100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.99

2022.12.02 Fri

賞与の減額をトラブルに しないポイント

賞与とは

賞与は一般的に就業規則などで規定された算定基準に基づいて支給されます。支給額は基本給に対して会社の業績や従業員の貢献の度合いに応じて決定された支給率(〇か月分)を乗じた額とされることが多いのですが、金額は事前には不明の場合がほとんどです。

賞与は月々払う賃金のように支給が労働基準法で決められているわけでなく労使間の協議や成績の査定などを経て始めて支給されるかどうか、支給される場合の支給額や支払い方法、支給対象者が決定されます。

賞与の目的は、

1. 従業員とその家族の生活を支える

2. 会社の収益を従業員に分け与える

3. 従業員のモチベーションを高める

賞与は「労働対価の後払い」と「今後への期待」という側面を持っています。

賞与の支払いと就業規則規定

支払いについては会社に一定の裁量が認められるのが賞与ですが、規定されている内容いかんでは賞与の減額が認められない場合があります。

①業績を問わず賞与を支払うことになっているのに支払わない、または「基本給の〇か月分」となっているのにそれより低い額であったなどは問題になることもあります。しかし、業績が著しく低下した場合などには支給を延期する、または支給しないことを定めているケースもあり、コロナ等、先行き不透明なこの時代、賞与を支給する企業はほとんどが規定にこの文言を入れているでしょう。会社の業績等の事由、本人に対する評価等による減額規定は必ず入れておくことです。あらかじめ減額や不支給がある旨を明記することがトラブルを防止するために必要です。

ただし、成績不良な従業員の賞与減額・不支給は合理的な根拠や説明が必要になるでしょう。

②退職予定の者には賞与を払いたくないと思われる経営者の方も多いと思いますが、従業員の賞与を減額・不支給とするならば賞与の算定期間中並びに賞与支給日に在籍要件を設けておきましょう。また、退職が決まっている者への賞与を減額できる旨の規定を設けることも考えられます。ただし、賞与が払われた直後に退職の申し出があっても返還は難しいでしょう

「健康経営」ってなんだろう?

「健康経営」とは

経済産業省による「健康経営」の定義は、「従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営視点から考え実践すること」とされています。

つまり、健康経営とは従業員の健康にかかる支出をコストではなく投資として捉える戦略的な経営手法のことです。

健康経営の目的と期待される効果

企業の長期的なビジョンに基づいた経営には、「人・モノ・金」の経営資源が必要であり中でも最も重要なのが「人」です。

自社に心身共に健康で活力ある従業員が多いほど組織も活性化し生産性の向上・企業業績の向上が期待されます。

また、身体やメンタルの不調を原因とする休職、さらにはその延長としての離職を防止することによって人手不足の予防効果を期待することもできます。

これら組織の活性化・生産性の向上・企業業績の向上・人手不足の予防などの目的を達成するために「従業員の健康確保のための投資」つまり「健康経営」が企業経営に重要な役割を持つことがご理解いただけると思います。

ワーク・エンゲイジメントと健康経営

ワーク・エンゲイジメントとは「仕事に誇りややりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取組んでいる(没頭)」「仕事から活力を得ていきいきとしている。(活力)」の3つが揃った状態を言い、健康経営においても健康増進と生産性向上の両立に繋がるキー概念として特にメンタルヘルス対策として注目されています。

ワーク・エンゲイジメントを高めるには

ワーク・エンゲイジメントを高める方法には、組織(会社)ができる工夫と個人ができる工夫がありますが、ここでは組織ができる工夫のみを紹介します。

組織ができる工夫には「従業員に職場の裁量権を与え仕事にやりがいを持たせ成長の機会とさせる」、同時に「上司や同僚の支援を受けることができる」ことなどが挙げられます。

これらは特定の従業員のみでなく従業員1人1人、さらには組織全体のワーク・エンゲイジメントを高めることを狙いとします。

労働生産性と働き方改革

労働生産性と働き方改革の関係

「生産性=成果÷投入量」ですので

「労働生産性=付加価値÷総労働時間」となります。国が推し進める「働き方改革」の目的は一貫してこの「労働生産性の向上」です。労働生産性の算式を見てわかる通り労働生産性を上げるには「付加価値を上げる」か「総労働時間を下げる(短くする)」しかありません。既に実施されている各種の働き方改革の施策、例えば「罰則付き労働時間上限規制」や「年次有給休暇の取得義務化」などは後者の「総労働時間を下げる(短くする)」ための施策で、「働き方改革フェーズⅠ」といわれるものです。これに対して「働き方改革フェーズⅡ」といわれる施策も進められようとしています。つまり、これからの働き方改革の施策は「付加価値を上げるため」のものということができます。

働き方改革フェーズⅡ

働き方改革フェーズⅡについての具体的な施策はまだ施行されていませんが、内閣府の「経済財政運営と改革の基本方針(以下「基本方針」)2021及び2022」でその方向性が示されています。まず、2020年の世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響後に作成された基本方針2021では、「感染症の影響からテレワークの拡大などの変化を後戻りさせず、働き方改革を加速させる」とし、そのうえで「労働時間の削減等を行ってきた働き方改革のフェーズⅠに続き、メンバーシップ型からジョブ型の雇用形態への転換を図り、従業員のやりがいを高めていくことを目指すフェーズⅡの働き方改革を推進する」と謳っています。ここで注目すべきはフェーズⅡの目的を「従業員のやりがいを高めること(エンゲージメントを高めること)」とし、そのための手段として「雇用形態をメンバーシップ型からジョブ型へ転換すること」としていることでしょう。基本方針2021を受けて作成された基本方針2022では、従業員のやりがい(エンゲージメント)を高めるための多様な働き方の選択やそのための環境整備のための施策が謳われています。いくつか例を挙げると「副業・兼業」「リスキリング」「労働条件の明確化」などは早期の法制化や財政支援が見込まれています。

労働生産性と健康経営

「健康経営」とは

健康経営とは従業員の健康にかかる支出をコストではなく投資として捉える戦略的な経営手法のことです。

体調不良に伴う労働生産性損失

労働生産性と健康経営との関係を考えるうえで大切な概念が2つあります。

「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」です。体調不良による労働生産性の損失と言われると、何らかの身体的な病気で会社を休むという状況を思い浮かべるのではないでしょうか。これは「アブセンティーズム」と言います。

一方で出勤はしているものの体調がすぐれず生産性が低下している状態を「プレゼンティーズム」と言います。近年労働生産性損失の関連で注目されるのが後者の「プレゼンティーズム」です。なぜなら欧米を中心とした多くの研究でプレゼンティーズムによる労働生産性の低下による経済的損失の方が、アブセンティーズムによる経済的損失より大きいという結果が示されているからです。

プレゼンティーズムによる労働生産性低下

プレゼンティーズムの原因としては、慢性疲労症候群、うつ病、腰痛、頭痛、花粉症に代表されるアレルギー症などが挙げられます。例えば毎年花粉症の症状に悩まされる人は花粉症の時期になると目のかゆみや鼻詰まり、止まらないくしゃみなどの影響で仕事に集中することができないというイメージが自身の体験からも湧くかと思います。また、さらに女性に関しては女性特有の健康課題による労働生産性の低下が社会的な課題として注目され始めています。

このような状態の時には労働生産性が低下し、結果的に企業の損失につながっていることがお分かりいただけると思います。

労働生産性と健康経営の関係

「プレゼンティーズム」も「アブセンティーズム」も、心身の健康や生活習慣の良くない従業員ほど高まる傾向が確認されています。

顕在化しているリスクはもちろん潜在的なリスクのある従業員に対して、若年層を含め健康意識の低い段階で会社側から積極的に健康に関する働きかけをすることが、結果として自社の労働生産性損失を抑えることにつながります。

DXとリスキリングの役割

改めてDXとは何か

今さら「DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か」とお思いの方も多いでしょうが、実際にはまだ誤った使われ方も見かけます。最も多い誤解は「DX=デジタル化」というものではないでしょうか。

日本でDXという言葉を広めた一人でもある経営共創基盤グループ会長冨山和彦氏の書籍から引用して要約すると「DXとは、新しい働き方、生き方、稼ぎ方にデジタルを使って変えること」となります。

では、なぜこれらを変えること(DX)が必要なのでしょうか。

それは、時代が変わり社会が変わり今までのやり方を続けると企業は顧客や従業員、銀行などの利害関係者から選ばれる存在でなくなる、つまり企業の存続が危ぶまれることになりかねない危機感があるからです。

DXとリスキリング

「自社においてDXを進めるうえで課題と感じることは何ですか」という問いに対して必ず上位に上がるのが「自社に対応できる人材がいない」「必要なスキルやノウハウがない」というものです。

そこで最近注目を集めるのが「リスキリング」です。

リスキリングはまだ研究途上でまだ明確な定義が定着していませんが、ここでは

①  自動化などで生じる仕事の転換に適応するためのスキルを習得させること

②  企業の視点からは「全ての従業員を対象とする」もので、いわゆる高度デジタル人材の育成とは分けて考える

とします。①についてはイメージできると思いますが、②でなぜ「全ての従業員を対象とする」としているのでしょうか。

それは、企業が本格的にDXを目指せばバリューチェーン上のあらゆる場面で仕事のやり方や職務が変化します。さらに業務の非効率さを実感し、また顧客の声に最前線で接する従業員が仕事の課題とデジタルの知識を掛け合わせて、解決策を提案・推進することが今後とても重要になるからです。

これら①及び②からリスキリングは、企業が主導して全従業員を対象に行う必要があることがお分かりいただけるのではないでしょうか。