100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.61

2021.10.29 Fri

売上の相手先に関する記帳要件

売上相手先の名前しか知らなくてよいか?

関与先から「売上相手先の名前しか把握できない新しい販売方法を開始したいが、何か問題はあるのだろうか?」という質問を受けたとします。これまでは法人相手の対面販売のみだったため、相手先の住所や電話番号等の連絡先を知った上での販売でした。今後は販売チャネルを広げ、自社のウェブサイト上からクレジットカード決済で非事業者個人への販売(ソフトウェアのダウンロード販売)も開始したいとのことです。この方法では、申込時に自社に届く情報は顧客の「名前」のみとなります。決済代行会社へは顧客のカード情報が提供されますが、自社へはクレジットカード決済で代金が回収されるため、請求書発行手続きを要しないことから、申込時に住所等の情報は入力不要となっています。

果たして、名前しかわからない取引で、青色申告や消費税の仕入税額控除の帳簿記載事項は問題があるのでしょうか?

法人税法が要請する記帳要件

「青色申告法人の帳簿書類」については、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならないとされています。財務省令では、「仕訳帳」、「総勘定元帳」その他必要な帳簿を備え、別表20に定めるところにより、取引に関する事項を記載しなければならないとされています。別表20の(十一)では、「売上に関する事項」として、取引の年月日、売上先、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日々の売上総額を、記載すべき原則的事項として挙げています。ここでは売上先の住所や電話番号は記載すべき事項とされていません。

申込みの際に届く情報が「名前」であっても、取引の年月日、売上先、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日々の売上総額を記載することには支障がないものと思われます。そのため、売上の相手先に関する記帳事項について、売上先の「氏名又は名称」だけでよく、それ以外の住所や電話番号を知らなくとも(記載しなくても)問題ないものと考えられます。

消費税法が要請する記帳要件

消費税法でも、同様な帳簿要件があります。ここでも売上先の住所や電話番号は記載すべき事項とされておらず、取引の年月日や内容がわかれば問題ないものと考えられます。

生命保険金の相続税申告

生命保険金は、相続に際して節税商品や納税資金として利用されますが、うっかりして相続税の申告が必要なことに気付かないまま、税務調査で申告漏れを指摘される事例が今年に入って増えています。多くは納税者の誤解や失念、税理士への事前説明が漏れたことによるものですが、税務署に隠蔽仮装と指摘されて思わぬ税負担を求められることがあるので注意が必要です。

生命保険金は相続財産ではない

生命保険金は相続によって被相続人から承継されるものではなく、保険金受取人の固有の財産であるため、遺産分割の対象とはなりません。また、被相続人が生前、相続人に贈与した生計の資本、養子縁組や婚姻のための贈与(特別受益)にも該当しないため、生命保険金は相続税の申告対象にはならないと思うかもしれません。

相続税では相続財産とみなして課税される

しかし、相続税では被相続人が保険料を負担した生命保険金も申告対象となります。民法上の相続財産ではありませんが、経済実質的には、被相続人の死亡によって財産を取得するので、相続財産又は遺贈財産とみなして相続税が課税されます。その際、法定相続人1人当たり500万円の非課税措置があるので、限度額を超える部分のみの課税で済みますが、申告が必要なことに変わりはありません。

なお、生命保険金は特定の相続人だけが取得するので遺産分割で考慮すべきか気になるところですが、判例には保険金の額、遺産総額に対する比率、同居の有無、被相続人に対する介護の度合い、各相続人の生活実態などの諸事情を総合考慮して相続人の間で不公平が是認できないほどに著しい特段の事情がある場合は、特別受益に準じて持戻しの対象と解するのが相当であると判示したものがあります。

申告漏れとならないように

税務調査で生命保険金の申告漏れが判明した場合、不足税額に加え、延滞税(納付遅延期間の利子に相当)や過少申告加算税(10%又は15%)が課されます。また申告漏れが隠蔽仮装であると認定された場合は、過少申告加算税に代えて重加算税(35%又は45%)が課され、税負担がさらに重くなります。相続人に生命保険金を受け取る人がいるときは、必ず契約内容を見て課税上の取扱いの確認を受け、申告漏れとならないようにしましょう。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターを覗こう

M&Aに興味のある人や、人生100年時代で模索している退職後の人や、サイドビジネスを探している人や、会社の次のステップを睨んでいる経営者などなど、国営の事業承継・引継ぎ支援センターを覗いてみては、いかがでしょうか。

もちろん、廃業や継承者不在、倒産の心配で悩んでいる人については、是非とお勧めします。

何か、新しい出会いに遭遇するかもしれません。

事業承継・引継ぎ支援センターとは

事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に設置され、円滑な事業承継・引継ぎのための助言、情報提供及びマッチング支援、研修、広報活動を行っています。

中小企業のM&A支援の実務に精通した専門家が秘密厳守で、無料にて、相談に応じている、と広報されています。

民間のM&A機関を活用してM&A実行中のケースに対し、セカンドオピニオンの役割も担う、とも言っています。

ホームペーシの案内によると

事業承継・引継ぎ支援センターのホームページを覗くと、第三者承継支援(M&A)、親族内承継支援(MBOや傍系親族承継)、後継者人材バンク(創業目的個人による創業承継)、経営者保証に関する支援(経営者個人連帯保証解除、経営者個人居宅に設定の連帯保証抵当権設定解除)を参考項目として挙げています。

民間M&A機関がターゲットにしない、小規模企業に関わる案件や相談を相対的に多く担っています。件数も、2020年では、年間3~4千件のうちM&A大手3社計760件に対し、事業承継・引継ぎ支援センター1379件との記載があります。

民間M&Aの企業や有識者との連携

昨年末からは、民間M&Aプラットフォーマーとの連携に舵を切り、事業承継・引継ぎ支援センターの相談者情報とプラットフォーマーの顧客情報の相互乗り入れに踏み出しています。

その上で、最近は、優秀なM&A支援人材や経営者OB人材を全国的に公募しています。同時に、M&AのFAや金融・税務・法務等やDBに係るITの専門的な知見のある実務経験者の出向を全国公募により民間企業等から受け入れています。

自力強化と連携強化を図っています。

パートの社保加入の 影響と企業の対応

2022年10月から社会保険適用拡大

今まで対象外だった企業・社会保険の適用対象者が拡大されます。改定ポイントは

①  以前より小規模な企業(従業員数が常時100人超)も対象になる

②  勤務期間が短い(2か月超)労働者も対象になる

現行では人員規模が500人超企業が対象でしたが、規模が100人超に引き下げられ、さらに2024年10月には50人超に引き下げられます。企業規模の従業員数とは社会保険の被保険者数で判断します。

人数は月ごとに数え直近12か月のうち6か月で基準を上回ると対象事業所です。

また、短時間労働者の範囲は1年以上雇用の方が対象でしたが、2か月を超えて雇用していれば対象になります。

現行の短時間労働者の社会保険適用要件

社会保険の加入要件を満たす労働者とは

①  週の所定労働時間が週40時間(フルタイム勤務)の労働者

②  所定労働時間がフルタイムの4分の3以上(多くは30時間以上)労働者

が加入者とされていました。2016年4月より従業員が一定数(500人)を超える企業の短時間労働者にも適用されるようになりました。2022年10月から100人超企業とされ雇用期間も2か月を超えて雇用すれば対象となります。今から準備が必要でしょう。

短時間労働者の適用条件は、

①  所定労働時間が週20時間以上あること

②  雇用期間が1年以上であることが見込まれること(2022年9月まで)

③  賃金月額が88,000円以上であること

企業への影響と対応策

企業において大きな影響は社会保険料の負担増加です。月額10万円のパートが10名いたとして新たに負担となるのは年額で約185万円です。費用を早めに考えて計画しておく必要があります。この先加入となる労働者に対して、対象者になることを説明する必要があります。半年前など早い段階からの説明が良いでしょう。加入を希望しない方には労働時間の変更が必要です。又は社員転換等雇用形態の変更もあるかもしれません。従業員から見れば将来の年金額が増えメリットと感じる方もいるでしょう。会社全体の人員配置の見直しが必要になるかもしれません。

M&A投資損失準備金税制適用手続

中小企業事業再編投資損失準備金制度

令和3年度税制改正で創設された「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)」の適用が出来るのは、認定経営力向上計画に従って購入取得したM&A株式の取得価額の70%以下額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てをし、積立金額の計算明細書を添付した申告書を提出することが出来る場合です。

適用手続をし得る中小企業

この税制の適用を受けるための前提となっている、中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の申請をし、認定を受けることが出来るのは、特定事業者等(常時使用する従業員数が2000人以下の法人または個人)に該当する事業者のみです。

M&A株式の売主側についても、特定事業者に該当する必要があります。

他方、税制の適用を受けるためには、申告者が租税特別措置法上の中小企業者等(資本金又は出資金の額が1億円以下の法人)に該当する必要があります。

計画申請・認定・確認の手続の流れ

① M&Aの交渉相手が定まったタイミング(基本合意後等)で、経営力向上計画を策定し、主務大臣の認定を受けます。認定申請時には、「事業承継等事前調査チェックシート」を作成し、添付します。認定の標準処理期間は30日とされています。

② 認定計画の内容に従って株式取得を実行した後、主務大臣に対して事業承継等を実施したこと及び事業承継等事前調査を実施したことについて報告し、経営力向上計画実施確認書の交付を受けます。

③ 税務申告に際しては、①の申請書と認定書の写し、②の確認書の写しを添付しなければなりません。

準備金積み立て手続

準備金積み立ては、損金経理の方法で、若しくは、決算確定手続での剰余金の処分による方法で行なわなければなりません。

この積立金は、法令の規定に拠るものなので、必ずしも株主総会の決議を経る必要はありません。

事後手続

経営力向上計画では、3~5年の計画実施期間を設定することになっており、毎年の事後状況報告を行うことになっています。

これを怠ると認可取消し・積立準備金の全額取崩しとなってしまいます。