変わりないので、第3期の末日という規定の効力に変わりはありません。

今年の税制改正

今年の改正で、源泉徴収税額、予納税額、外国税額があることにより還付申告になるとき、また控除超過外国税額があることによりゼロ申告になるときには、第3期(その年の翌年2月16日から3月15日)での申告義務がないことになりました。

また、それに連動して、申告義務期間を変更する、先述の第3期が(その年の翌年1月1日から3月15日)となるとの還付の規定は、削除されました。

財産債務調書の提出義務は?

なお、この改正に関連して、財産債務調書の提出義務者が、所得税等の確定申告書の提出義務のある者のほか、還付申告書の提出をできる者にも拡張されました。これにより、財産債務調書の提出義務については、本改正による影響が排除されています。この改正は国外送金等調書法の改正として行われています。

改正の影響があるその他の規定

今年の改正により、還付申告をしなかった場合での還付金等の5年での消滅時効の規定にも影響が出ます。時効起算日が3月16日ではなく1月1日に変わるので、時効が2ヶ月半早くなります。

個人住民税については、提出義務のなくなった申告書の提出があった場合において、その提出の日の翌日から起算して2年を経過する日までの間、賦課決定を行うことができることに改正されました。

青色申告特別控除は、期限内申告が要件なので、申告義務がないとして放置すると、10万円控除しか受けられなくなります。

厚生労働省が推奨する 「履歴書」の様式を見直しました

厚生労働省が履歴書様式を見直し

2021年4月、厚生労働省は「新たな履歴書様式例の作成について」を発表し、推奨する新たな履歴書の様式例を公表しました。

従来、JIS(一般社団法人日本規格協会)規格の解説の様式例にあった「履歴書」が長年推奨されていましたが、2020年7月にJIS規格の解説の様式例から履歴書が削除されたため、厚生労働省が新たな履歴書の推奨様式例を検討していました。

 

旧JIS規格「履歴書」様式からの変更点

今回公表された、厚生労働省が推奨する履歴書の新様式例では、まず性別欄が大きく変更されています。

従来の性別欄は、〔男・女〕の選択式でしたが、昨今のLGBT等に代表されるように、性自認についての意識の高まりを受け、任意の記載欄となったことが注目されます。

他にも、従来のJIS規格「履歴書」様式の末尾の方にあった、「通勤時間」、「扶養家族数(配偶者を除く)」、「配偶者」、「配偶者の扶養義務」といった項目が削除されています。

通勤時間や家族構成などは、本人の職業能力とは直接関係ない事項であり、採用を決定する際の選考基準とすることは適切でないため、公正な採用選考を確保する観点から削除されたようです。

 

入社後に本人に確認することが増えます

今後、採用選考時に新様式の履歴書が提出されることが増えるでしょう。

性別や家族構成など、これまで当然のように「履歴書」で確認していた項目が削除されましたので、入社時の手続き、特に雇用保険や社会保険の被保険者資格取得手続きなどのために、改めて本人に配偶者や扶養家族に関する情報を確認する必要が出てきます。

入社後に入手が必要な情報については、事前にチェックリストや社内の申請書式を用意するなど、新たな準備が必要になりますので、注意しましょう。

複式簿記3つの発明

「複式簿記は人類最大の発明」

と、ゲーテが言ったか言わなかったかは、定かではありませんが、非常によくできた財産の管理システムであることは確かです。

①  第1の発明は「貸借均衡の原則」による財産の管理です。

車を買ったような場合、車という財産は増えますが、購入することによって現預金は減少します。また借金をしたような場合、現預金は増えますが、借入金という負の財産も増えます。複式簿記では以下のように表示します。

(車両) 1,000 /(現預金)1,000

(現預金)5,000 /(借入金)5,000

②  第2の発明は「名目勘定」です。

①では、財産の管理ですから、実在する財産(負の財産も含む)科目しかありません。しかし商売を始めるとそれでは貸借の均衡が保てない場合が生じます。

600で購入した商品を1,000で売ったような場合です。減少する財産は商品600ですが、増加する財産は現預金1,000となり貸借均衡が崩れます。そこで発明されたのが費用や収益といった名目勘定です。複式簿記では以下のように表示します。

(現預金)1,000 /(商品) 600

/(商品販売益)400

また飲み食いで散財したような場合、現預金は減少しますがそれに見合った財産は増えません。複式簿記では以下となります。

(交際費)300 /(現預金)300

③  第3の発明は「資本勘定」です。

航海貿易が始まると今度は1回の航海でどれだけ儲かったかを知りたくなり、一会計期間という概念が出てきます。会計期間を区切ると、実在する財産科目は次の会計期間に繰越しますが、費用や収益といった名目勘定は実在しませんから、次の会計期間では0スタートとなり、そこで貸借均衡が崩れることとなります。上記②の例でいうと以下となります。

(現預金)1,000 /(商品) 600

/(現預金)300

は翌期へ繰り越しますが、

(交際費)300と(商品販売益)400

は次の会計期間では0スタートとなります。

そこで発明されたのが資本です。商品販売益と交際費の差額は繰越利益剰余金(資本)100として翌期に繰り越されます。これで貸借均衡が保てます。