100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.66

2021.12.03 Fri

70歳までの継続雇用 マルチジョブホルダー制度

65歳からは65歳までと違った点に考慮

高年齢者雇用安定法の改正により、2021年4月から70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となっています。ただ、従来の65歳までの継続雇用制度では定年後の業務内容は定年時(60歳)と同じとするケースが多いようですが、65歳以降は身体機能や健康状態の個人差も大きくなってゆく年代です。就業機会は単に70歳まで伸ばせばよいというわけにはいかないでしょう。

継続雇用を、後進の育成など企業が期待する業務を担当してもらう、専門性を生かし業務を継続する等、定年後の職務、処遇の変化に合わせ単に年齢で区切るのではなく各個人に合わせた継続雇用の制度が求められます。

2022年1月からマルチジョブホルダー制度

従来の雇用保険制度は、主たる事業者での労働条件が週所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み等適用条件がありました。これに対し「雇用保険マルチジョブホルダー制度」は複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して以下の適用対象者の要件を満たす場合に本人からハローワークに申し出を行うことで、申し出を行った日から特例的に雇用保険のマルチ高年齢被保険者となることができる制度です。

適用条件は

1.  複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること

2.  2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の労働時間が20時間以上であること

3.  2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

これによりマルチ高齢者被保険者が失業した場合は一定の要件の下、高年齢求職者給付金(加入期間に応じて基本手当の30日分か50日分)の一時金が受給できます。

希望する本人自身が手続きをします。会社では本人からの依頼があれば雇用の事実や所定労働時間などの証明を出す必要がありますし、保険料も納付します。65歳以上の短時間勤務で働いている人がいる場合は、複数の会社で働いているか確認しこの制度を知らせてあげるとよいでしょう。

知らないで、年金の請求漏れ

気づかないもらえるはずの厚年基金

もらえるはずの年金を請求していない人が多くいることをご存じですか? 年金制度に対する知識不足、勘違いが主な原因です。

厚生年金基金は年金請求漏れが多い代表です。公的年金である厚生年金に上乗せ給付する企業年金で老齢厚生年金の一部を国に代わって支給します。年金基金は解散等で短期間加入者等の原資は企業年金連合会に移っています。未請求は2021年には116.6万人いると言われています。年金の受給年齢になれば通知はしても、住所変更・氏名変更などで封書が届かないケースも65万人いると言います。加入していても給与天引きで知らない人が多く、請求できるという意識すらありません。しかし1か月でも加入していれば受給でき、少額でも生涯もらえるので加入記録を見てみましょう。

国の年金請求漏れ

年金の支給開始は65歳が原則ですが、60歳から64歳を対象とした特別支給の老齢年金が受け取れる場合があります。平均的な年金月額は10万円前後、給与が一定水準であれば受け取れます。これを65歳から受け取る年金の繰り上げ受給と勘違いして、減額されると思って請求しないケースがありますが、特別支給の老齢厚生年金とは別物です。また、遅らせても増えることはなく時効にかかれば請求はできなくなります。

年金の家族手当と言われる加給年金

厚生年金に20年以上加入している人で生計維持関係にある配偶者がいれば配偶者が65歳になるまで加算、年約39万円です。

夫婦共働きや一方が扶養の範囲内を超えていると受け取れないと勘違いをしていますが、受給できる方が多いのです。夫が年上で妻が65歳になると夫の加給年金は妻の振替加算に変わります。妻が年上だと夫の加給年金はありませんが、妻に振替加算がつきます。振替加算の請求を出しましょう。

未支給年金は公的年金を受給している人が亡くなった場合、請求できます。亡くなった月までを支給されます。遺族年金をもらえない、同居ではない、相続人ではない等も、もらえないケースばかりではありませんので確認しましょう。請求は亡くなった日から5年以内。もれずに手続きをしたいですね。

低率金融所得課税の見直し

バフェット・ルール

新聞にかつて、アメリカの投資家バフェット氏が、彼自身の連邦所得税は693万8744ドルで税率17.4%、「私のオフィスに勤める20人の社員の平均(36%)よりも低い」、こんな富裕層優遇税制は是正されるべきと述べたとの記事がありました。

これを承けた、年収100万ドル超の富裕層に増税する、バフェット・ルール課税案が米議会に提出されましたが、未だに日の目を見ていません。

バフェット氏の所得の内訳

アメリカの投資所得分離課税率15%、総合課税最高税率37%とすると、

①A×15%+B×37%=$6,938,744

②(A+B)×17.4%=$6,938,744

A=$35,527,529(89%)

B=$ 4,350,310(11%)

となり、バフェット氏の所得の89%が投資家所得で、$100円として35億円余であったことになります。

日本では100億円で15.9%

投資家所得への低率の比例課税が、担税力に反比例する金持ち優遇税制となっている現象は、日本が世界一過激です。

税制調査会資料によると、日本の申告所得者の統計データでは、100億円のところでは、15.9億円(15.9%)が平均的税負担とされています。

①A×15.315%+B×45.945%=15.9億円

②(A+B)×15.9%=15.9億円

A=9,809,010,774(98.09%)

B= 190,989,226( 1.91%)

実効税率15.9%は課税所得900万円未満のレベルでの税負担です。

その上、何億円の所得があっても、源泉分離課税の株式関連所得は申告不要に出来るので、申告所得税の統計資料には、全体像は示されていません。

岸田文雄首相の提案

岸田文雄首相は、自民党総裁選でバフェット・ルール的な「金融所得課税の見直し」を公約に掲げ、その後の衆院選を前に当面撤回などとしましたが、選挙後は、党税調・政府税調に見直し議論の要請をしました。

地球温暖化やTAXヘイブン対策、GAFA税逃れ問題と同じく、担税力に逆進的な不公平税制も、先進各国共通の解決すべき喫緊の課題です。比例税率を改める、あるべき税制の形を世界に示すべきです。

令和4年1月1日から施行 電子帳簿保存法の補足説明

電子帳簿保存法の改正

経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、令和3年度の税制改正において「電子帳簿保存法」の改正が行われ、令和4年1月1日から施行されます。

改正内容は、電子帳簿等保存に関する事前承認の廃止や、タイムスタンプ等を利用した優良な電子帳簿については過少申告加算税の軽減措置、最低限の要件を満たす電子帳簿についても電磁的記録として認める、スキャナ保存についても要件の緩和等、以前の状態からかなり使いやすくなった印象です。

 

問題は電子取引に関する改正事項

この電子帳簿保存法改正で、一番頭を悩ますのは「電子取引に関する改正」です。多くの方が「えっ!?」と思うのは「電磁的記録の出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存に代えることができる措置は、廃止されました」という一文です。

今まで領収書をメール等で受けとって、それを紙で出して保存していたという会社も多いとは思いますが、それが原則禁止となってしまいます。

罰則はあるのか?

国税庁は「電子帳簿保存法一問一答」という文書で「保存要件を満たさないため、全て書面等で出力して保存しているのだが、青色申告の承認取り消しや、経費として認めないということはあるのか?」という問いに対して「青色申告の承認の取り消し対象となり得る」と回答しました。

この回答については問合せがとても多かったのか、後に「お問合わせの多いご質問」として補足説明を出しており「書面保存等していた場合でも、それ以外の特段の事由がないにもかかわらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではない」と、表現をとても柔らかなものへ変更しています。つまりは、電磁的な保存をしていなくても、それだけでは青色の取り消しや経費の否認はないということです。

上場株式の譲渡所得課税

令和3年も終盤となりました。上場株式を売却した人の確定申告や損益通算について押さえておきましょう。

まずは源泉徴収済みかを確認!

株式で売却益のある人には、原則として確定申告が必要になりますが、証券会社に源泉徴収ありの特定口座(源泉徴収口座)を開設している人は、既に譲渡所得に課税済みとなっていますので、申告の必要はありません。一方、源泉徴収なしの特定口座(簡易口座)や一般口座の人には源泉徴収されていませんので確定申告が必要になります。証券会社から送付される特定口座年間取引報告書等で源泉徴収の有無を確認し、申告漏れとならないように注意しましょう。

税率は20.315%

上場株式の譲渡所得に対する税率は、20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。譲渡所得は、株式の売却金額から取得費と証券会社の委託手数料を控除した残額です。これに上記の税率を乗じて所得税額と住民税額(株式等譲渡所得割額)を計算します。取得費は株式の購入価額ですが、同じ銘柄を複数回にわたり購入した場合は、総平均法に準ずる方法(移動平均法)により取得費を計算します。

申告分離課税で損益通算

上場株式の譲渡損失は源泉徴収のあるなしにかかわらず、申告分離課税による確定申告をすれば他の上場株式の譲渡所得および配当所得等と損益通算して、税額の還付を受けることができます。同じ源泉徴収口座内である場合は、証券会社が損益通算するので申告手続きは不要です。また、配当所得等を源泉徴収口座に取り込み、譲渡損失との損益通算もできます。

控除しきれない金額は繰越控除

その年分で損益通算してもなお控除しきれない譲渡損失は、翌年以後3年間にわたり繰り越して各年分の譲渡所得や配当所得等の金額から控除できます。この取扱いを受けるには、毎年連続して申告分離課税による確定申告が必要です。過去3年以内に譲渡損失の繰越控除の適用を受けた人は、その年に株式売却がなくても確定申告が必要となるので注意しましょう。

また、所得税を申告分離課税とし、住民税は申告不要とする選択もできます。令和3年分の確定申告からは、配当所得等、譲渡所得の全部を条件に確定申告書に記載するだけで住民税を申告不要にできます。