100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.22

2021.01.22 Fri

令和3年度税制改正大綱 法人課税(M&A・投資)編

株式対価M&Aの特例制度の創設

改正会社法で創設された「株式交付制度」を用い、買収会社(株式交付親会社)が自社株式を対価としてM&Aを行う際に、対象会社(株式交付子会社)の株主の株式譲渡益の課税を繰り延べる制度が創設されます。

〈株式対価M&A:課税の繰延べ〉

対象会社の株主に買収会社株式を交付
課税なし(繰延べ)

対象会社の株主が買収会社株式を売却
譲渡益に課税

この特例税制では、事前認定を不要とし、現金を対価の一部に用いること(混合対価:総額の20%まで)も可能となります。

〈改正会社法の「株式交付制度」とは〉

今までの会社法では、自社株式を対価として他の会社を子会社とする手段として「株式交換制度」がありました。ただ、この株式交換は、他の会社を完全子会社化する場面でなければ利用することができません。

他の手段を組み合わせたスキームもありますが、コストが掛り、手続も複雑でした。

改正会社法では、完全子会社とすることを予定していない場合であっても、他の会社を子会社とすることができる手段として「株式交付制度」が創設されました。

日本のM&Aでは、買収資金を金融機関の借入で調達する場面が多く見られます。

自社株式が使いやすくなることで、巨額の借入に伴う利払いの負担を避けることができます。

国際金融都市に向けた税制上の措置

〈業績連動給与の範囲拡大ほか〉

現行法では、法人税法上損金の額に算入できる「業績連動給与」は、有価証券報告書に算定方法を記載する必要があり、主に上場企業が対象となっていました。

今回の改正では、投資運用業(投資ファンド)を主業とする非上場の非同族会社等の役員に対し支払われる「業績連動給与」について、契約書を交わしているなど一定の要件の下、損金算入が可能となります。

その他、令和3年の改正では、わが国の国際金融センターの地位を確立するため、ファンドマネージャーの個人所得税・資産課税についても申告の利便性や適性性を高める改正が盛り込まれています。

令和3年度税制改正大綱 資産課税編

国際金融都市に向けた税制上の措置

日本の相続税の最高税率は55%。他国に比べて高い負担で、現行法では、日本に住む外国人が日本で死亡した場合、滞在期間が過去15年以内に10年を超えていると、国外財産にも日本の相続税が課されます。

今回の改正では、高度なノウハウを持つ海外の人材が日本に進出・定着しやすくなるよう、滞在期間にかかわらず、相続税・贈与税を課税しないこととなりました。

住宅取得等資金の贈与税の非課税枠拡充

新型コロナウィルス感染拡大を受け、個人の住宅取得は厳しい環境に置かれています。そのため、親や祖父母から住宅購入資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度について、非課税枠(1,500 万円/令和3年4月以降縮小)を令和3年末まで据え置くこととなりました。また、住宅ローン控除と同様に床面積要件の下限が40㎡以上に改正されます(相続時精算課税の特例も同様)。

〈令和3年4月~12月の間に契約〉

改正前 改正後
消費税10%が

適用される住宅

1,200万円 1,500万円
上記以外 800万円 1,000万円

教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与

節税的な利用を防止する観点から、受贈者が贈与者の孫等である場合の贈与者死亡時の残高に係る相続税額への2割加算の適用など所要の見直しを行った上で、適用期限が2年延長されます。

固定資産税等の負担調整措置

〈固定資産税の課税標準額・税額の据置き〉

令和3年度に限り、住宅地、商業地や農地等の土地に課される固定資産税は、負担増にならないよう評価額が据え置かれます(評価額が下がった場合には、その評価を反映させます)。

令和3年度は、本来、固定資産税の評価額の改定年。評価の基準は令和2年1月1日のもので、当時の地価は上昇傾向でした。

その後、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、地価が下落した地域もあることから、当年度に限り特別な措置が講じられました。

〈負担調整措置の継続〉

宅地等及び農地の負担調整措置について、令和3年度から令和5年度までの間、現行の負担調整措置の仕組みが継続されます。

令和3年度税制改正大綱 消費課税編

車体課税(エコカー減税2年延長など)

街中で「燃費基準達成ステッカー」を貼ったクルマをよく見かけるようになりましたね。この「燃費基準」とは、国がメーカーに求める自動車の燃費性能の目標値。燃費基準を達成した自動車の普及を目的に各種減税制度が設けられています。

ガソリン車とハイブリッド車(HⅤ)はこれまでの基準より4割の改善が必要となる2030年度燃費基準が採用されます。基準が厳しくなるため、エコカー減税(自動車重量税)は、この達成度が高くなれば減税の割合も高くなります。令和3年度改正では、未達成でも減税の対象とされます。

〈改正後のエコカー減税(自動車重量税)〉

車種・燃費基準 初回車検 2回目
電気自動車(EV)

プラグインハイブリッド車

燃料電池車(FCV)

天然ガス自動車

免税 免税
ガソリン車

HⅤ

30年度

燃費基準

+20% 免税 免税
達成 免税
-10% 免税
-25% 50%減免
-40% 25%減免

〈クリーンディーゼル車は縮減〉

クリーンディーゼル車(ⅭⅮ)は、電気自動車などより燃費性能が劣るため、優遇措置が廃止され、令和5年からはガソリン車と同じ扱いとなります。販売面で影響があることから、激変緩和措置として2年間については、2020年度燃費基準を満たせば免税を受けることができます。

車種・燃費基準 令和3年度 令和4年度
ⅭⅮ

20年度

燃費基準

達成 免税 免税
未達成 免税

〈環境性能割1%分軽減措置は9か月延長〉

自動車税・軽自動車税の環境性能割の臨時的軽減について、適用期限を9か月延長し、令和3年末までの取得を対象とします。

金密輸に対応するため見直し(消費税)

金又は白金の地金の課税仕入れに係る仕入税額控除の要件として保存することとされている本人確認書類のうち、一定の書類が対象から除外されます。

令和3年度税制改正大綱 納税環境整備編

昨年9月、河野太郎行革相の呼びかけで始まった押印廃止の議論。今回の税制改正にも盛り込まれました。納税分野でもデジタル化・ペーパーレス化を進めるほか、スマートフォンの納税用アプリにより納税できる仕組みが導入されます。

税務関係書類の原則押印廃止

令和3年4月より、確定申告書や扶養控除等申告書などの書類の押印が不要となります。ただし、相続税の申告書に添付する遺産分割協議書(写し)など印鑑証明書を求めるものは例外として、今後も押印を求めることとしています。

改正前 改正後
押印は義務 原則:廃止

(実印や印鑑証明が必要なものは例外)

地方税関係書類についても、同様に改正される予定です。

電子帳簿等保存制度の見直し

経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、帳簿書類を電子的に保存する際の手続が抜本的に見直されます。

スキャナ保存制度については、ペーパーレス化を進めるため、手続・要件が大幅に緩和されます。

〈電子データ保存の要件〉

改正前 改正後
①税務署へ事前承認

②定期検査

廃止

スマホ納税用アプリでの納税導入

申告納税の国税について納税用アプリで納税する仕組みが導入されます(令和4年1月導入目標)。納税額の上限は30万円。国が納付手数料を負担する形となりそうです。

地方税共通納税システムの対象税目の拡大

地方税共通納税システムの対象税目について、固定資産税、都市計画税などを追加し、eLTAXを通じ電子納付できるようになります(複数の自治体に一括納税が可能)。

個人住民税の特別徴収税額通知の電子化

特別徴収税額通知(納税義務者用)について希望があった場合、eLTAX・特別徴収義務者を通じ、電子的に送付する仕組みが導入されます。

法改正情報! 子の看護休暇・介護休暇の時間取得

「子の看護休暇」とは

子供の急な発熱や体調不良、けが等は心配なものです。育児と仕事を両立する労働者にとっては、看病のために仕事を休む必要がある場合もありますね。

そのような時に取得できる休暇として、育児介護休業法による「子の看護休暇」があります。

これは、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、病気、けがをした子の看護、または子に予防接種、健康診断を受けさせるために、1年に5日(子が2人以上の場合は10日)まで取得できる休暇のことです。

改正法で時間単位での取得が可能に

これまで、子の看護休暇は「1日」もしくは「半日」の単位で取得可能であり、そもそも労働時間の短い労働者(1日の予定労働時間が4時間以下の者)は半日単位での取得対象外とされていました。

これだと、予防接種や軽度の病気である場合、数時間程度の休暇で事足りるのに、必要以上に休暇を取ることになり使い勝手が良くないという声がありました。

この点、令和3年1月1日から、この休暇をより柔軟に取得できるよう法改正がなされ、時間単位での取得ができることになります。

介護休暇も同様に対象となる

同じ育児・介護休業法で定める「介護休暇」は、要介護状態にある対象家族の介護や世話をする労働者が、1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで取得できる休暇のことです。こちらも、今回の改正で時間単位での取得が可能となります。

事業主は規定の見直しを!

法改正に伴い、育児介護休業規定の見直しが必要です。更に、法の求めを上回り、労働者により配慮した措置として、始業・就業時間に連続しない「中抜け」を認める制度とするかの検討が必要です。

また時間単位の取得により、勤怠管理に影響が出る点も注意してください。

両立支援等助成金について

時間単位で利用できる有給の、子の看護休暇や介護休暇を導入し、休暇を取得した労働者がいる等、一定の要件を満たした事業主は、国からの両立支援等助成金の支給対象となりますので、対象となるか確認してみましょう。