100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.5

2020.09.18 Fri

自筆証書遺言書保管制度

法務局が自筆証書遺言書を保管してくれるサービスが令和2年7月10日から開始しました。

公正証書遺言と自筆証書遺言

公正証書遺言は、遺言者が公証人に内容を伝えて、その内容をもとに公証人が公正証書として遺言書を作成します。2名以上の証人が立ち会う必要もあります。費用や手間がかかりますが、公証人が内容の法的有効性をチェックしてくれたり、原本を公証役場で厳重に保管してもらえたりするメリットがあります。

自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言書を自書することにより作成します。一人で手軽に作成することができ、費用もかかりません。ただし、相続開始後に家庭裁判所の検認が必要となります。また、遺言者本人の死亡後、遺言書の紛失等により相続人等に発見されなかったり、一部の相続人等により隠匿や改ざんが行われたりするリスクもあります。

自筆証書遺言書保管制度のメリット

この制度を利用して、自筆証書遺言書を法務局に保管してもらうことにより、遺言書の紛失・隠匿・改ざんといったリスクを回避することができ、あわせて家庭裁判所の検認も不要となります。

遺言者は、法務局に遺言書を預けた後も、預けた遺言書を閲覧したり、保管の申請を撤回したりすることができます。

また、相続人等は相続が開始した後であれば、遺言書が預けられているかを確認したり、遺言書を閲覧したり、遺言書の内容の証明書を取得したりすることができます。

注意点

法務局に保管してもらう際、法務局の職員の方が自筆証書遺言の方式について外形的な確認はしてくれますが、遺言の内容について相談に応じたり、遺言内容の法的有効性について保証してくれたりするものではありません。また、この制度の手続はそれぞれ各種確認や手続の処理に時間を要するため、全ての手続について法務局に予約が必要となっています。

この制度を利用する際には、司法書士さんや弁護士さんにも相談されることをお勧めします。

厚生年金の標準報酬月額上限 ~62万円から65万円に~

厚生年金の標準報酬月額上限の改定

令和2年9月から厚生年金の標準報酬月額の上限が、平成12年10月以来、20年ぶりに引き上げられます。なお、健康保険の標準報酬月額の上限に変更はありません。

 

<現 行>(令和2年8月まで)

等級 標準報酬月額 報酬月額
第31級 620,000円 605,000円以上

 

<改定後>(令和2年9月以降)

等級 標準報酬月額 報酬月額
第31級 620,000円 605,000円~

635,000円未満

第32級 650,000円 635,000円以上

厚生年金保険料のへ影響

報酬月額635,000円以上の被保険者に対する厚生年金保険料が増額となります。

厚生年金の保険料率は183/1,000ですので、第31級から第32級となる被保険者の保険料は一人当たり月額113,460円から118,950円へ5,490円増額となります。

厚生年金保険料は事業主と被保険者の折半負担のため、事業主と被保険者の負担額の増加は、各々月額2,745円となります。

したがって、事業主側も対象となる被保険者一人当たり年間33,000円弱の厚生年金保険料の負担増となります。

対象者が100人いる事業主の場合、社会保険料負担額が年間300万円以上増えることになりますので、影響は比較的大きなものとなりそうです。

改定による標準報酬月額変更の届出は不要

今回の標準報酬月額の上限改定によって、既に報酬月額が635,000円以上に達している被保険者については、令和2年9月下旬以降、日本年金機構から事業主に「標準報酬改定通知書」が送付されますので、事業主からの届出は不要です。

しかし、改定後の給与計算の際に、厚生年金保険料の控除額の変更が漏れないよう、注意しましょう。

グッドキャリア企業アワード2020

従業員の自律的なキャリア形成支援を

厚生労働省は、「グッドキャリア企業アワード2020」への応募受付を開始しました(応募受付期間は2020/9/1~10/9)。

この賞は、従業員のキャリア支援の取組を推進している企業等を表彰し、その理念や取組内容、具体的な効果等を社会に広め、定着を期すことを目的としたものです。

具体的な「グッドキャリア」の在り方は各企業の経営理念などに応じて多様に設定されうるものですが、その実現に向けて、従業員がキャリアビジョンについて考える機会の設定や、人事・教育訓練制度の充実などを積極的に推進している企業を「グッドキャリア企業」としています。(公式サイト「2019アワード概要」より)

「キャリア支援」の内容については、次の3つの観点から評価されます。

①「キャリア支援の特徴、理念」

自社におけるキャリア支援の特徴の理解度、人事管理上の課題や人材育成ビジョン・企業ビジョンとの有機的な関連性

②「キャリア支援の取組」

キャリア形成について考える機会、キャリア形成に資する職業能力開発・自己啓発の機会や職業能力評価の仕組みの有無、それらが定着しているか 等

③「キャリア支援による効果等」

具体的な効果、経営・人事管理上の課題の解決につながっているか 等

これらの観点から、「大賞」と「イノベーション賞」が決定されます。

受賞企業の取組事例

応募を受け付けている公式サイト「グッドキャリアプロジェクト」(https://career-award.mhlw.go.jp/)では、過去の受賞企業の取組が紹介されています。

たとえば、従業員45人の建設業の企業では、外部教育機関や取引先との連携による能力開発を実施し、経営幹部と従業員がキャリア目標を考えるための面談を行うなどの取組を進め、生産性や技能の向上による顧客満足度の向上、自主性をもつ従業員の増加などの効果が報告されています。

いまはまだ準備が整っていなくても、今後の取組のために、一度サイトをご覧になってみてはいかがでしょうか。

心地良い職場環境の指針 ~快適なオフィス空間を目指して~

事業主の職場環境配慮義務

コロナ禍の中で迎えた今年の夏も、例年通りの暑い日が続きました。猛暑の中通勤をし、空調の効いたオフィスに到着すると少しほっとできますね。

ところで、過ごしやすいと感じる環境は人それぞれですが、温度や湿度を含む職場の快適な空間作りのルールは、事業主の努力義務として法律で定められていることをご存じですか。今一度、規則を確認してみましょう。

安衛法および事務所衛生基準規則

労働安全衛生法(安衛法)第71条の3の規定に基づく快適職場指針によると、事業者は、以下の4つの視点から措置を講じ「仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づくり」を目指すことが望ましいとされています。

(1)作業環境の管理

(2)作業方法の改善

(3)労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備

(4)その他の施設・設備の維持管理

これによると、不快と感じることがないよう、空気の汚れや臭気、温度等を適切に維持管理することや、心身の負担が大きい力仕事や不自然な姿勢での作業をさせないこと、休憩室等を設置・整備すること、洗面所やトイレ等も清潔で使いやすい状態にしておくこと等が示されています。

また、快適な職場空間を維持するため継続的かつ計画的に取り組み、労働者の意見を聞き、個人差への配慮及び潤いへの配慮も考慮すべきとしています。

更には、安衛法に基づく事務所衛生基準規則には室温が17℃以上28℃以下になるように努めること等、より具体的な数値が示されているので確認するとよいでしょう。

快適職場で効率アップ

勤労者にとって、職場は生活時間のおよそ3分の1を過ごす場所であり、いわば生活の場の一部といえます。その生活の場が暑すぎたり、寒すぎたり、汚れていたり、身体に負担がかかる作業であったり、人間関係が良くない場合には、本人にとって辛いだけでなく、生産性の面からも能率の低下をきたします。

職場を疲労やストレスを感じることの少ない快適なものとすることは、職場のモラル向上、労働災害の防止、健康障害の防止だけでなく事業活動の活性化に繋がることでしょう。

源泉徴収義務を伴う物件賃借

物件賃借と源泉徴収義務

不動産等の賃借料の支払いに際し、源泉徴収義務を伴うことがあります。賃貸人が非居住者等の場合です。

自家用車の駐車場を月額2万円で借りていた場合は、税率20.42%なので、4084円を差引いて賃借料の支払いをして、差引徴収日の翌月10日までに国に納付しなければなりません。

源泉徴収義務の確認が必要

賃借物件が自己又は親族の居住用の場合は源泉徴収不要ですが、それ以外では、賃貸人が居住者・非居住者いずれであるかの判断をし、源泉徴収義務の有無を確認しなければなりません。

源泉税の納付は、1日遅れでも不納付加算税(納付額の5%か10%)及び延滞税が課せられます。ただし、5000円未満切捨ての端数処理規定があるので、ペナルティーが課せられるケースは少ないかもしれません。

源泉徴収義務の確認義務に片寄り

賃借人に、賃貸人の居住者・非居住者該当判断の調査ないし確認の義務を課す明文規定はありません。しかし、源泉徴収漏れには、強制徴収とペナルティーの制度が用意されています。

また、源泉税強制徴収については、その後に賃貸人への支払額から控除し、又は支払請求することができますが、不納付加算税については、賃貸人に請求できる法律上の権利は存在しません。

居住者・非居住者該当判断は、賃貸人本人が一番よく知るところであるにも拘わらず、制裁リスクを負うのは、国税の徴収事務を代行させられる賃借人のみというのは不合理な話でもあります。

それにも拘わらず、税務署との係争になると、居住者・非居住者該当判断が相当に難しくても、注意義務不十分として、納税者敗訴になることがほとんどです。

本当は法改正が必要

とは言え、冒頭のような月額2万円程度の事例で、一般庶民を相手にした源泉徴収について税務署は厳密な執行を避けています。源泉徴収しても納付する保証がなく、源泉徴収事務が混乱してしまうからで、不法行為を放置している観を呈しています。

不動産業者のホームページなどでは、源泉徴収義務は法人賃借人のケースに限定とさえしています。