100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.8

2020.10.09 Fri

のれんの償却期間 -買収した事業の価値はいつまで続く?-

事業の多角化をねらい、事業買収をしたとき、時価純資産価額を超えて対象事業を評価することで生じた「のれん」の価値は、いつまで継続するのでしょうか?

のれんの価値

のれんには譲渡した側の経営者が長年築いてきた信用、取引先との契約関係、社員のスキル・経験など、様々な価値が内包されていますが、消費者のニーズの変化や市場の変化に応じて減価し、自社の事業に吸収されていきます。

のれんの償却は、会計・税務上、次のように扱われています。

会計上の償却期間

日本の会計基準では、のれんは、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり毎期、規則的に償却します。これは、取得事業から生じる収益と償却費用とを対応させることができること、のれんの減価を合理的に予測することが困難であること等の考え方によります。また、のれんの未償却残高は、減損処理の対象となり、投資額の回収を見込めないときは、減損処理が求められます。

IFRS(国際財務報告基準)では、のれんは償却せず、取得原価のまま評価されますが、毎期、減損テストを行い、減損が認識された場合は、減損処理を行います。

税法上の償却期間

法人税法では、のれん(資産調整勘定)は、60か月(5年)の月割り均等償却です。償却期間が会社の見積りで任意に設定されることを回避し、所得に与える影響を中立にさせています。

なお、償却に当たり、損金経理要件は課されておらず、会計基準が求める減損処理も法人税法では認められていません。

のれんの価値を育てる

事業を承継した経営者は、買収した事業を自社の事業と融合させて、のれんの価値を高め、投資額を上回る利益の獲得を目指します。その意味からすれば、取得したのれんは、投資の回収を見込む期間内で早めに償却を行い、自社の新たなのれんとして育てていくべきものではないでしょうか。

買収した事業ののれんは、イソップ物語に出てくる金の卵を産むガチョウのような存在かもしれません。ただし、あせってガチョウの腹をさかないように。

ふるさと納税の功罪

秋はふるさと納税の季節?

個人の所得・控除によって決まる控除上限金額までの寄附なら、自己負担が2,000円で返礼品が貰えるふるさと納税制度。地域の特産物がお礼の品になることが多く、実りの秋を実感できるようなものが並ぶため、「そろそろふるさと納税しようかな」と考えている方も少なくないと思います。

サラリーマンの方にもメリットがある制度だけに、多くの人がこのふるさと納税を利用しています。ただ「これは税なのか、寄附なのか」「寄附なのにモノを貰えていいのか」という概念的な命題から始まり、地方交付税の不交付自治体からの怨嗟の声や、果ては担当職員の汚職事件まで、さまざまな問題が指摘されています。

ふるさと納税で減った税収はどうなる?

ふるさと納税をした人が住んでいる自治体は、税収が減ります。ところが「ふるさと納税した分全部が減る」というわけではなく、減った分の75%は地方交付税で国からの補填が入る仕組みになっています。ただし、元々税収が豊富にあり、国からの地方交付税が不交付の自治体については補填が行われないので「まるまる寄附され損」となります。他方で総務省策定のルール「地場産品のみを扱う」に関しても、豪華な特産品がある自治体と、そうでない自治体の格差があります。自治体間の不公平感は、未だにふるさと納税制度上の大きな問題となって燻っているようです。

「代理寄附」を生んだふるさと納税

代理寄附とは、災害によって被害を受けた自治体に代わり、他の自治体がふるさと納税の手続きを行うことです。災害被災中の自治体は忙しいため、寄附金受領書の発行処理を他の自治体が行う等、極力被災自治体の手を煩わせないようにという配慮です。この取組を行う場合はお礼の品を送ることが圧倒的に少ないのに、寄付金額・件数はとても多く、ふるさと納税によって寄附文化の醸成が行われてきた一つの成果とも言えるのではないでしょうか。

色々なことが起こった1年

今年は泉佐野市と総務省の法廷闘争(現在もふるさと納税を理由とした交付税額低下で係争中)や、奈半利町職員の返礼品業者からの収賄罪での逮捕、コロナ禍で需要減となった産品への応援等、ふるさと納税をめぐり様々なことが起こった1年でした。

令和2年度地域別最低賃金

改定目安は示されず各地方審議会で決定

令和2年度地域別最低賃金改定額は中央最低賃金審議会で賃上げ額が目安は公表されず、下記のような答申にとどまりました。

「令和2年度の地域別最低賃金額は新型コロナウィルス感染症拡大による現下の経済・雇用への影響等を踏まえ引き上げの目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」とされ、各地方最低賃金審議会に一任されました。

それを受け各地の審議会で、小幅な改定又は据え置きで10月からの最低賃金額が決定されました。

月給の場合の最低賃金額の算出方法

月給の場合は年間の休日数を出して年間の労働日数を確定させます。例えば土日や祝日、夏季休業、年末年始の休日合計が125

日の場合、365-125日=240日が年間の労働日数です。1か月の平均労働日数は240÷12か月=20日となります。1日8時間勤務なら1か月の平均労働時間は20日×8時間=160時間となります。月給を160時間で割り算すれば時間単価が出ます。同じ月給額でも事業所の所在地が東京都の場合は単価が高いので最賃割れで違法でも、地方では大丈夫というケースがあるわけです。

令和2年度の改定額は以下の通りです。

据え置き

東京 1013円 大阪964円 京都909円  静岡 885 円  広島 871円 山口 829円

北海道 861円

1円改定

宮城  825円  栃木854円  神奈川1012円

新潟 831円 富山 849円  石川 833円

福井 830円 山梨 838円  長野 849円

岐阜 852円 愛知 927円   三重 874円

兵庫 900円 奈良 838円  和歌山831円

岡山 834円 福岡 842円

2円改定

秋田 792円 福島  800円 茨城 851円

群馬 837円  埼玉 928円   千葉 925円

滋賀  868円   鳥取 792円  島根 792円

香川 820円  高知 792円  佐賀 792円

大分 792円  沖縄 792円

3円改定

青森 793円   岩手793円  山形793円

愛媛 793円  徳島796円  長崎793円  熊本 793円 宮崎 793円   鹿児島 793円

中小企業にはハードルの高い税務書類の電子化

一見簡単で便利そうな電子保存

1998年以前には、所得税法や法人税法の要請で、証憑書類を紙の原本で原則7年保管しなければならないとされていました。

ところが、電子帳簿保存法(「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」)の施行により、一定要件を満たせば、「紙の原本を保存」することなく、「電子データでの保存」も可能となりました。書類保存のスペースや倉庫の確保が大変だったことに比べれば、電子保存は格段にコスト減で有用な方法です。

その後も、要件内容の緩和で、「スキャンによる電子保存(2005年)」や「スマートフォン撮影の画像保存(2016年)」とより使いやすいように改正が行われてきました。

2017年にはモバイル端末(携帯電話・PHS及びスマートフォン)の保有率は84.0%を超え、ほとんどの人が簡単にレシートなどの経費資料を写メで保存できるようになっている現状では、どこの企業でも簡単に税務書類の電子化ができるのではと錯覚しがちです。

中小企業には高いハードル

誰でも簡単に電子データを作成できるからこそ、そのデータが適時・真正に作成されたものであるという証明が求められます。それが、タイムスタンプの付与であり、「一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプ(電磁的記録が変更されていないことについて、保存期間を通じて確認することができ、課税期間中の任意の期間を指定し、一括して検証することができるものに限る)を、一の入力単位ごとの電磁的記録の記録事項に付すこと」という条件が付いています。

このタイムスタンプを押してもらうために外部認定業者に支払う費用(月額1万円に近い数千円~)がネックとなります。

税務書類・年調書類の電子化も大企業向け

今年の年末調整から、年末調整手続の電子化に向けた施策が実施されます。会計ソフトベンダー各社も、新たな製品の売り込みに力を入れています。これにより、実際に、従業員側の作業も従前より楽になりそう(=所得控除額の自動計算等)で、大企業では、経費精算業務に加え、年調業務も電子化が加速されるものと思われます。

しかしながら、全企業の99.7%を占める中小企業では、コスト増回避から、従来通りの手作業を選択するケースが多いものと考えられます。

判子レス社会は来るのか?電子決裁はどこまで可能

生活の中の印鑑文化

私たち日本人の生活に、「印鑑」文化は深く根付いています。

日常生活では、銀行の登録印や申込書への押印、履歴書、役所への届出では婚姻届から転入・転出届、出生届等、ビジネス文書においては、見積書や、納品書、契約書、請求書、議事録、回覧板まで、とにかく多岐にわたる書類に押印が求められ、それが当たり前のこととして定着してきました。

コロナ禍で電子決裁の有用性見直し

しかし、今年はコロナ禍で在宅勤務を取り入れる企業が増えたことで、「押印のために出社する」という問題が発生し、今までその必要性が議論されることが少なかった日本の印鑑主義について考え直すきっかけとなりました。

政府関係では、4月の緊急事態宣言の最中、当時の河野防衛大臣が記者団に対し、防衛省内の決裁を全て電子化する旨の発言をしていますし、これを機に電子決裁の有用性について見直す企業も増えています。

法律上の電子署名

決裁の電子化が進み、業務効率化に繋がるのなら喜ばしいことですが、一方でこれまで、「押印」によって本人の意思に基づいた文書であることの法的証明がなされていたことも事実です。電子決裁に変わることで法的効力に影響はあるのでしょうか。

実は、ビジネスにおいて身近な見積書や請求書、領収書、納品書などのほとんどの文書にはそもそも印鑑は不要です。便宜上本人確認の押印をするなら、簡易なデジタル印鑑や認印と同じ位置づけの「電子サイン」を使用する方法で充分でしょう。

e-Tax(国税の電子申告)や不動産取引など、より高い法的証明力が求められる文書は、第三者機関の認証局から発行された「電子証明書」が組み込まれることにより、利用者の「本人性」が確認できるようになっている「電子署名」が利用されます。

平成13年4月施行の「電子署名法」で、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用する法的基盤が整備されています。

法律上押印が必要な文書もある

ほとんどの文書に、印鑑と同じ効力がある電子サインや電子署名を使用できるものの、宅地建物取引業法上の不動産会社作成の書面や、銀行印、役所や法務局に届出する実印、不動産の登記申請(実印)など法的に印鑑が必要なケースもあります。