100年企業創り通信

100年企業創り通信 vol.12

2020.11.06 Fri

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定

副業・兼業ガイドラインの改定

厚生労働省は、令和2年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「副業ガイドライン」)を改定しました。

我が国の労働および社会保険諸法令では、特に正社員が複数企業で雇用されることは前提とされていませんでした。

一方、労働力人口の減少や副業・兼業のニーズが高まったことで、複数企業での雇用に配慮した制度が求められていました。

厚生労働省は、平成30年1月に「モデル就業規則」を改定し、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」と副業・兼業を認める内容に変更していましたが、当時策定された「副業ガイドライン」で不明確だった論点が、今回整理されたことになります。

副業・兼業における問題点

副業・兼業による複数企業での雇用によって、以下のような問題が生じます。

・複数事業所間での労働時間管理

・時間外労働に対する割増賃金の負担

・労働保険・社会保険の適用

使用者は、労働者の申告により、副業・兼業先の事業内容や従事する業務、労働時間の通算対象を確認した上で、新たに策定された「管理モデル」を基に、労働時間の管理や割増賃金を負担することになります。

労災保険は複数適用で、雇用保険は複数適用が原則認められませんが、令和4年1月以降、65歳以上で合算して条件を満たす場合は適用が認められるようになります。

社会保険は事業所毎に判断するため、複数の事業所で適用される場合はいずれかの事業所の保険者を選択して、適用されます。

副業・兼業で労使に生じる義務

「副業ガイドライン」の改定で、使用者は安全配慮義務、労働者は秘密保持義務、競業避止義務、誠実義務を負うことが明確にされました。

労働者には、秘密保持や競業避止など従来と同様の義務が課されますので、使用者はこれらの義務が履行されない懸念がある場合には、副業・兼業を禁止または制限しても構いません。

供託金が課税される訳 -ライセンス料の収入計上時期-

がん免疫治療でノーベル賞を受賞した教授が、製薬会社との間で特許権のライセンス料をめぐり係争し、その受け取りを拒否したところ製薬会社が供託し、供託金に課税されていたことが報道されました。

「権利確定主義」と「管理支配基準」

所得税法には、収入金額の計上時期について、主に2つの考え方があります。

①「権利確定主義」は、収入する権利が確定したときに収入金額を計上し、現実に収入がなくても収入実現の蓋然性が高いと判断されるときに課税すべきとします。現金主義は恣意的に課税される年を変更できるため、課税の公平の見地から認められません。

②「管理支配基準」は、対価を自己の所得として自由に支配し処分できるときに収入金額を計上します。現実の収入があれば権利が確定していなくても経済的利得に担税力を認め、課税すべきとします。

供託金にも課税できるとする根拠

上記の考え方をこの事案にあてはめると、対価を裁判で争っているため、権利確定主義の下では判決・和解の日まで収入金額の計上時期は到来しないといえます。

一方、製薬会社が供託したライセンス料は、還付請求すれば受け取ることができるため、少なくとも供託金額は教授の支配下にあるものととらえることにより、管理支配基準のもとで収入金額に計上することになります。課税庁が供託金に課税した理由は、ここにあるものと思われます。

供託金を受け取らなくても課税?

教授は課税庁の指摘を受け入れ、納税資金捻出のため供託金の一部を受け取りましたが、当初、裁判で不利にならないよう受け取りの意思表示をせず係争を続けていた状況下で供託金を管理支配していたといえるのか、課税庁の判断に疑問の余地も残ります。

次代の研究体制強化につながる対応を!

この係争の背景として、製薬業界の莫大な研究開発費の負担と医療の基礎研究や若手研究者の育成に必要な財政の不足が報道されています。そうであれば、双方が医療で社会貢献する事業者の立場から、長期的な研究体制の強化につながる合意を行い、所得を確定させたうえで課税の公平がはかれるようにすべきではないでしょうか。

より拡充されるiDeCoとiDeCo+

iDeCo(イデコ)とiDeCo+(イデコプラス)の制度がより拡充されています。

iDeCo(イデコ)とは

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度で、加入は任意です。iDeCoは加入者が自分で申し込み、掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用します。

iDeCoでは、掛金を払い込むと所得控除の対象となり、運用期間中の運用益は非課税とされ、そして給付を受け取るときには退職金又は公的年金として扱われ、税制上の優遇措置が講じられています。

iDeCo+(イデコプラス)とは

iDeCo+(イデコプラス・中小事業主掛金納付制度)とは、企業年金(企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金)を実施していない中小企業(従業員300人以下に限る)の事業主が、従業員の老後の所得確保に向けた支援を行うことができるよう、iDeCoに加入している従業員が拠出する加入者掛金に追加して、掛金を拠出できる制度です。

事業主が拠出した掛金は、全額が損金に算入され、こちらも税制上の優遇措置が講じられています。実際に導入するには労使で合意し、イデコの実施主体である国民年金基金連合会に届け出る必要があります。

改正点

①iDeCoの改正

これまでiDeCoでは60歳未満の国民年金被保険者が加入可能でしたが、高齢期の就労が拡大していることを踏まえ、2022年5月からは国民年金被保険者であれば加入可能となりまました。これにより60歳以上のiDeCoについては、国民年金の第2号被保険者又は国民年金の任意加入被保険者であれば加入可能となります。また、これまで海外居住者はiDeCoに加入できませんでしたが、国民年金に任意加入していればiDeCoに加入できるようになります。

②iDeCo+の改正

2020年10月から、従業員要件が100人以下から300人以下に拡大されました。これにより加入可能者が一気に4割増え、2253万人に増えるそうです。

交際費の損金不算入制度

交際費課税の現状

現在の交際費課税は以下のようになっています。

① 大前提として1人5,000円以下の飲食等については、交際費としなくてもよい。

② 資本金が1億円以下である法人は、交際費の50%を損金に算入するか、800万円までを損金に算入するかのどちらかを認める。

③ 資本金が1億円を超える法人は、交際費の50%を損金に算入することを認める。

④ 資本金が100億円を超える法人は交際費の損金算入は一切認めない。

何をもって交際費とするかは諸説ありますが国税局は以下のように言っています。

「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」

企業は交際費をどれくらい使っているの

国税局の最新(平成30年)の統計情報によれば、1億円以下の法人は、1社平均90万円弱です。それに対し1億円超の法人は1社平均1,000万円強です。全額否認される100億円超の法人は1社平均1億500万円です。全体の数字では圧倒的に数の多い1億円以下の法人が多いですが、1社当たりで見るとかなりの開きがあります。

1億円以下の法人は800万円までの損金算入で十分かと思われますが、1億円超の企業は交際費の損金算入が認められれば、もっと交際費は増えると思われます。

コロナで飲食店は大打撃

ご存知のように、コロナ騒ぎで飲食業界は大きく売上げを落とし大打撃を被っております。特に接待を伴う飲食店の打撃は大きなものがあります。

景気が良くなるとはお金が実体経済でたくさん循環することです。

本来交際費の損金不算入制度は、政策的な制度です。景気の動向を見て数年に一度は限度額や制度そのものを変更してきました。Go To Eatも結構ですが、この際交際費の損金不算入制度の見直しをしてもよいのではないかと思われます。