100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.15

2020.11.27 Fri

従業員の引っ越しで会社が行うべき住所関係の諸届出

マイナンバー紐づけなら健康保険届出省略

従来は、従業員の引っ越しがあれば、健康保険・年金の住所変更届が必要でした。しかしながら、平成30年3月から、基礎年金番号とマイナンバーが結びついている厚生年金保険被保険者については、年金事務所が住民票の異動情報を取得することで、会社側からの住所変更届等の省略となっています。紐づけがされていなければ、従来通り、住所変更届等の提出が必要です。

給与計算にかかる変更届

(1)所得税

給与計算関連では、「給与所得者の扶養控除等の(異動)申告扶養控除等申告書」に記載してある住所が変更となっていますので、異動の日後、最初に給与の支払いを受ける日の前日までに異動の内容等を記載した申告書を提出してもらう必要があります。なお、変更旧住所に取消し線を引き、余白に新しい住所を記載する形式でも構いません。

(2)住民税

住民税の特別徴収は、当年1月1日に居住していた自治体(=旧住所)に課税権があり続けますので、変更届は不要です。

(3)年末調整・給与支払報告書

従業員の1年分の給与・所得控除・年税額などは源泉徴収票に記載され、本人に渡されるとともに、一定額(非役員の従業員は500万円など)超の場合には税務署にも提出されることになります。そこに記載される住所は引っ越し後の新住所となります。

住民税は、前年分所得を翌年1月1日に住所地がある自治体に「給与支払報告書」を1月末までに提出しますので、そこから新住所のある自治体で課税が始まります。

年の途中で退職した場合の書類の届出先

(1) 住民税「給与所得者異動届出書」の提出

退職により住民税の特別徴収ができなくなる場合には、「給与所得者異動届出書」を当年1月1日に住所(=引っ越し前の旧住所)がある自治体に提出することとなります。

(2)退職金の特別徴収

退職金の支払いがあり、特別徴収税額が発生する場合には、住民税(10%)の「退職所得にかかる納入申告」の提出先は、当年1月1日に住所(=引っ越し前の旧住所)がある自治体に提出することとなります。

退職所得についてはその性質から翌年に課税せずに、他の所得と分離して退職所得の発生した年に課税する方法(現年分離課税主義)を採っているためです。

役員変更登記

役員と任期

会社法上、役員とは取締役、監査役、会計参与となります。取締役及び会計参与の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなりますが、非公開会社は定款で定めることにより、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができます。

一方、監査役の任期は原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります。定款によって選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができるのは取締役及び会計参与と同様です。

また、任期を定款に定めることによって選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと伸ばせる非公開会社とは、定款において全ての株式に譲渡の制限が付されている株式会社のことをいいます。なお、有限会社は、譲渡の制限の定めがあるとみなされています。

役員の任期の実情

公開会社であるメリットはあまりないため、上場会社であるような大きな会社を除き、新たに設立する会社のほとんどが非公開会社です。そうなると役員の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと定款で定めている会社が多いはずです。

平成18年5月1日に会社法が施行され、非公開会社の役員の任期が、10年まで伸ばせるようになりましたが、平成18年の会社法の施行後に役員の任期を伸長した会社は、任期を伸長した定款変更から10年を経過していれば、役員の任期は満了しており、役員の変更登記をしなければなりません。平成28年で会社法の施行から10年が経過しました。よって、役員の任期も満了している会社は多いのではないでしょうか。

確認してみて下さい

株主総会を開催し役員の改選を行い、役員変更登記まで完了している会社は問題ありませんが、もし気になれば、この機会に定款や任期を伸長した議事録を見返してみてはいかがでしょうか。

複数事業所で働く人の労災保険給付

副業時の労災給付

これまでは、複数の会社で働いている労働者は働いているすべての会社の保険給付は受けられないことや、すべての会社の業務上の負荷や労働時間、ストレス等を合わせて評価し労災認定されるようになっていないことがネックでした。このため多様な働き方を選択する方やパート労働者などで複数の会社で就業している方が増えている等、副業・兼業をとりまく環境を整備する観点から、労働者災害補償保険法が令和2年9月から改正されました。

副業の給付も厚く

今回の改正の対象となるのは「複数事業労働者」です。これは業務で被災した時点で事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある方です。

労災保険のうち休業や、障害、遺族などで受け取れる給付額は原則として給付基礎日額で決められます。給付基礎日額は原因となる事故の発生直前の3か月の賃金(賞与等は除く)の総額を総日数で割った金額です。今までは労災の原因の事故が発生した勤務先の賃金だけで給付基礎日額を決めていましたが、改正後はすべての事業所で受け取っている賃金を基に決めることになります。事故と直接関係のない方の勤務先でも手続が生じます。

他には脳や心臓の病気、精神障害などの原因である労働時間やストレス等の負荷を総合的に評価することになりました。

例えば2社で働いていて疾病になった場合、以前なら1つの会社だけでは個別の負荷に問題はなくて労災には認められなかった場合でも、改正後は合計の労働時間の負荷で判断するので労災認定される場合があります。

労災保険の対象者

労災保険は正社員、パート・アルバイト等名称に関係なく雇用されている人が対象です。建設業や個人タクシーの1人親方、労働者数が一定以下の中小企業事業主は特別加入制度に加入することができます。フリーランス等業務委託契約で働く人は労災適用されないことになります。

副業をする時は勤めている会社が副業してもよいのか就業規則等を確認しておくのが良いでしょう。

脱炭素化のためのグリーン化税制

菅首相は臨時国会の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロ(森林吸収分などを差引き後の値)とし、脱炭素社会を目指すことを宣言、再生可能エネルギーなどグリーン化投資推進を成長戦略に位置付ける方針を示しました。対応策の一つと検討されるのが、グリーン化税制(炭素税、エネルギー税、車体課税、投資減税など)です。

炭素税と排出量取引

炭素税は、温室効果ガス排出量に応じて課税されます。排出量に応じた価格付け(カーボンプライシング)を行い、市場メカニズムを通じて排出量の削減をはかります。

カーボンプライシングには、炭素税のほかに排出量取引があります。これは、排出者に排出量の上限を定め、他の排出者との取引を認める制度です。どちらも高い削減効果が認められますが、反面、経済成長を抑制する側面もあるといわれています。

日本では、炭素税「地球温暖化対策のための税」が導入されており、原油や石油製品など化石燃料に対して課税しているほか、東京都や埼玉県では、燃料・熱・電気の使用量の大きな事業者に対してCO2削減を義務付け、排出量取引制度が行われています。

エネルギー税、車体課税と投資減税

エネルギー税は、化石燃料等の消費や、CO2を排出する車体に課税されます。揮発油税、軽油引取税など化石燃料の引取りや、自動車税など自動車の取得・所有に課税します。

投資減税は、CO2排出量が少なく、エネルギー効率の高い設備や製品への研究開発投資に対する税額控除や、減税措置など優遇措置をとり、経済的インセンティブを高めます。これらは排出量に応じた措置でなく、削減効果は限定的といわれています。

グリーン化投資を新たな事業機会に

ESGに取り組む上場企業への株式投資を促す開示制度(TCFD)も開始されており、世界は、低炭素でレジリエントな社会への転換を目指しています。

ポストコロナ下での経済は、環境と共存できることが求められます。中小企業にとっては、グリーン化のための製品・サービス開発が新たな事業機会となるかもしれません。