100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.39

2021.05.21 Fri

自署義務規定廃止から押印義務規定の削除へ

署名の義務の廃止が先

3年前は、法人税申告書等には、代表者と経理責任者の自署押印義務があり、違反には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処すこととされていました。

この規定は、電子申告における税理士関与の場合の、税理士以外の電子署名を要しないとする行政手続オンライン化法下の実務実態と、著しい齟齬を来たしていました。

そして、平成30年の改正で、自署・押印制度は、電子申告の普及を妨げる要因として廃止されました。ただし、国税通則法の記名押印が必要との規定は残されたままでしたので、紙での申告では、押印が要求されていました。

自然進行としての押印文化の消滅は?

行政手続の電子化が進行すれば、ペーパーレスとなり、押印の機会そのものが減少し、絶対必要なもの以外の押印は、長期的にはなくなるだろうとの、静かなる変化は誰しも想定していたところです。

でも、押印文化の牙城は役所そのもので、この牙城の存在が社会全体の押印文化消滅への歯止めの役割を果たしており、いわんや牙城の自然崩壊など期待薄との判断もあったのだと思われます。

遡及立法・大綱立法の荒療治

それで今度は、牙城の本丸での役所に係る押印の廃止です。「令和3年度税制改正大綱」が令和2年12月21日に閣議決定され、この日から、国税関係申告申請書類への押印の制度が、原則廃止となりました。

法改正としては、国税通則法の押印規定が削除されることにより、押印を不要とする制度が実現することになるのですが、税制改正大綱には、「改正の趣旨を踏まえ、押印を要しないこととする税務関係書類については、施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする。」と書かれ、実質的な遡及立法を実行してしまうとともに、大綱の閣議決定による事実上の制度創設を実行してしまっていました。

大綱による立法と言える珍しい事例となっています。

税理士法は旧態依然

税理士法には、提出する租税申告書等に税理士と委任法人の代表者が署名押印しなければならない、との規定が残っていましたが、令和3年度の今回の改正で押印の文字は消えました。でも、署名の義務の規定の文字は相変わらず残ったままです。

その外国会社への請求書、消費税が請求漏れとなっていませんか?

輸出品だから全部免税というわけではない

事業主が国内で商品の販売をしたり役務の提供をしたりすると、原則として消費税がかかります。しかし、これらが輸出取引に当たる場合には消費税が免除されます。消費税などの間接税は、消費される国で課税されるよう国境税調整により税を課さないことが国際慣行となっているためです。

輸出免税は事業者にもよく知られていて、輸出=消費税なしとの認識が多いと思われます。しかしながら、輸出免税を受けるためには、資産の譲渡等が輸出取引となることについて、その輸出取引等の区分に応じて一定の証明が必要です。

なお、最終的に輸出されるものであっても、①輸出する物品の製造のための下請加工や②輸出取引を行う事業者に対して行う国内での資産の譲渡等は輸出取引ではないので、輸出免税とはなりません。

また、輸出の取引条件によっては、買主が外国企業であっても国内譲渡とされ、輸出免税とならない場合(Ex-Works:EXW=工場渡しの場合)もあります。要注意です。

外国と直接取引だから全部免税でもない

非居住者に対して行われる役務の提供は、①国内資産の運送保管、②国内での宿泊や飲食、③その他国内において直接便益を享受するものを除き、輸出免税の対象になります。

役務提供などの場合には、その契約書などで一定の事項が記載されたものが、輸出取引等の証明として必要です。

役務提供を受ける者が日本国内に支店又は出張所等を有していれば、そこと取引があったものとして輸出免税から外れます。しかしながら、外国の本店等とのみの直接取引であれば免税となりますが、国内支店又は出張所等の業務と関連するものでないことが条件とされます。条件確認が複雑です。

消費税請求漏れを追加請求で回復できない

相手が外国の会社(=非居住者)だから消費税の課税はないと思い込んで消費税を付加しない取引を行い、後日税務調査などで消費税の課税漏れを指摘されたような場合には、その課税漏れ分は自社の負担となってしまいます。よっぽど販売側の力関係が強い場合でない限り、税金を追加でもらうことはできません。取引時に慎重に課税の有無の検討が必要です。注意しましょう。

厚生年金脱退一時金改正

脱退一時金制度とは

日本国籍を有しない外国籍の人が国民年金、又は厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、日本を出国した場合に受けられるものです。日本に住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求できます。

脱退一時金の受給要件と受給額

①  日本国籍を有していないこと

②  厚生年金保険の被保険者期間の月数が6か月以上あること、又は国民年金の保険料納付期間と保険料免除期間を合算した月数が6か月以上あること

③  日本に住所を有していないこと

④  年金を受ける権利を有していたことがないこと

受給額は被保険者期間に応じて下記のように計算されます。

「平均標準報酬月額×支給率」

支給率とは最終月(資格喪失日の属する月の前月)の属する年の前年10月の保険料率に2分の1を乗じた率に加入期間に応じた支給額計算の数を掛けたものとなります。

今回の改正で被保険者期間の上限が36月から60月になりました。

国民年金の脱退一時金についても保険料納付期間の月数の上限も同様になりました。

最後に保険料を納付した月が令和3年3月以前の場合は従来通り36月を上限として支給されます。5年分支給の対象となるには令和3年4月分の保険料を納付していることが必要です。

外国人にとっての年金制度

外国人の方は日本の年金制度についてどのように考えているかと言えば、制度には加入したくないという方も多いようです。数年で帰国予定の方は加入を回避したい方向のようです。日本の年金を受給するつもりはなく、メリット・デメリットも把握していないというのが現状のようです。

受給は日本での予定滞在期間や帰国時期等で判断しましょう
メリットとしては年金制度に10年加入すれば老齢年金は受給権ができます。社会保険協定のある国なら期間通算できる場合があります。デメリットとしては保険料を納付していないと、万一のとき障害年金の受給ができないこと、脱退一時金を受け取ると年金制度の通算はできなくなること等です。

免税駐車場事業者のインボイス対応

令和5年10月1日に導入される消費税インボイス制度(適格請求書等保存方式)。今年(令和3年)10月1日からインボイス発行事業者登録申請書の受付が始まります。消費税の免税駐車場事業者の対処方法は?

免税事業者への影響

課税事業者は、仕入先からインボイス(適格請求書)の交付を受けて仕入税額控除を行います。一方、免税事業者はインボイスを交付できないため、相手先は仕入税額控除できず(6年間は経過措置あり)、契約が打ち切られるかもしれません。

駐車場オーナーは、免税事業者のまま益税となっていた消費税分の値引きに応じるか、又は課税事業者を選択して登録事業者になるかの検討をすることになります。

登録事業者になる選択

課税事業者を選択し、あわせて簡易課税を選択した場合、不動産業のみなし仕入率40%が実際の仕入率より高ければ益税部分の一部は手許に残ります。また多額の設備投資を予定する場合は、原則課税を選択して消費税の還付を受けることもできます。

なお、毎月、振替や振込で賃料が支払われる場合、都度インボイスを交付する必要はなく、登録番号の記載された賃貸借契約書を保管し、預金通帳で支払記録を確認できれば仕入税額控除できるとされています。

登録申請は令和5年3月31日までに!

令和5年10月1日よりインボイス発行事業者となるためには、原則として令和5年3月31日までに登録申請が必要です。なお、令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要はなく、さらに簡易課税を併せて選択する場合は、令和5年10月1日の属する課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば、令和5年9月30日までは免税事業者、令和5年10月1日からは簡易課税事業者となれます。

免税事業者にとどまる選択

借主が個人消費者の場合、仕入税額控除の必要はないため、インボイスを交付せず免税事業者にとどまることでも問題はないものと思われます。消費税は表立って請求できなくなりますが、令和3年4月1日から再開された総額表示のもとでは、賃料は消費税を含む総額で表示されるため、立地や広さで周辺の駐車場と比べ競争力があれば、従前の税込賃料と同様の水準で料金設定することもできるのではないでしょうか。

事業承継の現状とコロナ禍の影響

日本商工会議所アンケートより

昨年8月に日本商工会議所が全国会員企業14,221件を対象に行った「事業承継と事業再編・統合の実態に関するアンケート」(回答4,140件)により、事業承継について次のように実態がまとまりました。

事業承継を軸にコロナ禍の影響がどう出ているのか尋ねる内容となりました。

会員企業の後継者の決定状況は「経営者年齢が60歳以上の企業」で約半数が決定済みの一方、後継者不在の企業が2割を占めています。同族経営が8割と多数を占めるものの中小企業で親族外承継も徐々に増加しており、2000年代は約1割、2010年以降では約2割となりました。

この調査では、事業承継の時期について、コロナ禍の影響で売上げが減少している企業ほど事業承継予定時期を後ろ倒しにする傾向があることがわかりました。また、経営者の在任期間別の利益状況を見ると「社長就任後10年未満の企業」の6割の企業がコロナ禍においても直近期黒字の一方で、「社長就任後30年以上の企業」はコロナ禍を受けて赤字を見込む割合が大きく、事業承継によって経営を活性化している企業がコロナ禍においても業績を上げている傾向があることがわかります。

事業承継の問題点

事業承継の問題点は「後継者への株の譲渡」が最も多く3割を占めています。課題・障害は「譲渡側は譲渡の際の相続税、贈与税が高い、後継者側は買取資金がない」と税制面と資金面問題で6割~7割を占めています。

事業再編・統合(M&A)

M&Aにおいては「過去に買収を実施・検討した企業」は約15%、それを「売上高10億円超の企業」に絞ると「買収を実施・検討した企業」は約4割を占めています。

買収先は後継者難が深刻化している小規模企業(従業員20名以下)が約7割を占めており、M&Aが後継者不在企業の事業継続の受け皿となっていることがわかります。買収目的は「売上・市場の拡大」7割、「事業エリアの拡大」4割が多く、目的、期待効果の達成度も約半数が「達した」とする等、中小企業の事業拡大にM&Aが功を奏していることがうかがえます。